最後の足掻き・天道視点






 話がしたい、ただそう言っただけだ。


 しかし、そう言った時の四人の反応は良いものではなかった。


 居心地悪そうにして、地道に助けを求めるような視線を送る華絵。


 ハッキリ拒絶を示して、邪魔だとでも言いたげな目を向けてくる玲香。


 了承してはくれたものの、地道の影に半身を隠して不安そうな目をする時雨。


 興味ないと、つまらなそうに髪を弄りながら目を逸らす雪永先輩。



 俺の言葉など届いていない。明らかに話したくないといった表情をする子もいたが、目や仕草を見て分かった。


 地道の判断に従う。全員がそんな様子だった。


 俺は四人に話したいと言ったのに、自分で決めようとしていない。


 全員が全員、地道の反応を待っていた。



「俺がいたらマズいのか?」

「……お前は、何をするか分からない」


「どういう事だよ? 俺が何をしたって言うんだ」

「…………」


 何をしただって? 俺から彼女達を奪っておいて、何もしていないと言うつもりなのか。


 本気で分からないといった表情をする地道が憎たらしく、どうしても目元に力が入ってしまう。


 そんな顔をしていたら彼女達の心象が悪くなるのは分かっているが、どうしてもこの男の前では感情を抑えられない。



「お前、みんなの何なんだよ? 四人の彼氏だとでも言うつもりか」

「いや、彼氏ではないな」


「ならお前に口出す権利なんてないだろ。なんで話すのにお前の許可がいるんだよ」

「……俺は何も言ってないし、聞かれてもない。もちろん口を出すつもりもない」


 言葉に出してなどいなくとも、裏で言い含めているに決まっている。


 言ってなくても聞かれてなくても見れば分かる。なんで揃いも揃って地道中心に動いているんだ。


 そんなの異常だろ。彼氏彼女の関係でもないのに、なんで話すだけなのに地道の意見が必要なんだ。



「それにそういう話なら、天道の行動もおかしいんじゃないか?」

「……はぁ?」


「お前こそ彼女達のなんだ? なんで当たり前に話してもらえる前提で話が進んでるんだよ?」

「お、俺は昔から彼女達の事を知ってるんだよ! お前よりずっと前から!」


 正直な所、地道が彼女達といつから知り合いだったのかは分からない。


 だけど彼女達の口から地道の話が出てきた事は今までなかった。話している所を見るようになったのも、つい最近だ。



「それになんの意味があるんだ」

「……なんだって?」


「昔から知っていようが、俺より前から知り合いだろうが、そんなの関係ないんじゃないか?」

「…………」


「当たり前を色々と積み重ねて来たのかもしれないけど、それを崩したのはお前だろ?」

「崩した……」


 足元が崩れていく感覚、それは何度か味わってきた。


 当たり前のようにあったもの、いつも隣にあったもの、気付けば近くにあったもの、いつの間にか近くにあったもの。


 俺は自分で自分の足元を崩して、傍にあったものから遠ざかったのか?


 いいや違う、違うッ! 蹴落とされたんだ。俺のいた場所に、今はお前が立っているのだから。


 俺が積み重ねた土台、崩れたんじゃなくて奪われたんだ。


 だってそうだろ? そんな短い時間で、新しい土台なんて築ける訳がないんだ!



「――――まぁ、いいけどさ」

「……?」


「認められないのなら、認めさせてやる」

「な、なにを言って……」


 地道の雰囲気が急に変わった。それを見た時、今までに起こった出来事が頭を駆け巡った。


 こいつの言動はずっと意味が分からなかった。初めて話した時は、本気で頭がおかしいのかと疑った。


 でもその後だった。言っている事の意味は分からなかったが、視覚的に分からされた事がある。


 俺の近くにあったものが、いつの間にか地道の傍に移動していた。傍にあったものが、気付いたら地道の傍に移動していた。


 俺の周りで変化が起こった時、コイツが現れて俺に言うんだ。


 ―――――全部、間違った、道が消えたって。



「これ以上……どうするってんだよ!?」

「どうもしないよ。ただ事実を告げるだけだ」


 今度は俺に何を告げるって言うんだ? 今度は俺から何を奪うって言うんだ?


 僅かに口角を上げる地道。それは俺を嘲笑っているかのようだった。


 やめろ、やめてくれ。今度ばかりは、俺は間違ってなどいない。


 しかし地道は、俺が想像していた事とは違う事を言い出した。



「最後に少し話してやったら?」


「行人くんがそう言うなら……」

「……はぁ、分かったわよ」

「近くにいて下さいね?」

「早く終わらせましょう」


 地道は絶対に話す事を認めないと思っていた。彼女達が話すと言っても、地道が止めると思ってた。


 今まで俺を苦しめる事しかしてこなかった、良い思い出なんて一切ない。


 それなのに今回は、俺の良いように事が運ぶように行動して見せた。


 何か裏があるのかもしれないが、話せなければ何も変わらないし、俺にとっては好都合でしかないだろう。


 地道が少し声を掛けただけで意思が反転した。


 それがどういう事なのかに俺は気付かず、みんなと話すために中庭に移動した。


 最後じゃない、ここからまた――――




 ――――●●●●●●●●――――

 ――――○○○○○○○○――――





「…………どう?」

「……彼を引き留めてあげたい」


「ここからのルート変更は無理だよ」

「もう選択肢はないのか?」


「あるけど、何を選んでも変わらないよ」

「選んでも何も変わらない選択肢とか選ばせるなよ……」



「……やっぱりダメ?」

「彼がもう少し物語に関わればな……」


「もともと彼は、ただの救済キャラだからね」

「救済? 救済どころか反対のキャラじゃないか」


「今の所、全部間違ってるよ~って、ルート消えちゃったよ~、もっと考えなよ~ってプレイヤーに伝えるだけのキャラだったんだ」

「謎男かよ……大体、伝えられた所でどうにもならねぇし、こんな簡単な選択肢を間違う奴はいねぇよ」


「親切設計だったんだけど……」

「救済になってない。間違ったのは本人だって分かってるだろうよ。時間を巻き戻せる能力者とかにしたら?」


「それは……ダメでしょ」

「それに伝え方よ……意味分かんねぇし、寝取っておいて救済もクソも能力者もねぇだろ」


「寝取る予定はなかったんだよ。でもそれだけじゃ面白くないから、色々と追加修正してこのルートを作ったんだ」

「……お前、寝取られ願望でもあんの?」

「な、ないよっ!」

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