第1章 ~天道side~

バッド選択・接点 ~時雨愛莉~






 二年生になってから一月ほど経ったとある日。


 俺は幼馴染の晴山華絵と、去年からの友達である安曇玲香の三人で放課後の教室で立ち話をしていた。



「ねぇ進。今日の帰りにどっか寄っていかない?」

「あっ、わたしも気になっていたカフェがあるの」


 話の流れから、どこかで遊んでいかないかという事になった。


 二人はどこか期待しているような目で俺の答えを待っている。それに応えてやりたいとも思うのだが、昨日買ったばかりのゲームもプレイしたい。


 ――――今日は友達と遊ぶ――――


「悪い、今日は友達と約束があるんだよ」


 すまんお前ら、ゲームの誘惑に勝てなかったわ。友達と約束なんてなかったが、ゲームしたいからという理由は印象悪いだろうし。


 予想通り残念そうな顔をした彼女達を残し、俺は急いで教室を飛び出した。



 家に帰ってからずっとゲームをプレイしていた。両親は長期出張中のため、文句を言って来る人などはいない。


 そろそろ風呂に入らないと、それに腹も減った。風呂の準備も飯の準備もしていない、一人暮らしは全部自分でやらなきゃいけないから面倒だ。


 そういえばワイシャツや制服のアイロンがけもしなきゃ……めんど。


 なんて色々と考えていた時、スマホの着信音が鳴り響いた。誰から電話だと見てみると、安曇玲香からの電話だった。


 正直今は手が離せないのだが、この時間帯の連絡という事は何か緊急なのかもしれない。


 ――――電話に出ない――――


 もし緊急ならもう一度掛かって来るだろうと、安曇の電話をスルーする事に。もう少しでゲームは中断できそうだし、風呂だし飯だしアイロンだし。


 そして、流石に腹が減ったのでゲームを中断し、スマホを手に取って部屋を出ようとした時だった。


 再びの着信音。やはり安曇の電話は緊急だったのかもしれないと思い、今度は電話に出た。



「玲香? どうした?」

『えっと……あれ? 天道先輩の番号で……間違いないですか?』


 電話から聞こえてきた声は女性だったが、安曇のものではなかった。番号を確認しても、登録していないようで数字しか表示されていない。


 しかしどこかで聞いた声だ。つい最近もどこかで……。



「天道だけど、だれ?」

『あ、時雨愛莉です。部活でご一緒させてもらってる……』


 あぁ。俺はサッカー部なのだが、この子は1年生でマネージャーをしてくれている子だ。


 そういえばマネージャーの番号を登録しておくようにって、顧問に言われてたっけな。


 今年は三人ほどマネージャーになってくれた一年生がいたが、その中でも時雨愛莉の容姿はスバ抜けて可愛い。


 そんな彼女からの電話は、部活用品の買い出しだった。顧問の先生から二年の先輩を連れて、買い物の仕方を学ぶようにと言われたらしい。


 内容を聞いた事で断りづらくなってしまった俺は、それを了承し明日の休日に時雨と買い出しに行く事になった。


 最初に俺に声を掛けるとは可愛いじゃないか……と思ったが、俺は四番目だったらしい。




 次の日、駅前で時雨愛莉と合流した俺は、部活用品の買い出しを行っていた。


 本来なら1年のマネージャーは三人とも来るという話だったのだが、やって来たのは時雨だけ。


 聞くと急用とかで二人が来れなくなったらしいけど、都合よく二人に急用が出来るものなのだろうか?


 まぁいいかと、時雨と目的の場所まで歩き出す。そしていつもサッカー部がお世話になっているスポーツ用品店で必要なものを購入し、店を出た。



「大体の流れはこんな感じ、覚えた?」

「は、はい」


 時雨はスマホにメモしていたようだから、大丈夫だとは思う。これからマネージャーとして、時雨は何度もこの用品店に来る事になると思う。


(やべ……冷却スプレー買うの忘れてた)


 ついでに買おうと思っていたものを思い出した。隣では時雨がスマホを眺めて何かを確認しているような仕草を見せている。


 一緒に買いに行くか? でも何かスマホを眺めて忙しそうだな。


 ――――ここで待っててもらう――――


「悪い時雨、ちょっと買い忘れたものがあるから、ここで待っててくんない?」

「あ、はい。分かりました」


 すぐ済む用事だし、時雨には待っててもらう事にした。これだけで解散っての味気ないし、買い物が終わったら遊びにでも誘ってみようかな。


 ――――

 ――

 ―


「――――悪い時雨っ! 遅くなった!」


 すぐ終わると思っていたのだが、用品店で友達とばったり会ったせいで遅くなってしまった。


 そこまで長い時間ではなかったとは思うが、ここまで時間が掛かるなら一緒に付いて来てもらえばよかった。



「…………」

「……時雨?」


 なぜか時雨がポーっとしていた。微妙に頬が赤いが、暑いのだろうか? 今日はそんなに気温は高くないはずだけど。


 それとも何かあったのだろうか?


 ――――気にならない――――


 まぁいいか。何かがあったのだとしても、俺には関係ないだろう。



「カッコよかったなぁ……」

「時雨? なんか言った?」


 時雨が遠くを見つめながら何かを呟いた。しかし彼女の声は小さすぎたため、何を言ったのかまでは分からなかった。


「えっ……て、天道先輩!? なんでここに!?」

「なんでって……なに言ってんだよ?」


「いえ、なんでもないです! すみませんっ」


 何を慌てているのだろう? そんな急に声を掛けたつもりはなかったんだけど。



「まぁいいや。それより時雨、この後どっかで遊んでいく?」

「えっと……もう先輩いないし、今日はちょっと怖いので帰ります……」


「こ、怖いって……俺が? というか、先輩はここにいるけど……」

「あっ……違いますっ! すみません変なこと言って! じゃあ先輩、また部活で! 失礼しますっ」


 意味が分からない事を言った時雨は、慌てたように走り去ってしまった。


 俺は彼女の後姿をしばらく見つめていたが、彼女が振り返る事は一度もなかった。

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