第23話 一緒に行こ?

「おー、光! 流石だよ、流石カブトムシマスター! すごいよ、最強だよ!!! みんな喜ぶだろうな、このビックサイズ!」


「あんまり嬉しくないよ、もう! 今言われても嬉しくないよ、それ!」

 ―早く行かないと佑司君が……佑司君が!!!


 ―佑司君がとられる、私の佑司君があの子にとられる! 私の、私の佑司君なのに!!!


 ☆


「あはは、それは……あ、佑司じゃん? どしたの、工藤さんは? イチャイチャタイムは?」

 少しふわふわしながら僕の方に身体を寄せる斉川さんとおしゃべりしながら洗い場の方に向かうと、そこには先客として身体を寄せ合いながら楽しそうに来物をする日向と柊木さんの姿が。


「イチャイチャタイムなんてないわ、工藤さんは和田さんに連行された。そっちこそどうしたんだよ?」


「うん、俺か? 俺は柊木が食べ過ぎで少ししんどい、って言うからしょうがないから洗い場に……佑司こそ、なんで斉川さんと一緒?」


「あ、それ一緒。なんか斉川さんも食べ過ぎでしんどいんだって。ね、斉川さん?」


「う、うん、そうだけど……は、恥ずかしいからあんまりそう言う事は、言わないで欲しいかも……えへへ、そう言うのはちょっと恥ずかしいかも」

 少しほっぺを赤く染めた斉川さんが、そう言って身体を左右にふりふり。

 あ、ごめんちょっと配慮足りなかったね、ごめん斉川さん。


「そうだぞ、ダメだぞ! 私も傷ついた、さ、野村私も傷ついた!」


「へいへい、すまんすまん」

 柊木さんもぷく―っとした顔で日向に詰め寄る。

 食べ過ぎとかそう言う情報は恥ずかしいよね、これは本当に僕の配慮不足だごめんなさい。


「ごめんね、斉川さん。取りあえず洗い物しよ? 洗い物してそれでその後さ、色々しようよ!」


「えへへ、傷ついてないから大丈夫だよ、樹神君。そうだね、早く洗い物して、それで……えへへ、その後色々しようね、樹神君」


「うん、色々しようね。よし、まずはこのカレーの大なべから洗うよ!」


「えへへ、色々……えへへ。それじゃあ私はお皿洗うね、お皿とかスプーンとか、飯盒とか小さいの、私が洗うね……えへへ、頑張ろうね、樹神君」


「よろしく、斉川さん! それじゃあレッツスタート!」

 ふわふわと隣で笑う斉川さんと一緒に洗い物開始。

 大きいものから小さいものまでドンドンドンドン洗っていく。


「斉川さん平気? お腹大丈夫? あ、そのお皿頂戴、僕が洗うから」


「うん、平気、ありがと。もう結構楽だよ、だから……うわっ、水撥ねた。お腹、びしょびしょ」


「あ、大丈夫斉川さん? えっと……ハンカチあるけど使う? これで足しになるかわかんないけど、拭かないよりましだとは思う!」


「う、うん、使う……えへへ、樹神君のハンカチ、えへへ……なんか温かくて、冷たいの、飛んでったかも……えへへ」


「ん、それなら良かった! それじゃあ続きしよっか、そのスプーンも貸してよ、僕は洗うからさ!」


「えへへ、ありがと……ありがと、樹神君」

 お腹をさする様に優しく拭いた斉川さんが、そう言ってニコッと満面の笑みを浮かべた。そのハンカチ、持っててくださいね。



「……あの二人なんか仲良くね? 工藤さんはどうしたんだよ、工藤さんは! おいおい、なんであんなに仲いいんだよ、なんでだよ! なんか知ってる、柊木?」


「しーらない……頑張れ、綾乃ちゃん」



 ☆


「あれぇ、少年少女? まじめに洗い物とはえらいねぇ、先生感激~!」

 その後、ゆっくり洗い物を続けていると、背中の方からのんびりゆっくりした声が聞こえる。


『あ、妖夢先生だ!』


「も~、妖夢じゃないみょん! 中竹先生だよぉ、みんなの副担任の中竹先生!」

 思わずはもったみんなの声に、プンプン怒ったようにほっぺを膨らませながら、それでも笑顔でノリノリでふんすふんす。


 ふふっ、ここでもみょーん、って言ってるし先生やっぱりノリが良いですね!

