ハッピーエンドルート消滅






「ついに最後の道も失ったな」


 大勢の人達が行き交う駅の構内にて、四人の男女が向き合い話をしていた。


 大声を出した男、その声をぶつけられた男。


 大声を出した男を嫌悪の表情で睨む女に、同じ男に対し辟易とした顔を見せる女。


 端から見れば女の取り合い、痴情のもつれ。


 しかし誰の目にも明らかだった。もう勝負はついている、二人の女性の雰囲気がそれを物語っていた。



「さ、最後の道だって? なに言ってんだよ……」

「流石にここまで来れば分かるだろ? 何を失ったのか」


 地道行人の言葉に、天道進は二人の女性に目をやった。何を失ってしまったのか、どうやら理解はしているようだ。


 安曇玲香と晴山華絵が、天道進に放つ気配は完全にマイナスである。


 そんな雰囲気を出す二人と進んで行く道、そんなものが存在するとは思えない。



「この二人との道は、ずっとお前の傍にあったのに」

「…………」


「お前は気づけなかった。それどころか、間違った選択をして消してしまった」

「……るさい」


「もう諦めろ。お前はもう、この道を進――――」

「――――うるさいっ!!」


 以前と変わらず冷静に淡々と話す地道。今まで以上の怒声と凶悪な表情をする天道。


 怒声に地道の声は書き消されたが、それでも地道に動揺した雰囲気はなかった。


 地道は少し離れていた晴山の腕を掴み引き寄せる。その行為はまるで、集まり始めた人目から彼女を守っているように見えた。



「何が消えただ! 何が失っただ! お前が二人を俺から引き離したんだろうが!」

「…………」


「お前がいなければ、二人は俺の傍にいたんだよ! 色々失敗したとしても、離れたりしなかったんだよ!」

「…………」


「お前が……お前が悪いんだろうが……お前が……」



 ここが駅で、沢山の人の目があるのを忘れているのだろうか?


 周りなどお構い無し、奇異の目に晒される彼女達の事も考えず、ただ自分の感情を吐き出す。


 そんな中、地道は少しでも彼女達を守ろうと行動する。


 自分達の事を全く考えない男と、最優先で自分達の事を考えてくれる男性。


 二人の目には地道しか入っていない。天道に出来る最善は、これ以上余計な事を言わない事だ。



「……何度も言うが、全部お前の選択の結果だ」

「……っだから! どうして俺の選択でお前が出てくるんだよ!?」


「……たまたま?」

「ふ、ふざけんなよお前……!」


 地道の惚けた態度が天道を逆撫でする。再び感情が爆発し、憎悪に染まりきった目で地道を睨んだ。


 自分を正当化するために地道に感情をぶつけ、他の事には一切気を回していない。


 地道の隣で不快感を抱いている二人の事も、自分の行動を省みる事も忘れてまった。


 総じて、何がしたいのか分からない。



「ねぇ、もう行きましょうよ。あいつの傍にいたくない」

「……そうだね。今はわたしも、離れたいかな……」


 ついに傍にいた二人は、ハッキリとそれを口にした。


 当人達からの拒絶に、流石に動揺した天道は慌てて地道から二人に目を移した。


 そこで彼は、最後の悪足掻きを始める。



「なんでだよ……二人は騙されてるんだぞ!? そいつは俺を苦しめたくて、お前達に近づいただけなんだよ!」


「……なに言ってるの? 本当にやめて、変なこと言わないで」

「なんだっていいわよ。あたしを助けてくれたのは彼で、あたしが傍にいたいのは彼だけ」


 足掻きも足掻き、悪足掻き。


 届くはずがない言葉に、それを口にした事で彼に対する心象が更に悪くなる。


 二人の態度、表情に、流石に言葉を失くしてしまった天道は表情を絶望の色で染めた。



「じゃあな天道」

「……くそっ」


「もう関わる事もないだろうけど、ここで止まっておけよ?」

「……うるさい」


「これ以上進めば……あの道に入る事になるぞ」

「…………」


 もう十分に"あの道"だと思われるが、まだ確定した訳ではない。


 彼はこの後、自ら進む道を選ばなくてはならない。


 失った道を選ぶ事は出来ないが、彼はまだ、選ぶ事が出来る。



 天道が押し黙った様子を確認した地道は、振り向いて改札へと足を動かす。


 女性達に声は掛けなかったが、二人は当然のように地道に付いて歩き出した。


 二人の女性は一度も振り返る事なく、先ほどとは天と地ほど違う表情のまま改札の奥に消えていった。



「ね、ねぇ? さっきのなに?」

「なんか、よく分からない会話してたよ?」


「そうか? 玲香と華絵は俺の物だから、もう諦めろって言っただけだよ」

「「あ、あなただけのものです……」」



 そんな三人を黙って見る事しか出来なかった天道。


 彼は一人。こちらも地道とは天と地ほど違う状態になってしまった。


 しかしそんな彼にも、近づいて来る者がいた。


 見知らぬサラリーマンが彼の肩に手を置きながら声を掛ける。


「まぁなんていうか――――ドンマイ」


 その優しさが身に染みたかどうかは、分からない。





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 ついに辿り着いた。


 はぁ……キツかった、何もかもがキツかった。


 彼に未熟な所があるのは知っていたけど、それにしたって変わりすぎだろう。


 彼の性格、彼と彼女達との関係、それを最初に見たからこれはキツいよ。


 といっても俺、個別には興味ないからハーレムしかやってないけど。


 ……というか今更だけど、彼に感情移入出来るのかな?


 だって俺は、彼の事しか見て来なくて、彼の事は全く見てきてないんだぞ?


 俺にとっても彼にとっても、彼は本当にただの寝取り男じゃないか。


 彼が裏で何をしていたのか知らないけど、そこを見せてくれないと感情移入なんて出来ないぜ。


 ほんと、この開発……というかアイツは何を考えているんだ?


 まぁとりあえず、最後までやってみるか。進行不可バグも直ったようだし。

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