工藤さんの過去・色々助けられた、佑司君には

「んんっ、んっ……あ、あれ? ここ、どこ?」

 工藤の身体を冷やしながらしばらく待っていると工藤光がベッドの上で不思議そうに目を覚ます。

 キョロキョロと周りを見渡して、私の方を見てギョッとしたような表情を浮かべて……アハハ、怖がらないでくれ。私は保健の先生だ……今は医務室のお姉さんだけど。


「ん、おはよう工藤さん。貧血で倒れてたんだよ、君は……はい、これ飲んで。多分楽になるよ」


「は、はぁ、ありがとうございます……変な味ですけど、これなんですか?」


「経口補水飲料。まあ変な味と感じられるなら大丈夫だ、もう楽になってる」


「楽になる、って……私何かあったんですか?」


「ああ、道端で倒れてたらしい。それを樹神佑司君が拾ってくれた。君の事、助けてくれてそのままおぶってここに運んでくれたみたいだ、感謝しとけよ」


「へ、へー、そんなことが……って樹神佑司!? 佑司君!?」

 どこかふわふわ現実味の無い表情で聞いていた工藤の顔が一気にカッと現実に引き戻されたように真っ赤になる。

 にゃるほど、にゃるほど……にゃるほどね! これは真実だな、もうちょっと聞きだしましょう!


「そうそう、樹神佑司君……ってあれ、工藤さん樹神君の知り合い? 樹神君は貴方の事、知らなさそうだったけど? すぐ帰ったし」


「あ、いえ、その、佑司君は私の事、知らないと思います! 私がその、勝手に佑司君の事……あ、憧れてるだけなんで。勝手に佑司君に憧れて、それで……好き、とか思ってるだけなんで」

 真っ赤に染まった顔を隠すようにシーツで顔を覆いながら、ブツブツとそう呟く。


 なるほど、憧れか、好きか……なんかいいね、そう言うの、青春だ!

 私の妹は幼馴染の事大好きなのにツンが発動して疎遠らしいし、ちょっと青春成分足りてないところ、少し頂きたい所存!


「憧れ? 何かあったの、樹神君と……差し支えない範囲で教えてくれたら嬉しい」


「……佑司君は、あの、私の事救ってくれたんです。今もそうだったみたいですけど、それ以前にも救ってくれて……精神的にしんどくなってた私を救ってくれて。だからヒーローなんです、憧れなんです……大好きなんです」


「なるほどな。そんなことするとは樹神君もなかなかやるねぇ。2回も助けるとは本当に君のヒーローじゃないか」


「はい、そうです。佑司君は私のヒーローです、それに……2回目助けて貰ったら運命、感じちゃいます。憧れのヒーローで手の届かない大好きな人だと思ってましたけど、でもこんな風に2回も助けて貰ったら……えへへ、運命かもですね。私と佑司君は運命のアカイイトで繋がってるのかもしれませんね」

 そう言って嬉恥ずかしそうにニコッと笑う。


 運命ねぇ……私はあんまり運命視は得意じゃないけど、でもこのくらいなら……ほうほうほう……ほう!


「……どうしました、先生? 何のポーズですか、海軍大将ですか?」


「いや、ダイヤモンドジョズじゃない。ちょっとな、自己流の……あ、そうだ。そんなヒーローの樹神君から少し伝言を預かってる。聞きたいかい?」


「え、伝言……そ、それって私に対して、ですか? そ、その……わ、私の事何か言ってたんですか、佑司君は!? どうしよう、私今日そんな可愛い恰好じゃないし、それに……ほ、本当に私の事なんですか、佑司君は!?」


「ああ、言っていた。工藤さんの事色々言ってたよ……例えばそうだな、おぶったけどすごく軽かったとか、肌がキレイだとか、いい匂いして柔らくてふわふわで興奮したとか……そんな事色々言ってたな、樹神君は」


「え、ふわふわ、キレイ、いい匂い興奮……え、え!? ゆ、佑司君が私にそんな事、佑司君が私で興奮して、それで……え、え? えええ!?」

 樹神が実際には言っていない言葉もあるけど。

 まあでもそう言う色も言葉の端っこからちらちら見えたし、そんなニュアンスだった気もするし……それに工藤さんが顔真っ赤ですごくあわあわしてるし。


 期待通りというか、それ以上というか……とにかく憧れの好きな人に褒められたことを信じられないけど、でも本音はめっちゃ嬉しい! って言うちょっと複雑な感情を制御できずに、真っ赤な顔でふるふると身体を震わせて。


 可愛いなぁ、足りない青春成分が補充されていく気がする!

