バッド選択・失恋 ~無知~
玲香に振られてから、無気力な生活を送っていた。
地味に楽しみにしていた体育祭も楽しむ事が出来ず、特に何も起こる事がなく終了した。
俺とは逆に、体育祭でのアイツは楽しそうだった。
玲香や時雨、雪永先輩とはイチャイチャするし。クラスの中心となり、見事に体育祭を盛り上げたようだ。
運動に自信があった俺は、いくつかの競技で一位を獲得したのだが、注目される事はなかった。
逆にアイツは足が遅くて、みんなの足を引っ張る事もあった。でもみんなは大笑いするだけで、アイツへの評価は特に変わってないように思えた。
次にやってくるイベントは期末テスト。
イベントとは言っても、楽しくもなんともない、やらなければならない学生の本文。
でもクラスのほとんどの生徒は、期末テストすら楽しみにしていている様子だった。
どうやらアイツがまた中心になって勉強会を開くらしい。なんと今回は、玲香のクラスの人達も大勢参加する事になったそうだ。
俺にも誘いが来たが、正直行きたいとは思わない。
「――――す、進くん……ここは……?」
「……そこはこの公式で行ける」
俺の向かい側には、必死になって勉強をしている華絵の姿があった。
いつも通り俺の家にやって来た華絵は、泣きそうな顔で俺に勉強を教えて欲しいと懇願してきたのだ。
そんな華絵を見ていると安心する。こいつだけは何も変わらない、昔からずっとこうだった。
昔から……か。
「……なぁ。お前っていつからここに来るようになったっけ? 中学からだよな」
「……なに、急に」
「いや、なんか不思議だなぁって思って」
「…………」
俺と華絵は幼馴染だ。家が近い訳ではないが小中高と一緒の学校に通い、家族ぐるみの付き合いもあった。
もっとも、俺の親は昔から仕事が忙しかったので、そんな頻繁に交流していた訳でもないのだが。
「……中学一年の夏だよ、覚えてるもん」
「あぁ、そうだったか……」
ほぼ四年か。その四年間、ほとんど華絵は俺の近くにいた事になる。
じゃあその前はどうだったか? 小学時代、中学一年生の時。
華絵が傍にいた記憶は……なかった。
別に仲が悪かったとか、そんな事はない。だけど俺と華絵の交流は、親同士の前でだけだったはずだ。
そんな華絵が急に俺の家に来て、母親が仕事でいない日などに俺の面倒を見始めたのだ。
「なんかあったっけ? 中一の夏」
「……別に、なにもないよ」
中学生になってすぐ、本格的に両親の仕事が忙しくなり、俺を祖父母の家に預けるとか話が出たのは覚えている。
でも結局、そんな事にはなっていない。
母親が仕事を減らして、俺と一緒にいてくれたからだ。
その頃の華絵は足繁く俺の家に来ていた。母親に料理を教わったりしている姿を何度も見た記憶がある。
仕事を減らしたと言っても、母親が仕事で家にいない日もザラにあったので、華絵が来てくれると助かったのは事実だ。
「高校になってから、ほんと帰って来なくなったよな、ウチの親」
「……お仕事が忙しいんでしょ」
仕事人間だからなのか、お金はほとんど使っていないように思う。あまり意識した事はなかったが、ウチは金持ちなのだろう。
華絵が家事をこなせるようになると、母は再び仕事の方に力を入れだし、最近は滅多に帰ってこなくなっていた。
「華絵のお陰で俺は、自由な一人暮らしを満喫出来るようになったんだよな」
「……華絵ちゃんがいるなら安心ねって、お母さん言ってたね」
華絵が来てくれていなければ、この状況はなかっただろう。母親も、華絵の事を信頼して俺の事を任せたのだろうし。
ほんと、華絵様々だ。
――――気恥ずかしい――――
たまにはお礼をと思ったが、いざ言うとなると気恥ずかしい。
お礼はまた今度にしよう。改まって言うのは照れるし、なにより華絵は好きでやってくれているのだろうし。
「いいね、自由で……」
「ん? なんか言ったか?」
「ううん、なにも。それより、夕飯なに食べたい?」
「そうだなぁ……まぁ、適当でいいよ」
「……そう、分かった」
――――
――
―
夕食後、家に帰ろうとする華絵を見送るため玄関までやってきていた。
明日も来ると言うことなので勉強道具などはそのままだ。明日は1日勉強か……正直いやだ。
「――――ねぇ、進くん」
「どうした? 忘れ物か?」
靴を履き終え、あとは帰るだけという状況の時。
振り向いた華絵は、いつもより少しだけ真剣な表情をしながら俺の方に向き直った。
「明日なんだけど……泊まってもいい?」
「え……そこまでして勉強するのか?」
「まぁ……ね。そうしないと、夏休みがなくなっちゃうもん」
「……親は許してるのか?」
前に泊まりたいと言ってきた時は、他に用事があったので断った。
今回は特に用事はないし、前回の事もあるから親が許しているというなら構わないが。
「……うん、許してるよ」
「そ、そっか。ならまぁ、いいけど」
その時の華絵の表情が気になった。先ほどのような真剣さは消え、どこか暗い顔をしたのだ。
しかしそれも一瞬の事。いつも通りの気の抜けた表情に戻ると、荷物を持って華絵は玄関を向いた。
「……じゃあ、明日ね……」
「あぁ」
そう言って華絵は帰っていった。
最後の言葉、沈んだような声色だったのは気のせいだろうか?
振り向いた華絵の表情がどんな表情だったのか、俺は知るよしもなかった。
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