第11話 部活紹介と美人先生
部活紹介―各部活の選手とかが前に出てアピールする奴。
基本的に1年生と3年生しかいないし、それに割と厳かな儀式だし。
だから基本は静かに聞く、そんな行事……のはずなんだけど。
「おい、佑司! あれ見ろ、あれ! あの人僕の先輩、めっちゃサッカー上手! 教えるのも上手だし、サッカー部来いよ!」
「樹神君! あの人は野球部の先輩、すごく優しくて面白いし野球が上手! 野球経験あるならぜひ! どの先輩も優しいから上手いヘタは関係ない! 野球好きなんだろ、一緒に甲子園目指そうぜ!」
「おい佑司あの先輩、黒帯だぜ……まあ俺もだけど!!!」
「ラクロスって男女混合でしかも美人さんも多い! あの先輩とかめっちゃきれいだよね、しかも経験者居ないから入部のハードルが低い!!! さあ、ラクロス部へ!!! あとジブリの映画の鑑賞会もしよう!」
「あの先輩めっちゃ料理上手だよ、しかもすごく美人!!! しかもあれで少しポンコツ! 他の人も料理上手で可愛くて……どうです、佑君? 入りませぬか? いつでも自由になんでも作れるよ、食べる係でも可だよ! 男の子欲しいって言ってたし、私と一緒にお料理部! 佑君なら私の料理、いつでも食べられるよ?」
「佑司君、佑司君! 見てみて吹部だよ、吹部! あの中に来年は私と二人で入ってそれで二人だけのヒミツのセッション……ねえ佑司君一緒に部活しない!?」
「……みんな少しうるさいよ……先生怒られちゃう……」
……なんか周りのみんなが妙にはしゃいでるというか、テンション高く勧誘してくるというか。
隣の別のクラスの人から前の武史にその横工藤さん、後ろの竜馬に立川さんの代わりの津村さん、竜馬と席を早替えした健太に……とにかくいろいろな人が自分の部活のアピール(?)をしてくる。
僕が帰宅部で部活に勧誘したいんだと思うけど、でもうるさいよ、逆効果まであるよそれ!
しかも隣に座る斉川さんは慣れないラッシュに「あわわ……」っておろおろふわふわしちゃってるし! ダメだよ、うるさくしたら斉川さんがピヨピヨ可愛くなっちゃうよ!
「ごめんね、うるさいよね。大丈夫、斉川さん?」
「あううっ、大丈夫、ありがと、樹神君……えへへ」
「むー、樹神君! 吹部の演奏中しっかり見て! こっち見て、私の方見て! しっかり見るよ、私と一緒に見るんだよ!!!」
「ふふっ、ごめんね、工藤さん……しんどかったら言ってよ、斉川さん。先生に言ってあげるから」
「うゆっ、大丈夫……えへへ、ありがと、樹神君……えへへ」
「もう、佑司君! こっち、こっち!!!」
そんな会話をしながらも部活動紹介は順調に進んでいく。
「なあ佑司、あの先輩可愛くね?」
「ストライクゾーン広すぎじゃね、お前?」
最後の方になってくると文化部ばかりで話すことが無くなったのか、竜馬の好き好き女の子のコーナーになってしまった。
しかし竜馬のやつお姉さん系から怖い系にほんわか系、キレイ系に不思議系に科学者みたいなマッド可愛い系に今のロリ系の先輩まで……この学校が私立ってこともあって美人な人が多いのもあるけど、竜馬はどんな女の子でも好きだよね、ホント。
僕的には弓道部のほんわか先輩とか、生物部のふわふわな先輩とかが結構好きな……
「佑司く~ん? 今変な事考えてなかった? すごく多方面に対して失礼な事考えてなかった~?」
「いや、何も考えてないよ、工藤さん。何も考えてない、あはは……」
そんなこんなで色々な部活動を見ていると次が最後の番になる。
アナウンスされた部活は茶道部、さっきが華道部だからその続きっぽいけど違う先生が壇上に上がっていく。
「茶道部って言うとなんか千利休的なイメージが……わお!!!」
あまり期待していなようにフラフラ隣の津村さんなどに目線を揺らしていた竜馬の目線が、甲高い歓声とともにその先生に集中する。
「おお……すっげえ美人……和服美人だ、すげぇぇ……」
いや、竜馬だけじゃない。
他の生徒も、男女関わらず1年生のみんなはその先生にがっつり目を奪われていた……もちろん、僕も。
均整の取れた美しい手足に、すらりと伸びた華奢な身体、ゆるりと流れる撫で肩とふんわりアップに束ねた黒髪からちらりと見えるうなじ。
着物を活かすには十分すぎるポテンシャルの身体に違わず、その美白という表現が似合う真っ白でキレイな小顔と対照的な真っ赤な唇とほっそりした切れ長の目。
「こんにちわ、茶道部の顧問の
全員が注目する異様な静寂の中、渦中の古川先生の素晴らしいお辞儀とともに見た目に反しないお淑やかな声が会場に響く。
歩き方もその作法も、すべての要素が完全で完璧で見事なまでの着物美人で……完全に見惚れてしまって、周りも同じように固まってしまっていて……あれ、斉川さんは無事なんだ。
「すご、やばっ……って佑司君! 見とれちゃダメ、先生だよ! 佑司君見ちゃらめぇ! ダメダメ、ダメ!!!」
「え、あ……く、工藤さん、そんな事言っても凄い美人さんだし、それに……」
「だ、ダメぇ! こ、こんな人見たら、私が、た、ただでさえ斉か……」
「……って事で堅苦しい挨拶はここで終わり! 終わり終わり、これ疲れるんだよ、このパフォーマンス意味ないだろ、別に。校長の趣味らしいけど、私に着せんなっつーの」
『……え?』
少し慌てた様子の工藤さんに手を握られながらあたふたしている僕の気持ちを遮るように、荒っぽい声がマイク越しに響く。
……あ、あれ? 聞き間違えかな、なんかさっきの先生の声のような……き、気のせいだよね、あんなお清楚の擬人化みたいな先生が……
「毎年こうなんだよな、私が壇上上がると一気にシーンと空気が変わって……あー、1年坊主ども! お前達の言いたいことは分かってるぜ、何だこの和服美人は、だろ?」
『……』
え、な、なにぃ?
