おまけ お互いの兄妹姉弟
「ねえ、綾乃ちゃん! この前樹神と色々話してたみたいだけど……ぶっちゃけ何の話してたん? 今樹神いないし、ほら話してよ、ね?」
「え、こ、樹神君と? そ、その、私は、えっと……」
「真夏! そんな変な質問しなくていい、斉川さんが答えにくい様な質問しなくていい!!!」
「……厳しいねぇ、光は」
……やっぱり工藤さん、少し怖い、かも。
樹神君の事、ちょっと怒ってるかもだし……ううっ、私が無理言ったから……だから、この選択は正しい、はず……
「佑司、お前意外と……」
「勝手にみんな! てかトイレのぞくな!!!」
☆
「ごめんなさい、樹神君、ごめんなさい……で、でも私は……」
誰もいないリビングでずーんと脚を抱えて丸くなって悔恨の念をぐつぐつ煮たす。
や、やっぱりあれで良かったと思うんだけど……で、でもダメな気もするし、結局最後まで樹神君の事避けちゃってたし、樹神君と話すの怖くて……で、でも私が関わって、それで工藤さんと……で、でも私も樹神君と友達だし、で、でも……今はわかんない、ど、どうしたら……
「……どうしたん、姉ちゃん? そんな落ち込んだ顔して。昨日から姉ちゃん変だよ、ずっと表情が複雑だよ……学校で何かあった?」
「うぇ、雅樹、いつから……そ、その、えっと……と、友達の話で、その……悩みが、ある」
「ずっといたよ。ていうか、友達ねぇ……って、え!? ね、姉ちゃんに友達!? あの姉ちゃんに、俺の姉ちゃん斉川綾乃に!?」
私の言った言葉に雅樹の顔が驚愕の表情に変わる。
そんな驚かないでよ、ちょっとお姉ちゃん寂しいよ、それは。
「う、うん、友達出来た、失礼だよ雅樹。私だって友達、くらいいる……初めてだけど」
「だよね、聞いたことないもん! その友達男? 女の子?」
「ひ、ヒミツ……そ、それでね、その友達の悩みの事なんだけど……あ、あのこだ……と、友達とね、ある約束してて……それ破っちゃって、しかもその罪悪感とかで無視もしちゃった、その友達の事」
「教えてくれてもいいのに、まあいいや。なるほど、姉ちゃんはダメな人だね、初めての友達にそんなことするなんて」
「あうっ……」
あっけらかんと言った雅樹の言葉がグサッと胸に突き刺さる。
樹神君は私といっぱい話してくれて、好きなものが一緒で、それで初めて友達って言ってくれたのに……その初めての友達を無視するなんて、私……最低な人間だ。
「あう……滅相もございません、私は最低です……で、でもその、本当はその友達の事思って……」
「わかってる、姉ちゃんにそんな度胸ないもんね。ごめん、ちょっとからかった、姉ちゃんは最低じゃないよ! 取りあえず色々あって不本意に約束破っちゃったわけだね、姉ちゃん? それでその人に謝りたいと」
「も、もう! 雅樹、あんまりお姉ちゃんにいじわるしないで、寂しい、怖い……う、うん、そう言う事。で、でも約束破っちゃって、私の事、もう嫌いになってるかもだから、もう友達、って思ってくれてないかもだから……そ、それに謝り方とか、わかんないし……」
「……そんな事で友達じゃなくなったら最初から友達じゃないよ、そいつは。俺だっていつも希美とケンカしてるし、約束すっ飛ばしてすっ飛ばされてだけど、ずっと仲良しだし! 友達だったら一回の失敗くらい許してくれるぜ、姉ちゃん」
「……ホント? ホントに許してくれるかな? ホントにそのこだm……友達、許してくれるかな?」
「うん、許してくれる! そうと決まればすぐに電話しよう、その友達に電話して謝ろう! すぐに謝る、それが大事だよ!」
「う、うん、そうだね……あ、ありがと雅樹! 早速電話、してみるね……!」
そうだ、樹神君も怒ってるとかまだわかんないし。
電話して謝ったら、まだ、何とかなるかもしれないし、さっそく電話……えへへ、友達と電話か、なんかちょっと緊張して、でも……えへへ、樹神君に電話するの、こんな状況なのにちょっと、楽しみ……えへへ。
「……姉ちゃんなんか楽しそう。その友達と仲いいんだね、姉ちゃんは!」
「……え? そ、そうかな……た、確かにお話も合うし、趣味も好きなことも一緒だし……えへへ、友達、だけど。一緒に居ると楽しくて嬉しい人、だけど」
樹神君はお話も面白いし、いるとほんわか楽しい気分になるから。
私の事を全部さらけ出しても受け止めて、好きって言ってくれるから……だから嬉しくて、いっぱい、話したくなる。好きが一緒だから、いっぱい話したくなる。
一日だけだけど、あの時間だけだけど、でもすごい幸せだったから。
「そっか……なんかちょっと嫉妬しちゃうな、姉ちゃんの友達に。そんな事姉ちゃんが俺以外に言うの初めてだからちょっと嫉妬しちゃう。俺が姉ちゃんのその、姉ちゃんの……一番近くにいるのに」
「えへへ、お姉ちゃんは雅樹の事も大好きだよ、いつもありがと。お姉ちゃんは雅樹の事ずっと昔から大好きだよ……あ、そうだ雅樹! 今日久しぶりに一緒に寝る? 久しぶりにお姉ちゃんと一緒のベッドで寝る?」
「……は!? な、何言ってんだよ姉ちゃん、なんで俺が姉ちゃんと!? そ、そんな事絶対に……」
「でも去年まで雅樹一緒に寝てたよね? たまにお姉ちゃんのベッドに入ってきて『お姉ちゃん、寂しいから一緒に寝よ』って……ふふっ、あの時の雅樹可愛くて温かかった。また一緒に寝ない、雅樹?」
「そ、そんなことするか! 俺はもう中学生なんだぞ、そんなことしない! そ、それに……と、ともかく姉ちゃんは今すぐ友達に電話かけること! 電話かけて謝ること! じゃあね、姉ちゃん!!!」
焦ったように真っ赤な顔でそう言って、ぎこがこと自分の部屋に帰っていく……ふふっ、たまには雅樹と一緒が良いな、って思ったけどしょうがないか。
でも今はその……樹神君に電話かけるのが一番の用事か。
LIMEも教えてもらったし、それに……頑張れ、私! 頑張って樹神君に電話かけて、それで……友達として仲良くするんだ!!! いっぱい樹神君と好きな事話すんだ!
