第3章 ~ハッピーエンドルート消滅・失恋~

第14話 ねぇお母さん!子犬拾ってもいい!?






「――――それじゃ~体育祭の成功を祝しまして~……かんぱ~い!」


「「「「かんぱ~いっ!!」」」」


 大成功に終わった体育祭。休日を利用して体育祭のお疲れ会を行っていた。


 場所は何度も集まった会議室。そこに飲食物を持ち込んで、生徒会と実行委員が集まっていた。



「今年は過去最高の盛り上がりだったかもねぇ。少なくともこの三年間では一番だったよ」

「種目が多くてどうなるかと思ったけど、なんとかなりましたね!」


「怪我人も出てないし、特に騒ぎも起こってないし」

「みんなが頑張ってくれたからだね。会長……があんな感じだから、代わりに僕がお礼を言わせてもらうよ」


 近くではイケメン生徒副会長の縦山先輩が中心に立って、生徒会メンバーや実行委員のみんなと楽しそうにしていた。


 縦山先輩は相変わらず人気なようだ。前は俺と人気を二分していたハズなのに、今は大部分の生徒が縦山先輩を囲んでいる。


 今日は俺の敗けですかね? そんな顔で縦山先輩を見たら、んなわけねぇだろ!? みたいな顔で睨まれた。



「――――はい行人君……あ~ん」

「……あ~ん」


「どう? 美味しい? それ、手作りなのよ?」

「美味しいです。睦姫先輩は料理も得意なんですね」


「半額弁当よりは自信があるわよ?」



「い、行人先輩っ! 私も食べて下さい!」

「……別の意味に聞こえますよ、時雨さん」


「そっちでもいいですけど……というか、私の事もそろそろ名前で呼んで下さいよ~」

「でも時雨ってカッコよくない?」


「なんかそれ、前も聞いた記憶があります……」


 俺の周りには誰も寄って来ない代わりに、この二人が俺に付きっきりだった。


 時雨はまだしも、会長はみんなの所を回った方がいいのではないだろうか?



「あたしも地道ハーレムに入りたいなぁ」

「一人二人増えても、地道先輩なら行けそうだよね」

「年下キラーだよね。いいなぁ時雨さん」


「でもあの二人にウチのクラスの玲香さん……レベルが高すぎるんですけど」

「でも地道くんって他の女の子にも優しいよね。わたし話した事あるんだよ!?」

「ウチなんか勉強会で地道様の手に触れたしっ!」


「三学年にも噂が届いてるしね。まさかあの睦姫さんがねぇ~」

「まぁ体育祭での彼を見たら、当然なんじゃない?」

「カッコよくなかったのに、カッコよかったね」


「羨ましい恨めしい憎たらしい……」

「副会長……? 何か言いました?」


 副会長達がこっちを見ながら何かを話しているが、そっちに耳を傾けている余裕などなかった。


 他の女の子を見ようものなら時雨は泣きそうな顔をするし、立ち上がろうとすれば睦姫先輩に腕を捕まれるし。


 諦めた俺は、みんなには申し訳ないが二人の元に黙っている事にした。



「それより今日、泊まっていいのよね?」

「まぁ、親御さんが許しているのであれば」


「私は女生徒会長の家に泊まるって言ったら、オッケーでました!」

「嘘は良くないと思うんだけどなぁ」


「玲香先輩も来るんですよね?」

「そうだな。玲さん……玲香のお父さんから連絡来たし、娘をよろしくって」

「な、なにそれ? 彼女は親公認なの? 強すぎるでしょ」


 この打ち上げが終わった後、彼女達三人は俺の家に泊まる事になっている。


 だが安心してほしい。ちゃんと紅月さんには連絡済み、来てくれるって話になっている。



「お、お泊まりするんだってよ!?」

「地道ハーレムすげぇ……」

「なんか地道なら三人でも四人でも養っていけそう」

「嫉妬すら沸き上がらない。だって地道様だし」

「尊敬というか……なんだろ? 神を見てる気分だ」


 男連中もとりあえずは好意的……? な様子だ。


 俺は次期生徒会長だからな、女誑しのクソ野郎とか思われていないようでホッとした。


「ほんと君は強いねぇ…………許せない許せない許せない許せない……」

「……副会長? 笑顔で何を呟いてるんですか?」


 その後も打ち上げは終始盛り上がりを見せた。


 流石に最後は睦姫先輩が挨拶を行い、体育祭の打ち上げは幕を閉じた。



 ――――

 ――

 ―



 学園で玲香と合流し、俺達は迎えに来てくれた紅月さんが運転する車に乗り込んだ。


 今日は天気が良くなく雨がチラついているため、車で迎えに来てもらって正解だった。


 後部座席では、夕飯なににするなど言い合いながら三人の美人が会話に花を咲かせていた。


 思えば俺、助手席に乗るのは初めてだ。少し横を見れば、整いすぎている紅月さんの横顔が見える。



「……どうかしました? 私の顔に、何か付いていますか?」

「いえ、綺麗だなぁと思って」


「……行人さん。私、無事故無違反ですので、止めて下さい」

「は? どういう事ですか?」


「あ、あまり見ないで下さい……」


「いやでも、運転している紅月さんの顔を見れるのって新鮮で――――」

「――――見ないで下さいぃ! 事故っちゃいます!」


 それは困る。なんだかよく分からないが、事故られるのは困る。


 運転した事がないから分からないが、アレか。運転している所を見られるのって、緊張するのかもな。


 仕方なしに俺は紅月さんから顔を反らし、窓から外の様子を眺める事にした。


 車は丁度、学園の最寄駅を通り過ぎた辺りだった。



「……紅月さん、ちょっと停めてもらえますか?」

「はい、分かりました」


「ちなみに、替えのワイシャツとかってあります?」

「予備の物がトランクに積んであります」


 駅を少し通り過ぎた辺りで車が停車する。俺はシートベルトを外し、後ろを振り返る。


 これまた整った容姿の三人が、不思議そうな顔をして俺を見ていた。



「ごめん、ちょっと子犬拾ってくるわ」

「「「は、はぁ?」」」


「紅月さん、後はお願いします。俺は電車で家に向かいますんで」

「……分かりました、お気をつけて」


 俺を降ろした車が遠ざかるのを確認した俺は、駅の方へと足を動かした。


 彼女達は色々と言っていたが、まぁ紅月さんならどうとでもしてくれるだろう。



 少し歩いて駅に着いた。さっそく俺は目当ての場所に足を向ける。


 それは以前と同じような感じでそこにいた。


 改札から少し離れた見覚えのある場所に、見覚えのある子犬が、見覚えのある表情で途方に暮れていた。


 しかし状況は以前より酷いかもしれない。傘を持っていなかったのか、髪と服が濡れて悲壮感が強くなっていた。


 全く世話のかかる子犬ちゃんだ。周りのみんなも、あまりの悲壮感に近づこうとすらしてなかった。


 そんな子犬に俺は迷うことなく近づく。出来るだけ優しい表情、優しい声を出そうと考えながら。


 さてなんて声を掛けよう? 雨に濡れた可哀想な子犬に、何て声を掛ければ懐かれる?



「そこの子犬ちゃん、俺の家に来てミルクでも飲まない?」

「……は?」


 ……う~ん、間違ったかも。


 俺様珍しく、間違ったかも。

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