 私もこんな時期があったっけ、あの二人にも……うふふっ、いいなやっぱり青春は! こう言うの良いな、もっと揺さぶってやろう! これは実際に樹神が言ってたし!


「あ、あとこうも言ってたな。髪が短い方が似合うって、具体的にはボブカットくらいの方が似合うって……そんな風にも言ってたぞ。工藤さん……光ちゃんはボブカットが似合うんじゃないかって、そっちの方が可愛いんじゃないかって!」


「私キレイで、私で興奮、佑司君が……ってええ!? そ、そんな事も言ってたんですか、佑司君は!? 私にそんな事、髪短い方が似合うとか、可愛いとか、そっちの方が好きになるとか……佑司君そんな事!? 私にそんな……ほ、本当ですか先生!? 本当に佑司君そんな事言ってくれたんですか!? 私の事そんな風に褒めてくれてたんですか!?」


「ああ、言ってたぞ。そっちの方が絶対に可愛いのにもったいない、って! 絶対に可愛くなれるのにって!」


「あうぅ、佑司君、私の事、そんなに……ゆ、佑司君、もしかして私の事……佑司君も私の事、好きなのかなぁ……も、もしかして一目惚れとかしてくれちゃったのかな……えへへ、それなら凄く嬉しい……えへへ、やっぱりアカイイト? 運命のアカイイトの両想い……えへへ、佑司君嬉しいな。両思いなのかな、私たち?」

 ぽわぽわとした表情で、自分の世界に入ってしまったようにほっぺをてるてるしながらクラクラした様に足を動かす。


 ……実は、樹神の方にそう言う相は全然見えなかったんだけど、でもそれを言うのは野暮ってもんだい。多分あっちの好きとはちょっと違って……あ、そうだそうだ、これも伝えないと、それならこれも教えておかないと。

「いや~、それはちょっと気が早いかもだぜ、工藤さん。ただの感想かもしれないし……あ、そうだ! 実はね、樹神君は好きなタイプについても教えてくれてたんだよ! 聞きたい、樹神君の好きなタイプ?」


「えへへ、ダメだよ、佑司君、私たちまだ……え、好きなタイプ? 佑司君の好きなタイプ、ですか……え、えっと私、ですか?」


「お~、自信満々だな。でもちょっと違うかな……樹神君の好きなタイプは一緒に居て楽しくて身体が温かくなるような人だって! あとムチムチで積極的な女の子も好き、って言ってた! 樹神君はムチムチで積極的で、一緒に居ると楽しくなる人が好き、って言ってたぞ!」


「え、ムチムチ、積極的……わ、私胸は大きくなってきたけど、でもまだ貧相……コミュ力もそんなにだし、佑司君のタイプじゃない、のかなぁ……両想いって思ってたけど、実はアカイイトまだ……?」

 私の言葉にぺたぺたと自分の胸を触りながら、少し残念そうな顔をする工藤さん。


 まあムチムチ云々は背後霊のトイプードルが言ってたことで本人の意志ではないけど……あれ? そうなるとアレはトイプードルの意志? でもムチムチ好きのトイプードルとか嫌だし、多分違うよな? あれ樹神本人の意志だよな?


 そんな事を考えていると、ぺたぺたと身体を触っていた工藤さんがんっ、と覚悟を決めたように顔をあげる。


「せ、先生! ありがとうございます! えっと、その……私頑張ります! 佑司君の理想の女の子になれるように、佑司君が可愛いって言ってくれた、好きって言ってくれた……そんな女の子になれるように頑張ります! 頑張って、佑司君の大好きな私になれるように頑張って、それで……佑司君に直接好きって言ってもらえるように! 佑司君の大好きになれるよう、私頑張ります!」

