エピローグ
諦めません宣言をした天道と別れて、夏休みの計画を練るために俺の家に向かっている道中。
流石に横に広がって歩く訳にも行かないので、彼女達はローテーションで俺の隣を歩いていた。
何やら彼女達の中で取り決めがあったようなのだが、まぁ仲良くやっているようなのでそれはいいだろう。
問題は先程から、彼女達が微妙に浮かない顔をしている事だ。
やはりローテーションが微妙か? と最初は思ったのだが、どうやらそうじゃない。
それを見た時、俺もガクッとテンションが下がった。
「……ねぇ行人くん」
「あぁ」
「あの……行人先輩」
「うん」
「あれどうするの?」
「おぉ」
「付いてくるわよ」
「はぁ……」
俺達の後方、数メートルの位置を歩く男。
たまたま帰り道が同じなんだ、そう思ったがどうやら違うようだ。
何を考えているのだろうか? そのメンタルの強さには驚かされるが、こっちのメンタルの事も考えて欲しい。
仕方ないので俺は立ち止まり、彼女達を背に隠してその男と向き合った。
「何か用ですか? 天道君」
「……別に」
「じゃ先に行ってもらえますか? 気になるんで」
「いやだ」
俺達の後ろを歩く男、その名を天道進。
諦めないとはこういう事なのだろうか? だとしたら非常に迷惑だ。
さっきのあのやり取りで、諦めないとは聞いたが……まさかそのまま付いてくるとは、ダイヤモンドのメンタルか。
「……それ、ストーカーだぞ」
「ストーカー!? お、俺はただ知り合いの後ろを歩いているだけだ!」
「やば……ストーカーだよ」
「きも……ストーカーよね」
「こわ……ストーカーです」
「うわ……ストーカーだわ」
後ろでボソッと四人が呟く。流石にこれが聞こえてしまったら天道でもメンタルが崩壊するぞ。
俺だったら折れるなぁ。彼の原動力はなんなのだろう? その行動力を別の所で発揮していれば。
「……クラスメイトから犯罪者は出したくない。どうしたら諦めてくれるんだ?」
「俺は諦めないっ! 大体お前、その言い回しはなんだよ!? 彼氏でもないくせに!」
「彼氏……」
それは話の本質ではないと思うが、天道の言う事は一理あるかもしれない。
俺達がどんな関係だろうが、彼女達が嫌がっている以上、天道の行動はストーカーだ。
だがその事に関して、彼氏でもない俺が口を出せないと言うのであれば、俺は――――
俺は――――誰かと付き合う?
誰を――――選ぶ?
選ぶ――――選べる?
「――――」
「な、なんだよ? 急にボケッとしやがって……」
――――◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●――――
「――――あぁ……俺、選べるぞ」
何かが頭の中で外れた感覚があった。でもそれは嫌な感じではなかった。
俺を押さえつけていた物が無くなったような、何もかもから解放されたような感覚。
俺の中に彼女達に対する想いは確かにあった。
でもその想いを外に出す事も、その先の関係も、彼女達の想いに応える事も、何も出来なかった。
俺は、何も選択できなかった。
でも、今なら――――
「――――みんな、話がある」
俺は天道を無視して、彼女達へと振り向いた。
キョトンとする彼女達の顔を一人づつ、ゆっくりと眺めては己の中に選択肢を作り上げていく。
その浮かび上がった選択肢から俺は選ぶ。俺らしい選択を、俺なら選べる選択を。
「俺は――――みんなの事が好きだ。俺の、彼女になってほしい」
「「「「………………へっ!?!?」」」」
「んなっにぃ!?」
後から聞こえる雑音をシャットアウトし、徐々に言葉の意味を理解し始めて顔を赤くし出した彼女達に告げる。
「俺は、優しい華絵が好きだ」
「えっ……えっ!? ほんとに!?」
「俺は、頑張りやな玲香が好きだ」
「う、嘘じゃ……ないよね?」
「俺は、いつも明るい愛莉が好きだ」
「ほ、ほんとですかっ!? やったっ」
「俺は、いつも凛としている睦姫が好きです」
「む、睦姫って……恥ずかしいわ……」
言えた。たった数文字、この僅か数文字を声に出す事すら出来なかった。
俺の中に確かにあった四人への想い。俺はそれを、無意識に自分で押さえ付けていたのだろだろうか?
