第12話 美人な二人と茶道部と

「ほ、本当に放送、いります……? その、私が直接⋯⋯」


「いる。男ってのはすぐ逃げるんだ、全く私の事好きって言ってたのにあの男……ふぅー」


「そ、そんな人じゃないです、よ、そ、その……て、ていうか先生! た、タバコダメです、ここはダメなところです!」


「うるせえ、私はここの先生じゃないから良いの! ほら、さっさと放送すっぞ……まあどうせ、来ないだろうけど」


「ぷえぇぇ……く、来るよ、樹神君は……言うの忘れた、けど……来てくれるもん」

 ミスだし、先生がこんなんだから言えなかったけど……でも樹神君と一緒が、いいな。



「……てかお前本当に斉川綾乃か? 聞いてた話では男連れ込むような奴じゃないし、髪もスーパーロングだったんだけど?」


「変な言い方しないでください……い、イメチェンです」



 ☆


「ねえ佑司く~ん、やっぱり吹部入ろうよ、一緒にやろうよ吹部! 私と一緒にぴゅっぴゅしよよ~、二人で音楽奏でようよ!」


「だからごめんね、工藤さん。僕には音楽の才能が無いから出来ないんだ、ごめんね」


「なんでよ~! いいよ、私のそばに居るだけで! 私の椅子でもいいから!」


「何そのドS発言。ちょっと怖いよ、工藤さん!」

 放課後、僕の手を握りながらうるうる上目遣いでそう言ってくる工藤さんに底知れない恐怖を感じてしまう……あ、手を握られるくらいではもう何とも思わなくなりました!


 あの後、部活紹介は少しの混乱はあったけど無事終了し、みんな思い思いの部活に入って、部活に精を出している。

 ちなみに僕とあおちゃんは豚骨ラーメンの美味しいお店とめっちゃでっかい古本屋に行った、美味しかったし楽しかった……あ、そう言えば色々忘れてたけど斉川さんは何の部活入ったんだろう? 結局聞きそびれちゃった。


「椅子は冗談だけど、でも佑司君と一緒が良い! やっぱり佑司君とおんなじ部活が良い!!!」


「でもね、僕吹部は流石に無理だし。他の部活だったら入ってたかもしれないけど。ごめんね、工藤さん。部活頑張って、応援してるから!」


「むー、私のミス? で、でも私、佑司君に……ね、ねえ佑司く……」


「はーい、そこまでだよひかちゃん! 佑ちゃんはボクが貰ってくね、今日もボクと一緒だよね、佑ちゃん!」

 むむむ、とほっぺを膨らませながら、でもなおも諦めようとしない工藤さんに炸裂するあおちゃんの言葉。

 ナイスタイミングだよ、あおちゃん! 僕も行こうと思ってた!


「むー、葵君が……わかった、今日も引き下がる、部活行く……そ、そうだ佑司君、もう一回頑張れ言って? 私にもう一回、頑張れって言って!」


「うん、良いよ。頑張れ工藤さん、頑張れ!!!」


「うん、頑張る!!! ありがとう佑司君……抱き着いたら離れたくなくなるからもう行くね! 佑司君、頑張るね、私!!! 頑張ってくるね!!!」


「うん、頑張れ! 頑張って工藤さん……という事で僕たちも頑張ろう、あおちゃん!」

 わしわしと嬉しそうに頭を振る工藤さんに手を振って、そのままあおちゃんの方へくるっと回転、そのままニコッと笑顔。


 今日は何するのかな、今日も帰宅部活動開始!

