第33話 好きって言ったのに

「ねえ佑司君! 佑司君も私の事好きだよね、大好きだよね私の事! 私の事、好きになってくれたよね! 好きだよね、大好きだよね! 佑司君の好きになれるように頑張ったもん、佑司君の大好きになれるように努力したもん!」


「……」

 こんなに好きでいてくれる娘になんて言えばいいかがわからなくて。

 ずっと昔から好きで、僕の事をずっとずっと好きでいてくれて……そんな工藤さんに言う言葉が全然思いつかなくて。


「ねえ、佑司君答えてよ! 佑司君佑司君! 好きなんだよ、佑司君の事、私大好き……だから佑司君も、私の事……佑司君、運命じゃなかったの? 私と佑司君っは運命のアカイイトで繋がってるんだよね? 私と佑司君は運命なんだよね?」


「……」

 何を言えばいいかわかんないし、何をすればいいかも思いつかない。

 でも一つだけ確かなことがある。わかんないけど、でも一つだけ、確かなことがある。


「ねぇ、佑司君聞かせて? 佑司君の気持ち、もう一回……私は全部伝えたよ。佑司君を好きな理由を、大好きな理由を……だから教えて佑司君? 私に教えてよ、私の事……好きって言ってよ!」


「……ごめんなさい」

 ……今の僕にはその工藤さんの気持ちに応えることは出来ない。

 僕はもう……だからごめんなさい。その気持ち、応えることが出来ないです。



 ☆


「……はぁ!? なんでなんで!? なんで、意味わかんない! わかんないわかんないわかんない!!!」

 僕の言葉を聞いて、一度手を離していた工藤さんの手がもう一度僕の胸元に来る。

 ごめんね、でも……こう言うしかないんだよ。


「なんで! なんでなんで! 佑司君言ったよね、好きな理由がわかんないって、好きになった理由がわからないから無理だって……言ったよ、好きになった理由! 佑司君に助けられて、佑司君が私の事……言ったよ、全部! 私が佑司君を好きになった理由!!! 今の私がいるのは佑司君のおかげだから、佑司君無しに私は生きていけないから! なのになんで!? わかったよね、私が好きになった理由……勘違いとかそんなんじゃなかったよね!?」


「……それは分かったよ。わかったけど、でも……わかったうえで、ごめんなさい、なんだ」


「意味わかんない、意味わかんない! ごめんなさいなんていらない、そんな言葉聞きたくない!!! 聞きたくないよそんな言葉、意味わかんないよそんな言葉! そんな言葉佑司君から聞きたくない、運命の大好きな相手から聞きたくない!」


「……ごめんなさい」


「いらないって、だから! いらないって、いらないいらない!!! 聞きたくない、聞きたくない!!!」


「……」

 僕の胸元でぐらぐらと暴れる工藤さんを止められずに。

 幼い子供のように、自分の思い通りにならなくて暴れまわる怪獣のようにポカポカと僕の胸を叩きながら、どうしようもなく高くなってしまった声をぶつけてきて。


 ……ごめんなさい、本当にごめんなさい。

 僕だって心苦しいよ、僕だってしんどいよ。


 これだけ好きって言ってくれて、これだけ僕のために努力してくれて、僕のせいで色々変わっちゃった工藤さんにこんな言葉かけるのしんどいし、ダメなことやってる気がするし。

 こんな事言うの辛いし、壊れそうだよ色々。


「ねえ佑司君、なんで? 可愛いって言ってくれたよね、好きって言ってくれたよね? 短い髪の私が、元気よくて積極的な私が、ふわふわで柔らかい私が……好きって言ってくれたよね? 佑司君好きなんだよね、私の事好きなんだよね? ねぇ、ねぇ!!!」


「……ごめんなさい」

 ……でも、これが僕の本当の答えだから。

 今の僕は……斉川さんが好きで、だから……工藤さんの想いには答えられないから。

 一度に二人の人を好きになれるくらい僕は器用じゃないから、そんなに人間として大きくも小さくもないから。


 だからごめんなさい。

 どれだけ言われても工藤さんの気持ちには応えられません、これが……これが僕の気持ちです。


「なんで? なんでなの!? 嘘だったの、私の事可愛いって言ってくれたの、好きって言ってくれたの嘘だったの!!! ねえ、佑司君! 嘘ついてたの、私を騙してたの!?」


「……好きとは言ってない。そんなことは言ってないよ、最初から」


「嘘つき! 言ってた、佑司君言ってた! 言ってたもん、佑司君! 短い髪で積極的でふわふわもちもちましゅまろボディの女の子が好きだって……私なったよ、佑司君の大好きに! 佑司君のために髪も切ったし、怖かったけど積極的に話しかけたし、育乳とか頑張ってましゅまろボディなるために、佑司君に好きになってもらうために……頑張ったんだよ、私! 頑張って、佑司君の好きになったんだよ!」

 必死に訴えかけるようにそう言って。

 惜しげもなくその身体を僕に引っ付けながら、僕の理想と言わんばかりにそれをぐいぐいと押し付けて、少し血の気の引いた青い顔で僕を見上げて。


「ねえ佑司君、私頑張っただよ……佑司君のために、嫌いな事もやったし、苦手なことも頑張った……本当はこんな積極的な性格じゃないし、長い髪の方が好きなんだ。トレーニングも苦手だし、おっぱいも大きくなかった……でもね、佑司君が好きって言ってくれたから。佑司君の言葉で頑張れたんだよ、佑司君の好きって言葉で、今の私はここに居るんだ、大好きな運命の人のために頑張ったんだよ」


「……うん」

 分かってる、工藤さんが努力したのは分かってる。

 あの時よりすごく可愛くなって、背中に感じた感触とは比べ物にならないくらい柔らかくて、ふわふわで……わかってる、工藤さんが努力したのは分かってる。


 でも、僕は、僕は……僕は……やっぱり好きとは言えない。


「ねえ、佑司君、好きって言って……私の事、好きって言ってよ。私ね、もう佑司君がいないと生きていけないの。佑司君がいないと何もできない、佑司君の好きになるのが目標だったから……佑司君がいないと私何もわからない。何すればいいかわかんない、どう生きればいいかもわかんない。佑司君が……佑司君が好きって言ってくれないと私、どうすればいいかわかんないよ」


「……ごめんなさい、工藤さん。ごめん、今はダメだ。今の工藤さんを……僕は好きになれないよ」


「なんで、なんでなの……なんで佑司君、私もう……」


「……だ、だからさ! もう一度なってよ、僕の好きに……僕の大好きにもう一度なってよ!!!」



 ★★★

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