そうかもしれない。だって俺は、全員を選ぶのだから。
それは、もしかしたら許されない事なのかもしれない。
でも、あぁ……この選択は間違っていない。四人の顔を見て俺は確信した。
「全員、俺の彼女になって下さい。絶対に後悔はさせないから」
「「「「はいっ!!!!」」」」
「ふ……ふざけんなぁぁぁ!? 全員ってなんだよ!?」
俺に飛び込んできた四人を両腕で抱き締める。
すっぽりと収まる四人。どうやら四人ならば、俺は包み込む事が出来るようだ。
……結構ギリギリな感じもするが、自分でこの道を選んだ以上、俺は全力で彼女達を守って、幸せにする。
「あ~、しゃ~わせぇ~」
「華絵先輩、そろそろ内側変わって下さい」
「やばっ……幸せ過ぎて死ぬかも」
「ちょっと玲香さん、もう少し詰めて」
「あと86400秒~」
「ポ、ポンコツの癖に秒計算するなですっ」
「……まじ死にそうなんで、ちょっと外側いきます」
「やったっ……」
「お前ら、めっちゃいい匂いするな~……鼻血でそう」
「お、俺は何を見せられてんだぁぁ!? いい匂いってどんな匂いだっ!」
そのまま暫くイチャイチャタイム。とりあえず、ハーレムなんて嫌だっなんて言う子がいなくて良かった。
しかしいくら人気がないとはいえ、どこで誰に見られているかも分からないからな。
こういうのは家でゆっくりやろうと、そう言って彼女達に離れてもらった。
「地道ぃぃ……」
「あれ、天道? いたの?」
そんなに長くイチャイチャしていた訳ではないが、まさかまだいたとは。
だってもうどうしようもないじゃないか。お前がいう、彼氏彼女の関係になったんだから。
「これでもう諦められるだろ?」
「そ、それは……そうだ! 四人なんて無理だろ!? 誰かが悲しむに決まってる!」
「悲しませないよ、絶対に」
「う、嘘だッ! 俺は、俺は諦め――――」
「――――はいはいゴメンねみんな! こいつは連れていくから、どうも失礼しましたっ!」
「なっ!? 海!? お前どっから沸いてっ!?」
クラスメイトの外川海に羽交い締めにされ、天道は引っ張られて行った。
どうやら海君には見られていたようだが、ともあれ助かった。危うく通報しかけたぞ。
「は、離せって! 俺は、俺はッ!」
「馬鹿かお前!? 馬鹿なのお前!? 馬鹿でしょお前!?」
「うるさいっ! 俺は諦めねぇぇぇ!」
「諦めろ馬鹿! もうほんっと馬鹿!」
「馬鹿馬鹿いうなぁぁぁ――――」
曲がり角を曲がって二人は消えていった。ありがとう海君、今度なにかお礼をしないといけないな。
あの様子じゃ諦めたとは思えないが、これ以上彼はどうするつもりなのだろうか?
――――まぁそれがバッドエンドルートか。
「やった! じゃあ駅まではわたしが左腕~」
「やりました! 私が右腕ですっ!」
「……ちっ」
「駅から家までは私だからね」
あれほど騒がしかった天道の事は目にも入っていなかったのか、天道そっちのけでジャンケンを始めていた四人。
俺の意見は聞かないのか、それはどうなのだ?
「次は負けないからねっ」
「あはは、望む所だよ~」
「次も勝ってみせます」
「絶っ対に負けないわ」
「……俺が言うのもなんだけど、仲良くしてくれよな?」
「「「「もちろん! 仲良く戦争っ!」」」」
笑顔で戦争宣言。この先どうなって行くのかは分からないが、俺はこの笑顔を失わせない事だけを考えよう。
その道もなかなか険しいのかもしれないが、俺が自分で選んだ道だ。
「じゃあ、帰るか」
「「「「うんっ」」」」
俺の道はここから始まるんだ。
トゥルーハーレムハッピーエンドルート。
そんな贅沢な道があっても、いいじゃないか。
――――本編終了――――
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