第17話 心の準備はバッチリです!
そして始まった期末テストへ向けた勉強会。
誰がやったのか、どうやったのかは分からないが、教室より大きい会議室を使っての勉強会となっていた。
参加している人数も多い。うちのクラスのほとんどの生徒に加え、玲香が誘ったのだろうか? 隣のクラスの生徒の姿もあった。
「――――次はこの単語、間違いなく出るから覚えておくように」
「「「「はいっ!」」」」
スタイルを変え、授業形式で進んで行く勉強会。今までは問題集を作成して解かせる方式を取っていたが、今回は変えていた。
テスト問題集は作る予定だが、地力をつけるにはこの方が効果的であろう。
「では22ページから26ページまでの、小テストを解いて下さい」
「「「「はいっ! 地道様!」」」」
元気よく返事をする我がクラスメイト。それに感化されたのか、徐々に玲香のクラスの人達も従順になっていった。
これで結果を出して見せようものなら、もはや抗う術はない。
「くくく……これで2クラス洗脳完了だな」
「地道様? なんか悪い顔してますよ?」
「きっと、崇高な事をお考えなのですよ」
「凡人の私には届かない頂きに居られる」
「同じクラスだった事を神に感謝します」
うちの学園は一応進学校だ。そのため、それなりの地頭を持っている生徒が多いのである。
ちょっと勉強方法を教えたり、ハッキリと道を示せば後は勝手にやってくれる。
本来は自分が優秀で、自分の頑張りによるもの。俺はただ道を用意してあげただけに過ぎないというのに。
「ふはは、笑いが止まらね…………笑えねぇ奴がいるようだな」
「う~ん……う~ん……」
周りは笑顔すら浮かべながら、楽しそうに問題を解いていく中、一人だけ不穏な気配を発している生徒がいる。
頭を抱えながら唸り、必死に教科書を見ては泣きそうな顔をしたりしている。
「ハレヤマさん、ダイジョーブデスカー?」
「ダイジョーブです……」
「ウソはイケマセンネー」
「嘘じゃないもん……」
今は英語の試験対策をしているため、片言英語教師の雰囲気を出してリラックスを促してみたのだが、効果の程は怪しい。
晴山にとって最大の難関は英語だろう。正直、他の教科はどうにかなると思うのだが、英語だけは相当頑張らないといけない。
「you are so cute」
「さ、さんきゅー」
おぉ、成長しとる。湯は蒼穹とかスゲー聞き間違いをしていた頃が懐かしいな。
しかし晴山には、この授業スタイルの勉強会は厳しいか。
でもみんなの前で特別扱いはダメだ。平等にいかなくては、不平不満が吹き出してしまう。
「晴山、この後は個人授業だ」
「う、うん」
「他のみんなには内緒だぞ」
「あぅ……」
他の人達にバレないように、こっそり晴山に耳打ちをする。
真っ赤になってコクコク頷く晴山の様子に満足した俺は、再び全体授業に戻った。
――――
――
―
学園での勉強会終了後。一度別れた俺と晴山は、こっそり待ち合わせ場所を決めて合流を図った。
何が楽しいのか待ち合わせ場所でニコニコしながら待っていた晴山と合流し、買い物を済ませて自宅に戻る。
自宅に戻り着替えを済ませリビングに向かうと、ルーティン化したように晴山が飲み物を入れてくれる。
とりあえず小休止という事で、俺達は向かい合って茶を飲んだ。
「今日は泊まってくんだろ?」
「うん、泊まる……」
「ちゃんと準備してきたか?」
「準備って……心の?」
「いや、泊まるための準備だろ」
「あ、そっちか」
一体どんな心の準備をしてきたというのか、じっくり聞きたい所ではあるが。
まぁ普通に考えたら、同級生の男の家に二人っきりで泊まるとか、色々と準備しないと出来るものじゃないか。
ここに来てる時点で、ある程度は心を許してくれているのだと思うが、今はそれどころでないのは本人が一番分かっているだろう。
「えっと、じゃあ……する?」
「……なぁ、なんかさ? 別の意味に聞こえるんだけど。そんな上目遣いなんかして」
「そ、そんなつもりじゃないよ~」
「どうだか……とりあえず先に夕食にしないか? 作るの手伝うから」
「えっと、じゃあ……作る?」