「へへへ~、いっぱい練習したからねぇ、ダリアちゃんと茜ちゃんと! だからぁ、結構愛着があるのですぅ……ところで、みんなはどうしてここに? もちろん洗い物するのは良いことだけどぉ、他の子は遊んでるよぉ?」


「ああ、それですけど、その……柊木さんと斉川さんが少し体調悪いみたいで。それに付き合った感じです。ね、斉川さん?」


「そうです、そうです! 俺と佑司がこの二人に付き合った感じです! な、柊木!」


『は、はい! そうです!』

 ゆるゆるとコテンと聞いてくる先生に二人でそう答えると、斉川さんたちも大きく頷く。


 その反応に先生はほーほーと納得した様に頷いて、

「なるほどぉ、なるほどうだよぉ! 君たち仲いいもんねぇ、良かったねぇ、二人とも! でもでも、体調不良は副担にとして心配だからぁ、ちょっと二人は先生にお話聞かせてねぇ! ダリアちゃんのところには行かなくて良いけど、私にはお話聞かせてちょーだい!」


『あ、はい! わかりました!』

 どこかわくわくしたような表情でそう言った先生に、二人は元気よくそう答える。


「OKだよぉ~。それじゃあ、樹神君にさめ……野村君! ちょっと柊木さんと斉川さん借りてくから、二人は洗い物しててねぇ~! それじゃあ!」

 その答えに満足した様に先生はキュッと二人の手を取って、どこかへ歩いて行く。


「ご、ごめんね、樹神君……少し、任せる、洗い物一人で……ごめんね、樹神君。私もその、一緒に……」


「ふふっ、良いよ良いよ。ここは任せて、僕に任せて斉川さんはお話してきて!」


「……えへへ、ありがと、樹神君。すぐ戻ってくるからね……待っててね、その後色々、しようね……えへへ、先生、行きましょう」

 ニコニコとしながら、先生の後ろをとことこ可愛くついていく斉川さんに手を振って、僕はもう一度洗い物に戻る。


「……なあ佑司、いつの間に斉川さんとあんなに仲良くなった? 何があったんだ、俺なにも知らんのだけど? 何も聞いてないんだけど?」

 洗い物を再開した瞬間に、隣で同じように再び洗い物を始めた日向に驚いたように声をかけられる。そっか、日向には部活の事とかも話してないもんね。


「そりゃ話してないもん。まあその……色々あったんだよ、色々。まあその辺はおいおい……ところで柊木さんと日向はどうなの? 結構仲良さそうだけど」


「おいおい、はぐらかすなよ、まあいいけど……まあね、仲いいぜ。今日だってあんな量のご飯でダウンするなんて信じられなかったくらいには。柊木のやつ、夜は食いしん坊なのに昼間は普通で……ってなんだその目?」


「夜は食いしん坊って……日向、柊木さんとそう言う……」


「……何勘違いしてるか知らないけど、普通の話だからな? 普通に夜はいっぱい食べるって意味だからな! ピザとかマックとか、そう言うジャンキーなのを……柊木は普通の友達だし、そんなことありません!」

 少し焦ったように、でも堂々とそう言う。

 えー、でもなんか怪しいな?


「……ホントのホントに?」


「ホントのホントに! 佑司こそどうなんだ、工藤さんとどうなんだよ?」


「工藤さん? 僕と工藤さんも何もないよ、本当に何もない。工藤さんも仲のいい友達だよ」


「……お前こそ怪しいけどな」


「怪しくない怪しくない。僕はむしろ……えへへ、怪しくないよ、僕は!」

 そう言ってニヤリと笑う日向にひらひらと手を振って、キレイな水の流れにお皿を突っ込む。


「え~、何その反応! 本当は? 本当は?」


「何もない、何もない! 本当に工藤さんとは何もないよ、本当に!」

 そうだ、工藤さんと僕は本当に何もない。

 むしろ僕は斉川さんと……斉川さんとそう言う関係になれたらいいな。




「二人とも仮病でしょ~! 先生の目にはわかるよぉ、二人とも青春したかったんでしょぉ! あの二人と、二人きりの青春、したかったんでしょぉ?」


『……ヒミツです!』

 ―お腹いっぱいだったのは本当だよ。樹神君と一緒に作って、それで……でもヒミツ。その後はヒミツだよ。




 ☆


「えへへ、樹神君。帰りも隣……えへへ、身代わり人形も温かい」

 バスの隣の席で斉川さんがくたーっと背もたれに身体を預けながらそう微笑む。


 あの後、洗い物を済ませて工藤さんたちと合流して和田さん主導の下、小雨の中謎の巨大昆虫の捕獲にいそしんで、そしてその後はみんなで体育館で遊んで……そんな楽しい時間を過ごしているとあっという間に帰る時間になった。


 もちろん席は行きと同じ、僕の隣には身代わり人形を嬉しそうにさする少し眠そうな斉川さん。

 ふふっ、また行き見たいに寝てもいいよ、僕は隣で静かにしてるから!


