女子会!(もしくは工藤光過去)

《一応工藤さんの過去の話です》


 もうすぐ暑い時期が始まるのに、部屋の中心にあるのはぐつぐつと煮立ったお鍋、そこから香る鼻孔をくすぐる白い湯気。


 そんな幸せの空間にぷしゅっと言う炭酸の弾ける音が響く。

「んっんっ……ぷははぁ! いやー、昼間っからお酒飲めるなんてGW様様ですな! GW最高、お酒がうまい!」


「……茜、飲むの早いぞ。みんなで乾杯はどうした。それに、まだもつ鍋出来てないぞ、我慢するって約束じゃなかったか?」


「そうだよぉ、茜ちゃん! 乾杯するって約束したよねぇ?」


「でもでも~、こんな暑くて美味しい匂いしてたら飲むしかないでしょ~! ここで飲まなかったらいつ飲むの~って感じ……んんっ……ぷはぁ!」


『はぁ、アル中め』

 私と穂乃果の声を無視して、ぐびぐびとビールを幸せそうに飲む茜に二人合わせて少しため息。


 全く茜は……今の飲み方だけ見たら教師には全く見えないな。

 こんなんだから彼氏も恋もいまだに……ってこの話は無しだ、茜に怒られちゃう。


「もう、茜ちゃんはぁ……でもしょうがないなぁ! それなら私たちも飲みましょう、ダリアちゃんも飲みましょぉ! それぇ、乾杯!」

 そんな事を考えていると穂乃果が冷蔵庫からビールを2本持って渡してくる。

 キンキンに冷えてやがる……これは我慢できん!


「まあ、そうだな! おつまみも買ってきてるし、先に飲もう! それじゃあ穂乃果乾杯! 一応茜も乾杯!」


『かんぱ~い……んんっ……美味しい!!!』

 あ~、やっぱり最高、休日の昼間から飲むお酒は最高だ!

 しかも今日はGWなわけで、普段なら仕事中の時間にこれは……ん~、最高!


「ぬへへ、そうだよねそうだよね! あ、そろそろもつ鍋出来たんじゃない? お腹空いたし早く食べよう食べよう!」


「あー、もうせっかちだな茜は! でも確かにそろそろかもな、それじゃあ蓋とって……わお!!! わおわお!!!」

 2本目のビールに手を出しながら鍋をつんつん触る茜を制しながら開けると、白い湯気とともに美味しそうな匂いがさらに充満して……おーおー! これはもう最高だ、見てるだけで分かる! 絶対美味しい奴だ、これは確信できる!


「うわー、美味しくできてそう! 差っすが私! それじゃあ……いただきまーす!!!」


『いただきまーす!!!』

 一応先生らしくお行儀よく手を合わせてもつ鍋の中身とビールを流し込む!


「最高! 最高! 美味しい、プルプルもちもち! これはビールも箸もともりませんわ~!!!」


「全く茜は……しかし、料理だけは本当に上手だな。腐っても家庭科教員といったところか、このニラとか最高だ。ほめて遣わす、お料理大臣」


「本当に美味しいよぉ、茜ちゃん! これはお酒がすすむねぇ、最高だよぉ! キャベツキャベツ!」


「もう二人とも褒め過ぎだよ! そんなに褒められても何も出ないよ、せいぜい美味しいおつまみ作るくらい! ちょっと待っててね、二人とも!」


『はーい、待ってまーす!!!』

 ふふっ、やっぱり昼間からこのメンバーで飲むのは最高だな、学生時代を思い出す。

 こう言う事もしばらくしたらできなくなるんだし……やっぱりこういう時間、大切にしていきたいな。



 ☆


「よーし、それじゃぁそろそろあれ行くよぉ! 恒例のぉ、気になってる生徒の情報交換たーいむ! 先生らしく、そう言う話するよぉ!」

 大量の空き缶に反比例するように鍋の中身が無くなってきたころ、耳にスルメをかけた穂乃果が大きな声でそう叫ぶ。


「はいはーい! まずは茜ちゃんが発表しまーす! 穂乃果しぇんしぇー、茜ちゃんからでいいですか!!!」

 そしてそれにぴよーんと脚をあげながら答えるのは、伸びたラーメンを食べながら新しいビールに手を出した茜で……この二人もうだいぶ酔ってるな。顔真っ赤だし、呂律も怪しいし、こういう話し始めた時は……まあいいや、いつもの事だし。私は今からお水の時間に移動するけど。


