イメチェン女子と私の一番

 ~少し前~


「えへへ、樹神君……あ、お母さん、帰ってきた……そうだ、樹神君、用事あるから……よ、用事思い出したからで、電話切るね……ご、ごめんね、樹神君」

 斉川さんと仲直り(?)して、そのまま話し続けて数十分、いろんな話をしていると斉川さんが思いついたようにそう言う。


「あ、そうなんだ。少し残念だけど、じゃあまた学校で!」


「う、うん……私も残念、もっと樹神君と話したかった、私と樹神君の、好きな事……でも学校で、また話していいんだよね? もう、遠慮せずにお話、良いよね?」


「うん、もちろん! いっぱいお話しよ、学校でも! まだまだ好きな事、話せるし!」


「えへへ、私も、いっぱい、樹神君と、話せる……そ、それじゃあ学校、で! また明日……いっぱい、話そう! じゃ、じゃあね、樹神君!」

 その言葉とともに電話が切れる。


 明日学校でいっぱい話そう、か……ふふっ、なんだか学校、少し楽しみになってきたかも!



 ☆


【ちょっと斉川さん視点】


「ふゆ~、なんだか疲れた……でも幸せ、だった……初めて、樹神君と、友達と電話したけど、やっぱり……えへへ、嬉しいな、こう言うの。初体験、ドキドキで、楽しかった……えへへ、またしたいな、樹神君と……えへへ」


 最初は耳元から聞こえる樹神君の声にドキドキして、ふわふわして怖くて緊張して頭真っ白になったけど……でも樹神君のおかげで何とか電話して、謝って……えへへ、遠慮しない、友達になること、出来た。


 それに樹神君、私の事優しいって、凄いって、魅力的だって、可愛いって……うふふっ、嬉しいな、そんな事言ってもらえて。


 そんなに褒められることなかったから、可愛いとか雅樹以外に初めて言われたし、魅力的だなんて……本当に嬉しくてぷかぷか浮きそうな幸せ気分。


 それに言ってくれたのが樹神君だし……えへへ、もっともっと幸せ気分。初めての友達に、大好きを共有できる楽しくてポカポカする友達に言われたのが本当に嬉しくて、それで……明日からも頑張れそう!

 学校行くの嫌だったけど、でも樹神君と出会えて友達になれたから学校、頑張れそうだ……で、でも! だから、こそ!


「お、お母さん! ちょっといい! ちょっとお願い、お願いがある!」

 てってとお部屋を飛び出して、お母さんと雅樹がいるはずのリビングへ。


「ん~、どうしたの綾乃? そんなに顔赤くして息荒くして?」

 雅樹はいなかったけど、のんびりゆったりスマホを触っているお母さんとは目が合って……って顔?


「え、嘘私顔赤い?」


「真っ赤よ、真っ赤。それにとろとろのめろめろだし……何してたのお部屋で?」


「……あうっ、本当だ……えへへ、ちょ、ちょっとね……えへへ」

 お母さんにそう言われてほっぺを触ってみると確かにぽやぽや熱くて燃えちゃいそうで……あうっ、私こんなになっちゃてたんだ、樹神君と話して……えへへ、でも楽しくて、嬉しいからしょうがない、と思う。だって……幸せ、何だもん。


「まあ、綾乃が何しててもお母さんは気にしませんけど。で、お願いって何かしら? また欲しいマンガ?」


「えへへ、こだ……ううん、今回は違うよ。今日はね、その……散髪行きたい! 髪の毛を短くしたいの!」


「……えっ?」

 私の言葉を聞いた瞬間、驚愕の表情に変わったお母さんの手からポロンとスマホが地面に落ちる。

 もう、お母さんどうしちゃったの? 年齢の割にキレイなのにしわが増えちゃうよ?


