第3章 ~天道side・後編~
バッド選択・失恋 ~変化~
あぁ、面白くない、気に食わない、イラつく。
こんなにイライラする状態での学園は初めてだ。全てはあの、朝の出来事のせいだ。
確かに俺は玲香に対する言葉、態度や行動を間違えてしまったかもしれない。
俺もカッとなってしまい、玲香に口悪く言ってしまった事も事実だし、それは後で謝ろうと思う。
まるで自分の物だとでも言うかのような行動に、玲香が不快感を抱くのも無理はなかった。
気が強い子だし、そういう事を嫌いそうだと少し考えれば分かっただろうに。
でもなんだよ? そんな行動を嫌うお前が、地道に名前を呼ばれただけで笑顔を作って付き従って。
あの時、地道と一緒に歩いている二人を見かけた時、様々な感情で頭がゴチャゴチャして、何も考えられなくなった。
怒りもあった、嫉妬もあった、憎みもあった。
でも今になって思えば、一番強かった感情は不安だろう。
不安だった。時雨や雪永先輩の時には抱かなかった感情、今回はそれが一番強かったと思う。
ずっと近くにいた二人が、取られてしまうんじゃないかという不安、恐怖、焦燥。
相手があの地道だという事も大きい。アイツには前科があるからな。
今までの行動から考えるに、地道は俺の近くにいる女性を狙っているのは間違いない。
なんで俺が狙われるのかは分からないが、他の道に進めとか失うとか、アイツが何かをしたのは間違いないんだ。
今回は長く一緒にいた玲香がターゲットにされた。
目論み通りなのか分からないが、玲香がアイツの傍に行っているのは事実である。
でもアイツらは、そんなに長い時間を共にした訳じゃないはずだ。
俺の玲香の間にはあって、アイツにないものが積み重ねた時間だ。
時雨や睦姫先輩とは違う。一年近く、ずっと傍にいたんだから。
だから、玲香なら、まだ間に合うハズだ――――
「――――大丈夫か? お前」
午前の授業が終わり、これから昼休みという時に声を掛けてきたのは海だった。
ちなみに、教室に入ってから声を掛けてくれたのは海が初めてだった。
その理由は想像がついている。今朝の騒動で、あらぬ噂が流れている事は分かっていた。
なにが玲香にフラれただ、取られただ! あることないこと騒ぎ立てやがって!
告白した訳でもないし、アイツらが付き合っている訳でもないだろうが!
「大丈夫って、なにがだよ?」
「それがだよ。暗い顔したと思ったら険しい顔して、近付くなオーラがヤバイぞ」
その噂のせいで機嫌が悪く、考える事もあったので人を寄せ付けない雰囲気でも出ていたのだろう。
あの華絵ですら、今日の俺には近付いて来なかったからな。
「そんでお前、どうすんの?」
「……どうするって、なにが」
「今日、玲香ちゃん一度も来てないな」
「っ!?」
いつもなら、業間に玲香が俺の所にやって来ていた。
たまに喧嘩などをして来ない事もあるが、今日来ていない理由はそれではないかもしれない。
仮に仲直りして、いつも通りの感じになったとしても、もう俺の所には来ないのではないかという漠然とした不安があった。
「まぁ相手があの地道様じゃな~」
「……なにが地道様だよ。ふざけんな……」
「悪い悪い。でもお前には華絵ちゃんがいるだろ?」
「…………」
確かに華絵は俺を選んでくれた、華絵はこっちに来てくれた。
あれがなかったら、自分でもどうなっていたのか、どうしていたのか分からない。
ただ、良い結果にならなかった事は間違いないだろう。
「だからさ、切り替えて……とりあえず昼飯に――――おぉ……すげぇタイミング」
「……はぁ? なにが――――」
海の視線の先に目を向けると、そこにはいつもと違う雰囲気の玲香の姿があった。
髪型は変わらずサイドテール。もうストレートにするつもりはないのだろうか。
髪型も違うが、もっと違うのは雰囲気だ。
なんて言えばいいのだろう? 感情があると言うか……いつもここに来ていた時は、感じられなかった雰囲気がある。
それに以前会った時から思っているのだが、玲香ってあんなに可愛かっただろうか? 以前とは別人に見える。
「あ~、えっと、あ~……」
「……っ」
玲香は俺の横を通り過ぎた。俺には目すら向けなかった。
どこか緊張している様子もあった玲香の目は、一切逸らされる事なく……地道に向けられていた。
声を掛ける事すら出来なかった。俺の事を認識していたかすら怪しい雰囲気だった。
俺の所に残ったのは、通り過ぎた時に漂ったいつもの玲香の匂いだけだった。
「な、何があったのかは知らねぇけどさ」
「…………」
「あれはもう厳しいぞ? お前どころか誰も……地道しか目に入ってねぇよ」
「……うるさい」
海の言う通り、本当に地道しか目に入っていないような動きだった。
そんな玲香は地道の元に行くと、恥ずかしそうに髪を弄りながら話掛けている。
何を話しているのかは聞こえない。少し話した後、二人はそのまま教室を出ていった。
やはり俺には目を一切向けない。玲香が目を向けていたのは地道の背中だけだった。
「……ほら、お前は華絵ちゃんと昼飯行ってこいよ」
「…………」
「いつも三人で……まぁとにかく、いつも華絵ちゃんと食ってるんだからさ」
――――一人で食べる――――
いつも華絵と玲香、俺の三人で昼食を取る事が多いのだが、そんな気分じゃなかった。
俺は自分の気分を優先する。華絵がこちらに向かって来るのが見えたが、どんな気持ちでいるかなんて考えていなかった。
「進くん。今日はお弁当作れなかったから学食に行かない?」
「学食……悪い華絵、今日は一人で食べるから」
「……そう、分かった。ならわたし、一人で行ってくるね」
俺を選んでこっちに来てくれたという事も忘れ、こんな俺に話し掛けに来てくれた華絵に断りを入れた。
華絵は特に残念そうではなかった。いつもなら、もう少し強引だったと思うんだけど、あっさり引き下がった。
「お前さ、気持ちは分からないでもないけど、せっかく華絵ちゃんが来てくれたのに……」
「……ちょっと、色々と考えたい気分だったんだ」
「考えるより行動しろよ? いや、違うか。もう少し考えて行動しろよ」
「お前までそんな事いうのかよ……」
まるで俺が何も考えていないみたいに。
華絵と一緒すると、どうしても普段はいるもう一人が、いない事が気になってしまうから。
それに学食なんて行ったら、アイツらに鉢合わせるかもしれないじゃないか。
だから今日だけは一人で、なんて考えが間違えだって言いたいのかよ。
「お前、自分の事しか考えてなくね?」
「それは……」
「少し相手の気持ちを考えてみたら?」
「…………」
その言葉は、再び俺の胸に突き刺さった。
相手の気持ちを蔑ろにし、自分ばかりを押し通す。そのせいで玲香は離れてしまったんだろう。
同じ事を繰り返せば、何れ華絵も……。
「そんな事はない……華絵は、華絵だけは……それに玲香だって、まだ……」
「玲香ちゃんは諦めろって! 女々しすぎるだろ」
そんな簡単に割り切れない。それに最近の玲香は、凄く可愛らしくなったと思う。
どうして気がつかなかったのか、気づいた時には遅いなんてあんまりだろう。
今になって玲香の事が気になり始めた。
失ってから気づく、そんな聞いた事のあるフレーズが頭に浮かんだが、頭を振って書き消した。
まだ、失った訳じゃない。
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