どうなってる、何がどうなってるの?
い、いつもの間に先生はそんなにワイルド仕立てに和服になったんですか、話し方とか色々なんですか!?
「おーおー、沈黙は肯定と同義だぜ? ったくよぉ、毎年こうなんだよなぁ。私がこうやって和服着させられて壇上上がったらその場は沈黙、その後体験入部でたくさん男が釣れて……『先生の和服姿に見惚れました! ぜひ、入らせてください!』だっけ、卓球部キャプテン田中君?」
「ぎ、ぎくっ……や、ヤダなぁ先生、それも2年前の事じゃないデスカ!」
流れ弾を食らった先輩がビクッと肩をあげてビクビクした声でそう答える。
あ、あれぇ? さっきまでの美人な先生どこ行った?
ポカーンと口を開ける1年生をよそ目に、口を大きくガハハと笑った先生はさらに話を続ける。
「アハハ、でも事実じゃねえか、お前の反応が一番面白かったぞ、これまでで! その後の実際にやらしたときの表情もな! お前が一番だぞ、田中!」
「え、あ、そ、それは……えへへ、恐縮です、先生」
「何、褒めてないんだけど? ドMなのか、田中は?」
「……先生、酷い!」
「ハハハ、ハハハハハ!!! ま、そう言うわけで、うちの部活は私目的で入ろうと思ったやつは、誰一人として受け付けねぇ! そう言う奴は全員ギルティーだ、茶道を愛する奴だけ入ってこい!!! わかったな、お前達!!!」
『お、おー』
グッと指を逆さにしたBADのポーズを取りながらバーンと机を叩く先生に、帰ってきたのは小さな返事。
な、なにこれワカンナイ、話が呑み込めないよ……工藤さんも竜馬も武史もみんなぽかーんとして何というか……何この不思議空間!?
「あー、なんか今年はオーディエンスの調子が悪いか? いつもならもーっと反応あるのに……まあいいや、取りあえず私の話はこれで終わり、終了終了! 校長、言われたとおりに和服着てやったから今年も部費と赤LARK20カートン頼むぜ、妹に言われたから今年は量減らすわ……あ、そうだ」
言いたいことだけ言って壇上を降りて行こうとする先生がくるっとシャフト首でこっちの方に振り向く。
その目は確かに僕の方を見ていて……え、何か僕気に触ることしました!?
「あー、妹から聞いてたけど今年は入部希望者がいるんだっけ。えっとさ……あ、言わねぇ方が良いな、個人情報だし。それじゃあ入部希望のやつはこの後別棟の3階の和室まで来いよ、忘れずにな! それじゃあ校長、男子生徒が来てもめんどくさいから先帰っとくぜ!」
キリッとした切れ長の瞳をギラギラと光らせながら古川先生が校長先生にハイタッチして体育館を出て行く。
そして会場に残るは不思議な沈黙と訳の分かんない謎の空気感。
「……な、何か凄い人、だね……な、何あの人? ちょっと安心だけど⋯⋯」
「……僕に聞かないで……わ、わかんないよ……こわっ」
わけわかんない人だな、あの人!
何の先生か知らないけど関わらないようにしなきゃ、ちょっと怖すぎる!!!
ていうかどうすんのさこの空気感、部活どころじゃないだろ全部吹っ飛んだぞ!
「おー、やべぇ、あの人……結構好みだ……」
「……竜馬、お前はやっぱりすごいよ」
こいつは真正の女好きだ、さっすが竜馬!
……いや、何が流石!?
「……あ、あれぇ? ほ、本当にこの人……こ、好美先生?」
★★★
部活紹介、マジで隣のやつと可愛い先輩探しをしてた想いでしかありません。
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