番外編・後日譚・その他
地道ハーレム
「それでは第一回、地道ハーレムお泊まり会を開始します! いえ~いドンドンパフパフ~!」
夏休み中のとある日、開催されたお泊まり会。
お泊まり会自体は何度も開催されていたのだが、今日はちょっと雰囲気が違った。
その原因は、異様にテンションが高いこの女性のせいだろう。
「……母さん、なんでここにいるんだ?」
「朱音から面白い事になってるって聞いて~、いてもたってもいられなくなったの~」
珍しく家に帰ってきた母の地道千里。その後ろには申し訳なさそうな顔をする紅月さんの姿もあった。
紅月さんは立場上、俺の事を母に報告しなければならないので仕方ない。
こんな、沢山の女の子を家に泊まらせている……なんて事は、報告せざるを得ないだろう。
俺は母にこうなった理由を話し、説明を行った。
ここは母さんと父さんの家なんだ。勝手に泊めるのは不味かったと謝罪を入れた。
「そんな事はどうでもいいのよ~。彼女達のご両親も納得してるんでしょ?」
「まぁ、そこはちゃんとしてるよ」
「なら大丈夫。でも何かあったら言いなさいね? 揉み消すから」
笑顔でとんでもねぇ事を言いやがる。まぁでも、会社の経営陣として名を連ねる事になったら、色々と気を付けなければならない事は増えるか。
ここで、本日参加しているメンバーを紹介しよう。
「お嬢! こっちに隠し部屋があったぞ!」
「本当ですか!? 行きましょう!」
「愛莉ちゃん、これとかどう?」
「わ、私には大人っぽすぎますよ~」
「玲香さん、これを山吹所長から預かってきました」
「わっ! 新作の化粧品ですか!? ありがとうございます!」
「このお菓子やば……どこで買ったの~? 美味しすぎるわ~」
「あ、わたしが作りましたお義母様! 晴山華絵と言います!」
俺を入れて総勢9名。
スマホゲームを行っている剛斗爺ちゃんと睦姫先輩。ファッション雑誌を見ている百々江婆ちゃんと時雨。
化粧品の評論会を行っている紅月さんと玲香。めっちゃ食ってる母と有能アピールしてる華絵。
睦姫先輩と時雨は、色々とあって祖父母と何故か仲良くなっていた。
今では完璧にスマホを使いこなしている元機械音痴と化石ジジイ。
仲良く買い物に行くほどになった孫娘と、それに激甘な祖母。
師でありライバル、美を追求し女を磨く妹と姉。
料理が苦手な母と、料理が得意なポンコツ少女。
賑やかすぎる。結構広いリビングだが、流石にこの人数だと狭く感じるし、何より騒がしい。
「ぬぅおぉぉ!? へるぷみい! 死ぬっ!」
「今行きますっ! あっ……」
「今度、着物を着ましょう。夏祭りとかあるでしょ?」
「お婆ちゃん、私には似合わないよ……チビだもん」
「ちなみにこれ、この量で2万円です」
「たっか!? えぇ……でも、行人のためなら……」
「ちなみに行人ちゃんの好物は……モズクよ」
「モズク……? 反応に困る好物ですね……」
というか……俺だけボッチじゃないか? ここまで蚊帳の外に置かれた経験はあまりない。
あまり感じた事のない疎外感。もしかしてアイツは、いつもこんな思いをしていたのかな?
「行人君。ここのボス手伝ってくれない?」
「いいですけど……二人なら大丈夫じゃないですか?」
「だってお爺様使えな……とにかく、手伝って」
「じゃあ後でやりましょうか」
「先輩先輩っ! これ見て下さい!」
「お、可愛い……これ、婆ちゃんと行った時の?」
「はい! 一昨日行って、買ってもらっちゃいました!」
「時雨によく似合ってると思うよ」
「ねぇ行人~、この化粧品……買って?」
「……デレバージョンで、語尾にニャンって付けて」
「行人のために可愛くなるニャン! 買ってほしい……にゃん?」
「くふっ……買う、買います、買わせて頂きます」
「今日の夕飯はモズクのフルコースにするね」
「……は? なにその罰ゲーム」
「えっ!? だって大好物だって!?」
「モズクは好きだけど……フルコースは勘弁してよ」
なんだよ、ちゃんと構ってくれるじゃないか。
危ない危ない。ダークサイドに堕ちて、バットルートに入ってしまう所だったぜ。
「下手くそっ! そこは回り込まんか!」
「いやだって爺ちゃんが邪魔……」
「攻撃は最大の防御っ……あ」
「死んでんじゃん……」
「ちょっと行人ちゃん、どうしてウチの愛莉ちゃんだけ名前で呼んであげてないの?」
「いやだって、時雨ってカッコよくない?」
「カッコよくない。名前で呼んであげなさい」
「はい……」
「い、行人さん……私も、か……買ってほしい……にゃん」
「……紅月さん? どうしました?」
「……なんでもありません、忘れて下さい」
「いや、もう脳内永久保存ですよ」
「このケーキうまぁ……凄いわね華絵ちゃん」
「……母さん、太るぞ」
「その時は研究者達に痩せ薬を作らせるわ~」
「病気を治す薬を作らせてやってくれよ……」
わちゃわちゃしつつ、楽しい時間が流れて行った。
喋るパートナーを変えては騒ぐ彼女達を見て、俺は単純に嬉しかった。
自分の家族と仲良くしてくれる姿は、見ているだけで心が温かくなる。
そんな穏やかな空気が、空気を読めない者によってぶち壊された。
「――――ところで~、誰が行人ちゃんの彼女なの?」
「「「「…………」」」」
笑顔のまま凍り付いた四人。
お互いの目を見ては笑顔で牽制し、抜け駆けするのは許さないと無言の圧力を加える。
今の所、四人は仲良くやっている。どんな協定があるのかは知らないが、抜け駆けなんてした子はいない。
というか、アンタさっき自分で地道ハーレム開催とか言っとったやないか。
ハーレムってさ、一人じゃないって事じゃないの?