で、でも友達と電話するとか初めてで……き、緊張しちゃうな……でも頑張る、ぞい……頑張ってもっと樹神君と、話すんだ……ううっ、えいえいおー!
―ね、姉ちゃん、そんな急に誘わないでよ……揺らいじゃうじゃん、また姉ちゃんの事大好きになっちゃうじゃん……姉ちゃんは宇宙一可愛いし、それにもふもふふわふわで宇宙一可愛くて……
―ダ、ダメだ、俺にはもう好きな人がいるから、だから俺は姉ちゃんからは卒業するんだ! 姉ちゃんからは卒業しないと、姉ちゃんの……
―そう言えば姉ちゃんの友達、ってどんな奴だろう? 姉ちゃんは分かってる、って言ってたけど本当に姉ちゃんの事ちゃんとわかってるのかな? 姉ちゃんの良さとか可愛さとか趣味とか……そう言うの本当に分かってる奴なのか? 姉ちゃんに変な事したい奴じゃないのか、姉ちゃん可愛いくてあまりしゃべらなくて都合良さそうだから変な奴いっぱい寄ってくると思うし!
―姉ちゃんの事一番知ってるのは俺だし、一番近くにいるのも俺だし、一番好きなのも……もしその友達が変な奴だったら俺がぶっ飛ばす。俺が姉ちゃんを守るんだ!
☆
「お兄ちゃん、テレビ見ていい? 今日見たい番組あるんだけど良い?」
「うん、もちろんいいぞ! お兄ちゃんは2階あがるし、自由に見ててくれ!」
両親が買い物に行っていないリビング、体操服のままでろーんとソファの寝転がる世界一可愛い妹にそう聞かれたので僕はうんうん頷く。
僕の妹は陸上で頑張ってるし世界一可愛いから、これくらいは聞いてあげるよ!
「お兄ちゃんありがと! 今日も部活疲れたから助かる~! いっぱい走っていっぱい疲れたから~、一人でゆっくりテレビ見ながら休みた~い! 希美は疲れたから~、おやすみした~い!」
「うんうん、お疲れ希美! 希美は偉いな~、毎日頑張って! お兄ちゃんとして誇りに思うぞ~、ホント希美はすごい! よしよ~し、よしよ~し!」
「むー、お兄ちゃん頭撫でるな気持ち悪い! 私もう中学生だぞ、もっと大人のれでぃーとして扱え! そんな子ども扱いするな!!!」
「あはは、ごめんごめん。でも昔みたいにお兄ちゃんに甘えてくれてもいいんだよ? それ、わしゃわしゃ~わしゃわしゃ~」
「だからもうそんな時期じゃない! もうお兄ちゃんに甘える時期じゃないの! だからわしわしやめろ、髪が崩れる!」
可愛い顔を膨らませてもっと可愛くなった顔でぷくぷく文句を言う希美の頭をさらにわしわしすると噛みつくように怒られる。
昔は喜んでくれたのに……反抗期かな? お兄ちゃん悲しいけど、これが成長ってものだと思う。
世界一可愛い妹がもっと可愛くなるなら寂しいけど受け入れるしかない!
「はーい、ごめんなさい、もうしないよ……それじゃあゆっくり休みなよ、明日に疲れが残らないように。明日も部活でしょ、あとお母さん帰るまでに着替えてたほうが良いよ」
「お兄ちゃんに言わらなくてもわかってる! ありがとお兄ちゃん! またデザート食べに行こうね、一緒に!」
「うん、一緒に行こう希美! お兄ちゃんに任せなさい、美味しいところ紹介するから!」
「うん、よろしくねお兄ちゃん……あとたまにならナデナデもいいよ」
そう言ってニコッと天使のほほえみを向けてくれる妹にギュッと指を突き出して、自分の部屋に向かう。
「ふいーっ、今日も疲れた……ってあれ? 電話……斉川さん?」
自分の部屋に入ってベッドにふいーっと腰かけると、スマホがフルフル振動していることに気づく。
ズボンから取り出してみると、斉川さんからの着信で……あれ? どうしたんだろう、何かあったのかな? 面白いマンガとかの紹介かな?
「もしもし、斉川さん? どうかした?」
【ふえっ……あ、あのこ、樹神君? こここ樹神君、だよね?」
「そうだよ、樹神佑司だよ。斉川さんの友達の樹神佑司……どうしたの、何かあったの、そんなにてんぱって?」
【うえっ、友達、ううっ……あ、あの、樹神、君、そ、その……ご、ごめんなさい!】
「……え?」
電話越しに聞こえる透き通ってふんわりとした、でも焦っててんぱった斉川さんから急に謝罪が飛んできて……え、何の話、何の話!?
★★★
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