第32話 本当の理由

「なあ、樹神佑司? この中だと誰が一番可愛いと思う? 俺たちのクラスメイトの中で誰が一番だと思う?」


「なんでフルネームなんだよ、瀬川君……あと、クラスメイトかどうかは決まってないだろ。わかんないだろ、まだ」

 お昼休み、隣に座る瀬川竜馬君の大声に少しため息が出てしまう。

 スポーツと勉強で違いはあるけれど、一応瀬川君も僕と同じ推薦組でだから仲良くなったけど、相変わらず声が出かいな、瀬川君は……まあそこが面白くもあるんだけど。


 ていうか可愛い女の子って、受験当日にする話じゃないだろ、合格決まってるとは言え。

「まあ、そうだけどさぁ! でもでも最初から目星つけとくのは大事だぜ、樹神佑司! 可愛い子は探すのが大事! ていうかそろそろ名前で呼べ!」


「そうなのかなぁ? いや、でもさぁ……」


「そうだよ、そうだよ、瀬川君に佑司君! それは大事なことだよ、大事大事! 将来のクラスメイトと仲良くなるのすごく大事、可愛い子探すのも大事!」


「ああ、そうだよな! いやー、気が合う奴がいて! ええっと……」


「ああ、ごめんごめん! 俺の名前はさm……野村日向! よろしく、二人とも!」

 僕達の受験当日とは思えないバカで能天気な会話に割り込んできた中性的な顔立ちのイケメン男子―野村日向君がスッと僕たちの方に手を伸ばす。


 なんかすごいコミュ力がありそうな人だな、いきなり話しかけるとは凄い、しかも緊張するであろう受験当日に。

 ま、まあ取りあえずよろしく野村君!


「アハハ、日向でいいぞ……まあ俺的にはあの子とか可愛いと思うな、あの窓際のポニーちゃん! あの子とか可愛くない、俺結構好み!」


「おー、それは俺もわかる! あの子可愛いよね、動作も声も可愛いし! 俺的にはそうだなぁ……あの右端の子! あんな感じの清楚な女の子が俺は好き!」


「あ、わかる俺も好き! 確かに可愛い!」


「声大きいよ、二人とも……えっと、竜馬も日向もうるさいよ」

 初対面なのにお昼ご飯をキャッキャと騒ぎながら女の子を見ている二人に思わずツッコミ。お昼休みだよ、勉強してる人もいるんだよ、ちょっと静かに!


「そんな固いこと言わんでや、佑司! やっぱり春から高校生たるものこういう会話はしますよ、なあ日向!」


「そうだよ、そうだよ佑司に竜馬! 男子高校生だぜ、こういう話も必要だぜ! ところで佑司、佑司は誰が可愛いと思う? この中だと誰がとかある?」


「あ、それ俺も聞きたい! 聞きたい聞きたい!」


「馴染んでなぁ、二人とも。すぐ仲良くなって凄いや……そうだな、僕はえっと……」

 馴染んでいる二人の空気をぶち壊すわけにも行かないので、僕も周りをキョロキョロ見渡して、可愛い女の子探し……我ながら最低なことをしている気もするけど、でもまあ、うん。流れぶち壊すわけにはいきませんし、でもう~ん……あ、あの子! さっきのあの子良いじゃん!


「僕はあの子かな、あの前の方の席の髪長い子。あの子可愛いと思う」

 さっき体調悪そうにしていて、今も少しフラフラしているその子を指さす。

 さっき気づいたのもたまたま目で追ってたのが原因だし、この子可愛いと思う!


 でも僕の指さした子を見て、日向はふーんと、竜馬はえーと眉をしかめて。

「へー、なるほど。そう言う感じの子が好きなんだな、佑司は! ちょっと大人締めの感じの子が好きなのか?」


「えー、ちょっと地味じゃねあの子? なんか、その……俺はあんまり好きな顔じゃねえな」


「いやはや、二人ともわかってないなぁ。あの子可愛いと思うよ、後ろ姿とか横顔とかめっちゃステキだし。ロングは似合ってない気もするけど、髪短くしたらもっと可愛いと思うぞ、多分ボブとかにしたらお前らの認識も変わる」

 まあ二人の言う通りちょっと地味だとは思うけど。

 でもこういう子は髪の毛切ったら可愛くなるんだ、僕の目利きは結構凄いんだぞ!


「いや~、そうかなぁ? 俺はそうは思わんけどなぁ?」


「いや、絶対可愛くなるって、絶対! あの子とかも髪切ったら可愛くなりそう、あの子はショートかな?」


「なんかキモいな、それ……そしてあの子は無理だろ、あの子貞子じゃん」


「貞子とか言うな、酷いぞ竜馬! 女の子にそんな事言うんじゃありません!」

 髪長いだけでしょ、多分可愛いよあの子! ワカンナイケド、体調悪かったこと同じくらい可愛いと思う!


 だから、えっと……あ、昼休み終わりか、ちょっと残念。

「ふふっ、熱い男じゃん佑司! よろしく!」


「熱くはないよ、別に……でもまあ、うん、よろしく、日向!」



 ☆


「お~い、君、そこのきみぃ!」


「え、私……あ、さっきの先生。あの時はどうも」

 すべての受験が終わって受験生が帰る中、さっきの工藤さんを見かけたので声をかけてみるとそう言って血色のいい顔でお辞儀してくれる。


 お、体調戻ったんだね! 良かった良かった!