「だ、だって綾乃が……綾乃が髪の毛切りたいなんて言うんだから! あんた私が髪の毛切れ切れ言っても『長いのが良い! 切りたくない!』の一点張りだったのに! 今もほぼ貞子なのに! どういう風の吹き回し? 恋はいつでもハリケーン!?」


「もう、貞子は酷いよお母さん! 私そんなに不気味じゃないもん、地味だけど不気味じゃないもん! そそそれに恋もしてない、まだ恋じゃないもん! 楽しくて、それで幸せな……と、とにかく友達! 友達に短い方が良い、って言われたから! 短い方が可愛いって言われたし、それにこd……そ、その友達ともっと仲良くなりたいから、自信もってその友達といお話したいから! だから散髪行くの、イメチェンするの!」


「友達!? あんた友達出来たの!? あの綾乃に!? 恋はいつでも砂嵐!?」


「雅樹と同じ反応! それに好きとかそんなんじゃない!!!」

 なんでみんな私に友達が出来たらそんなに珍しがるの……た、確かにこれまでいなかったけど!

 そ、それに樹神君の事好きとか、そう言うのじゃないし! 一緒に居ると楽しいしドキドキふわふわするけど、でも友達だもん、私の大切な初めての友達だもん!


 私はただ、樹神君と自信持って話したいだけなの! 

 樹神君は友達多いし、すごく陽キャさんでカッコいいから……だ、だから私も可愛くならなきゃ樹神君の隣でお話しできないと思うから。

 カッコいい樹神君の隣に立つには私も可愛くなって、それで……私がちゃんと樹神君の友達、だって胸張って言るように、いつまでも一緒に楽しく話せるようになりたいの! 


 だから今のままではダメ、今の表情見られたくないから伸ばした挑発のままではダメなの、私工藤さん……までは無理だけど可愛い女の子にならなきゃ! だからショートヘアに……似合うかどうかはわかんないけど、でも樹神君がそう言ってくれたから……えへへ、やっぱり嬉しいな、樹神君に可愛い、って……えへへ、やっぱり今幸せ。


「……なるほど、それだけ綾乃に心の変化があったという事ね! 今も表情とろとろだし……わかった、いつものとこ予約してあげる! お母さんがいつも行ってるとこ予約してあげるからそこ行ってきなさい!!! あ、雅樹には内緒よ」

 私の言葉にニヤッと嬉しそうに口角を上げたお母さんが、そのまま背中をポーンと押すようにどこかに電話し始める。


 ありがと、お母さん。これで私も樹神君と……ってなんで雅樹には内緒?

「だって雅樹言ったらダメ! って言いそうじゃん?」


「……確かに、雅樹ならいいそう」

 雅樹、ロングのお姉ちゃんの事好きみたいだし。

 だから反対しそう……でもごめんね、雅樹。私は雅樹の事も大好きだけど、でも今は樹神君の方が大事だから。初めての友達で、大好きを共有できる樹神君の事が大事だから、樹神君と自信もって隣で一緒に話したいから……だからお姉ちゃん、イメチェンします!




「あら、いらっしゃい綾乃ちゃん! 話は聞いてるわ、私も綾乃ちゃんにはロングよりショートの方が似合うとずっと思ってたから! だから嬉しい、綾乃ちゃんが自分の魅力に気づいてくれたみたいで!」


「えへへ、私はわかんないですけど、その……こだ……は、初めてできた友達がその……私の事、可愛い、って言ってくれて……ショート似合うって、魅力的って言ってくれたから……えへへ、私可愛くなれますか? その人に釣り合える可愛さになれますか?」


「うんうん、大丈夫! 綾乃ちゃんは素材はバッチリだし、それに私がカットするからね! それにしてもそんなに言ってくれるって……その子女の子? もしかして男の子?」


「あうっ、そ、それは……し、しーくれっとです」



 ☆


《視点戻ります》


「ねえねえ斉川さん、髪切ったの!? めっちゃ似合ってるよ、凄い可愛い!」


「何か斉川さんちょっと怖いイメージあったけどすごく可愛くなってる! なんか話しやすい感じ!」


「ねえねえ斉川さん! 斉川さんってどんな俳優が好き? 歌手が好き?」

 イメチェン斉川さんが教室に入ると、案の定というか何というか、可愛くなった斉川さんに先に教室に来ていたクラスメイトがびっくりした様に目を丸くして、そして女の子が斉川さんを囲む。


 男の方は少し遠めから観察……ふふっ、めっちゃ可愛い、イメージ変わりすぎ! なんて声がいろんなところから聞こえてくるな。

 特に男連中……亮とマックは興奮しすぎだ、そんなに興奮しちゃダメ、気持ちはわかるけど!


