第27話 リーンとテッド
王国領西、エーゼルハイム侯爵領街道沿いの平地。一人の女騎士と一人の男神官が狼二体と遭遇戦を繰り広げていた。
女騎士は緑色の鎧に身を包み、緑がかった金髪をポニーテールにしている。盾はなく、その両手には身の丈程の大剣を握りしめている。男神官は白と青を基調にしたこの国では一般的な神官服を身にまとっている。手にはスタッフを持つ。
「リーン! もう一体そっちに行ったよ!」
「わかってる! ――はぁあああああっ!!」
裂帛の気合いを込め、女騎士――リーンが大剣を袈裟懸けに振り下ろす。
「ギャンッ!?」
狙いたがわず大剣は狼の脇腹に直撃しその身を深く切り裂いた。狼は横だおれになる。
そうこうしている間にも別の狼が背後からリーンに襲いかかった。
「ギャウッ!!」
「しゃらくさいっ!!」
振り返りざま、返す刀で狼めがけて大剣を振り上げた。
「――ゴァッ!?」
見事直撃し、狼は切り裂かれつつ派手にぶっ飛んだ。
二体の狼は物言わぬ骸と成り果てた。
「お疲れ様、リーン。怪我はないかい?」
「ええ。テッドこそ大丈夫なの?」
「僕も平気。街道沿いにまで狼が出てくるなんて珍しいね」
「ほんとに。三大貴族のお膝元だってのに、ここの治安はどうなってるのかしら」
「ははっ。その通りだけど、誰に聞かれてるともわからない。不用意な発言は慎んでね」
「はいはい。――まったく、あんたは私の母さんかっての」
「お目付け役ですから」
「いらないってのに。勝手についてきて、まったく……」
リーンとテッドは同郷の幼馴染みだった。ここから遠い田舎町で産まれ育った二人だったが、リーンが剣聖アストリア・ルイスに憧れ一人旅に出ると言い出した。
――アストリア・ルイス。
ここリ・シュヴァリエ王国で最も有名な女騎士だ。
平民の生まれだったアストリアはその異常なまでの戦闘能力の高さにより当時人間と頻繁に衝突していた魔族をことごとく討ち取っていき、山脈の奥地に住まう魔族の長ブラックドラゴンをたった一人で討伐した。今から八年前、アストリア齢15の出来事である。
以来、アストリアは王国の英雄となった。
老若男女問わずアストリアの人気は高く、平民のサクセスストーリー、英雄譚として民草の間での人気は未だ根強い。
金髪ポニーテールで碧眼、白銀の鎧に身を包むアストリアは強いだけでなくたいそう美しく、花も恥じらうとまで評される程だった。
国王が第一王子の婚約を破棄して無理矢理アストリアに縁談を持ちかけたのはこの国では有名な話である。
王子共々アストリアに求婚するも、アストリアは丁重に断り、自身の得意とする属性である風を体現するかのような自由気ままさで国を出ていった。
それを嘆いた国王は、まさかの国名変更をし、周辺諸国に周知した。アストリアのいた国、偉大なる騎士の生まれ故郷として存在を残すために。
そうして、歴史あるアウルム王国はリ・シュヴァリエ王国に名を改めたのだった。
「侯爵の屋敷がある都市まではまだだいぶ距離があるね、急ごう」
「はいはい。――まったく、どんな用かしらね? 侯爵家が冒険者を募るなんて」
「さぁ。でも報酬はいいだろうし、僕ら以外の冒険者も結構な数が向かってるみたいだしね。なんたって侯爵家直々の依頼だ、きっと報酬も破格だろうね」
「そうだといいけどね……」
リーンとテッドはエーゼルハイム侯爵家屋敷のある都市ハウゼンに向け、街道をひた進むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます