第17話 雅樹の家族とちょっぴり疑惑

 ―久しぶりに樹神君と帰れて、やっぱり楽しくて、嬉しくて……えへへ、やっぱり好き、樹神君との時間好き。


 ―電話じゃ感じれない温かさとか表情とか、そう言うのいっぱい見れて、やっぱりナマで話す方が好き、ナマが好き。


 ―学校でもこんな風に話せたらいいけど、でも工藤さんが……うゆゆ、どうするのが、正解? どうすればいいのかな……えへへ、わかんないけど今楽しい気分だから、それでいいや。


 ―今日の夜も電話、約束したし、それに校外学習でもバスの隣で……えへへ楽しみだな。これからもずっと楽しみだな!


「えへへ、ぬへへ……あれ、そう言えば雅樹まだかな? いつもは帰ってる時間だけど……どうかしたのかな?」

 いつもは早く帰ってくるはずの雅樹が今日は遅い……なんかあったかちょっと心配だけど、でも雅樹も中学生。

 きっと大丈夫だろう、大丈夫大丈夫。


 私は、その……樹神君にだけ、集中します……えへへ、樹神君との電話も好き。

 樹神君との電話ふわふわして……お母さんとかには言えてないけど、電話してるのが

 樹神君って事。


 私が男の子と電話して、えっちな子だと……そう言う風に思われたくはないから、まだ言ってないけど。

 でもそれがもっとヒミツ感あって……えへへ、やっぱり好きな時間。



 ☆


「ところで雅樹、勉強はどうだ? また僕が教えてやろうか?」


「いやー、大丈夫っす! 俺、こう見えて勉強得意なんで!」

 二人で座ったベンチで、隣の雅樹がそう胸をポンとたたく。


 妹を迎えに行ったグラウンド、すぐに帰ってスイーツだ! なんて思ってたけど、希美が何か忘れ物したらしく今は親の迎えを待つ雅樹と二人の会話。


 雅樹とも結構長い付き合いだよな、僕。

 確か希美がクラブに入ってからだから……4年くらい? 


 初めて会った時から妙にウマが合って仲良くなって、それから家に来て希美と3人で遊んだり、祝勝会みたいなBBQに参加したり……希美の友達、ってこともあって雅樹も弟みたいな存在だ。勉強も希美と一緒に結構教えてたし……だからさっきの勉強得意発言は少し怪しく思っちゃう。


「いや、マジで得意なんすよ、俺! あと俺姉ちゃんもいるんで、賢い姉ちゃんもいるんで、もうお兄さんの教えは受けなくて大丈夫です!」


「え~、本当か? まあ雅樹がそう言うならいいけど。ていうか、雅樹のお姉さんって僕と同い年だっけ? 一度も会ったことないから知らないけど、なんかそんな話してなかった?」

 そう言えば雅樹にはお姉さんがいる、って昔から言ってな、今の今まで忘れてたけど。祝勝会とかにも1度も来てないからあった事もないし、名前も顔も何もかも全部知らないけど。


「はい、そうです! 最近めっちゃ楽しそうなんすよ、姉ちゃんが! 中学の時までは引っ込み思案なせいで友達もいなかったのに、高校に入ってからイメチェンして可愛さがさらに増して、友達作って、ちょっと心配だけど毎日誰かと電話してすごく幸せそうで、ポヤポヤしててもう天使で……ていうか多分同じ高校っすよ、制服とか校章見るかぎり。めっちゃ可愛い子、どっかで見かけませんでしたか?」


「お、そりゃよかった。ていうか同じような話最近……って、それマジで? それなら案外どっかであってるかも! ていうかそんな可愛い子なら会ってみたい!」

 可愛い子なら斉川さんとか工藤さんとか斉川さんとか色々僕の友達にもいるけど、でも会ってみたいってのは男の性だし!


 だから会ってみたいな、雅樹のお姉ちゃん……あ、別にそう言う浮ついたやつじゃなくて、ただの好奇心! 斉川さんは外見も中身も好きだから!

 それに雅樹のお姉ちゃんだし! 会ったことないけど、話は聞いてたし! 妹の友達のお姉ちゃんと仲良くなるのは何か良いと思うし!


「ふふっ、そうっすね! 俺もお兄さんと姉ちゃんが仲良くなったら嬉しいっす! それで姉ちゃんの事守って欲しいっす、あわよくばですけど!」


「守る? いきなりどういう事?」

 いきなり守れって言われてもそもそもまだあった事ないんだし。

 そんな事言われても出来ないんですけど。


「ああ、そうっすね。最近姉ちゃんが誰かと電話してる、って言ったじゃないですか……アレ、俺怪しい男なんじゃないか、って思ってるんです!」


「怪しい男? なんで? お姉さん、楽しそうなんでしょ?」


「楽しそうだから問題なんです! 姉ちゃん女の子の友達と遊びに行った写真は色々見せてくれたっすけど、でもその電話の相手の事は何も話してくれなくて、『ヒミツ!』って可愛いく言うだけで……怪しくないっすか、これ! イメチェンしたのも友達作れたのもその電話相手のおかげ、って姉ちゃんは言うんですけどなんで姉ちゃんにそこまで指図するかもわかんないし! しかも電話するときは普段かけない部屋の鍵まで閉めて音が洩れないようにして、終わった後はほわほわ幸せそうで……めっちゃ怪しくないっすか、これ!? 絶対やばい奴と話してると思うっす!!!」


「いや、怪しいも何も彼氏できたんじゃないの、お姉さんに? 彼氏と電話してるんじゃないの、それ?」

 雅樹はめっちゃ熱弁してるけど、多分それ彼氏だよ。

 イメチェン促したり、そんな風に幸せそうに電話してするって多分彼氏が出来たんでしょ、お姉さんに。それでなんか性格も変わって、友達も出来て明るくなった、みたいな話じゃないの?


