第8話 放課後とお昼ご飯
「ん~、甘い美味しい! やっぱりいつ食べても美味しい、ここのケーキは最高だねぇ、佑司君!」
約束破った罰としてやってきたオシャレなカフェ、甘いお菓子にすっかり機嫌を直した工藤さんが蕩けるほっぺに手をやり黄色い声をあげる。
「……そう? ちょっと甘すぎない? 誘ってくれて申し訳ないけど僕にはちょっと甘々だよ」
「え~、私はこれくらいが好きなんだけどな! 私と一緒に居るんだからこれくらい食べて貰わないと困るよ、ほらあ~ん」
「あ~ん……ってそっちのイチゴのやつの方が甘そうだし遠慮しとくよ、それに恥ずかしい……あ、そうだ。僕これ以上食べたら胸焼けしそうだからこのチーズケーキ、工藤さんにあげる」
すーっと流れるような動作で僕の口元に突き刺したイチゴのケーキを持ってきた工藤さんの手をかいくぐり、逆に僕のお皿を工藤さんの方に差し出す。
「むー、佑司君はつれないなぁ……ってそれくれるの! 佑司君の食べかけのケーキ、私にくれるの!?」
「お、急に瞳がしいたけに……うん、あげる、多分もう食べられないから。それに今日は僕が約束破った罰だし。だから食べていいよ、ていうか食べてよ、工藤さん。工藤さんが嬉しいなら僕も嬉しいから」
「おー、ありがとう! えへへ、そんなに言ってくれるなら仕方がないなぁ、食べます食べますチーズケーキも食べたかったし……う~ん、美味しい! 甘いチーズケーキに佑司君の味が絡み合って美味しい! 佑司君の味が私の味と……めっちゃ美味しいよ、佑司君! 佑司君すごく美味しい!」
「変な表現しないで、からかわないでよ。まあでも美味しいなら良かった、ゆっくり食べてね」
「むー、別にからかってないのに……でもありがとね、佑司君のチーズケーキ、私がじっくり味わうからね!」
そうふわふわ笑いながら、僕の差し出したチーズケーキと自分のケーキを交互に食べる工藤さんを注文したカフェオレを啜りながら眺める……これも甘々だけど、工藤さんが機嫌直してくれたみたいで良かった。
「ん~、佑司君美味しい……あ、そうだ! 今日夜ご飯はどうする? 佑司君は夜ご飯はどうする?」
「ん、夜ご飯? そうだね、今日は帰って食べるかな、もう所持金1000円もないし、妹も待ってるし」
「ふ~ん、そっかそっか……それなら朗報があります! 今日ね、お母さんに佑司君と一緒に甘い物食べること言ったら夜ご飯用意してあげる! って言ってた! だから佑司君、今日家にご飯食べに来ない? 私のお家にご飯食べに来ませんか?」
お皿に埋めていた顔をあげて、クリームのついた口でくいっと顔を傾けてそう言って……え、工藤さんの家?
「いやいや、ダメだよそれは。今日僕自転車だし、急に申し訳ないし。それに電車無くなったら帰れないでしょ、工藤さんの家からだと」
「それじゃあ泊ってきなよ、佑司君! 明日一緒に、二人で登校しようよ! 二人でお母さんのご飯食べて、一緒にお泊りして、それで二人で仲良く登校……うん、そうしよう! そうしよう佑司君!!!」
「それはもっとダメでしょ。だから今日はお断りします、そう言うのは休みの日とかちゃんとした日じゃないと多分無理だよ」
「むー、佑司君、私もっと……それじゃあ休みの日には来てよね! 休みの日には来れるんだよね?」
「あはは、そうだね。その時はまた、みんなでお邪魔するかも」
「むむむ、私は佑司君一人が……今は良いか、言質取ったよ、佑司君! 破ったら許さないかんね! 破ったら今度は私ともっと⋯⋯にへへ、やっぱり破っても良いかも、約束!」
「どっちだよ、それ。またお邪魔するよ、それだけ言ってくれるなら……工藤さん、こっち、クリーム」
クリームのついた口でそう言ってフォークを差し向ける工藤さんに苦笑いしながら、ちょんちょんと口の端を叩いた。
「……ところで佑司君、妹さんいるの? 佑司君の妹さんなら可愛いんだろうな!」
「うん、いる、可愛いよ! 希美って言って、中1で陸上やってて、めっちゃ可愛い!!! めっちゃ可愛くてすごい妹で、この前も……!」
「……そっか。また、会いたいかも」
☆
「おはよ、佑司君! 昨日は楽しかったね、スイーツ美味しかったね! めっちゃ甘くて美味しくて……最高だったね!」
次の日、いつものように登校すると下駄箱で工藤さんにそう声をかけられる。
う~ん、あれは僕にはちょっと甘ったるかったな。
「ふふ~ん、それ昨日も言ってたけど、でも私と一緒になるならあれくらい甘い物はちゃんと食べられるようになってほしいな! 私あれくらい甘いの大好きだし、あれくらい甘いの作るし! だから佑司君には甘い物に慣れて欲しい、私の好きを好きになってほしい!」
「あはは、でも僕あんまり甘すぎるのは得意じゃないし……まあ、頑張ってみるね」
「うんうん! 佑司君には私の好きなものも好きになって大好き一緒にしたいから! だからね、またどっかご飯食べに行こ! そうだ、今度は佑司君の大好きなお店に行きたい! 佑司君の好きなもの、私も好きになりたい! あと私のお家に来て欲しい! お母さんのご飯の味も知ってほしい!」
「うん、また行こうね。僕は……って、おはよう、斉川さん。邪魔だったよね、ごめんね」
下駄箱の前で色々喋っていると、少し困惑したような遠慮しがちで申し訳そうな表情の斉川さんがおどおど後ろでちょこちょこ動いていたことに気づく。
ごめんね、こんなところで話してて。位置関係的に靴取れないもんね。
「う、うん……そ、そのこっちこそごめんね。ごめんなさい、二人とも……ごめんなさい」
「なんで斉川さんが謝るの。ごめんね、僕たちどくからさ……ほら、工藤さん、いつまでもここで話してたら邪魔になる、教室行こ」
「むー、また私との会話中にあの子……むむむむ! 佑司君、私が……! 私が佑司君の⋯⋯!」
「工藤さん、邪魔になってるから。ほら、教室戻るよ、教室で続き、ね? じゃあ、斉川さんごめんね、また教室で色々話そ」
むむむと不満そうに顔を膨らませる工藤さんの制服の裾を引っ張る様に教室の方に誘導しながら「あ、はい……ごめん、樹神君……」と相変わらず何かに謝る斉川さんに手を振り教室へ。
「むー、また……でも邪魔はダメだね。佑司君、教室では私と話すよ! 私とまた話すよ、今の続き!」
「うん、教室だ! ほら、行くよ工藤さん」
「うん、話すよ! あの子じゃなくて、私が中心だから!!!」
…………
「斉川さん、あのさ……」
「あ、あうあっ……あうぅぅぅ……ご、ごめんなさい」
「……?」
☆
「は~い、それじゃあ授業終了! みんなお昼休みだよ、お弁当の時間だよ~!」
『よっしゃー!』
教卓の先生ののんびりした声とともにざわざわと教室中が授業中とは比にならない活発な動きを始める。
「よーし、佑司昼飯だ! 今日は体験入部あるし大飯だぞ、いっぱいだぞ!」
僕のところにもいつも通りお弁当箱を持った竜馬が駆け寄ってくる。
「ハハッ、良かったじゃん竜馬。でもちょっと待ってね、今日は……お、帰ってきた」
少し竜馬に手を合わせて後ろを見ると、ちょっと外に出ていたらしい斉川さんが教室に戻ってくる。
今日は話しかけても「あうあ……」って感じでなぜか逃げられてるけど、でもお昼ご飯食べるって約束したし! だから斉川さん、一緒にお昼ご飯食べよう!
「……! あうぅぅ……」
僕の目線に気づいたのか、斉川さんがビクッと少し驚いたように身体を震わせる。
もうなんでそんなに今日ビビってるの? 手とか振ったら来てくれるかな?
「んふふっ~! ん、斉川さんほら、一緒にご飯……」
「あうっ……あ、あの……工藤さん、立川さん! 一緒に、その……お昼ご飯一緒に食べてくれませんか!?」
「……あれ?」
そんな手を振る僕に向かってきた斉川さんはそのまま隣に……座らずに僕をスルーして前の席でわちゃわちゃする工藤さん立川さんペアの方に行ってそう頭を下げて。
あ、あれ? なんで? 頭が混乱、ここって友達? でも斉川さん⋯⋯あれ?
「……ん? 斉川さんが? 私たちと一緒に? ええっと、私は……」
「ふえっ、そ、そうだよね、ごめんなさい、私は……」
「ちょいちょいちょいちょい、待ちなされ斉川ちゃん! 一緒に食べようぜ、私も光も歓迎するぜ! 言ってくれてありがとな、斉川ちゃん!」
工藤さんに難色を示されたことで帰ろうとした斉川さんを立川さんが引き留める。
あ、勇気出した感じなんだこれ……なんだ、そう言う事か。頑張れ、斉川さん!
「う、うん、私、その……一緒に食べたい、です。その……二人と一緒にお弁当、食べたい、です……ふぁい」
「……私別に……」
「良いじゃん、良いじゃん、賑やかな方が楽しいし! ほら一緒に食べようぜ、斉川ちゃん! 私も斉川ちゃんと話してみたいと思ってたし! な、良いだろ、光……別にライバルって事もないだろうし」
「まあ、そうだけど……それじゃあ良いよ、一緒に食べよ、斉川さん! 私も斉川さんと色々話したいこととかあったし……うん、一緒に食べよう」
「は、はい……ありがとう、ございます……よ、よろしく、です……ひゃい」
少し畏まったような、物々しい態度でちょこんと工藤さんの机の近くに椅子を置いてそこに座る。
良かったね、斉川さん……昨日、友達凄く良いって言ってたもんね!
それで友達欲しかったんだ、それで⋯⋯良かった、工藤さんと立川さんと友達になれそうで! 頑張って凄いよ、斉川さん! 僕を避けてたのもあれでしょ、この事で頭いっぱいだったからでしょ、すべてに合点がいった!
「ほーら、そんな緊張せんでいいよ! あ、斉川ちゃん私の事は真夏でいいよ! 斉川ちゃんの事も、ええっと……綾乃ちゃん、って呼ぶからさ!」
「あ、はい、そのよろしく、真夏ちゃん……え、えっと……」
「私は呼びたいように呼んで、斉川さん」
「そ、それじゃあ……よろしくです、工藤さん……よ、よろしく」
うん、良い感じに慣れてるみたいだし!
良かった良かった、僕との約束とかどうでもいい、斉川さんの願いが叶うならそれでいい!!! 頑張れ、頑張れ斉川さん!!!
「……あれ、佑司なんかあった? さっきなんかしてたみたいだけど?」
「ううん、何でもないよ……ふふっ」
―こ、これで良かったんだよね? 多分、こ、これが一番、一人でも樹神君、来てくれそうだし、だからこれが一番……で、でもやっぱり罪悪感がすごい……あ、目あった⋯⋯ううっ、やっぱり樹神君の事裏切って、それで罪悪感すごくて……で、でもぉ……
―ごめんなさい、樹神君。でもでも……ごめんなさい、私の罪は消えないから……でも嫌いになってほしくない……私とまだ友達で……だ、だってこれは樹神君のため、だから嫌いにならないで……ごめんなさい、樹神君……
「んっ……って佑司君! 佑司君が手を振ってくれてる! もう、佑司君ご飯中だよ、後でいっぱいしてあげるのに!!!」
―こんなラブラブの二人、邪魔できないもん。
「佑司、ちょっと節操持てよ。こんなタイミングで光ちゃんといちゃつくな、手を振るなんて古典的な方法で!」
「あはは……斉川さんに振ったんだけど……」
★★★
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