「ふふっ、佑ちゃん今日はカフェに行こう! このあたりですっごい良い感じのお店見つけたんだ、そこに行こうよ!」


「お、良いねそれ! それじゃあ早速向かいますか!」


「うん、行こう! あ、今日ボク歩きだけど良いよね? 大丈夫だよね、佑ちゃん?」


「うん、もちろん! てか今日は僕も歩き!」

 僕の言葉を聞いて「よかったぁ」と心底嬉しそうに胸を撫でる。

 ホントなんだかあおちゃん……すごいね、あおちゃん。津村さんの気持ち、凄いわかる。


「ん、何が?」


「いや、ホント横顔だけ見ると女の子にしか見えないよね、って……すっごい美人さんだよ、横顔のあおちゃん。この前そんな話してて思い出しちゃった」

 黒田さんとか斉川さんは可愛い系なんだけど、あおちゃんは美人系のクールな顔立ちというか。いやまぁ、男なんだけどそんな感じの顔立ちで。


 津村さんも「あお君可愛い、羨ましい!」って僕に愚痴ってたけどその気持ちが今凄くわかった。これはクール美人だわ、横から見たら。


「ふふっ、そう? ありがと、佑ちゃん……でも、ボクは佑ちゃんも結構可愛いと思うよ? 良い感じの顔立ちしてると思う、佑ちゃんも結構美人さんだ」


「あはは、冗談はやめてよ、あおちゃん。僕がそんなわけないじゃん」


「冗談言わないよ、ボクは……んっ」


「はゆっ!?」

 少しうっとりとした表情のあおちゃんがそのまま僕のあごをくいっと掴んできて……え、何々あおちゃん、どうしたの?


「んふふっ、別に……ほら、やっぱり美人さんだ、佑ちゃんは。透き通った黒い二重の瞳にキレイなお肌、唇もプルっとしてて美味しそうだし、耳もちっちゃくて可愛いし……ふふっ、髪伸ばしたら多分本当に美人さんだよ、佑ちゃんも……んふふっ、歯まで可愛いよ、佑ちゃん」


「……そ、そりゃどーも! でも絵面的には……こっちの方が良いんじゃない?」

 あごくいしながら、ふーっと甘い言葉を吐いて舌なめずりの蕩けた表情で僕の方を見ていたあおちゃんの手を振り払ってあごくい返し、今度は僕がくいっとする。


 はわっと驚いたような表情で、でも嬉しそうなあおちゃんとばっちり目が合う。

「ふふっ、佑ちゃん積極的。何かあった?」


「あおちゃんからしてきたんでしょ? あおちゃんが最初にしたんだよ? 僕はそれに乗っただけ……たまには、ね?」


「うん、そうだけど……んふふふっ、佑ちゃん……ふふっ……んっ」


「ん……んっ!?」

 ……あれ?

 なんか変な雰囲気になってない? 


 あおちゃん普通に女の子みたいだし、少しからかおうと思っただけなのにキレイな夕焼けも相まって、あれれ、このままじゃ……


 ピンポーンパンポーン

【あ、あ……あ、繋がってる? あ、私だ、古川麗美だ。えっと、生徒の呼びだしだ、1年生の……おい、何だっけ名前? こだま、ゆうじ……ははっ、新幹線みたいなやつだな! 取りあえず、樹神佑司君、私からの呼び出しだ、今すぐ別棟3階の和室まで来い】

 ……なんかやばいぞ、なんて思ってたら僕を呼びだす校内放送が教室の中に響いた。

 お、助かった……のか? あのやばい先生じゃない、呼びだしたの!?


「ふふっ、呼ばれちゃったね、佑ちゃん。残念だけど、今日はなしか」

 僕の手を払ったあおちゃんがそう呟く。

 おっとっと、危ない危ない。


「あ、そ、そうだね……ご、ごめんねあおちゃん! また明日!」


「うん、また明日……明日だよ、佑ちゃん!」

 そう言って手を振るあおちゃんに僕も手を振って、呼びだされた教室に向かうことにした……ちょっと怖すぎるけど! 心当たりがなさ過ぎて怖すぎるけど!!!



 ―うっひょ~、なんかBLが見れましたわ! 良いもの見れましたわたまりませんわ~!! しかも推しの真島君と……

「んっ、富田ちゃん? もしかして見てた、さっきの?」


「ふえっ、真島君!? え、あ、そ、その……み、見ちゃった、ごめんなさい!!!」


「ふふっ、別にいいよ……でも、みんなにはナイショにね、晶ちゃん?」


「はうっ!?!?!?!?」

 ―今日も推しの顔が良すぎます、何ですかあの顔!!! 顔が良すぎます!!! ていうか名前呼んでもらえた……はうぅぅぅぅ!?