「いやだからさ、なんで上目遣いでそういう雰囲気を出すの?」
――――
――
―
夕食の準備を手伝うつもりだったのだが、邪魔にしかならなかったので早々に退散。流石に申し訳ないので、後片付けは全て俺が行った。
動きたそうにしている晴山を必死に宥め、休むように言い含める。
ダメにされては敵わないからな。こういう事は率先してやろうと思った。
その後はもちろん勉強を行った。
晴山のスピードや理解力、苦手な箇所などを把握しながら進めて行く。
俺の飲み物が少なくなると立ち上がってキッチンに行こうとするので、そういう事にも頭を回しながら勉強を続けていった。
分からない所は分からないとハッキリ言うようになったし、悲壮な顔を浮かべる事もなくなっていた。
以前は恥ずかしいとか、悪いとか思っていたのか知らないが、聞きづらそうにしている節があったからな。
「――――うし、ここまでにしとくか。頑張ったな」
「うん! 今までで一番捗ったかも!」
「このままだとポンコツじゃなくなっちゃうな」
「……地道くんは、ポンコツなわたしの方が好きなの……?」
まぁ正直、そこを克服されると晴山に対する俺のアイデンティティーがなくなってしまう。
可愛いし女子力高いし頭も良い。そんな完璧な女性を前に俺は自分を保てるだろうか?
何か一つでも他者より秀でたい、秀でていたい。そんな器が小さい事を思ってしまう。
器が小さいのなら、大きくすればいいんだ。自分をもっと高みに登らせる。他者が登って来ないのを願う男にはなりたくない。
「……嫌いになる?」
「なる訳ないだろ? もっと魅力的な女の子になるんだ、いい事じゃないか」
「じゃあ……好きになる?」
「個人的な感想は控えさせてもらいます」
「む~……なんかずるい」
「ほら、遅くなる前に風呂に入ってこいよ」
ぷくっと頬を膨らませた晴山は、可愛らしく俺を睨むとリビングを出ていった。
俺は残った後片付けを終わらせ、晴山の後に風呂に入った。
寝る準備を整え、寝る前に晴山と少しお喋りをして、自室に戻って寝た。
何もせずに寝たよ? 当たり前じゃないか。
いや嘘じゃねぇよ? いやしかし寝間着可愛かったなぁいやそれより何だよあのデケぇのあんなの見せられたら俺は――――いやだから、何もしないで寝たよ。
――――
――
―
そして朝、晴山にビンタで起こされた俺は登校の準備を済ませて朝食を食べていた。
向かい側に座る晴山にも寝不足感などはなく、元気いっぱいといった様子だ。
「美味い。ありがとな、準備してくれて」
「うん、いっぱい食べてね」
「あと起こしてくれてありがとう、出来ればビンタじゃなく揺すって欲しい」
「でもそっちの方がすぐ起きるんだもん」
どうして俺を起こしてくれる女性は揃いも揃って、暴力を振るおうとするんだ。
起きられない訳ではないが、女の子が泊まった日に起きないのは当然だろ?
優しく起こしてもらいたい、それは全男子の憧れだろうが。
だけど、次からは自分で起きようと思った。まだ頬がいてぇし。
「それより、今日はどうするんだ?」
「えっと……今日も、泊まっていい?」
「俺は構わないけど、大丈夫なのか?」
「うん……」
その先の言葉を待ったが、晴山は何も語ろうとはしなかった。
何か事情があるのは知っているが、果たして男の家に連泊しても大丈夫なものなのだろうか。
その事を親は知っているのだろうか? 聞いてみたい気持ちもあるが、晴山から親の話が出てきた事は一度もない。
下手に聞いて、晴山がここに居づらくなってしまう事は避けたい。
「……ごめんね、迷惑だ――――」
「――――迷惑じゃない。俺としても晴山にはいて欲しい」
「わたし、居てもいいの……?」
「俺の胃袋を掴んだんだ、責任とれよな」
冗談っぽくそう言うと、やっと笑ってくれた。
しかし、やはりこのままではいけないとは思う。根本を変えなければ、晴山はずっとこの表情をする事になる。
結局晴山は、期末テストが始まるその日まで、俺の家に泊まり続けた。
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