バッド選択・失恋 ~恋慕~






 あれから数日、玲香と話そうと色々とアクションを起こしてみたのだが、上手く行ってなかった。


 学園では地道にベッタリで、とてもじゃないが話し掛ける事なんて出来なかった。


 玲香だけならまだしも、体育祭が近いせいか時雨と雪永先輩もいる事が多かったので、それも原因の一つだった。



 進< 少し話がしたいんだけど。

 玲香< なに。


 進< 会って話せないか?

 玲香< メッセージにしてほしい。


 進< 時間がある時でいいから、頼むよ。


 数日前に行ったメッセージのやり取りを再び眺めてみた。


 感じ的には、機嫌が悪い日の玲香だ。そりゃまだちゃんと謝れていないから、仕方ないと思うが。


 最後に俺が送ってから返信はない。電話を掛けても出ない、折り返しだってなかった。


 出来れば文字なんかではなく、会って話したかった。でも向こうにその気がなければ、会って話す事は難しい。


 連絡しても厳しいなら、やはりチャンスは学園だろう。玲香が来るのを待つのではなく、俺から行動すればいい。


 そんな事を考えながら、暇な休日を過ごした。寝る寸前まで期待していたのだが、やはり連絡は来なかった。



 ――――

 ――

 ―



 チャンスを伺う学園生活が始まった。とは言っても、早々チャンスなどあるはずもなく。


 業間や昼休みに玲香が来たとしても、やはり行くのは地道の所。華絵の所に行く事はあったが、俺の所に来る事はなかった。


 残されたチャンスは放課後か。地道が今日、実行委員の仕事でもある事を願おう。



 なんて、そんな上手く行かなかった。


 放課後、ウチのクラスのホームルームが終わってすぐだった。


 何人かのクラスメイトが即座にクラスから出ていった。それと入れ替わりに、数人の他クラスの人が教室に入ってくる。


 その人達は自分の友達に会いに来たようなのだが、問題はその中に玲香の姿もあった事だ。


 玲香は迷う事なく地道の元に向かった。地道と楽しそうに何かを話した後、いつも通り地道に追従する形で教室を出た。


 一緒に帰ると言うのか? その位置までも俺は奪われてしまったのか?


 それにあの笑顔。玲香って、あんな風に無邪気に笑ったりする子だっただろうか。



「進くん、帰ろ? スーパー行きたいんだけど、今日は買う物が多いから手伝ってくれる?」

「……あぁ」


 今日も玲香と話す事が出来なかった。


 周りの目を気にしないで強引に行けば話せるのだろうけど、それはあまりよくないんだろうな。


 どんどん玲香が奪われて行くような、嫌な焦燥感に苛まれながら俺は華絵と教室を出た。



「なにか食べたい物ある?」

「いや、特に……」


「そんなこと言って、野菜全然食べないじゃん」

「…………」


 華絵が色々と話し掛けてくれるが、あまり頭に入って来なかった。


 頭にあるのはほぼ玲香の事だけ。こんな状況になる前に玲香の事が好きになっていれば…………?


 ……好き? 俺って玲香の事が好きなのか? しかし、誰かを好きになるという感情がよく分からない。


 ここまで気になるのは好きだからなのか? ずっと近くにいたから気づけなかったとか、そういう事なのだろうか?


 ダメだ。そうだと思ったら、そうとしか思えなくなってきた。



「あと進くん。わたしそろそろ、追試や期末テストの勉強始めないと……――――あ、玲香ちゃん」

「……えっ!?」


 色々と考えていた事が全て吹き飛び、あれほど頭に入らなかった華絵の言葉がハッキリと聞こえた。


 華絵の視線の先を確かめて見ると、トイレ近くの壁に背を預けながらスマホを弄っている玲香の姿があった。


 近くに地道の姿はない。まさかトイレに行っているのだろうか?


 これはもしかしたら、チャンスなのかもしれない。


 ――――今のうちに――――


「誰か待ってるのかな? 多分……地道くんだよね」

「……悪い華絵。俺ちょっと玲香に用事があるんだ」


「そうなの? えと、待つけど?」

「いや、先に行っててもらっていいか?」


 華絵の傍で話せるような内容じゃない。


 もちろん華絵も噂は聞いているだろうから、俺と玲香が今どんな状況なのかは知っていると思うが。



「……ねぇ進くん。わたしが言うのもなんだけど、玲香ちゃんはもう……」

「……いいから、先に行っててくれ」


「……分かった」


 最後まで何か言いたげな表情をする華絵は、近くの階段を下りて姿を消した。


 俺は階段を下りずに、そのまま玲香の元へ向かう。


 誰かが近付いてくる事に気づいたのか、玲香はスマホから視線を上げてこちらを見た。


 しかしその目線は、つまらない物を見たとでも言うように、すぐにスマホに戻された。



「……玲香、少しいいか?」

「ごめん、これからちょっと行く所があるから」


 話し掛けると流石に目を上げてくれたが、その声に熱はなくどこまでも冷淡に感じられた。


 ついこの前までは考えられないような変化に戸惑うが、チャンスを逃すまいと必死になる。



「そ、そんなに時間は掛けないからさ」

「…………」


「頼むって。色々と……謝りたい事もあるんだ」


「……分かったわよ。でも7分だけよ」

「7分……? なんだよその微妙な時間」


「彼の平均時間だから。まぁ今日はパパに会いに行くから、もう少し時間は掛かると思うけど」

「…………」


 何を言っているのか、いまいち分からない。


 分かったのは、玲香がアイツを中心に動こうとしているという事。


 なんで俺にくれる時間が、アイツに左右されなきゃならないんだ。それになんだよ、パパに会いに行くって。



「それで?」

「ちょっと場所を変えないか……?」


「……分かった。あたしも見られたくないし」


 見られたくない、その言葉にも心が折れそうになるが、深く考えないようにして自分を保った。


 少し歩き、トイレの位置からは死角となる場所で玲香と向き合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る