第10話 部活は何するの?
「えへへ、樹神君……こ、この問題さ……」
「うん、これはね……」
「むー! むー! むーむーむー!!! 佑司君私にも! 私にも教えて佑司君!!! 佑司君は私に……!!!」
☆
「ねえ佑司君、部活はもう決めた? 私は吹奏楽部! 得意のフルートで野球部とか佑司君とか応援しちゃうんだ! ふれーふれー佑司君!」
授業間の休み、最近積極性が増したように感じる工藤さんがくるっと振り向いてふるふるフルート応援チアのポーズ。
今日はこの後高校生活でも大事なイベント、部活紹介&入部の儀式。
という事で体験入部等で部活が決まってる人もまだ決まってない人もそれなりにテンションが高いのであります。
「あはは、嬉しいけどそれじゃチアリーダだよ、工藤さん。僕はアレ、帰宅部。お家帰ります、部活しないでお家帰ります!」
「うふふっ、もしかしてチアリーダーの衣装好きなの、佑司君。もしよかったら借りて……って佑司君!? 野球やらないの、帰宅部なの!?」
ニヤニヤと顔を緩ましていた工藤さんが僕の言葉に目を丸くする。
あれ、一回言わなかったっけ?
この学校、野球強すぎるからやらないよ、って。
「なんか言ってた気もするけど、でもでも! 私は佑司君を応援したかった! グラウンドで躍動する佑司君を応援したかった! 佑司君専用の応援団になりたかった!」
「あはは、ありがたいけどもし部活やっててもそれは無理だったよ、絶対。だって僕昔から声出し担当ムードメーカーランナーコーチだったし。高校で試合なんて夢のまた夢だったと思う」
「それでもいいもん、私はその佑司君がそうやって……そ、それならさ、私と一緒に吹奏楽部入らない? 佑司君も私と一緒に応援しようよ、色々! 私も、その……佑司君と同じ感じで吹部入るからさ! だから一緒にやらない、吹奏楽部?」
「ふふっ、そっちの方が無理だよ。だって僕、楽器なんて弾いたことないし、ピアノの鍵盤もわかんないし」
小学校の鼓笛隊で楽器が弾けなさすぎて旗振ってた(それもずれた)人だし。
リズム感覚というかそう言うものが全くないからそれは多分無理!
「それなら私が手取り足取りゆっくりみっちり教えてあげるよ! 放課後の特別レッスンとか、ヒミツの休日特訓とか……ふふっ、そう言うので教えてあげるよ、一から十まで全部! 私が佑司君にみっちりと! 帰宅部なんてもったいない、私と一緒に青春しようよ!」
「そこまでして入りたくはないかな。それに他にも帰宅部の奴いると思うし……ね、亮?」
「いや、俺たちバトミントン部だけど。な、丸木に斗真?」
帰宅部探して適当に話を振ったけど、亮はそう答えて他の友達を見回す。
名前を呼ばれた二人もうん、と小さく頷く……あ、あれぇ? ここは部活入らないもんだと……竜馬はもちろん柔道だし、武史はサッカーだし、ヤマトはテニスだし……そ、それなら!
「日向! 日向は僕と一緒に……」
「残念、俺は手芸部だ」
「確かに家事裁縫得意だもんね、日向! 自作のエプロンめっちゃ可愛いし上手だし頑張れ! またぬいぐるみとか……あ、そうだ健太は! 健太は僕と一緒に……」
「ううん、僕はラクロスやるよ! 猫の恩返し大好きだから、高校でやろうと思ってたんだ~!」
「猫の恩返し面白いよね、僕も好き! あの映画見てたら確かに気になるよね、頑張れ! そ、それなら宗ちゃんは? 宗ちゃんこそ部活やらないんじゃない?」
「うにゃ、俺は水泳部。俺のあだ名忘れたかい?」
「成畑のトビウオ! 泳ぎ上手だったね、そう言えば! 頑張れ、水泳部とか期待しかない……そ、それなら」
「俺に聞こうとしてるかもだけど俺は文芸部だぜ」
「唯人に先読みされた……唯人は確かに文章上手だし、語彙力豊富だし! また何か欠けたら読ませてね……そ、それはそうとして、ううっ、仲間が全然いないよぉ……」
あれ、こんなものなの?
以外とみんな部活入る予定なんだ、こんなに部活みんなするんだ……ぼ、僕も何かした方が良いのかな?
でも僕野球以外にあんまりそう言うのやった事ないし、唯一の水泳も全然だし……
「ほーら、言ったでしょ佑司君! みんな部活で青春するの! だからさ、佑司君も私と一緒に青春しようよ! 汗かいて、べそかいて! 辛くても一緒に手をとって! それで二人で頑張って放課後はもっとせい春……ふへへ、どう? どう、佑司君?」
「いや、でも、僕……」
「案ずるでない、佑ちゃん! ボクがいるじゃないか、ボクは帰宅部だよ!」
ふへへと嬉しそうな笑みを浮かべる工藤さんの攻めに少しあたふたしていると、そんな僕を救うような声が聞こえる。
「あおちゃん! あおちゃんも部活入らないの!?」
「うん、もちろん!」
僕の問いかけに声の主―
入学式の時に席が隣で仲良くなったあおちゃんは長髪できれいなお肌にキレイなお顔で色々女の子っぽいけどちゃんと男、そしてめっちゃ話が合う!
そんなあおちゃんが帰宅部か! こらはラッキーだ!
