destination
――――華絵を追い掛ける――――
華絵が俺の傍に、というか俺の家に頻繁に来ていた理由を知った俺は、いても立ってもいられなくなり家を飛び出した。
華絵と話がしたかった。理由も知らずに、ただ俺の傍にいて欲しいとか自分の事しか考えていなかった。
家に帰りづらい華絵が行く所なんて、ウチしかなかったんだ。
ウチにもいられなくなったら、華絵はどこに行くんだ?
普通に考えれば自分の家に帰るのだろうが、居心地が悪いのは間違いないのだろう。
俺は華絵の居場所にならなければなかったのに。
俺が華絵がいる事が当たり前だと何も考えなかったり、玲香の事が好きだなどと言ったから華絵は居場所をなくしたんだ。
もしかしたら好きな人が出来たというのも、嘘なのかもしれない。
離れる理由が必要だったから言っただけなのかもしれない。
そうじゃなかったしても、理由を知ったからには放ってはおけない。
「クソ、出ないか……」
華絵に電話をしても繋がらない。華絵が家を出てからそんなに時間は経っていないが、近くにはいないだろう。
試しに華絵の家に電話をしてみるが、留守電になるので誰もいないのだろう。
家の近くで待つか? いや、帰って来ない可能性もある。
家に帰れない場合は……友達の家か? 華絵の交遊関係は正直分からない。知っているのは玲香くらいだ。
だけど玲香に連絡した所で……クソッ! 玲香も華絵も、なんでこんな事になったんだ。
俺はとりあえず、駅を目指して走った。
――――
――
―
――――奇跡が起きた。
駅に着いた俺は、このまま華絵の家に行ってみようかと考えながら辺りを見渡していた。
電車を使わない華絵が駅にいる訳はない。友達の家に行くのならば電車を使う可能性はあるが。
しかし人が溢れる駅、なんとなくその中に華絵がいるのではと思い見渡して見た。
そうしたらいたんだ。駅の片隅、壁にもたれながら誰かを待っている様子の華絵の姿を。
俺は急いで華絵の元に駆け出した。やはり友達の家に行くのかもしれない、その前にと。
「――――玲香……?」
走り出した足は、華絵に近づいた玲香の姿を見て停止した。
やはり華絵は玲香の家に行くようだ。少しだけ気まずいが、華絵と話がしたい。
事情を話し、少しだけ時間を貰おうと止まった足を再び動かした時だった。
「――――っ!?」
今度は二人に男が近づいた。ナンパかとも思ったが違う、その男に向ける二人の目を見れば明らかだった。
嬉しそうに顔を綻ばせ、視線を向ける先にいる男の横顔には見覚えがあった。
なんで、なんで地道が……っ!!
足が動かない。周りは急に止まった俺を不思議そうに見たり、邪魔だと言いたげな目で俺を見ていた。
なんで地道が? たまたま会ったのか? なんで二人とも顔を赤くする? ただの知り合いだろ?
急に現れた地道に驚いたから顔を赤くしたんだろう。顔だけは整ってる奴だしな。
しかし何を話しているのかは聞こえないが、二人の態度が地道を特別だと言っていた。
玲香は当然のように地道と腕を組み、華絵は荷物を地道に預けたと思ったら、地道の服の裾を摘まんでいじらしい姿を見せる。
またお前か!? ほんとなんなんだお前ッ!?
俺の知らない所でいつの間にか知り合っていて、いつの間にか仲良くなってて、いつの間にか俺の傍からいなくなってる。
全部アイツが関わってる! たまたまだなんてあり得ないッ!
まさか、でも、だけど、やっぱり……二人が言っていた好きな奴って――――
「――――っ!?」
地道達はそのまま歩きだし、駅構内に消えていく。
どこに行くってんだよ? 玲香はともかく、華絵は家に帰るのに電車に乗る必要はないだろ!?
俺は慌てて三人を追い掛けた。なんで追い掛けたのかなんて分からない、気づいたら足が動いていた。
「地道ッ! 待てよッ!」
俺の大声に驚いた周りの人の目が集まるのを感じるが、それどころではなかった。
その声は届いたようで、地道が振り返る。遅れて振り返った二人の表情は、驚きに染まっていた。
「……天道? こんな所で何をしてるんだ?」
「そりゃこっちの台詞だ! お前……なにしてんだよっ!?」
「なにって……家に帰る所だけど」
「なんで二人と一緒にいるんだ!」
「……とりあえずさ、落ち着けよ。周りに迷惑だろ」
こんな状況でも冷静な地道に腹が立つ。
お前は俺から二人を奪ったというのに、なんで済ました顔をしてやがるんだ。
もっと慌てろよ! マズイ所を見られたって顔をしろよ!
「はぁ……ごめんな、二人とも」
「いや、別に……」
「…………」
何に対する溜め息なのか知らないが、そういう態度にも腹が立つ。
そんな地道は、二人の様子を確認した後で静かに話し出した。
「なぁ、向こうで話さないか? ここだと周りに迷惑だし」
「お前と話す事なんてないっ! どうせお前は、強引に二人の事を――――」
「――――ちょっとアンタ、いい加減にしてよ」
玲香の厳しい目と声に話を遮られた俺は、その様子に動揺し動けなくなってしまう。
あんな玲香は初めて見る。怒っている姿は見慣れたものだが、そんなのとは全く違った。
「あたし達の邪魔しないでくれない?」
「お、俺は……」
「もう最悪……せっかくいい気分だったのに」
「…………」
なんでそんな事を言うんだよ? おかしいと思わないのか?
たったこれだけの時間で、なんでそんなに変わる事が出来るんだよ!
「進くん、もう……やめてよ」
「なっ……華絵までそんな事を言うのかよ……」
「わたし達、望んでここにいるんだよ」
「そんな訳……嘘だろ……?」
嘘を吐いている表情には見えないが、そう思わなければ壊れそうだった。
今は確かにそっちに行ってしまったかもしれない。でも、行った理由が問題なんだ。
騙されてるんだよ! だってコイツ、意味の分からない事を言うし、俺の周りの女性にばかり手を出す。
どんな手を使ったのか知らないが、地道は彼女達の事を考えてるんじゃなくて、俺を苦しめる事だけを考えているんだ!!
「――――天道。これ以上、落ちるなよ」
その瞬間、地道の雰囲気が変わった。
急に怖くなったとか、威圧感が出たとかそういう事ではない。
いつか見た記憶がある地道。無表情で、何を考えているのか全く分からない顔だ。
そんな地道は、やはり意味の分からない言葉を言い出した。
「――――ついに最後の道も失ったな」
無機質なその声は、俺の顔を強ばらせるのに十分すぎた。
最後、道、失う。なんの事を言っているのか分からなくても、俺に何も残っていない事だけは分かった。
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