「あうあう……あうぅぅ……た、助けて樹神君」

 そんな中にあってこういう状況には全く慣れてないであろう斉川さんはあたふたしながら泣きそうな顔で僕の方に手を伸ばしてくる。


 ごめんね、斉川さん。助けたいけどここはダメ、だって斉川さん大人気だし、僕に止められないよ。

「あううっ、樹神君……わ、私はその、樹神君とお話ししたかっただけなのに……」


「……そんな事言われても僕にはどうもできません! それに友達、もっと欲しいって言ってたでしょ?」


「うゆっ、そうだけど……言ったけど、そんな事……で、でも私は樹神君と……」


「ふふっ、後でいっぱい話そうよ、斉川さん。今は、そっちとおしゃべりしておいで」


「ううっ……わ、わかった、です……あ、後でね、樹神君」

 少し寂しそうな表情を浮かべながら斉川さんが頷く。

 その声に斉川さんを取り巻いていた女の子たちの目がキラリと光って……ふふっ、頑張れ斉川さん! ここは僕の出番じゃなそうだ、トイレにでも避難……


「……なあ、佑司。お前斉川さんとどういう関係なん、本当のところ? 本当にあの時間に二人でしっぽりずっぽり……?」


「ぱんぱんあんあん!? 工藤さんを侍らせておいて斉川さんとも!?」


「……あのな、竜馬に日向。そんなことするか、してないわ!」


『……まあ、今回はお前の勝ちだよ! お前がすごいわ今回は!!!』


「……なんのこっちゃ」

 微妙に話噛みあってないし。

 何の話だよ、すぐに下ネタにもっていくのやめろ、僕と斉川さんは健全な関係だから!!!




「ふふ~ん、佑君もどっか行ったし逃げられないよ斉川さん! ほらほら、私たちにももっと色々聞かせて! 斉川さんの話聞かせてよ!」


「う、うん、その……何話せばいい?」


「えっとね、そうだね……あ、そうだ祐君との関係! 祐君と斉川さん、一体全体どういう関係? さっきも親しそうにしてたし……もしかして光ちゃん出し抜いたとか!?」


「あううっ、そ、そんなじゃないよぉ……そ、その樹神君は、えっと……私の初めて。私の初めての友達で、話してると幸せになって楽しくて、大好きいっぱい共有出来て、それで……私に初めて色々くれた友達……いっぱい、初めて……えへへ、大事な、友達」


『うひょ!? うひょひょひょ!? ァハッ……♪』


「……お、オメガルビーの幹部みたいになってるよ……?」




 ☆


「行かねえのか、あそこ。綾乃ちゃんのとこ」

 真夏の言葉に首を横に振る。


「……別に。仲良くなる必要、ないと思うし」


「……ライバルだからか? 樹神との恋のライバルだからか?」


「……わかってるなら聞かないで。あの子はライバル……強力なライバルなんだから」

 髪切ったくらいで大人気なって、佑司君も……そんなの許さないもん。そのアドバイスは私専門だもん。


「ふーん、そうか……それなら私は言ってくるよ、綾乃ちゃんは個人的に大好きだから……って、なんだ光?」

 そう言って走り出そうとした真夏の制服の裾を掴む


「待って、私一人にしないで……あなたはどっち応援するの? 私かあの子……真夏はどっち応援するの?」


「それは、時と場合次第かな!」


「……何それ、意味わかんない」


 ―絶対に負けないんだから! 私は絶対に佑司君と……あんな佑司君と出会ってすぐの、佑司君の事好きになってすぐの子に負けないんだから!!!



 ☆


「おい、希美! 希美、希美!」


「なーに、雅樹! 今学校、電話かけてくんな。てかスマホ持ってきちゃダメだろ、学校に」


「お前も持っていってるじゃねえか! そんな事どうでもいいんだよ、今姉ちゃんが危ないの! 姉ちゃんがイメチェンしてショートになってめっちゃ可愛くなったから、宇宙一最強がもっと最強になったから……危ないの、姉ちゃんが危ないんだよ!!! 世界中の男が姉ちゃんの事好きになっちまう、俺の姉ちゃんの事をみんなが好きになっちまう! 姉ちゃんがみんなにモテモテになる」


「……あんたホント真正のシスコンよね。そんな事ならんでしょ」


「なるって!!! 姉ちゃんだぞ、俺の姉ちゃんだぞ!!!」


「いや、会った事無いから知らんよ……あ、先生来たから切るわ、バイバイ雅樹。また明日」


「ちょい、希美希美……もー、希美!!!」



 ☆


「……こ、こんばんわ樹神君……えへへ、今日はなんだかつ、疲れた、ね……アハハ」

 放課後、家でゆっくりしていると今日一日女の子たちに色々質問されていた斉川さんから電話がかかってくる。


 今日は本当にお疲れ様、ところでなんか用事?