「うん、ボクもラッキーだよ! 佑ちゃんと二人ならこの町のラーメン屋全店舗制覇、古びた昔ながらの個人カフェ巡り……何でもできそうだ!」
「おお、良いねそれ! やろうやろう、帰宅部の特権! 部活しながらじゃ無理な奴! 一緒にやろう、あおちゃん!」
なにそれめっちゃ楽しそう!
ラーメン巡りとかカフェ巡りとか僕も大好きな奴!
「ね、ねえ佑司君? 私と青春は? 私と一緒に青春しない?」
「……ごめんね、工藤さん、誘ってくれてありがと。でも僕は楽器無理だし、吹部の迷惑になりそうだし。だからごめんね、せっかく色々言ってくれたけどそれはお断りさせて……まあ一番は帰宅部の方が楽しそう、だけどね!」
「ふふ~ん、佑ちゃんならならそう言ってくれると信じてた! よーし、それじゃあ儀式だ、よいしょ!」
そう言ったあおちゃんは僕の肩に自分の細い腕を回す。
あ、これはアレですね、了解です!
「う~ん、よいしょ! それでは~」
『ららら~帰宅部、僕ら帰宅部、ららら何でもでき~る! だってぼくらは帰宅部! 帰宅部最高! 帰宅部最高! なんでも自由で帰宅部最高!』
「むむー、佑司君……私も帰宅部……でも、それは……むー」
あおちゃんと肩を組みあって二人でめちゃくちゃなリズムの即興の歌を歌う。
工藤さんは少しほっぺ膨らましてるけど、でも僕楽器無理だし、今ので分かったと思うけど音程もダメダメだし! だから帰宅部があってるんです!
「……なーにやってんの樹神に葵。はよ行った方が良いぞ、遅れたら怒られる」
そんな風に二人で肩組んで歌っているとカバンを持ちながら白い目をした立川さんに呆れた低い声でそう言われる。
周りを見渡してみると確かにほとんどの人がもう教室からいなくて……あらら、竜馬も斉川さんも誰もいないや、取り残されちゃったみたい……ってなんでカバン?
「あ、これね。私は同好会に入るからそのまま直接そこに行くんだ」
「へー、そんなのありなんだ……なんの部活?」
「まあ特例だけどね。ちなみに部活はナイショ、遅れないように行けよ」
「はーい、それじゃあ行こうか……とその前に」
ふいっと口に可愛く手をやった立川さんにそう言われたので体育館に向かおうとするけど、その前にちょっとトイレ、あおちゃんと工藤さんは先に行ってて!
「あむむ、佑司君! 一緒に行こうよ、私は佑司君と一緒に行きたいの! 待ってるよ、佑司君帰ってくるまで」
「ダメだよ、ちょっと時間かかるかもだし、遅れたら部活入る予定の工藤さんは特に大変でしょ? だから先行ってて、あおちゃんと一緒に」
「あむー、でも……まあいいか。葵君なら私も平気だし、これなら佑司君も誤解……ほら、葵君一緒に行こ」
「おー、光ちゃんと二人とは珍しい! この機会に佑司関連の事いっぱい聞こうかな!」
「えへへ、聞く? それじゃあ佑司君の……ぬへへ、佑司君はね、それでね……」
「おー、そりゃデンジャラス! やっぱ佑ちゃんは……」
何だか楽しそうに語りながら二人は教室を去って体育館の方へ歩いていく。
さて、僕もトイレに行って会場に向かうとしますか、部活はいる気はないけど!
「……樹神君?」
トイレから出ると同じくハンカチ片手に今日も大人気の斉川さんも隣の女子トイレから出てくる。
今日も一日たくさんの人と話してて僕は話すスキがなかったな、ちょっと残念。
「あ、斉川さん。今日も大人気だったね、楽しそうだったね」
「う、うん。私、その……樹神君のおかげで、いっぱい友達、出来た。それでお話してくれて、嬉しい、いっぱい話せて……で、でも一番は樹神君! 一番の友達は、樹神君、だから!」
「……ふふっ、あんまりそう言う事直接言わないで、恥ずかしいから。そ、そう言えば斉川さんは部活何か入るの?」
「えへへ、ナイショ……多分、席、隣だよね、次の会場で。そこでその……こっそり樹神君、だけに教えてあげる。樹神君には、その……言いたいこともあるし」
ふんわりした声でにししといたずらに笑いながらそう言う斉川さん。
なんだその表情、初めてでクリティカルヒット!
「はうっ……こほん……え、何々? ここで教えてよ、気になるじゃん!」
「だ、ダメ、しーくれっと! その時になったら教えてあげるから今はしーくれっとだよ。取りあえず体育館、行こ? もう時間、ないし」
「それもそうだね。それじゃあ行こう、体育館へ……でも教えてくれてもいいんだよ、ここで」
「だ、ダメ……ヒミツは女の子を女の子にするから……えへへ、ヒミツは大事、なんだよ、樹神君……私が樹神君の、一番になるために」
「……そう言うのも嬉しいけど、恥ずかしいな」
もう可愛いなぁ、斉川さん!
ショートにしてから破壊力の成長性半端ないです、スタプラかよ!
「あ、佑司君の隣じゃない、隣が良いなぁ……ねえねえ、斉川さん? 佑司君の隣、私に譲ってくれない? 私、佑司君の隣でいっぱいおしゃべりしたいんだけど……どうかな、斉川さん?」
「あうっ……わ、私も樹神君の隣が良い! 私も隣が良い、隣は私……だ、だからその、え、遠慮しない、譲らない……です、はい。ダメです、席、決まってるし……ね?」
「むー……むー!!! 隣が良いのに、そう言われると……むー!!!」
★★★
今日はもう一話、あるかも。
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