 ☆


「……ここ? ずいぶん寂れた感じだけど、ここでいいのかな?」

 あおちゃんと別れて少し歩いて待ち合わせ場所……のはずなんだけど指定された場所に行ってみると、埃が舞うわ扉はギトギトだわなんか煙クサいわで……なんというかここであってるか心配になる場所。


 いや、でもプレートには「和室!」って書いてあるし、指定されたの多分ここだし。

 取りあえず少し中の様子を……


「せ、先生、だだだダメです! タバコ禁止です、ここではダメです、茶室ですよ、先生……」


「うっせぇ、良いんだよ! 千利休も吸ってたんだ、公式だよ、最大手!」


「う、嘘つかないでください、そんなわけ、ない、じゃないですか……ダメです、掃除も、大変、ですし!」


「ったくもう校長は許してくれるのに……綾乃は厳しいぜ、そんなんじゃその男にも……ぷしゅ」


「ど、どこから、持ってきたんですかこのビールは!? 飲んじゃダメです、学校ですよ……せ、先生……」

 ……中から聞こえてきたのは地獄みたいな情景で。

 タバコを吸おうとする例のやばい先生とそれを止める生徒で……ってあれ? この声ってもしかして……よし、確認もかねて入ろう!


「良いんだよ、私どうせ派遣員なんだし! それにどうせ男は逃げんだ、部活なんて出来ねえんだよ! 茶道なんて高校生には早いんだ、綾乃の彼氏もどうせ来ないで遊んでるぜ? あんな放送で来るわけないしな!」


「かかか彼氏じゃないです、友達です、一番の友達です! そ、それに樹神君は来てくれます! こ、樹神君は、わ、私のと、友達で、それで、その……一番の友達ですから! だから絶対、来てくれ、るです……」


「そんな事言ってもどうせ男なんて……」


「あ、あの、呼ばれたんで来ました……こ、樹神佑司です」

 ガラガラと扉を開けて部室に入ると、言い争いをしていた二人がバッと僕の方に目線を向けてくる。


 やっぱりそこにいたのはビール片手の例のやばい先生と斉川さんで……斉川さん茶道部だったんだ、入りたい部活! 確かにあの空気感じゃ話せないよね!


 そんな僕の言葉を聞いて、嬉しそうな顔の斉川さんがテトテトこっちに歩いてくる。

「こ、樹神君! き、来てくれた……えへへ、嬉しい、来てくれて嬉しいよ、樹神君……えへへ、ありがと、樹神君」


「うん、まあ呼ばれたからね。斉川さん茶道部だったんだ」


「う、うん、ご、ごめんね、言ってなくて、急に呼び出しちゃって……は、話したいことってこれ、だったんだ。その……一緒に、ぶ、部活、して……」


「おー、あれで来るんだな、お前! さっすが綾乃の彼氏だ、愛の力ってのにはかないませんなぁ……ケッ!!!」

 おどおどもごもご何かを話そうとしていた斉川さんの言葉を遮って、目をまん丸にしていた先生が恨みつらみのそんな声でビールをぐびっと啜る……ってかかか彼氏!? そんなんじゃないです、そんなんじゃないです!!!


「せせせせせ先生! 違います、樹神君は友達です、そんなんじゃないです……こ、樹神君もダメだよ、この先生の言う事信じたら! 嘘だから、信じちゃダメだから!!! 私も、そんな事、全然、言ってない! 言ってないから、この、先生の妄想、だから!!! だから、その、樹神君は友達、一番の友達!」


「あ、え、う、うん、わかってる、わかってる! それくらいわかってるよ、大丈夫だよ、斉川さん!!! そんなんじゃない、もんね、うん!!! うんうん!!!」


「けー、二人とも顔真っ赤にして初々しいのぉ……これほんまに好美が……んっ、ぷはーっ……ケッ」

 あたふた慌てる僕たちを後目に、先生はぐびぐびビールを飲みながらまた恨めしそうにケッと息を吐いて……な、何この先生!? 色々ツッコミたい事多すぎて頭回らないよ、取りあえず彼氏じゃないです!