 強い意志のこもった目でそう言った工藤さんの顔は真剣で、混じりけのないキレイな瞳で。


「ふふっ、頑張れ工藤さん。私は応援することしかできないけど、頑張るんだぞ!」


「はい、頑張ります! 私絶対大好きな佑司君の大好きな女の子になって、それで佑司君に大好きになってもらいます! 私の事大好きになってもらって、それで大好きな佑司君と二人で……えへへ。とにかく頑張ります! いっぱいいっぱい全力で頑張って、佑司君の大好きになります!」



 ☆


「……って事があったんだよな。なかなか面白い話じゃない、これ?」


『面白い! なんで黙ってたの!!!』

 私が話を終えると、おとなしくビールを飲みながら聞いていた二人からそうツッコミが入る。

 いや、話しても良かったけどプライベートの話だし? 言わないで良いかなって。


「ダリアがプライベートとか言うなんて……まあいいや。でもでもその話聞いてると、工藤さん凄いね! 完全に樹神君のタイプの女の子に変身してるじゃん!」


「それなんだよ! 相手は私と気づいてないかもだけど、私は入学式で工藤の姿見てびびちまったぜ。本当に樹神のタイプの女の子に変わってて、努力したんだな、って……ってあれ? どうかしたか、穂乃果? 何をそんな考え事?」


「……ん? あ、ごめんね、二人とも。あの、ちょっとね……あ、思い出した! 私もそんな話、あったな、って事思い出したよ、樹神君と工藤さんのお話……あれは入試の日だったかな?」

 う~ん、と不思議そうに首を傾げている穂乃果に声をかけると、何か思い出したように手を打ってじんわりとまた話し始めて……え、また回想入るの? 



 ☆

《穂乃果先生の視点》


「あ、先生。その、右斜め前の女の子……ああ、その子です、その子です。その子、さっきから体調が悪そうです、一回行ってくれませんか?」

 極寒の2月、中学生にとって大事な大事な高校入試の日。


 試験監督をしていた私を呼びだした男の子はそんな大事な日の、しかも試験中にも関わらず他の子の心配をして……この子は確か樹神佑司君。えっと……おお、全額免除組か、今期は二人だけの! 

「……あ、すみません。たまたま目に入っちゃって、それで気になっちゃって」


「ふふっ、わかったよぉ。ちょっと聞いてみるねぇ、ありがとぉ」


「は、はい……あ、僕から言ったってことは言わないでくださいね。恥ずかしいかもですし、そのカンニングとか疑われても嫌ですし……だからその、良い感じにお願いします」


「わかってる、大丈夫だよぉ。ありがとぉ、樹神君」


「ごめんなさい、お願いします」

 ひそひそ声でそう樹神君と会話して、言っていた受験生―工藤光さんのところに行ってみる。


「……んっ、んんっ……ハァハァ……」

 ……確かに辛そうで、体調が悪そうだ。


 この状態に気づかないなんて、ましてや受験生に気づかせるなんて試験監督……いや、教師失格だね! でも今はありがとうを樹神君にって


「ごめんねぇ、工藤さん。体調悪そうだけどぉ、大丈夫?」


「……ふえっ、え、あ、その……トイレ、行きたいです。お腹痛くて、めっちゃ痛くて、だから、その……トイレ、行きたいです、でも試験が……」

 真っ青な顔の工藤さんにそう言うと、驚いたようにキョロキョロと周りを見渡した後、ぼそぼそ消えそうな声でそう言って……もう、そう言う事なら早く言ってよ、恥ずかしがらないで言ってよ!


「わかった、それじゃあトイレ行こう。大丈夫、まだたっぷり時間はあるから。だから大丈夫だよ、安心して」


「……は、はい。ありがとう、ございます」

 そう言った工藤さんをトイレに連れて行く。



 しばらくするとスッキリして、まだ緊張の色は見えるけど、でもかなり楽そうになった工藤さんがトイレから出てくる。

「あ、あの、ありがとうございます……ありがとうございます」


「……どういたしまして」

 ありがとう言うのは私じゃなくて樹神君の方だよ。


 でもこれ言うと受験にあれかもだし……この話は終わった後にしてあげよう!



 ★★★

 明日は過去編ラスト+現在に戻ります。

 感想や☆やフォローなどしていただけると嬉しいです!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る