第18話 校外学習! でも外は雨!

「えへへ、樹神君……えへへ」


「佑司君、絶対渡さない……私が、佑司君をここで、この校外学習で……絶対に負けない。斉川さんなんかに負けない」



 ☆


 校外学習―この一か月で様々な学校行事はあったけど、でも学外での行事というのはこれが初めて。

 つまりものすごくワクワク楽しみなイベント、先輩のせいでお泊りとかそう言うのがなくなったとは言えとても楽しいイベント!


 そしてこういうイベントごとの時は天気は晴れに限る、雨降ってたら気分がのらない!


 だから念入りにてるてる坊主も作って、それに希美と二人でお祈りも……

「……したのになんで雨なんだよ! めっちゃ雨じゃん、豪雨じゃん! 山の方も豪雨って出てるし、何この天気! 僕のてるてるは!?」

 校外学習当日、教室で僕はそう叫ぶ。


 なんで雨なの、こんな豪雨なの!? おかしいでしょ、こんなに雨降るのおかしいでしょ!? こうなって原因、僕一つしか思いつかないんだけど!

「ナターシャ! ナターシャのせいだろ、この大雨! この雨男!」

 車で送ってもらったためまだ朝早い時間、人の少ない教室で頭を拭いているナターシャー野村日向のむらひなたにそう叫ぶ。


「ナターシャやめろ、俺は日向だ! あと俺は別に雨男じゃない! どっちか言うと俺より柊木……いやいや雨男なんてそもそも存在しない!」

 僕にそう言われた日向は反撃するようにがぶりと噛みついてくる。

 でもでも、こっちには証拠あるもん!


「どうだか、サナと2回出かけたけどいっつも雨だし、何なら一回は晴れ予報で晴れてたのに来た瞬間一気に雨降ってきたし? サナのせいなんじゃないの?」


「それはたまたま……ってまたサナって呼んでるし! 俺は日向だって、ていうかなんで昔の俺のあだ名知ってるんだよ、佑司は? 確かに昔はそう呼ばれてたけど、今はサナとかナターシャって感じじゃないだろ!」


「ん、隣のクラスの翔太から聞いた。昔すっごく可愛かったんでしょ、ヒナちゃん? 今も結構中性的で可愛い顔してると思うよ、ナターシャちゃん?」


「やめろやめろ、俺は可愛くない! あと雨男でもないし、ヒナでもサナでもナターシャでも何でもないからな! 俺は日向だ、日向! 今度その呼び方したら怒るからな! ガチギレするぞ、佑司!」

 そう怒ったように顔を赤くしながら、ぷいっと外を向く。

 ごめんごめん、日向。もうしない、もうしない……でも雨男は本当だよね?


「雨男も別に……中学までは普通だったし。だから何ともないと思うけどな!」


「またまた……まあ、いいや、別に雨でも中止にはならないし。そういや日向って誰と班一緒だっけ? 新とかその辺だっけ?」


「うん、その辺。新と柊木と唯人と笛吹さん。まあまあいいメンバーだぜ! 佑司は……あ、奥様と一緒でしたか、それは行けないことを聞きましたわね、すみませんでした。佑司さんは工藤光さんとまたまたいちゃいちゃとされるんですね!」


「……だから何度も言うけど、僕と工藤さんはそんな」


「私がどうかした?」

 ニヤニヤとほっぺに手を当てながらからかうようにそう言ってきた日向の言葉を訂正しようとしていると、にゅっと背中に甘い感触、黒い影。


「えへへ、佑司君おはよ! ところでところで何の話? 朝から私の話してくれてたの? そんなに楽しみにしないでも毎日会えるのに、すぐに会えるのに! もう佑司君ったらせっかちさんなんだから! お望み通りくっついてあげますぞ! ぞぞぞ!」


「ちょ、工藤さん!?」


「えへへ、佑司君私の事考えてくれてたんでしょ? 嬉しいな、佑司君にそんなに思ってもらえて……えへへ、ぎゅー……やっぱり佑司君、あったかい。このまま何もなしでギュッとしたい」

 後ろを振り向くと、ニヤッと嬉しそうに笑った工藤さんが僕の背中にこすりつけるように身体を合わせてくる。


 そしてそのままふわっと甘えるように、バックハグの形で抱き着いてきて……ちょいちょいちょい工藤さん!? 何やってんの、離れて離れて誤解されてるから! 背中の柔らかい感覚はすごく幸せで最高だけど誤解されてるから!

 ほら日向も凄い呆れたような表情で……ああ、ちょっと待ってそんな顔しないで日向!


「あのな、佑司。朝からいちゃつくな、カロリー高すぎ。ほら、柊木もドン引いてるぞ。おはよ、柊木。朝からこんなの見せられるの嫌だよな?」


「うん、おはよさめ……野村。確かに私も好きじゃないかも」

 日向の後ろの席に座った柊木さんまでそんな事を言って……ダメだって、離れて工藤さん! 斉川さんに見られたらどうするの、マジで!!!


「えへへ、良いじゃん佑司君、私と佑司君だよ? 私たちを止められる人なんてどこにも……」


「ダメ、学校、離れて! ダメだって、もう……嫌じゃないけど、その恥ずかしいし!」


「えへへ、じゃあいいじゃん、佑司君……この体勢、幸せだから離れたくない」


「もう……工藤さん……!」

 背中をぎゅっとする工藤さんをペしぺししながら、俺は大きなため息をついた。

 早く離れて恥ずかしすぎるって、目線も怖いって! それにそろそろ斉川さんも……もう、工藤さん!!!