「せ、先生! 樹神君も、来たし、自己紹介してください! だらしないです、今の先生、早くしゃんとしてください! あ、あと、彼氏は絶対違います!!!」 


「……ふ~ん、まあお前がそう言うならそうなんだろう。まあ取りあえず、自己紹介でもすっか……知ってると思うけど、私は和服が似合う超絶美人な古川麗美だ。普段は市役所の文化観光課的な部署で働いてて、週1でこの学校来てる。よろしく」

 あたふた真っ赤な沸騰しそうな顔の斉川さんにぐわんぐわんと揺らされて、古川先生がだるそうに背中をかきながら僕に挨拶してくる。


 あ、先生じゃないんだ、だからこんなめちゃくちゃ……いや、公務員でもおかしいでしょ、この態度は。

「なんだ、挨拶くらいしろ? それとも私に見惚れたか? それなら退部だが?」


「いえ、違います、そんなわけないです。よろしくお願いします、古川さん」


「アハハ、別に先生でいいぞ! それじゃあ早速実践してもらおうか、うちは裏千家だからその作法だ、行くぞ」

 そう言った先生はそのまま準備をするためどこかへ……って裏千家? 実践? え、急に何すればいいの?


「何すれば、って……入部試験だ、それに決まってる。綾乃から何も聞いてないのか?」


「はい、何も」

 というか入ること自体知らなかったし。

 チラッと斉川さんを見ると「ごめんなさい」という風に手を合わせて申し訳なさそうに……ああ、ごめんごめん、斉川さんは何も悪くないよ!


「あ、もしかしてお前……こほん、やっぱり今日はめんどいし茶菓子も柿ピーくらいしかないから作法はなしだ。お茶だけ点ててもらおうかな、それならできるだろ?」


「え、あ、その……えへへ」

 知らない、そんなの全然知りません! 

 やった事ないもん、本当に知らないんですもん!


「なんだその笑みは……ほら、色々用意するからやってみろ……あ、綾乃は外でてろ、アドバイスされてもダメだかんな」

 僕の笑顔を気持ち悪そうに見ていた古川さんが、斉川さんを追い出してそのまま準備のために奥の部屋へ。


「は、はーい……頑張って樹神、君……が、頑張れ」


「……うん、頑張る! 頑張れる!!!」

 ……まあ斉川さんに可愛くこう言われたから頑張ろうかな! 

 頑張れる気がしてきたな!!!



「……ケッ、青春しやがって……好美の頼みの綾乃の頼みだから断んないけど……ちょっとはできる男であれよ、彼氏君?」



 ☆


「うまいね、工藤さん! 上手だね、中学も吹部?」


「いえ、違います。その……練習、したんです。憧れで大好きな人を応援するために……叶いませんでしたけど」


「ふ~ん、そっか! もしかして引退しちゃったの、その選手?」


「いえ、同い年の人です……引退はそうですけど。部活も誘ったんですけど来てくれたなくて……だから個人的に応援することにしました。大好きな佑司君を個人的に応援することにします……だから吹部も恋も頑張ります!」


「ふふっ、青春だねぇ……まあそっちも良いけどこっちの練習もよろしくね! 新人戦的なのもあるし、頑張るよ!」


「はい、頑張ります!!!」

 佑司君と会った時から、同じ学校に入学するって知った時から願ってたグラウンドの佑司君を応援するって言う夢は叶わなかったけど。


 でも、それでも応援したい、佑司君の事……だって佑司君は私の憧れの人だもん、助けてくれた恩人だもん……だから私が佑司君を応援して、それで……私の事をもっと好きになってもらうんだ!!!



 ★★★

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