数ある中から選んだ道・一つのその後






「ねぇ行人くん。クリスマスはどうするの~?」

「爺ちゃんと母さんが張り切っててさ、どこかお店を貸し切ってクリスマスパーティーしようとか言ってた」


「相変わらず地道家は凄いわね……」

「せっかくだから玲さんと香織さんも呼びなよ。みんなも良ければ親を呼んでさ」


「そういえばお婆ちゃん、全員分のドレスを用意したとか言ってました」

「お~、それいいな。みんなのドレス姿は見てみたい」


「道理でお爺ちゃん、最近落ち着きがないと思ったら」

「あの人はいつも落ち着きがないよ」


 クリスマスが近いとある日の放課後の事。


 いつも通り生徒会室を私的利用し、クリスマスの事を話し合う俺達。


 夏休み前に彼氏彼女の関係になってから、周りの理解もありここまで楽しくやってきていた。



「冬休みも楽しみですけど、夏休みも楽しかったでよね~」

「うん、今までで一番楽しい夏休みだったよ!」

「好きな人と過ごせるだけでここまで変わるのね」

「高校最後の夏休み、本当に楽しかったわ」


 ハーレムなんていう、男にとって都合の良いこの関係だが、みんな仲良くやってくれていた。


 たまに戦争騒動が起こるが、なんだかんだ本人達も楽しんでいるようだし、特に口出しはしていない。


 基本的にはみんな一緒に行動しているが、二人きりでデートしたりする事もあるし。



「……ところで」

「「「…………」」」


 そんな楽しく会話をしていた彼女達だが、少しだけ居心地悪そうにしているのに気がついた。


 生徒会室にある異物感、漂う異様な気配、本来ないはずのものがある違和感。


 みんな生徒会の役員に当選したので、ここにいるのは不思議ではないのだが、一人だけ不思議な人がいた。



「楽しみだな~クリスマスパーティー!」

「「「「…………」」」」


「プレゼント交換とかもしちゃう系!?」

「「「「…………」」」」


「みんなのサンタコス可愛いだろうなぁ」

「「「「…………はぁ」」」」


 騒ぐ男、無視する四人。


 一人の男がうるさい。彼の事は誘っていないのだが、来るつもりなのだろうか?


