ようこそ、バッドエンドルートへ






「頼むよ、戻ってきて来てくれ……俺の傍にいてくれよ……」


 随分と情けない様子となった天道進は、同情を誘うかのように震える声でそう言った。


 それに反応するのは、つい先日まで天道の隣にいた二人の女の子だった。



「そんなこと言われても……もう、無理だよ……」

「あたしは行人が好き。ずっと行人の隣にいたい」


 目を逸らしながらか細い声を出す子と、ハッキリとした口調と目をしている子。


 二人に共通していた事は、どちらにしろ拒絶を示しているという事だった。



「み、みんな洗脳されてるんだよ! 地道といたら後悔する! 俺だったらそんな思いはさせない、絶対にいい思いをさせてやれるから!」


 自分の気持ちをぶつけても無駄だと悟ったのか、次は相手を落とす形に変えた天道。


 その手法には全員が顔を歪める。前者二人は声すら出したくない様子、僅かに感情の変化が緩やかだった後の二人が反応する。



「……流石に酷いですよ。いい思い出は行人先輩から貰ってますので、天道先輩からはいらないです」

「最低ね。人の気持ちを洗脳とか……そんな人だったなんて思わなかったわ」


 その後も天道は色々と言うが、四人が良い顔をする事はなかった。


 言葉を出せば出すほど心象が悪くなっていく。しかし後に引けない状態になった天道は、半ば自棄になって声を張り上げる。



「なんで分からないんだよ!? 言ってるだろ、お前達は地道に騙されてるんだって!」


「…………」


「すぐに分かるから! そのままそこに居たら絶対に後悔する! だから黙って俺の所に来ればいいんだよっ!」


 苛立った様子で、ついには命令口調となった。その様子にとうとう女の子達は話す事を止め、踵を返す。


 しかしそれを黙って見てるはずもない天道は、ついに強行策を取ってしまったようだ。



「お、おいっ! 待てって! 待てって……言ってるだろ!?」


 話を打ち切り去ろうとする彼女達を、力で引き留めようとでも言うのか、天道は彼女達に追い縋った。


 そんな時、話を黙って聞いていた地道行人が彼女達と天道の間に割り込んだ。



「どけッ!」

「退ける訳ないだろ」


「お前さえいなけりゃ……お前さえいなけりゃなァッ!」

「…………」


 天道進のターゲットが彼女達から地道行人に移る。


 まるで親の敵だとでも言うような表情は、とても高校生がする表情だとは思えない。


 それを見た女性達は地道の後ろに周り、地道に寄り添いながら天道から距離を取る。


 怒声を上げる天道には目を向けず、彼女達が心配そうに見つめるのは地道だ。



「全部、俺が悪いって言うのか? 俺がいなければ、彼女達はお前の元にいたって?」


「急に華絵は俺の家からいなくなった、玲香は急に俺の所に来なくなった! お前がマネージャーを止めるよう時雨を唆して、先輩のお気に入りにはお前が居座った!」


「……それが?」


「全部にお前が関わっているだろ! 偶然なんかじゃない、お前は意識して俺の傍にいた子達を狙ったんだ!」


 積りに積った疑念、今そこにある事実。見せつけられた現実は歪んでいき、天道の思考を狂わせる。


 今、目の前の現実はまやかしだ。事実を元に疑念は膨らみ、天道は一つの真実に辿り着いていた。



「仮に彼女達がお前の事を好きだとしても、お前はどうなんだよ!? お前はただ、俺を苦しめるためだけに彼女達に近づいたんだろうがっ!」


「…………」


「そんなお前が、彼女達を幸せに出来るって!? 出来る訳がない! お前は彼女達の事なんて想っちゃいないっ!」


 彼女達がどんなに地道の事を想おうが、地道はそうじゃないと天道は言う。


 仮にそうなのであれば、確かに彼女達は幸せな道は歩めないのかもしれない。


 事実、地道行人は、選べていない男なのだから。



「……なら、お前といれば彼女達は幸せになれるのか?」

「あ、当たり前だ! 少なくともお前よりはっ!」


「ここまで散々間違ってきたお前が、そんな事を言うのか?」

「ま、間違って……それは……」


「お前は間違った。そのせいで彼女達は離れて行ったんだ。離れて行った先に俺がいただけの話だよ」

「……お前がいたのは、たまたまだって言いたいのかよ?」


 天道が間違ってきたのは事実。それは本人も認めている事で、己の選択に地道は関係ない。


 たがその選択の結果が認められなかった。いくらなんでも、そこまで間違ってなどいない。


 自分と彼女達との道が閉ざされただけではなく、他人と彼女達との道を見せつけられたのだから。



「たまたまだ。もしかしたらここには、俺じゃない誰かがいたかもしれない」

「そ、そんな訳が……」


「でも、どちらにしろお前の傍から彼女達は離れてたよ――――だってお前は、このルートを選んだんだから」

「このルート……?」


 どこか緊張した様子も見受けられる地道が、天道の目を見ながらゆっくりと告げて行く。


 天道も天道で、地道から目が離せない。気分は死刑宣告を待つ死刑囚。


 何を言われるのかは分からない。相変わらず言っている意味が分からない。


 しかしどうしても、その先を聞きたくなかった。



「お前の進む道は確定した。もう他の道に行く事は出来ない」


「やめろ、聞きたくない……」



「――――ようこそ、バッドエンドルートへ」



 告げられたルート確定宣告。


 それはどんな道なのか。


 エンドではない、これで終わりじゃない。


 ここから始まるバッドルート。



「バッドエンドルート……?」

「お前はこれから、どうするんだ?」


「ど、どうするって……俺は……」

「もう諦めろよ」


「お前は彼氏でもなんでもないだろ!? なんでお前にそんなことっ!」

「でも彼女達の想いを聞いただろ?」


「彼女達の目を覚まさせる! 俺は諦めないぞ!」

「……まぁ分かってたけど、凄いな」


「「「「えぇ……」」」」


 いや諦めろよ……そんな顔をする四人の表情に気が付かない天道進は、その道を進み続ける決意を固める。


 行き着く先はバッドエンド、それでも彼は進み続ける。その道しかないのだから。


 つまり天道進の戦いは……続く?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る