第20話 宣告






「…………」

「…………」


「……ねぇ」

「……なに」


「何してるの? 玲香ちゃん」

「何って、華絵を迎えに来たんじゃない」


「……行人くんと腕を組む必要あるの?」

「べ、別にいいじゃないの」



 華絵から連絡があり、彼女の事を駅まで迎えに来ていた。


 華絵の家での話し合いが終った後、家を教えてくれた玲香に礼をしようと連絡すると、まぁ色々とあって俺の家に泊まるという事になった。


 その後にきた華絵からの連絡。玲香に一人で家で待っててもらうのもアレだったので連れて来たのだが、連れて来なければ良かったかもしれない。



「玲香ちゃん、進くんはいいの?」

「なにが? なんでアイツの名前が出てくるのよ」


「だって、告白されたんでしょ?」

「……断りましたけど」


「でも諦めてないっぽいよ」

「そうなの!? ガッツリ断ったのに……」


 玲香がされた告白って、天道だったのか。意外ではないけど。


 しかしガッツリ断ったって……玲香の事だから、無理! とかハッキリ言ってそう。


 なんて、流石にそれはないか。



「進くん、待ってるんじゃないかな~」

「マジやめて。あたしが好きなのは行人だから。華絵こそ、アイツの幼馴染でしょ?」


「幼馴染だから何? なにか関係あるの?」

「好きなんじゃないの? 行ってあげたら?」


「や、やめてよ、好きじゃない。わたしが好きなのは行人くんだから」

「はぁ……やっぱりそうなのね」


 二人が友達なのは知っているが、普段どういう感じで接しているのかは知らない。


 知らないが、少なくとも今のような感じではないのだろうな。


 こんな、お前邪魔だから天道の所に行けよ! とでも言いたげな顔なんかしてないだろう。


 というか天道、お前なにしたの? なんか……嫌われてない?



「悪いけど、あたしかなり行人の事が好きだから」

「そうなんだ~。でも、わたしの方が彼のこと好きだと思うよ」


「あらそうなの~」

「そうなんだよ~」


「「……あははははっ!」」


 二人とも凄く可愛らしい笑顔だ。すれ違う人の目を釘付けにしてしまうほどには魅力的な笑顔だ。


 でも何だろうな? なんて言えばいいんだろうな?


 笑顔で笑い合っているだけで、特に何かを言い合っている訳ではない。


 でもこの場面を切り取って、漫画のように台詞の吹き出しを付けたら、そこに書かれる文字は。


『おめぇぜってぇ負けねぇかんな?』

『上等だよ、かかってこいやぁ!?』


 ……こんな感じだな。



「二人とも、仲良くしてくれよ」


「え~? 仲良くしてるよ~?」

「そうよ、あたしたち親友だもの」


「「……ね~?」」


 このような状態にしてしまったのは俺だからな。


 知らねぇ~よ、そっちで勝手にやってくれ……なんて思う事は出来ない。


 彼女達に好かれても、その彼女達の仲が微妙になるのは避けたい。ギスギスハーレムなんてごめんだね。



「……俺は仲良くしている二人が好きだ」


「す、好きって言った……」

「やめて、その言葉はあたしに効くわ……」


 なるほど、こうやってコントロールすればいいのか。


 二人には仲良くしてもらいたいと思ったのは本当だし、好きというのも嘘ではない。


 しかし、そんな頬を染めて乙女の顔をするような事を言ったつもりはないのだが。



「まぁとりあえず、行こうか」

「そうね、行きましょ」

「は~い」


 華絵から荷物を受け取り、改札に向け歩き出すと、玲香は当然のように腕を組み、華絵は一歩下がって俺の服の裾を摘まし出した。


 一緒に行きましょうといった玲香に、貴方についていきますといった華絵。


 仕草から性格まで何もかも違う二人。嬉しいのは嬉しいのだが、ここは駅なので人の目が多い。


 まぁ、知り合いに見られなければいいか……いや、別に見られたら洗脳すればいいだけか――――



「――――地道ッ! 待てよッ!」


 なんて考えていた時、背後から大きな声が聞こえてきた。


 やはり知り合いに見られたようだ。洗脳済みな生徒であればいいが、生徒指導の先生だったりしたら面倒だな。


 そうだったらなんて言い訳しよう? そんな事を考えながら振り向くと、そこには洗脳出来てないクラスメイトの姿があった。



「……天道? こんな所で何をしてるんだ?」

「そりゃこっちの台詞だ! お前……なにしてんだよっ!?」


 険しい表情で俺を睨み付けている天道。


 彼がそんな表情をしている理由は想像がつく。俺がこの二人といるのが気に食わないのだろう。


 それも仕方がないのかと思う。なにしろこの二人は、つい先日まで天道の傍にいたのだから。



 しかし、そうは思われてもどうしようもない。


 彼女達が今、俺の隣にいるのは他ならない彼女達の意思によるものだ。


 彼女達が俺を選んでくれるというのであれば、俺は全力で彼女達を守る。


 とりあえずは場所を変えよう。そんな大声を出して、周りに注目される彼女達の事を少しは考えたらどうなのだろうか?


 これは文句の一つでも言ってやらなきゃない……そう思ったのだが、文句を言い出したのは他ならぬ玲香と華絵だった。



 ――――これで流石に気づいただろうか?


 本人達からハッキリ言われてしまっては、認めざるを得ないだろう。


 それとも、まだ認められないと騒ぐのだろうか? どこまで落ちれば気が済むのだ。


 俺が彼女達を騙していると、言わせているのだと、まだ彼女達との道は残っていると本気で思っているのだろうか?


 そんな思い違いをしているのなら、俺は告げてやらなければならない。


 ――――それが俺の役割だからな。



「――――天道。これ以上、落ちるなよ」


 通告もした、警告もした。よく考えろと何度も言った。


 役割の枠を越えて、ただのクラスメイトとして伝えてやろうとした事もあったっけな。


 だが悉く間違った。間違って、失って、ついにここまで辿り着いてしまった。


 ここで止まれるか、それともドン底まで落ちるのか。


 まぁとりあえず、宣告してやろう。



「――――ついに最後の道も失ったな」


 もう決まってしまった。


 お前の進む道は――――

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