第16話 斉川さんと帰り道、兄妹

「ねえねえ佑君! 今日は私とあお君と一緒にお買い物行かない? オシャレな食器とかキッチン用品見に行きたいんだけど、佑君も来てよ! 男の子の意見も聞きたいし! 一緒に行こうよ佑君!」

 次の日の放課後、工藤さんも竜馬も立川さんも、みんなが部活に行って少なくなった教室の中でつむちゃんがポーンと机を叩きながらそう聞いてくる。

 後ろには嬉しそうに手を振っているあおちゃんが……一応あおちゃんも男なんだけど、つむちゃんはそのこと忘れてるみたい。そして今日は無理な日です!


「ごめんね、つむちゃん。僕今日は用事あるからそれは行けないや」


「えー、どうして? 何かあるの?」


「うん、今日は妹と一緒にスイーツ食べに行く日だから! 今日はね、いつも頑張ってる妹の希美と一緒に甘い物食べに行く日なの! だからごめん、今日は行けない! 妹との大事な用事があるから!」

 今日は月に一回の大事な日、希美とスイーツを食べに行く日だから!

 毎回楽しみにしてくれている妹のためにも、今日はごめんね二人とも!


「なんだ、残念……ってはっ!? 佑君が来れないという事は私とあお君の二人で、これって実質デートなのでは……!? すごく嬉しい奴なのでは……!」

 僕の言葉にぷくーっと残念そうに顔を膨らませたつむちゃんだったけど、でもすぐに顔を戻してはわわとそう呟く。


「ふふふっ、そうかもね。ボクだってつむちゃんみたいな可愛い子とデート、楽しみだよ」


「お~、嬉しいこと言ってくれますな、あお君! それじゃあ一緒に行きましょう、一緒にデート行きましょう!」

 お互い嬉しそうな声でそう言った二人はルンルンと楽しそうに教室を去っていく……つむちゃんはあおちゃんの事、男扱いしてるのかしてないのかどっちなんだろう?


 二人とも、ああ言う事は恥ずかしげもなく平気で言うような人だし、ちょっと分かんないや。

 でもまあ取りあえず、今日は希美とのお出かけの日、部活帰りの妹をいっぱい甘やかしてあげるんだ!


「……!」


「……!? ……!!!」

 そんな事を考えながら、帰る準備を整えてうーんと伸びをしながら窓の外を見ると、職員室の方から準備をしたまま帰ってきた斉川さんが帰ってくる姿が目の端にうつる……そしてその姿は僕を捉えるなり逃げ出すように廊下を走り出して。


「ちょいちょい! どうしたの、斉川さん!?」

 何で僕から逃げるの、電話でも、部活の時もあんなに普通なのに、なんならすごく楽しく話せてるのに!

 なんで教室とか放課後とか……そう言う時間になったら僕から逃げるの斉川さん!? 僕は君と、その斉川さんと……ああ、もう!!!


「……!」

 居ても立っても居られなくなって僕は飛び出すように教室から出る。

 廊下を走るな、なんて話も希美の話も今は一旦関係ない、今の僕にはもっと重要な使命があるんだから! 斉川さんと直接話したいんだ、今の僕は!


 少し距離はあったけど、そこは元運動部と茶道部部の差、本気で追いかけるとすぐに縮まって。


「あえっ、樹神、君……ふえっ!?」

 人気のない廊下に迷い込んでしまった斉川さんの手首をぎゅっと捕まえる。

 あ、変なことする気じゃない、ただ聞きたいだけ……斉川さんが僕の事避けるのが気になるだけだから。なんかおかしいもん、色々!


「ごめん、少し手荒な真似して……でも、教えて欲しいから。斉川さん、何で逃げるの、なんで僕を避けるの? 部活含めて普通の学校以外では仲良くしてくれるのに、学校だけ……なんで僕を避けるの?」


「え、いや、その、私、だって……」


「だってじゃない、教えて欲しい。学校で僕の事避ける理由、教えて欲しいだけ……あと、前約束したみたいに放課後一緒に帰りたいだけ。帰れない理由とか遊べない理由とか……そう言うのが何かあるなら、教えて欲しいな、って」


「うえっ、そ、それは……え、えっと……」

 僕がそう聞いても、斉川さんは口をもごもごして答えてくれなくて。

 ああ、もうじれったい、強攻策だ!