 その僕の言葉を聞いて、雅樹は狼狽した様にあわあわ話し出す。

「ね、姉ちゃんに彼氏!? あ、ありえないっす、姉ちゃんに彼氏とかダメっす!!! 姉ちゃんは純粋で可愛いから騙されやすくて……絶対に誰かに騙されてるっす! 彼氏とかダメっす、彼氏はまだ姉ちゃんには早いっす!!!」


「いや、お姉さん僕と同い年でしょ?」


「ダメっす、姉ちゃんにはまだ早いっす! とにかく! 姉ちゃんは誰かに騙されてるっす、悪い男に騙されてる可能性が高いんです! なので、お兄さん! 姉ちゃんと仲良くなって姉ちゃんの事を守って欲しいっす……お兄さんなら別に姉ちゃんとどうなろうが俺は大歓迎ですし! お兄さんは良い人ですから、姉ちゃんの事信用して任せられますし!」


「アハハ、ありがと。でも絶対彼氏だと思うけどなぁ、僕が行っても邪魔になるだけだと思うよ? まあとにかく、名前だけでも教えてよ、僕もあってみたいし」


「彼氏じゃないっす、絶対違うっす! 頼みましたよ、お兄さん! えっとですね、姉ちゃんの名前は……」


「おーい、雅樹! 迎えに来たぞ、靴見てはよ帰るぞ……って佑司君じゃん! 久しぶり、元気してた? 高校楽しい?」

 雅樹が名前を言おうとした瞬間、ものすごい排気音とともに一台の車がベンチの前に止まる。そして窓から顔を出して雅樹の名前と一緒に笑顔で僕に手を振ってきて。


「あ、久しぶりです、綾子さん! もちろん元気です、僕も希美も! 高校も楽しいです!」

 窓から手を振る雅樹のお母さん―綾子さんにそう元気よく挨拶する。

 苗字は忘れた、というかあった時から綾子さんと雅樹だからそもそも知らない。


 僕の声を聞いた綾子さんは嬉しそうにほっぺを緩ませる。

「ふふっ、久しぶりに会ったけど佑司君も元気そうで良かった! 高校も楽しいみたいだし、もしかしたらうちの娘と会ってるかもね! 実は同じ高校なのよ、雅樹の可愛いお姉ちゃんも……もしかしてもう友達なってるとか? 実はもう仲良くなってる!? 佑司君ならお姉ちゃんに何しても私大歓迎でむしろ嬉しいけど!」


「アハハ、それさっき雅樹も言ってくれました。ありがとうございます、そんな褒めて貰えて光栄です。でも娘さんとは多分会ってないですよ、会ってたら気づくと思いますし。名前とクラス聞ければ会いに行きますけど! でも多分、そんな可愛いお姉さんには会ってないと思いますよ」


「お兄さん、それは俺の口から言う! えっとですね、姉ちゃんの名前はあ……」


「おーい、お兄ちゃんお待たせ!!! ごめんね、色々忘れてて……って雅樹のお母さんの綾子さん! こんにちわ、いつもお世話になってます!」

 またまた雅樹が名前を言おうとした瞬間、その声をかき消すように今度はふわふわ笑顔の希美が乱入。

 くそっ、なかなか名前が聞けないな、そんな可愛い子なら会いたいのに!


「ちょっ、希美! 変な言い方すんなや、別にお世話してないだろ!」


「はぁ、そう言う意味じゃないんですけど!?」

 そんな僕の気持ちも知らずに、なぜか言い争いを始める雅樹と希美。

 この二人いつもケンカしてるな、ケンカするほど仲がいい、って奴だろうけど。


「ふふっ、相変わらず仲良しだね、雅樹と希美ちゃんは。希美ちゃんは今日は佑司君とお出かけ?」


「だから、雅樹……あ、はい、そうです! 今からお兄ちゃんと二人でスイーツ食べに行きます! 甘い物大好きなんで、えへへ」


「そっかそっか。それじゃあ雅樹、私たちも早く帰るわよ。兄妹水入らずの時間、邪魔しちゃダメだからね! それじゃあ二人ともさようなら、また会おう! お母さんとお父さんによろしく!」


「あ、ちょ、かあさ……ばいばい、希美とお兄さん! また会いましょう!」

 猫なで声の可愛い希美にニコニコ返事した綾子さんはそのまま雅樹を引きずって、車を走らせ視界の外へ……ちょ、まだ名前聞いてないんだけど!? まだその超絶可愛いお姉ちゃんの名前聞いてないんだけど!?