 冷蔵庫に水を取りに行った私を後目に、二人はいつもほとんど変わらない話に花を咲かせ始める。

「えっとね~、私が気になってる生徒はさくらちゃんと拓海君の異学年幼馴染コンビ! やっぱり同じ部活の顧問だし、それに……ていうかあの二人、校外学習の日もお泊りしたらしいんですよ、お家で! ずるいずるい、茜ちゃんも誘え、部活の先生の茜ちゃんも誘え! 最初は拓海君と茜ちゃんの二人の部活だったのに! さくらちゃんズルい、この泥棒! でも可愛いしいい子だから全部許す! 良い生徒だよ、二人とも! さくらちゃんは良い子!」


「も~、茜ちゃん! ダメでしょぉ、生徒の事泥棒とか言ったらぁ! メだよ、メ! それに名前呼びもダメって決まってでしょぉ! ダメだよぉ、ダメぇ!」


「だいりょーぶらいりょーぶ! 学校ではちゃんとしてるし、それにお酒も飲まないから~! だかららいりょーぶ、らいりょーぶ!!! 茜ちゃんは偉いからね!」


「も~、それならいいけどぉ。あ、私が気になってるのは鮫島……じゃなかった。野村君とぉ、柊木ちゃん! 柊木ちゃんは……人には言えない事情もあったけどぉ、仲良くやってるしぃ、野村君は……私がヒミツ握ってるしぃ! だから気になるでありますぅ~、あの二人がどこまで進んでるかも!」


「野村君のヒミツって名字でしょ! 名字にヒミツがあるんでしょ、名探偵茜ちゃん気づいちゃったね!」


「お~、しぇいか~い! 流石だねぇ、茜ちゃん……それじゃあ次はダリアちゃんの番だよぉ!」


「えへへ、照れるな、そんな褒められると……あ、ダリアだよ、次は! ダリアダリアダリア!」

 ふわふわぽよぽよした声で話していた二人が急にバッと私の方を向く。


 ……この話、何回か聞いたな、すでに。

 酔っぱらったら毎回この流れになって、話す内容も大体一緒で……楽しそうだから良いけど、私に話しフラれてもちょっと困る。


 何の話しようかな、背後霊とかその辺の幽霊君達に聞いた話はあるけどあれはプライベート過ぎるし……あ、話してない話しあったわ。

 去年の話で今にも通じる現実で見た話があったわ。


「そうだな、私が話したいのは樹神と工藤の話だな。8組の二人だ」


「お~、あのラブラブの! それは聞いた話? それとも幽霊から?」


「あの二人は仲いいからねぇ。幽霊周りでもそんな話回ってるんじゃないのぉ?」


「そんな幽霊の話だけじゃないぞ、私は。これは私の体験談だ。アレは去年の10月くらい、市の施設の医務室にいた時の話だ……」

 ワクワクした表情で聞いてくる二人を諫めながら、私はあの時の話を始める。


 そうあれは何かピーンと来て医務室に無理いって入っていた時の話だ。

 あの日樹神佑司が工藤光を背負ってやってきた。



 ☆


「ん~、幽霊の気配したんだがな? 気のせいだったか……いや、私に限ってそんなミス……自分のミスは認めたくねぇな、これは来ない幽霊が悪い!」

 10月、無理言って変わって貰った医務室で私はそう胸を張る。


 なんか昨日この辺でピーンと来て変わって貰ったんだが、ここにいるのは善良な幽霊ばかり、悪霊なんて来やしない。


 だから私はただの医務室のお姉さん……マスクと眼鏡してるけどこれ学校にバレたらやばいかもな。もう帰っちまおうかな、どうせ誰も来ないし悪霊もいないし。背後霊君も……うん、帰りたがってる、帰ろう帰ろう!