 彼女達が望んでいる、もしくはまぁいいか……なんて思っているならまだしも、そうじゃないのは明白だ。


 俺は急いで、とある人物に連絡を行った。



「……天道、お前も来るつもりなのか?」

「なんだよ~? いいだろ別に、友達だろ!?」


 当たり前だとでも言いた気な表情で、生徒会室の片隅に居座っていたのは天道進。


 居座るだけならまだしも、ガッツリ会話に加わってくる。


 一応クラスメイトではあるのだが、友達になった記憶はなかった。



「なんていうか、ごめんね皆……」

「華絵は悪くないわよ。あいつが異常なの」

「あのメンタルの強さは見習いたいです」

「というか彼、あんな感じだったかしら?」


「なになに!? 俺の話!? 何でも言ってよ!」


 いつからか、気がついたら天道はこんな感じて俺達に接してくるようになった。


 お調子者の男子、弄られキャラ、道化。言い方は色々とあるだろうが、最初は戸惑いが凄かった。



「あのね、進くん」

「うん?」

「私達は恋人同士で、聖夜の話をしてるの」

「分かってるよ~」


「アンタ分かってないでしょ」

「分かってるって~」

「ならハッキリ言うわ。来るな、邪魔、消えて」

「辛辣ぅ」


「天道先輩、鋼のメンタルですね」

「ありがとう!」

「褒めた訳では……あの、大丈夫ですか?」

「本気で心配してる顔は止めてっ」


「どうしたら分かってくれるのかしら?」

「だから分かってますって~」

「そうじゃなくて。私達は貴方が何をしようが、もう貴方との未来はないわよ?」

「未来は誰にも分かりませんよっ」


 夏休み前のあの日以来、あまりにも天道がしつこいので初めは完全無視を決め込んでいた彼女達。


 そこで天道は色々と考えたのだろうな。どうすれば相手にしてもらえるのか。


 その結果、選んだ道がこれか。


 道化――――道化を演じる事で真剣味を消し、断られた時の悲壮感も薄れれば、邪険にされた時のダメージを軽減させる事も出来る。



「俺もみんなのサンタコスが見たいっ!」


「いやだよ、見せたくない」

「冗談やめて、キモい、マジキモい」

「はっきり言うと、マジでいやです」

「なんて言えば……可哀想ね、あなた」


 道化の天道に、半分冗談っぽく突き放す言葉を掛ける彼女達。


 慣れてしまったのか、今では呆れた様子をしつつも会話をするほどになっていた。


 彼にとってはそのキャラは成功なのだろうか? 一歩前進どころか、五歩くらい後退している気がするが。


 無視されるよりはいいと考えたのか、このキャラが定着し、周りが道化天道を認知してから数ヶ月が経っていた。



「すいませ~ん、回収に参りました……」

「あ、いつもご苦労様です」


 そんな時、生徒会室の扉がノックされ開かれた。


 申し訳なさそうな顔をしながら現れたのは、道化天道の保護者である外川海さんだ。



「うちの天道がスミマセン……」

「いえいえ」


「ほら、行くぞ! 迷惑かけんなよ……」

「迷惑なんて掛けてない! やめろ、おい離せッ」


 何度この光景を見ただろう。断っても邪険にしても天道は引かないため、頭を悩ませていた時に海くんが助けてくれた。


 強引に天道を引っ張っていってくれる海くん、本当に彼には頭が上がらないが……その内、海くんも天道を見限りそうで怖い。



「まったくお前はもうっ! いい加減にしろよな!」

「なんだよ! ほっといてくれよっ!」


「お前みんなに何て言われてるか知ってるか? 天道化だぞ!? これ以上落ちるなって!」

「うるさいうるさい! おい! なんでお前はいつも尻を触るんだ!? やめろ、離せっうがぁぁぁ――――」


 海くんに連れていかれた天道化。なんか本当に可哀想。


 ほんと賑やかな奴だ。これでもかと諦めるように言って来たのに、彼には響かない。


 本格的に何か考えないといけないのだが……なんか最近は彼女達も面白いアトラクションを見ている気分でいるようなので、このままでもいいかと思う事もある。



「……ふふ、天道化ですって」

「ぷくく……わ、笑っちゃダメですよ」

「アハハハハっ!」

「は、華絵……わ、笑いすぎ……くふふ」


「……もうそのくらいにしてやれよ」



 ――――

 ――

 ―



「――――それじゃ~……かんぱ~いっ!!」

「「「「かんぱ~いっ!!」」」」


 そうしてやってきたクリスマス当日。


 予定道理お店を貸し切ってのクリスマスパーティーは、俺の家族に彼女達の家族も含めた大人数で行われていた。


 俺達の関係はみんなが知っている。もちろん俺達の関係に顔をしかめる親もいるので、これから頑張っていかなければならないと思う。



「皆様、本日はご足労頂きありがとうございます」


 さっそく母さんが彼女達の親に挨拶をして回りだした。隣には婆ちゃんもいるので安心である。


 自分の娘がハーレムの一員となっている、彼女達がいいと言っても、やはり簡単には理解を得られないだろう。


 といっても、理解どころか祝福してくれている親御さん達もいるのだが。



「いや~、ほんとありがとうね行人くん、玲香を選んでくれて」

「彼ほどの男だからな。彼女の三人や四人、彼なら問題ないだろう」


「そうね。本人達がいいと言っているのだから、アタシ達が口を出す事ではないわ」

「あんな幸せそうな娘は初めて見ましたから。世間の目なんて、気にする必要ないからね」


 あれから付き合いが生まれた、華絵と玲香の両親は俺達の関係にも寛容なようだ。


 愛莉と睦姫の両親にも、いずれ理解頂けると信じたい。



「朱音さん、貴女はいいのですか?」

「私は彼が幸せなら、それで」