「お嬢だろ? 儂はお嬢に一票」
「愛莉ちゃんに決まってますよ」
「僭越ながら、私は玲香さんを推薦します」
「じゃあ私は華絵ちゃん、胃袋捕まれたわ」
各々のバックに付いた、俺の家族の元へと四人は移動した。
しかしそのバックには、ちょっと力に差があるぞ。でも俺が誰かに肩入れしたら、差どころではなくなる。
強さ的に言えば……母が強く、次に婆ちゃん、そして爺ちゃん……紅月さんは少し弱いか。
「儂は会長だぞ?」
「私に逆らうと?」
「…………」
「私は母親ですが」
やはり紅月さんが弱いか? あの3人に割って入れる立場でもないし、厳しい状況だ。
これは平等じゃない。俺はなんとか出来ないかと頭を回し始めたが、そんなの必要なさそうだな。
「……私は、地道家の皆さんの……シークレットな部分を色々と知っています」
「「「なっ!?」」」
形勢逆転。一気にトップに躍り出た雰囲気の紅月さんを前に、3人は顔をひきつらせた。
シークレットな部分とはまぁ、プライベートな事であるとは思うけどね。
「……引き分けのようじゃな」
「こういうのは当人達の問題です」
「私達の出る幕ではないですね」
「てか四人全員娶ったらいいじゃな~い」
「わたしのバックはお義母様だから」
「影の支配者は朱音さんみたいだけど?」
「一般的に社長より会長が上じゃないかしら?」
「その会長をコントロールしてるのがお婆ちゃんです」
強力なパトロンを得た彼女達。まぁ仲良くしてくれるならそれでいいけども。
でもそれより、黙って俺にアピールした方がいい気がするのは気のせいか?
いや決して、構ってくれなくて寂しい訳ではないよ?
その後、がっつり夕飯を食べた嵐のような俺の家族は帰って行った。
――――
――
―
「――――俺つけないから、あとピロートークなんてめんどくせぇ事もしねぇし」
「あ、うん。わたしが飲むから大丈夫だよ」
「そうね。むしろ付けるよりその方が確実だし」
「まぁその方がいいんでしょうから、感触的に」
「え~でも終わった後に頭撫でられながら腕枕で眠りたくないですか?」
「「「確かに」」」
「……俺働かねぇから、あと毎日酒飲むし」
「あ、うん。わたしが働くから大丈夫だよ」
「今の時代、女性が働くのなんて普通じゃない」
「毎日一緒にお酒とか、楽しそうですね!」
「でも行人がスーツ着て仕事してる姿、見たくない?」
「「「確かに」」」
「……俺家事しねぇから、あと育児も手伝うつもりないし」
「あ、うん。全部わたしがやるから大丈夫だよ」
「見守ってくれているだけで、安心感があるから」
「台所に男を入れるもんじゃないってお婆ちゃん言ってました!」
「でも子供を抱っこして微笑んでる行人君、見たいわ」
「「「確かに」」」
「……俺浮気するから、あとお前達の事そんな好きじゃねぇし」
「やだやだやだやだやだやだやだっ」
「それは……泣くわよ? あたし……」
「流石にそれは……っく、ひっく……」
「嘘でも結構くるわね……泣きそう……」
「じょ、冗談だ! お前達が酷いこと言ってみてって言うから俺はっ!」
なんでこうなったのかは覚えていないが、寝間着に着替えた四人と駄弁っていた時の事。
四人のパジャマ可愛すぎ……パンチラブラチラも見えて大満足……な時に起こった悲劇の始まり。
――――地道行人に酷い事を言われてみたい。
誰が言い出したのか定かではないが、誰もがそれに賛同しこんな事になった。
とんだM女だ。しかしどこかで聞いた事があったな。自分の想いを確認するために、わざと酷い事を言わせてそれを許せるかどうかを試すのだとか。
支配されたい系女子がいるという話も聞いた事がある。女性ならではの感性なのだろうか?