「よっこいせ、ばあちゃんには悪いけど私はここで……」


「あ、あの! 医務室ですよね、ここ! ちょっと人が倒れてて、診て貰えますか? 背中の子の子です! 大丈夫ですかね?」

 そう思って荷物纏めて帰ろうとした瞬間、部屋にドタバタと急いだ様子でキレイな顔の少年が入ってくる。

 中学生くらいのその背中には同年代くらいの少女が背負われていて……ん、どういう状況だ、これ? 


「その、この近くの道でこの子が倒れてて! だからその……ほっとけないからちょっと医務室あったんで連れてきました! 大丈夫ですかね、この子? 息はあるんですけど、でも全然目を覚まさなくて……ど、どうですか?」


「ほーん、なるほど。まあそう焦るな、私に任せろ。ちょっと待ってろ……よし」

 焦った様子でぐるぐると目を回す少年をなだめながら、背負われている少女の後ろ―背後霊のおじいさんに話しを聞く。


 ふんふん、なるほど、なるほどねぇ……ちょ、それ隠すな気になるだろ! おい、幽霊がプライベートとか気にするな、私はこの関係を……

「あ、あの大丈夫、ですか? そ、その、えっと……」


「……ん? あ、すまない、大丈夫だ。その子はえっと……ああ、貧血と軽い日射病のダブルコンボだ。10月に日射病とは珍しいが横になっていればすぐに治る。だから大丈夫、そのベッドに寝かせてやってくれ」


「よ、良かったぁ、無事で。それじゃあベッド借りますね、寝かせますね……よ、よいしょ。良かった、悪い病気じゃなくて。ゆっくり休むんだよ、誰かわかんないけど、早く良くなってね……じゃあ、お願いしますね先生!」

 ホッと安堵の表情で胸を撫でおろしながら、その少年はベッドに少女を寝かすと、そのまま急いで部屋を出ようと……っておいおい! 何してんだ、何帰ろうとしてんだ、少年よ!


「え、何ってこの近くのグラウンドで妹の陸上大会がやってるんですよ! しかも小学校最後の! その雄姿を見るために僕は行かなきゃいけないんです!」


「いやいや、そうじゃないだろ! 少年、同世代の女の子を助けたんだぜ? ここはアレだろ、起きるの待ってヒーロー面して連絡先貰ってお礼にデート行くまでがテンプレだろ! そう言う事するのが普通だろ!」

 私も数多くの幽霊退治したり人間も幽霊も見て来たからわかるけど!

 こういう時は恩を押し付けるのが賢いんだぜ、少年よ! 逃げるなんてもったいない……しかもこの子には好意の相も見える、相性抜群!


 でも、私の言葉にその少年―トイプードルの背後霊曰く樹神佑司は呆れたように眉をひそめて。

「いや、何ですか、それ。それは最低でしょ、マッチポンプみたいじゃないですか。それに僕は当たり前のことしただけですから! そう言う感謝とか言いです、一刻も早く妹の下へ向かいたいんです!」


「待て待て待て! 当たり前じゃないぞ、女の子を背負ってここまで連れてきてくれる……それは感謝に値することだ! ほら、残ってこの子とデート行ってこい! ほら、ほら!」


「いや、だからそう言うの良いですって! 本当に当たり前のことしただけですから、感謝とかされることじゃないですから! だから大丈夫です、その子に変に恩を感じられるのも嫌ですし! だから大丈夫です、別に普通の事……あ、もし良ければ先生が助けたことにしてください! そうしてください、それがありがたいです!」


「いや、なんで私が中学生とデートしなきゃいけないんだ、私は彼氏持ち25歳だぞ? お前の方が向いている、絶対に向いている。だから残れ、お前がデートに行くんだ!」


「あ、先生意外と若いですね……ってそれはどうでもよくてですね! その、本当に大丈夫ですから、感謝されるようなことじゃないですから! ぶっちゃけた話すると目の前で人が倒れていてそれを無視するとなんか、こう……寝覚め悪いし、これからの人生引きずっちゃうじゃないですか! だから助けただけなんで、その……悪党みたいな理由で助けたんで! だから大丈夫です、感謝とかお礼とか似合わないです、早く妹の大会に行かせてください!」