「はい、おかげさまで……ありがとうございます!」


「うんうん、どういたしましてぇ……ってこれ言うのは私じゃなくて樹神君だよぉ! 同じ受験生の樹神佑司君にありがとう、って言っておいてねぇ、あの子があなたの不調に気づいてくれたんだからぁ!」


「……え、佑司君!? 佑司君がいたんですか!? ていうか佑司君がまた……ほ、本当ですか先生!?」


「う、うん本当だよぉ。本当に樹神君があなたが体調悪そうって教えてくれてぇ……もしかして知り合いだったぁ? それならもっと早く言うべきだったね」


「い、いえ、その……憧れの人です。知り合いではないけど、憧れで、あの……だ、大好きで、アカイイトで結ばれてる人です……えへへ」

 私の言葉に喰いついてきた工藤さんが嬉しそうにほっぺを抑えながらくねくねと横に身体を揺らす。


 え、憧れ、大好き? なおさらいうべきだったじゃん、ミスです!


「だ、大丈夫です! そ、そのまだ佑司君に会う準備できてませんから、その、私まだムチムチじゃなくて育乳中だし、、髪も長くて、コミュ力も……今はまだ佑司君に会えないです。まだふさわしくないですから、まだ大好きになれないですから……だから会えなくて、まだよかったです。ちゃんとした私で、佑司君の大好きな私になって会いたい、ですから」


「あ、そ、そうなんだぁ! それなら良かった?」

 ……なんか重たいな、この子。

 何というか、その……あ、愛されてる樹神君は幸せ者だな、うん!


「はい、大好きです、幸せです……それにやっぱり運命です。学校知らなかったのに、一緒の学校で……やっぱり運命、私と佑司君運命です。運命のアカイイトでで繋がってるんです……えへへ、私と佑司君はやっぱりそう言う事なんですね……やっぱり両想いの運命なんですね……ふへへ」


「う、うん、そうだね! うん、それじゃあ頑張って、工藤さん! ファイトファイト!」

 ……工藤さんには申し訳ないけど、ちょっと怖くなったからここは退散しよう。

「はい、頑張ります!」なんて無邪気に言ってくれてるけど、でもその無邪気さが逆に怖いよ、なんか怖い! とにかく、その……頑張れ、工藤さん!



「よーす、お待たせ光……ってなんか幸せそうだな。何かあったか?」


「えへへ、真夏ちゃん、その……やっぱ佑司君大好きだなって。佑司君また私の事助けてくれて、それで……えへへ、私たち運命だね、やっぱり」


「また佑司君か……あ、そう言えばその佑司君が光の事可愛いって言ってたような? 昼休みに光が可愛い! みたいな話してたような? ボブの方が可愛いてきな?」


「え、ほ、ほんと……えへへ、やっぱり両想いじゃん、私たち。やっぱり大好き、絶対一緒になりたい……私の運命の、大好きな佑司君」

 ―まずは髪を切って可愛くなって、それでもっとおっぱい大きくして、コミュ力も高めて積極的な女の子になって……えへへ、高校入学までに理想の女の子にならないとね! 佑司君の理想の一番可愛い私に……だから待っててね、佑司君!



 ☆


「……なーんて話があったんだよぉ……って二人とも聞いてるぅ?」


「ふぇぇ? 茜ちゃん難しい話よくわかんない! ぱっぱらぱー!」


「もー茜ちゃん! 茜ちゃん! スルメぽいーだよ、ぽいー!」


「うええ、やったな! 私は、それじゃあ柿ピービーム!!!」

 ……ここ私の部屋なんだけどなぁ?


 なんで二人ともこんな我が物顔でお菓子を投げて……いつも通りだから良いけどさ、ここもそろそろ引っ越すし。


 それより樹神のやつ、そんなすごい経験してたのか、そんなに工藤のやつとフラグ立ててたのか……今度また背後霊見てやろ、色々観察させてもらおう!


「うおお、穂乃果!」


「おりゃあ、茜ちゃん!」

 ……そしてこの二人はほっとこう。やっぱりもう……めんどくさい。



 ☆


《現代戻ります》


「え、ちょっと待って、あの女の子……え!? え!?」


「え、嘘でしょ!? あれも、あの子も!? え、そ、その……マジで!?」

 少し怖い目の工藤さんの話してくれた話はどれも衝撃的で、信じがたくて……でも、そのどれもが知っている話で。


 野球部の話も、倒れてる女の子助けた話も、受験の話も……全部全部知ってる話で。


「本当、全部ホント、全部佑司君が助けてくれたの。佑司君のおかげで今の私があるの……佑司君のおかげなんだよ?」

 真っ黒な、吸い込まれそうな目を僕に向けながら工藤さんは怖い笑顔。

 その笑顔に身体が固まってしまって。


「佑司君、私佑司君のために変わったんだよ? 佑司君が短い髪の方が似合うって言うから、ムチムチで積極的な女の子が好きって言うから……そうなれるように頑張ったんだよ? 佑司君のために頑張って、佑司君に好きになってもらうために……だからこれは佑司君のための身体なんだ、私は佑司君のものなんだよ?」


「いや、その、えっと、それは、ちが……」


「違うくない、全部佑司君のおかげだもん。心がおれなかったのも、今生きてるのも、この学校に受かったのも、可愛くなれたのも……全部全部佑司君のおかげ。佑司君が居なかったら今の私はないんだよ……これでも好きになった理由、わからない? 私が佑司君の事好きな理由わからない?」


「ううっ……」

 ……わかってるけど、でも身体が動かない。

 どうしたらいいかわかんなくて、正解は何か……それがわかんない。


「ねぇ、佑司君聞かせて? 佑司君の気持ち、もう一回……私は全部伝えたよ。佑司君を好きな理由を、大好きな理由を……だから教えて佑司君? 私に教えてよ、私の事……好きって言ってよ」




「……ごめんなさい」



 ★★★

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