「四人も五人も変わらんぞ?」

「そう……なのですかね?」


 少し離れた所で会話をしているのは、紅月さんと爺ちゃん婆ちゃん。


 何を言っているのかは聞こえないが、さっきから頬を朱く染めた紅月さんと何度か目が合っていた。


 紅月さんは俺達の事を祝福するだけで、他には何も言ってこない。


 たまに思わない訳じゃなかった。何かが少し違えば、紅月さんが隣にいた未来もあったのかと。




「はいは~い! 今日はみんなにプレゼントがあるのぉ! ちょっと来てくれる?」


 パーティー開始から少し経ち、突然母さんが大きな声を出したと思ったら、強引に四人を連れて部屋を出ていった。


 頭にハテナを浮かべながらも従う四人。母さんと婆ちゃんが先導して、どこかに行ってしまった。



 そして待つこと数十分。


 なんでプレゼントを渡すだけでそんなに時間が掛かるのだと思ったのだが、現れた四人を見て合点がいった。


 そりゃ時間も掛かるわな……。



「ドレスって……ウェディングドレスかよ」


「全員デザインが違うのよ!? 凄いでしょ~」

「みんな綺麗ですよ。ちなみにデザインは私がしたのですよ」


 婆ちゃんデザインのウェディングドレスを纏った四人。婆ちゃん以上に母さんが興奮しているが、俺も驚きが隠せない。


 四人は少しだけ恥ずかしそうに、俺からの感想を待っているようだった。



「いや、うん……みんな、綺麗だよ」


「あはは、ありがとっ」

「行人が珍しく狼狽えてるわ」

「レアですね、頬も赤いですよ」

「照れ行人、良いものを見れたわ」


 ドレス用のメイクなのか、いつもより大人びて見える四人の可愛さが限界突破している。


 各々の個性に合わせたのであろうドレス。俺は無意識にスマホを構え写真を撮るが、隣を見ると自分の娘のあまりの可愛さに写真を撮りまくる親達がいた。



「はいじゃ~始めるわよ!」

「始めるって、何を?」


「ウェディングドレスを着てする事なんて一つしかないでしょ!」

「いや、流石にいきなり過ぎるんだけど……」


「はいじゃ~お父様方! 娘さんを迎えに行ってあげて下さい!」

「話を聞けよ……」


 人の話を聞かない母さんの号令で、父親達が自分の娘の元に向かう。


 まさか本当に式を挙げるつもりなのかと思ったが、どうやらお遊びらしい。


 いつの間に説明したのか、親御さん達はこの事を知っていたようだ。



「じゃ、行人はここね! 剛斗さん、神父役お願いします!」

「お、おお! え~……アナタは神を、シンジマスカァ?」


「それ神父じゃねぇだろ……」


 そんなこんなで、冗談半分のお遊び結婚式が開始された。


 新郎の俺や父親達は普通の格好だし、神父はハーパンだし、母親達はニヤニヤするだけだし、結婚式の雰囲気なんてなかった。


 ただ一つ、本物のウェディングドレスを着た彼女達の綺麗さだけが本物だった。


 そんな彼女達が、父親と手を繋いで俺の元までやって来る。玲さんと晴夫さんは……号泣していた。


 いつか本当に、彼女達と結婚式をする日が来るのかな?



「行人。お前は彼女達を愛し、一生守る事を誓えるか?」

「……はい、誓います」


「お前達は行人を愛し、一生傍にいて支える事を誓えるか?」

「「「「はいっ! 誓いますっ!」」」」


「よろしい! では誓いのチッスを行うがよい!」

「はいはいみなさ~ん、シャッターチャンスですよ~」


 未来はどうなるか分からない。


 もしかしたら、四人の花嫁がいる結婚式なんてもう経験出来ないかもしれない。


 もちろん、目の前で綺麗に微笑む四人の笑顔を失わないように努力はするつもりだ。



「流石に恥ずかしいからな、ここで勘弁してくれ」


 いくら誓いのキスとはいえ、親の前では恥ずかしかった俺は彼女達の頬にキスを落としていく。


 俺がし終わった後は彼女達から。位置を調整して、四人同時に俺にキスをしてくれた。



「一生、傍にいるからね。逃がさないから」

「どこへでも付いて行く、絶対に離さない」

「これからも、よろしくお願いしますねっ」

「あなたと歩む道が、楽しみで仕方ないわ」


 彼女達と一緒に、俺はこれからも歩いて行く。


 進む道がどうなっているのかは分からない。というより、俺達が道を作り上げて行くんだ。


 まだまだエンドは訪れない。俺は幸せなこの道を、絶対に終らせない――――



 ――――



「じゃあみんな、はいこれ」

「なんですかこの箱」


「だって今日は新婚初夜でしょ? でもほら、出来ちゃうと色々と大変だから」

「あ~、そういう事ですか」


「あれれ? なんか微妙な反応ね~、女の子用の方が良かった?」

「というか、私達もう使ってます」


「ん? なになに、もう経験済みなの!?」

「まぁ、付き合ってもう半年ですし」


「今の子は進んでいるのね~……ところで、誰が行人の初めてを奪ったの?」

「「「「…………」」」」


「あ、あら? 聞いちゃ不味かった……?」


「激しい戦いだったね……」

「まぁ、初めての女は特別だから……」

「初めての男はみんな同じですけどね」

「行人くんも頭を抱えてたわね」


「そ、そうなの……それで、勝者は……?」

「秘密です。でも私達は、一応納得しました」


「……ファーストキスは?」


「あ、それは私です!」

「はぁ? 違うわ、あたしよ」

「え? 私です……けど?」

「残念だけど、私なのよ」


「あ~地雷踏んだ~……朱音、後は頼むわ」

「いえ、私がいたらもっと面倒な事になると思います」

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