 私が必死に説得しても、樹神佑司はふるふると拒否のポーズを取りながら、一刻も早く外に行きたそうにうずうずしていて。


 その当たり前をしない奴も多いんだが……でもこいつの説得は無理そうだ。背後霊のトイプードルもなんか頑固そうだし。

 困ったな、どうしよう? この少女―工藤光の背後霊はなんか樹神佑司の事知ってるみたいだし、好きみたいだし……ああ、そうだ、これだけ聞いておこう!


「もう行っていいですよね? そろそろ大会が始まるので……」


「ああ、ちょっと待って。少年、この子に何か言ってやれ! この子の事を想って、何かを言ってやれ」


「え、何ですか、それ……早く元気になってね! とかですか?」


「何だその味気ない返しは。もっとないのかもっと!」


「いや、普通でしょ、これが……そ、そうですね。頑張れ! とかですか?」


「それは意味わかんないだろ、何を頑張るんだ? もっと、こう……この子の容姿とかそう言うのに言及する感じの!」 

 ダメだ、こいつはまじめすぎる! もっとこう……あるだろ、色々!


「ど、どういうことですか……あ、えっと……軽かったよ、とかですか? あと、その……肌キレイだね、とか?」


「だいぶ良くなったけど、今度はキモイ、もう一声! もう一声!」


「わかんないですよ、何がしたいか……そ、そうですね……あ、髪切ったらもっと可愛いとかですかね? その今は長めですけど、あの……ボブとかそれくらいの長さの方が似合うと思います。そっちの方がその子可愛くなるんじゃないですか?」


「お、いいじゃん採用! OKでーす!」


「何が採用ですか、何がOKナンデスカ? 言わないでくださいよ、絶対に言わないでくださいよ!!! その子に言わないでくださいよ、こんな事……い、言わされただけなんですからね、先生に!」


「わかってる、わかってるよ~」

 子犬みたいにがぶがぶと背後霊と一緒に真っ赤な顔で噛みついてくる樹神をいなしながら、絶対に言ってやる! という意思を固める。


 確かにこの子は髪短い方が絶対に会うもんな、良い目してるぜ樹神よ……あ、そうだ。


「おい、少年、もう一つ! もう一つ聞かせてくれ!」


「な、何ですか今度は! 変な質問はやめ……」


「少年はどんな女の子がタイプだ?」


「変な質問じゃないですか……」

 私の質問に、帰ろうと脚を動かしていた少年の肩がズーンと落ちる。

 大丈夫だ、私は基本誰にも言わないから! そう言うスタンスだから言うまで行かせないぜ!


「……わかりましたよ。そうですね、僕の好きなタイプは……えっと、優しくて話があって……一緒にいて楽しくて身体がポカポカするような。そんな子がタイプです、優しくて趣味が合う子が好きです」


「なるほど、ムチムチで積極的な女の子が好きなんだな! 私みたいな!」


「ちゃんと聞いてました、耳ついてますか先生? まあそう言う人は嫌いじゃないですし、先生も意外と……って何ですか、どうしました今度は?」


「私は彼氏いるから諦めてくれ! これで質問は終わりだ、帰っていいぞ! 存分に妹の事応援してやれ、シスコンお兄さん……あと、この女の子助けてくれてありがとな」


「……なんか腑に落ちませんけど! でもわかりました、行ってきます! その子には変な事しないでくださいよ、先生! 変なことしちゃダメですからね!」

 釘をさすように私にそう言った樹神はそのまま外に向かって一直線に走り出していく。


 ふふっ、変な事か……まあ、背後霊にも結構話聞いてるし、これは変な事かな?

 まあ取りあえず、この子がおきるのを待つとするか……ん、どうした背後霊?

 何々……ふふっ、なるほど。それは面白いな。



 ★★★

 明日は2本(この続きともう一つの過去)をあげるかもしれないです、一緒になってる可能性はあります。

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