「えへへ、佑司君……えへへ」


「もう……」




「おはよ、日向。あの二人相変わらずだね、凄いね」


「あ、おはよ新。佑司の方はどう思ってるかわかんないけど、工藤さんの方は……って感じだな」


「うん、そうだね……ところで日向、サナちゃんってあだ名何が由来なの? 日向の名前にどこにもサはなくない? なんでサナちゃんなの?」


「新、お前まで……まあ、それは後々大きな伏線回収があるってことで!」


「……どう言う事?」


「まあまあ……な、柊木?」


「うん、そうだね、野村」



 ☆


「それではバスが来たから全員乗り込むぞ! 行くぞ、校外学習へ!」


『おー!!!』

 村木先生の雨を切り裂くような大声に、僕たちクラスは一致団結大声声援。


 あの後、背中の工藤さんを引っぺがして、色々竜馬とかと今日の事話してたらすぐにバスの時間になった。

 いやー、バスが来たって言われたらさらにワクワクしてきたドキドキしてきた! 校外学習のスタートって感じでドキドキ止まらない!


「……ん? 樹神君?」


「ううん、何でも……バス、隣だよね」


「……うん! 隣、座る、樹神君の……えへへ」

 それに今日のバスの席は隣に斉川さん、って決まってるし。

 酔い止めなら一番前の席で、誰にも邪魔されずに斉川さんと……えへへ、凄い楽しみ!


 そんなこんなで廊下を歩いて下駄箱でて、みんなで乗るバスの前。

「ねえねえ、佑司君! バス隣座ろ、私佑司君の隣が良い! 佑司君と一緒に座りたい!!!」


「あー、それボクも! ボクも佑ちゃんの隣が良いな!」

 バスの前に着くなり、工藤さんとあおちゃんが僕の事を隣に誘ってくれる。

 ごめんね、ありがとうだけど今日はすでに先約がいるでありんす。


「こそこそ……えへへ」

 今ひょこひょこっと僕の隣に来てにへへと可愛く笑った斉川さんが、今日の僕のパートナー、今日の隣に座る人。


「おーし、それじゃあバス乗るぞ、まずはお願いしますの挨拶だ! 今日はよろしくお願いします!」


『よろしくお願いします!!!』

 張り切った声で運転手さんに挨拶する先生に続いて、僕たちも元気よく挨拶。

 やっぱりこう言うのは礼儀が大事だからね、まずは元気に挨拶することがすっごく大事、超大事! ほら、運転手さんも嬉しそうだし!


「よーし、良い挨拶だ! それじゃあ乗り込んでいくけど、あれだ、バス酔いする奴はいるか? バスに酔うのが心配な奴は前の方に席になるけど、どうだ? いるなら手をあげてくれ!」


「はーい! 僕たち前座ります!」

 こほんと咳払いしながらそう言った先生に、斉川さんの手をふわっと掴んで一緒に天にかかげる。

 はいはーい、僕たちが前座ります、僕と斉川さんは一番前行きます!


「え、ちょ、こ、樹神君……あ、あってるけど、急に、そんな……はうぅ、私も一緒です、前、樹神君と一緒、乗ります……あうあぅ……」


「ちょ、佑司君!? 佑司君私は、私と一緒に乗るのは!? 私は、私は!? ねえん、佑司君ちょっと、私の……ちょっと斉川さん、佑司君は私の……」


「はいはい、少し落ち着けみんな。わかった、それじゃあ樹神と斉川は一番前の席だな、OKだ。それじゃあ、各自いい感じに座ってくれ」

 少しざわざわする(というか基本的に工藤さん)の声を制した先生の後ろに続き、恥ずかしそうに顔を真っ赤にした斉川さんと一緒に一番前の席に座る。


「こ、樹神君、そ、その、い、いきなり手を握るとか、そう言うの、ちょっと……は、恥ずかしかった、です、みんなの、前、だし……ぷえっ」


「アハハ、ごめんね斉川さん。でもそれが一番伝えるのに手っ取り早いかな、って。まあ隣座れてよかったって事にしない?」


「うゆ、それは、そうだけど……で、でもぉ……えへへ、やっぱり嬉しい、です……えへへ」

 湯気が出そなくらいに顔を真っ赤にしながら、でも嬉しそうに蕩けたふわふわの笑顔を見せてくれて。


 ふふっ、今日はこんな感じで楽しく一緒にお料理を……

「ちょっと佑司君! 私はここだよ、いっぱい遊ぶよ佑司君! トランプ持ってきたから、みんなでするよ!」


「そうだよ~、佑ちゃん。トランプするよ~、斉川さんも一緒に!」


「ふえっ!?」


「……バス酔い不安だから前来たんだけど?」


『そんなの関係ない! 遊ぶの!』

 ……場所に着く前に斉川さんが酔いつぶれてしまわないかだけが心配だなぁ。



 ―ナンデナンデナンデ! ナンデナンデ!!! なんで私じゃないの、斉川さんの方に行って、斉川さんといつの間に……

「ひかちゃん? ひかちゃん、ちょっと顔怖いよ、スマイルスマイル」


「え、あ……ごめんね、あお君。その……わかってる、スマイルスマイル」

 ―絶対に負けないから! 私、負けないから!!!



 ★★★

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