「いや酷いこと言われたら怒りなさいよ、許しちゃダメだろ」
そういうと四人は首を傾げ頭にハテナマークを浮かべた。
俺は四人に説明すると、揃いも揃ってそうじゃないと否定された。
「行人君って酷いこと言わないから、言われてみたくなっただけだよ」
「酷いこと言われてみたくなったってなんだよ……」
「優しすぎるから。闇行人はどんな感じかな~って」
「闇行人……ただのクズだったと思うが……」
「でも支配されたいかもです。支配って、守ってくれるって事ですよね?」
「それは随分と都合のいい解釈な気がする……」
「大抵許せそうね。恋は盲目ってこういう事かしら」
「だから許しちゃダメです、あんなクズ……」
酷い事を言ったというより、ただのクズ男だった事に気がついた。
しかしこいつら大丈夫か? あんなクズ男にクズな事を言われたのにニコニコして。
と思ったら急に真顔になった四人。
「「「「でも好きじゃないは止めて」」」」
「あ……はい」
浮気はいいのか? まぁ、この状況がすでに浮気な気がしないでもないけど。
この中から誰か一人を選ぶとか……いや、考えられないな。
「クズでもいいよ? ずっと傍にいてね……?」
「あなたがいなくなったら……多分あたし……」
この二人はなんかヤバそう。一歩間違うと、ベリーバッドなエンドに直行しそう。
「好きじゃないなら、好きにさせますけどねっ」
「他の事が考えられなくなるくらい、夢中にさせてやるわ」
この二人のルートがいいな。安全そうだ、間違っても刺殺エンドにはならなそう。
「ずっと思ってたのだけど……」
己の辿り着くエンドの事を心配していると、年長者の睦姫先輩が声を出した。
純白清楚系の寝間着を着た睦姫先輩は、華絵と玲香に目を向けながら次の言葉を出した。
「貴女たちって、ちょっと重くない?」
「「は??」」
重い? 体重の話か? 一番ウエイトがあるのは身長が高い睦姫先輩だと思うが……いや、華絵の胸の重さは未知数か。
その言葉に二人は眉をピクリと動かし反応した。それに追従したのは薄黄色幼児系の寝間着を着た愛莉だった。
「あ~確かに。なんか雰囲気が重いんですよね」
「「は? は??」」
雰囲気が重い。愛莉は二人にそう言ったが……分からない。
なんだろう、女性にしか分からない何かがあるのだろうか?
「そういう二人は~……軽いんじゃない?」
「「はい??」」
言い返したのは桃色可愛い系の寝間着を着た華絵だった。
そして同じく重いと言われた、水色爽やか系の寝間着を着た玲香が追撃を行う。
「すぐ心変わりしそうな軽さよね、吹けば飛びそう」
「「はい? なんて??」」
心変わりしそうな軽さ、吹けば飛びそう。どうやらウエイトの話ではなさそうだ。
しかし君達、個人戦の次は団体戦を行うつもりか?
どちらにしろあまり宜しくない雰囲気。ここは中立でいる俺が間に入るべきだろう。
「はいはいストップストップ! これから動画撮るんだから、仲良くしてよ」
「……動画? ハメど――――」
「――――違う、なに言ってんだポンコツ」
「あ~、生徒会長立候補のあれ?」
「そうそう」
「こ、この格好のまま撮るんですか!?」
「うん。続きを見たい方は清き一票をお願いします作戦」
「そういえば、縦山君も会長に立候補するらしいわ」
「あそっすか? 相手になんねっす」
夏休み後に行われる生徒会選挙戦。俺はこの四人の力を十二分に使い、見事に会長の席に座ってやる。
動画配信選挙。わざわざ校内を歩き回ってアピールする時代は終わったのだ。
学園の公式サイトに、生徒しか閲覧する事が出来ないリンクを作成する。
「はいじゃ~カメラ回すね? じゃ華絵からいってみよう!」
「え、えと……生徒会長には、地道行人を宜しくお願い致しますっ!」
「え、つまんない。もっとほら、胸を強調して?」
「「「「…………」」」」
「玲香はツン多めで行こう、愛莉は庇護欲全開で、睦姫先輩は……少し着崩して隙を見せましょうか」
「「「「……これが惚れた弱みか」」」」
まぁなんだかんだいってやってくれた。これで俺の生徒会長は確定したようなものだ。
といってもまぁ、正直公開するつもりはないんだけど。個人的に楽しもうとしよう。
その後は各々撮影会に移行。
女同士、ツーショット、集合写真などなど。写真を撮り動画を回し、夜は更けていった。
「お~、この愛莉かわい~」
「ほんとですか!?」
「……睦姫先輩、見えてますけど」
「まぁ、あなたならいいわ」
「玲香のツインテール似合うな」
「ふんっ! 別にしたくてしたんじゃないっ!」
「なぁ華絵、さっきの写真と動画、俺に届いてないぞ?」
「え~うそ~? ちゃんと送った…………あ」
「あってなんだよ?」
「……道違い」
「道違い? どういう事?」
「間違って天の方に送っちゃった……」
「……あ~あ、俺知らねぇぞ」
「既読ついてる……」
――――
――
―
―
――
――――
「……んだよこれ……ふざけんなよ……」
ドンマイ。
でも保存はするくせに。
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