「えへへ、それじゃあお言葉に甘えて。実はもう結構酔って、しんどくて……ふわぁぁ、おやすみ、樹神君……すーすー」

 くねくねとした道を進むバスの中であくび交じりにそう言った斉川さんはすぐにすーすーと可愛い寝息を立て始める。


「ホント寝つきが良いな、斉川さんは……ふふっ」

 斉川さんの寝顔、朝も思ったけどやっぱりすごく可愛いな。


 安心しきってて、幸せそうで。

 ふにふに柔らかそうに揺れるほっぺも、あむあむ可愛く動く唇も、ニキビ一つない、キレイで透き通った肌も……ふふっ、全部可愛い。小動物みたいで愛らしくて、でも大人の魅力もあって……少しならバレないよね?


「樹神君、樹神君……えへへ」


「アハハ、また僕の夢見てくれてる。おやすみ、斉川さん……ふふふっ、いい夢見てよね、幸せな夢」


「んみゅ……えへへ、樹神君、そんな……えへへ」

 幸せそうに緩んだ斉川さんのほっぺをつんつんとつつく。

 ふんわり柔らかくて甘い感触が、指に伝わってくる。


「樹神君……えへへ、一緒、これからもずっと……」


「ふふっ、斉川さん……僕やっぱり君の事……えへへ、斉川さん」

 みんな眠って静かになったバスの中で肩をちょこんと預けてきた斉川さんの耳元にそう呟く。


 今は直接言えないけど、でも……絶対に伝えるから。絶対に伝えたいから。

 だから今は、この時間を……ゆっくりと流れるこの幸せな時間を堪能します。



「樹神君、私も……私も樹神君……えへへ」



 ―おかしいおかしいおかしい!!! おかしいおかしいおかしい!!! ダメダメダメダメダメ!!! ダメ!!!


 ―私が一番私が一番私が一番!!! 私が樹神君の一番なんだから!!! 



 ☆


 順調に山道を進んだバスはそのまま学校まで一直線で。

 隣で眠る斉川さんも起きることなく、ゆっくりと流れていく時間に二人で身を任せていると、バスは学校に到着した。


「よーし、全員いるな! それじゃあ今日はここで各自解散、ゆっくり家に帰れ! サヨナラ!」


『さよーなら!』

 勢いよくそう言った村木先生に僕たち全員でそう挨拶。

 隣の斉川さんも眠そうな目をこすりながら、元気にそう言って……ふふっ、なんか斉川さんがそう言うの珍しいも。


「えへへ、だって眠って元気なったもん……樹神君のおかげ。樹神君のおかげだよ」


「僕何もしてないけどね。でも元気になってよかった」


「えへへ、色々してくれたよ、本当に……えへへ」


「斉川さん? ……ま、まさかあれ聞こえ……」


「ねえ佑司君! 佑司君! ちょっといい、ちょっといい! ちょっと耳貸して耳貸して佑司君!」

 真っ赤な顔でもじもじ揺れる斉川さんに少しドギマギしていると、後ろから工藤さんが乱入、勢いよく僕の腕をぎゅっと掴む。


 え、何々どうしたの工藤さん!?

「どうもこうもない! 耳貸して、取りあえず耳貸して! 佑司君、耳!」


「わ、わかったよ……大声とかなしだよ?」


「わかってる、それくらい大丈夫だよ! それじゃあ失礼して……」

 押し負けた僕が身体を少しかがめると、耳に工藤さんがふーっと唇を近づける。

 甘い息が直接かかって、身体がビクッと思わず震える。


「ふふっ、ビクってなった……ふふふっ」


「く、工藤さん、そう言うの良いか……」


「えへへ、ごめんね。こほん、それじゃあ……佑司君、今から二人でお出かけしよ?二人でさ、この後デートしようよ……誰も誘わず、二人で行こ?」

 耳元でくすぐったい息を吐きながら、そう言った。




「……ん? 樹神君?」



 ★★★

 感想や☆やフォローなどしていただけると嬉しいです!!!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る