「う、ううん。よ、用事はないけど、でも、その……樹神君と話したくなってから。今日話したかったこと、いっぱいあるのに、でも話せなかったから……だから電話で話したくなった。樹神君と、電話で、二人で、話したいこと……だ、ダメ?」


「……なんだ、そんな事か。いいよ、いっぱい話そう、斉川さんが話したいこと! 僕もちょっと話せなくて寂しかったし!」


「う、うん! あ、ありがと、樹神君……えへへ、それじゃあ樹神君……」

 嬉しそうにぽやぽやと跳ねるような声で話し出す斉川さんの話に耳を傾ける。

 スーッとキレイな声が僕の耳に反響してなんだか楽しい気分になる。


「えへへ、それで樹神君、私……いっぱい友達出来た、と思う。そ、その……な、仲良くしてくれる、って言ってくれた人、いっぱいいたから……だ、だから友達、出来たと思う! 可愛いって、言ってもらえて、よかった!」

 いつの間にか今日の学校の話に変わっていた斉川さんから聞こえるのは弾むような嬉しそうな声。


 いっぱいいろんな人と話してたもんね、いっぱい友達出来そうで良かった!


「う、うん……で、でも一番は、その……こ、樹神君だから」

 返ってきたのは少し小さな恥ずかしそうな声。


「……え?」


「一番は樹神君だから、その私の、一番の友達は、樹神君だから……だって、私の好き、いっぱいわかってくれるし、一緒に居て楽しくて幸せでぽやぽやして……すごくすごく嬉しいから」


「……さ、斉川さん?」

 耳元から聞こえてくる蕩けた少し……えっちな声。

 その声に、無いように身体の血液が燃え上がって温まってくるのを感じる。


「そ、それに今日の髪型も……その、樹神君に褒めてもらうために、変えたから。樹神君が昨日可愛い、って言ってくれて、だから私、樹神君に直接褒めてもらいたくて、樹神君だけに褒めてもらいたくて……だ、だからその、髪、切った。一番の友達に褒めてもらいたくて……えへへ、樹神君可愛かった? 私、可愛くなったかな?」


「……そ、それはもちろんだよ! 可愛かったよ、その……すごく良かった!」


「……ありがと、樹神君……えへへ、やっぱり嬉しくて、沸騰しなくらい……えへへ、樹神君、私の中で一番の友達はずっと樹神君だよ。私は樹神君が一番……だ、だから、その……私も樹神君の一番になれるように努力する。もっともっと頑張る、から……も、もし良かったら応援、してくれたら、嬉しいな……えへへ、本人に頼むのは変かな?」


「……へ、変じゃない! そ、その……が、頑張ってね斉川さん!」


「えへへ、応援ありがと、樹神君……私頑張るから、樹神君の隣でずっと好きな事話せるように……えへへ、頑張るね、樹神君……樹神君?」


「……うえっ? あ、あ、な、ちょ……な、何でもない! そうだお話の続きしよ、もっと好きな事教えてよ、斉川さんの事!」


「ふふっ、そうだね……それじゃあ、私は……」

 そう言って嬉しそうな斉川さんは話を続ける。


 ……可愛すぎかよ、天然過ぎかよ斉川さん!

 あんなこと言われたら、その……ダメだよ、あんなこと僕以外の人に言ったら!!!

 絶対ダメだよ、もう……もうもうもう!!! 


 可愛すぎるよ、やっぱり……好きになっちゃうよ、斉川さん。




「えへへ、私なんか、電話好き……樹神君との電話、大好き……えへへ、学校で話せないのも夜樹神君と電話できる、って考えたらいい、かも……えへへ」


「……そ、そうだね」



 ★★★

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