第37話 小都市ロイツにて

――小都市ロイツ――


 エーゼルハイム領東端にある小都市ロイツ。リーンとテッドはそこの酒場に来ていた。もちろん、シルヴィア嬢捜索の手掛かりを探しにだ。


 侯爵の屋敷での依頼説明はとうに済んでいる。


――色々問題はあったが。


 一例を挙げると、『時間が経ちすぎてる、もう死んでるんじゃないか?』と問いを投げ掛けた冒険者が殺されかけた。まぎれもないエーゼルハイム侯爵の指示によって。



『自殺志願者か……仕方無い。――殺せ。もみ消すから心配は不要だ』

『『『『『はっ!!』』』』』


 侯爵お抱えの騎士達にとらえられたその冒険者が危うくはり付け火炙りの刑に処されるところを大声でリーンがさえぎった。


『そんなことしたら、助けられたシルヴィア様が悲しみますよっ!!』


 その一言に侯爵はしばし考え込み納得したのか、なんと火炙りの刑を取り下げたのだ。横で見ていたテッドとしては、『どうすんの!?』とあたふたしてなんとか自分を犠牲にしてでもリーンの出過ぎた真似を詫びようとしたところ、あっけなく許されてどっと疲労を溜め込んだ次第である。



「リーン、もう無茶な真似はよしてくれよ? 僕の身がもたない」

「別に頼んでないし。それに、お目付け役ったって、なんで私に付いて来たのよ? 神官になってまで。あんただって、騎士になりたかったんでしょ?」

「それは――」


 テッドがどう返すか悩んでいるうちに、酒場で騒ぎが起こる。まぎれもない、シルヴィア嬢捜索依頼の件だった。


「2000ゴールド!?」

「親バカが過ぎらぁ!! 侯爵ってのは!」

「でも大チャンスじゃねぇか! 数年は遊んで暮らせるぜ!?」


 飲んだくれ達がバカ騒ぎをしている。


 なにも依頼は、エーゼルハイム侯爵屋敷で依頼説明を聞いた冒険者だけに適応される訳ではない。


 成功報酬として支払われるのだ。実際のところ、誰が達成してもいい。噂が噂を呼び、このような酒場にまで蔓延している。


「――チッ! 私達もすぐ動くわよ?」

「でもどこに?」


 そう。捜索域が広すぎるのだ。シルヴィア嬢が、付けられていた見張りをまいたのがこのロイツだということくらいしか情報がない。


 だが、リーンはニンマリと笑う。そして、口元に手を当て、テッドの耳元で小声でささやいた。


「シルヴィアお嬢様が憧れてたのは剣聖。侯爵の説明にあったでしょ? なら行く先は一つ。ここの南東にあるメルキドの町――その南にあるルイスの森よ」

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