「それじゃあ今日一緒に帰ろ? 僕、斉川さんの家の方に用事あるから、そこまで一緒に帰ろ? それくらいならいいでしょ? 別に特別な事言ってない、ただ一緒に帰るだけ……ダメかな、斉川さん?」


「な、何で私の家……?」


「この前教えてくれたじゃん、本屋さんの後ろでしょ? そこまでだけ一緒に帰る……こう言うのだって、出来ない? 変なことしない、帰るだけ……それとも僕と一緒に居るの嫌?」


「あ、そうだった、忘れてた……その、嫌じゃない、嬉しい……樹神君と一緒に居るの嬉しいし、楽しいし、でも、その……わ、わかった、今なら大丈夫。大丈夫……だと思う。今なら、その……多分、大丈夫」


「それじゃあ一緒に帰ろう……家までだけど一緒に帰ろ、斉川さん! その……変なことはしないから! ただ帰るだけ……それだけだけど」


「……うん」

 口をもごもごしながら、複雑な表情で、でも真っ赤に顔を染めた斉川さんがそう頷いた。



 ☆


「……」


「……」

 斉川さんと二人の帰り道、二人とも無言の世界。


 は、話したいことはいっぱいあるはずなのに、何というか……さっきかなり強引に誘った恥ずかしさというか申し訳なさというかそう言うのが一気に来たというか。


 とにかく今はすごく気まずい空気、斉川さんもそんな予定じゃなかったという風に顔を俯かせてて……ご、ごめんなさい斉川さん! 周りが全然見えてなかったです、すごく強引でした! 斉川さんの事何も考えてなかった!


 自分が納得できるようにただただ強引に……本当にすみません、ごめんなさい。

 なんかキモいこと言ってた気もするし……やっちゃったな、失敗したな、これ。希美との集合場所と斉川さんの家、実は駅挟んで逆方向だし……本当に何やってるんだろう、今日の僕は。


 本当に周りが見えてなくて、とにかく斉川さんを……ああ、ダメだダメだ! 強引過ぎる男は嫌われちゃう!


 で、でも僕は斉川さんと一緒に帰りたいし、それに直接お話も……

「……あはは、いやー、斉川さんと一緒に帰れてよかったよ! ずっと一緒帰りたいと思ってたし、ずっと言ってたし! だからね……アハハ」

 ……ミスした気がするな、変なこと言った気がするな! これはちょっと……悪手な気がするな! 最近あれだったのに、これは……だ、ダメな気がするな!


「……わ、私も……私も一緒、帰りたかった……樹神君と一緒、私もそれが、良かった……一緒で、私も嬉しい」

 でも斉川さんの言葉は僕の思っていたこととは違って、俯きながら恥ずかしそうにもぞもぞ小さく動かした口からは嬉しい言葉が聞こえる。


「あ、そ、そうなんだ僕も嬉しいよ、斉川さんと一緒帰れて嬉しい! 斉川さんと一緒嬉しい!」


「う、うん、私も……えへへ」


「ふふっ、そうだね……あはは」

 そう言ってニコッと微笑む斉川さんに僕も微笑み返す。


「……」


「……」


 でもその後の言葉はなかなか続かなくて、足踏みしてしまって。

 あれ、会話ってこんなに難しかったっけ? 確かに斉川さんと初めて話したときはこんな感じにもなったような気もするけど、でも最近はやんと話せてたし、何でも話せる自由な友達関係になれてたと思ってたけど……む、難しいな、会話! 


 なんかお題お題……お題!

「……そ、そうだ斉川さん! 今度の校外学習、結構前に決まってたけど同じ班だったね! 斉川さんは包丁とか使える?」


「……う、うん、ある程度は、使える、と思う……家ではあんまり料理しないからアレだけど、でも家庭科の授業の成績は、良かった。割と良かったよ、家庭科の成績」

 言っても話を変えられて、最近は言わないようにしていたお題だってけど、ちゃんと答えてくれる。斉川さん包丁使えるんだ、良かった!


「そうなんだ、それじゃあちょっと安心だ! 竜馬は包丁使えないし、立川さんは黒魔術大好きで怖いから野菜班が足りるか心配してたんだ! 斉川さんがいれば野菜班も安心だね! 工藤さんはわかんないけど、大丈夫そう!」


「う、うん……えへへ、頼りになるかわかんないけど、頑張る……こ、樹神君はどうなの? 樹神君はお料理とか、出来る系の男の子?」


「うん、昔からそれなりに料理してたからね、妹に頼まれて! だから頼りにしててよ、僕はお料理得意だから!」


「えへへ、そっか……そ、それなら頼り、してるね。樹神君の事、頼りにしてる……えへへ、カレー、頑張ろうね、樹神君」

 そう言ってにへへと嬉しそうに微笑む。


 良かった、なんかいつも通りというか、普段通りの会話というか、避けられる前というか……そんな感じに会話出来てる!

 よしよし、このまま、この調子のまま会話続けよう!


