待ち構える魔王様・地道視点
「終わったぁ! ばっちりだったよ!」
追試が終わった華絵が教室から飛び出してきた。
その表情と言葉通り、追試は問題なく終らせる事が出来たらしい。
「良かった良かった」
「うんっ! でもさぁ……なんで玲香ちゃんに壁ドンしてるの!?」
現在、玲香を壁際に追い詰めて壁ドン中。壁ドンされている玲香は華絵の声が耳に入っていないのか、顔を真っ赤にしてキョロキョロと忙しない。
華絵を待っている間、暇だからという理由で始まった女子間のバトルロイヤル。
勝者が手にするのは、地道行人に好きな事をしてもらえるという、破格の褒美。
今のところ要求される物は可愛いものだったが、いつかとんでもない物を要求されそうで気が気ではなかった。
「先輩っ! 次は私です!」
「あ~じゃあ華絵も来たし、最後な」
「ちょ、ちょっと! ズルい、私も混ぜてよ」
「――――先輩にお姫様抱っこしてもらいたいです!」
「はいはい……よっとっ」
「む、無視するなぁ!」
愛莉の膝裏と背中に手を回し抱き上げた。小さいだけあって流石に軽い。
これならほんと、何時間でも持っていられそう。小さいのに色々柔らかくて素晴らしいし。
「うっ……これやば……あ、ちょっと無理かも」
「何が無理なんだ? 愛莉がしてって言ったんだろ」
「だ、だって顔がっ……ち、ちかっ……ちカッコいいっ」
「ちかっこいい?」
自分でして欲しい言った癖に、ジタバタし始めたので愛莉を下ろした。
頬に手をやりキョドっている愛莉の隣では、何かブツブツ呟いている睦姫先輩がいた。
「……先輩は何をブツブツ言ってるんだ?」
「……え? あぁ、さっき行人先輩がやった、耳元で愛を囁くが相当効いたみたいで」
「ダメよ……いやダメじゃないけどダメよ……私をどうしようって言うの? どうとでもしてぇ……」
真っ赤な顔で虚空を見つめる睦姫先輩は、頻繁に自分の世界に旅立っていく。
最もクールでシッカリしているイメージがあるが、恐らく四人の中では一番恥ずかしがり屋で夢見る乙女であると思われる。
「行人くん、わたしもご褒美が欲しい……」
「頑張ったな、華絵」
「……それだけ? 頭ナデナデだけ?」
「他の子の目が怖いから、また後でな」
戦いに参加せず、褒美だけを得るとは烏滸がましい……トリップから戻った三人の目がそう言っていた。
華絵の戦いは追試だったと思うが、己との戦いと他者との戦いとでは違うらしい。
「え~、わたしも何か欲しい」
「ねだるな、勝ち取れ、さすれば与えられん」
「な、なにと戦って勝てばいいの?」
「この三人だ」
激戦を制した雰囲気の、猛者の目をする三人を見た華絵はたじろいだ。
敗北を喫し、目の前で褒美行為を見せ付けられるという精神的拷問も乗り越えた彼女達。
ベテラン兵に新兵が挑むようなものだ。さぁこの新兵は、どのようにして戦いを挑むのか!?
「わたし、負けないからっ」
「「「望むところっ」」」
「いや、もう帰ろうぜ?」
褒美が兵士達を無視して歩きだすと、兵士達は慌てふためき追い掛けてきた。
褒美がないと戦えない彼女達は、実に人間らしいと思う。
そんな彼女達は、誰が腕を組んで歩くかという、新たな戦場を見つけて戦いを始めていた。
――――
――
―
「――――待っていたぞ」
人っ子一人いなくなった下駄箱にやって来ると、どっかの魔王みたいな事を言う男がいた。
そんな事を言われる心当たりがなかった俺は、歩きながらジャンケンをしていた四人に聞いてみた。
「……誰か、約束してたのか?」
「わたしじゃないよ」
「あたしでもないわ」
「私もしてないです」
「最近喋ってないわ」
どうやら誰も約束などしていないらしい。
彼女達が嘘を言っている様子はない。つまりこの男は、一方的に待っていたという事になるが。
誰に用事があるのだろう? 普通に考えれば、追試を行っていた華絵なのだろうけど。
俺は、なにやら覚悟を決めた様子のクラスメイト、天道進と目を合わせた。
「天道、誰を待ってたって?」
「……話がしたい」
「だから、誰と?」
「全員とだ」
てっきり華絵とだと思ったら、なんと全員だという。
そういえば最近は、華絵も玲香も天道と話している所を見てないな。何があったのかは知らないが、玲香なんかは完全に避けている雰囲気があった。
愛莉と睦姫先輩とは、そもそもどういう関係なのだろう? 友達か? でも仲良く話している所なんて見た事がないが。
俺は構わないが、彼女達が話したくないと言えばそれまでだけど。
「地道、お前は外してくれないか」
「全員って、俺以外かよ……」
俺の事はハブるらしい。そういう事なら話は変わってくるのだが。
彼女達の意思を確認しようと振り向くと、各々違った表情をしていた。
「えっと、どうしよう……」
「いやよ」
「行人先輩が一緒ならいいですけど」
「あまり気乗りしないわね」
ハッキリしない華絵に、ハッキリしすぎな玲香。保険をかける愛莉に、興味薄な睦姫先輩。
明確や拒否は玲香だけだが、みんなは話したいとは思っていなさそう。
でも長い時間、ここで待っていたんだろうしな。邪険にするのも少し可哀想だ。
――――それに、ここにいるという事は、その選択をしたという事だ。
最後の最後まで間違い……間違いというか、バッド選択を取り続けるのか。
「……天道、お前はこの道を進むのか?」
「…………」
「……そうか」
じゃあ俺も、最後の役目を果たそうかな。
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