進む道、行きつく場所・地道視点
もうほとんど人がいなくなったとはいえ、下駄箱という場所で話すのもあれだと考えた俺達は、中庭までやって来ていた。
天道は俺に外して欲しかったようだが、四人がそれは嫌だと聞かなかったため俺も立ち会う事に。
みんなからは数歩離れているが、表情が分かる位置で俺は五人の様子を伺う。声は問題なく聞こえる位置だった。
「みんな、地道の事をどう思っているんだ?」
天道が最初に口にしたのはそれだった。そんな事を聞いてどうするつもりなのか。
その言葉に誰も答えない。答えたくないというよりは、誰かが適当に答えるだろうとでも思っているかのような表情だった。
誰も答えない事に焦った様子の天道は、一番目が合わせやすかったのだろうか? 華絵に目で訴えた。
そんな事をされたら流石に黙っていられない華絵は、ゆっくりと答えた。
「……私は、行人くんが好きだよ」
「っ」
華絵の答えに息を飲んだ天道は、逃げるように視線を華絵から外し、次に玲香を見た。
視線を移された事に気づいた玲香は、天道とは目を合わせず俺の目を見ながら問いに答える。
「見れば分かるでしょ、好きだって」
「…………」
華絵の時は表情が強張った天道だったが、玲香の言葉で表情は変わらなかった。
どこか、分かっていた……といった様子の天道に、睦姫先輩と愛梨が続いた。
「ちなみに私も好きだから」
「わ、私も大好きですっ!」
便乗した感じの睦姫先輩に、慌てて言葉を出した愛梨。天道は二人にも視線を送るが、やはり目が合う事はなかったようだ。
全員が問いに答えた所で、吐き捨てるかのような暗い声で、再び天道は声を出した。
「……全員が好きって、おかしいだろ……」
「他の人は知らないよ……」
「おかしくない、だって行人だもの」
「今ここにいるのが四人だけって、奇跡的ですよね」
「仕方ないわね、カッコいいもの」
「そうじゃなくて、なんで四人なんだよ!? 地道がモテるとか関係ないんだ! なんで俺と関わりがあったお前達なんだよ!?」
声に力が入り出した天道。それに各々違った反応を見せる四人。
「なんでって……だって、好きになっちゃったんだもん……」
華絵は天道の大声に慣れていないのか、少し驚いたようだった。
「意味分かんない。あたしの気持ちと、アンタは関係ないんだけど」
玲香はずっと変わらない。ずっと不機嫌そうなままで、声にも明らかに棘があった。
「て、天道先輩がなんで怒ってるのか分からないです……」
愛梨はどこか怯えたような態度で、キョロキョロと視線をさ迷わせていた。
「私達だけじゃないと思うわよ。今ここにいる四人がアナタの知り合いなのは……たまたまじゃないかしら」
睦姫先輩は冷静に状況を把握したようだが、声は冷淡だった。
「たまたまって、そんな訳がないだろ……? みんな、地道に何をされたんだ!? こんな短い時間で、おかしいだろ!?」
「う~ん、色々されたかも……少なくとも私はね」
「そう言われれば、こんな短い時間で大好きになれたんだから凄いわね」
「時間とか、関係あるんですか?」
「誰かを好きになる理由なんて些細なものよ」
この人を好きになった理由はちゃんとある。でも人を好きになるのに時間は必要ない。
理由なんて人それぞれ。好きになるのに大仰な理由も、想いの強さも必要ない。
少なくとも、他人には関係ない。誰かを想う気持ちを他人に否定される謂れはない。
それに気付かない天道は、ついに地雷を踏み抜いてしまう。
「……その気持ちは本物なのか? まやかしなんじゃないか!?」
「「「「…………」」」」
「そうだ……クラスの奴もおかしくなってた。まるで洗脳でもされているような……」
「「「「…………」」」」
「もしかしてみんなも……? だったら目を覚まして、よく考え――――」
「――――もう止めてよ、進くん」
普段からは想像もつかない、とても低い声が華絵から発せられた。
その言葉に天道は固まってしまう。四人の中で、一番よく知っている彼女からの言葉は相当効いたようだ。
他の三人は声に出さないものの、華絵と同じ思いを抱いているようだった。
「は、華絵……?」
「私の気持ちを……否定しないでよ」
「だって……いくらなんでも……」
「確かに、自分でもビックリするくらい彼の事が好きだよ。でもその気持ちは、誰かに作られた物でもないし、嘘でもない」
ハッキリとした華絵の言葉に、どこか恐怖すらしているような様子の天道に、他の三人が続いた。
「気付いたら好きだった。正直、いつからかも分からない。でもこの気持ちは、まやかしなんかじゃない」
「私は一目惚れに近いんですけどね。でもそれは私が勝手に思った事で、私が作った想いです」
「洗脳ねぇ。彼の行動や言葉で好きになったのだから、近いのかもしれないけど……その言葉は不快だわ」
三人の言葉に、反応すら出来なくなった天道。視線を地に落とし、黙りこくってしまう。
もう話は終わりだろうか……そんな雰囲気が漂い始めた時、視線を落としたまま消え入りそうな声を天道が出した。
「……俺じゃ、ダメなのか……? 戻って来てくれよ……」
その言葉に一部の者は首を傾げ、何を言っているのだという反応を示した。
ここまでするのだから、天道が四人に好意を持っているのは間違いないのだろう。
自分で言うのもなんだが、この状況でその言葉を聞き入れる者がいるとは思えないのだが。
「…………」
「……悪いけど、無理よ」
どこか悲しそうな目をする者や、こんな状況で何を言うんだといった目をする者。
「えっと……マネージャーにですか?」
「……よく分からないわね」
そもそも、言葉の意味が分からないと言った表情をする者もいた。
それに気付いているのかいないのか、天道は更に状況が悪化するようなら事を叫び出した。
「誰でもいいから! 戻って来てくれよっ! ずっと一緒だっただろ!? 近くにいただろ!?」
「「「「…………」」」」
「もう間違わないからっ! 何か嫌な思いをさせてたなら謝るから! だから……誰か……」
そんな事を、そんな言い方をされて誰か戻ろうと思う奴がいるとは思えない。
――――まぁ、もう何を言っても、どんな事を言っても元には戻れないのだけど。
通告に気付かず、警告を無視し、ついに宣告された。
幸せな道は閉ざされた、自ら閉ざしてしまった。
今さら騒いだ所で、もう何も変えられない。
お前の進む道は決まった、行きつく場所も決まったんだ。
「なんで……なんで誰も戻って来ないんだッ!!」
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