「ばいばーい……よーし、それじゃあお兄ちゃん! スイーツ食べに行くよ、今日はお高いの食べるからね! 行きたいお店あるから一緒に行くよ、学割効くらしい!」


「う、うん……ところで、希美。雅樹のお姉ちゃんの事、何か聞いてない、名前とか? その、僕と同じ学校らしいんだけど」


「え、知らない、何も聞いてない。雅樹のお姉ちゃんの話はよく聞くけど、名前とかは知らないな」


「そっか……どんな子なんだろう、そのお姉ちゃん?」


「まあ、めっちゃ可愛いらしいけど……ところでお兄ちゃん、もしかして雅樹のお姉ちゃんの事狙ってるの? 私、雅樹が弟になるのはちょっと……」


「違う違う、狙ってない狙ってない! 気になっただけだから! ほら、早く行こ、あんまり遅くなるとお母さんに怒られるし!」

 好きとかそんなんじゃないし、会ったことないし!

 それに好きな人はもういるし!


「むー、怪しいなぁ……でもいいや! 取りあえず、今日はお兄ちゃんのお金でスイーツ楽しむぞ~!」


「アハハ、ほどほどにしてくれよ」

 楽しそうにルンルンとステップを踏む希美の後ろを追いかける。


 雅樹のお姉ちゃん、どんな子なんだろう……名字とか聞いたらわかるかな?

 いや、でももし同じクラスとかそう言うのだったら気づくだろうし、それにお母さんも言ってくれるだろうし、そう言う事……だからやっぱり会ってないのかな? そう言うの教えてくれないの不自然だし、多分クラスが全然別なんだろうね。


 隣の翔太のクラス以外は別館だし、そっちなのかな⋯⋯それじゃあ会うの厳しいな。



 ☆


 プルルルル

「はーい、こちら亜希でーす! どうしたの、綾子?」


「ふふっ、急にごめんね、亜希。その、うちの綾乃と亜希の佑司君だけど、まだ話してないみたい。クラスも一緒で席も近いから仲良くなってるかも、って期待はあったけど、まだ何も進んでないみたい。というか、気づいてないかも」


「あ、そのことね。まあうちの息子もたいがい鈍感だからね……それじゃあ教えちゃう、そのこと? 後ろの席の子が、雅樹のお姉ちゃんだよ、って」


「ダメダメ、ドキドキ運命の相手作戦の途中なんだから! こんなところでバレちゃダメダメだよ、本人たちが自力で気づかないと! ドキドキラブラブには自分の力が必要なの!」


「……綾子は少女漫画好きだよね。まあ、それでいいならいいけど。うちの息子が気づかないのも悪いし」


「佑司君は悪くないけど、うん、それでいいの! ごめんね、急に電話かけて。今日はそれだけ! じゃあね!」


「ふふっ、じゃあね、またいつか会いましょう! また子供同士が仲良くなった時に!」


「うん、そうだね! じゃあね、亜希!」

 そう言って電話を切る。


 佑司君と綾乃が仲良くなって、そしてそのままめでたく二人は……っていう作戦だったけどやっぱり上手く行かないか。

 同じクラスになった時に亜希と結託してこの作戦思いついて今まで実行してきたけど……流石に難しかったか。


 佑司君はすごくいい子だし、綾乃と性格とか趣味とか合うと思うし、それに綾乃の引っ込み思案も引っ張ってくれて、安心して綾乃を任せられるんだけど……流石に運命に求め過ぎかな? 

 亜希が言う通りに教えた方が良いのかな? でも、こう言うのって運命的に自然に仲良くなってそれでそのままラブラブした方が……


「……って雅樹? 何してる、こんなところで?」

 そんな事を考えて、夜ご飯の支度のためにキッチンに向かおうとしていると綾乃の部屋のドアに耳をくっつける雅樹が目に入る。


「姉ちゃんがまた電話してんだ! 絶対怪しい男だと思うんだけど……母さんはどう思う!?」


「普通に友達でしょ? あほなことしてないで自分の部屋戻りなさい、綾乃の部屋は防音設備しっかりしてるから音聞こえないでしょうに」


「いやー、絶対違う! 絶対違う、絶対怪しい男! お兄さんに助けもとめないと!」


「大丈夫だって、綾乃に限ってそんな事ないでしょ。佑司君に迷惑かけるのもいけないし。ほら、部屋戻りなさい」


「でも、姉ちゃん、可愛いから、だから……」


「はいはい。部屋戻るよ」

 わんわんと喚き散らす雅樹をそのまま自分の部屋まで連れて行く。


 全くこの子はシスコンなんだから……でも綾乃が毎日電話してるのは気になる。

 多分女の子の友達だろうけど、もし彼氏とか怪しい男だったら……亜希にどう説明しようかな?



「えへへ、楽しかった、やっぱり、好き……」


「姉ちゃん! 誰と電話してたの!?」


「え、雅樹……うえっ、そ、それは……な、ナイショ……」



 ★★★

 二人とも名字割と珍しいのに……


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