「うん、頑張ろう! で、でだよ! ね、ねえ斉川さん! ところであのアニメ見てる? 僕すっごい好きなんだけど……」


「あ、それ、私も見てる……えへへ、バランスとらねえとな……好き」


「ふふっ、僕も好きだよ、そこ! でも僕が一番好きなのは……」


「あ、それ、私も一緒……えへへ、やっぱり樹神君とは、好きなもの、似てるね……えへへ」


「うん、似てるね……うふふっ、なんか嬉しいな、こうやって面と向かって斉川さんとこう言う事話せるの。久しぶりな気がするから、電話では毎日のように話してるのに!」

 こうやって対面で話すの、本当に先々週以来とかだから。


 だから何というか……すっごく嬉しい! こんな風に部活と電話以外で話すこと無かったし、それに……だから嬉しい、斉川さんと話せて!


「えへへ、私も嬉しい……樹神君と、そんな風に……ホントはずっと話したかったから、お出かけもしたかったから……だからすごく嬉しい、です。本当に嬉しい、ぽかぽかする、楽しい……えへへ、樹神君、ありがと」


「ふふっ、どういたしまして! 僕も嬉しいよ、本当に! もうちょっとで本屋さんの後ろだけどもっといっぱいお話しよ! こうやって斉川さんといっぱい僕も話したいし!」


「う、うん、私も……えへへ、ここならいっぱい、話せる。樹神君の顔見ながら、いっぱい、二人で……えへへ、幸せだよ、私。樹神君と一緒に、それで……えへへ」

 そう言ってとろんとほっぺを緩ませて、ふわっと笑って。

 本当に楽しそうに久々の事を喜ぶようにふんわり優しく笑って。


「……僕も。斉川さんと久しぶりに顔見て楽しく話せて凄い楽しかった!」

 ……やっぱり僕、斉川さんの事、好きになってる。

 こんな可愛くて、一緒に居たら幸せになってm話すのが楽しくて、顔見て話せないと寂しくなって……やっぱり好きだ、斉川さんの事。



「えへへ、樹神君、私も凄い楽しい……そ、そうだ! 校外学習の続きだけど……バスの時、樹神君の横座っていい? 樹神君の隣いい?」


「え、良いけど、何かあるの斉川さん?」


「私酔いやすくて、すぐふらふらになるから……だから、樹神君の隣が良い。樹神君の隣なら、楽しくて安心して……えへへ、樹神君の隣が良い」


「……わかった、良いよ。一緒に座って、いっぱい話そうね!」


「う、うん……えへへ、一気に楽しみになった、今日で……えへへ、樹神君と一緒の、校外学習」




「……!」


「……どうかした、光ちゃん?」


「嫌な予感がします……わかんないけど、嫌な予感がします」

 ―なんか嫌な波動感じた。なんか佑司君が斉川さんと……ふふっ、嘘だよね、佑司君? そんな事、絶対……ふふっ、佑司君?



 ☆


「えへへ、ばいばい、樹神君……また明日だよ……夜電話かけるよ、ばいばい!」


「うん、バイバイ、斉川さん! 電話、楽しみにしてるね!」

 でっかいスタバと本屋さんの後ろで、いつもとはトーンの違うバイバイの斉川さんに手を振って、僕は希美のもとに向かう。


 ふふっ、今日は斉川さんと電話以外でも話せて楽しかったな、いっぱい二人で対面で話せて……でもここからも楽しみ、希美とのお出かけも楽しみ!!!



 そんな事を考えながら、駅に向かって3分、そして駅から10分。

 少し時間はかかるけど、でも希美の場所まで一直線、希美が部活というかクラブをしているグラウンドへ。


「おーい、希美! 来たぞ、お兄ちゃんが来たぞ!」


「遅い、お兄ちゃん! 中学生は部活始まる時間早いし、終わるのも早いんだぞ!!! お兄ちゃんのクラスは授業多いかもだけどもっと早く来い!!!」


「まあまあ、希美そんなに怒るな。お兄さん来てくれたんだろ、うちは姉ちゃんが来てくれたことないぜ?」

 すでに人がまばらになっているグラウンドに声をやると、むっちりとほっぺを膨らませた妹の希美と、それをたしなめるように同い年の男が歩いてくる。


「ごめんね、希美、ちょっと用事あって……あ、雅樹は久しぶり! 元気だったか、中学で環境変わってけど友達出来たか?」


「はい、ばっちりですお兄さん! 友達いっぱいです、部活も順調です!  お兄さんこそ、大丈夫なんすか、そう言うとこ?」


「ばか言え雅樹、こっちも順調じゃい! 雅樹に心配される心配はないぜ!」

 少しからかうように僕の方をあおる男の子―希美の友達の雅樹に俺はそう返した。




 ★★★

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