第15話 放課後の話

「えへへ、佑司君、佑司君……」

 ダメだよ、佑司君私と一緒なんだから。

 私が絶対に一番なんだから、私がどこまでも……君の事、一番大好きなんだから。



 ☆


「斉川さん、今日も部活楽しかったね! ところで、今日は一緒にどっか行こうよ、先週のリベンジ!」

 2回目の部活、今日も今日とて先生に色々しごかれながら、それでもなかなか楽しく部活を終えた帰り道。


 僕の言葉に斉川さんの顔が少し明るく輝く。

「え、あ、うん、その……やっ、あやっ!? え、そ、その……きょ、今日も先、帰る! 私、その……さ、先帰るから! ご、ごめんね、樹神君……ばいばい、また明日……ご、ごめんなさい!」


「え、ちょ、斉川さん?」


「ご、ごめんね、樹神君……ばいばい!」


「う、うん。ばいばい……あ、あれぇ?」

 でも僕の顔を見た瞬間、その顔は一気に曇って、そのままてってと走り去ってしまって……ぼ、僕なんかしちゃいました?


「……ゆーじ君? 佑司君!」

 頭に?マークを浮かべながら、てとてと慣れてない足つきで走り去っていく斉川さんの背中を眺めていると、つんつんと今度は背中をさする声。


「あ、工藤さんお疲れ。もう部活終わったの?」

 振り返ると、そこにいたのはにへへと笑顔を浮かべる工藤さん。

 まだちょっと早い時間だけど、もう部活終わったの?


「うん、今日は早上がりなんだ、吹部! 佑司君も部活、だったよね? お疲れ様! 佑司君も労ってあげたい、私は吹部だから! 疲れてるよね、大変だよね、斉川さんと二人の茶道部じゃ」


「ふふっ、ありがと。でも僕は楽しいだけだからそんなに疲れてないよ、茶道って結構楽しいから、お茶も美味しいし」


「ふーん、そっか、へー……ところでところで佑司君? こんなところ突っ立てどうしたの? 何かありましたか? 何をしようとしてたの、佑司君?」


「アハハ、なんか怖いよ、工藤さん。笑顔笑顔、笑顔が一番! その、斉川さんと放課後どこか行こうとしてたんだけど、でも断られちゃ……って工藤さん!?」

 少し怖い目で首を傾けながら僕の方を見ていた工藤さんが、言葉を遮るように僕の腕に自分の腕をぎゅっと絡ましてきて……ちょ、工藤さん!? 


「……ふふっ、佑司君、それじゃあ私と一緒にどこか行こう!! 私はこれからフリーだし、それに佑司君のお誘いを断るなんてそんな真似しないよ? だから一緒に行こう、私と一緒だよ!!! 一緒にこうやって帰って、二人でゆっくり休憩しよ?」


「あ、そ、そう言う事か! で、でも工藤さん、毎日吹部だし、今日も行ってたし疲れたない? 大丈夫?」


「大丈夫、大丈夫! 疲れてないし、佑司君と一緒なら疲れとか吹き飛ぶし! だからさ、一緒に行こ……私ね、最近美味しいご飯のお店見つけたんだ! そこ行こうよ、そこ行って二人で美味しいもの食べよ? 佑司君の誘いを断った斉川さんの事なんて忘れて、二人で一緒にご飯食べようよ! ね、私と二人で楽しもうよ?」

 僕に腕と身体を密着絡ませながら、そう聞いてきて。


 なんか言い方はちょっと引っかかるところはあるけど、でも、夜ご飯食べて帰る、って実は朝に母さんに言っちゃってるし。それに工藤さんには部活の事でちょっと負い目もあるし。


 だから一緒に行こうかな、工藤さんも疲れてないみたいだし……で、でも腕は離して欲しいな、色々当たっちゃってるし、めっちゃ周りから見られてるし! ふわふわ柔らかいし、少し汗ばんで、でも甘くていい香りで……と、とにかく離れて欲しいな!


「えー、良いじゃんこのくらい! みんなに見せつけてやるんだ、私と佑司君の、その……仲良し具合! 比べ物にならないくらい仲良しって事、みんなに見せつけてやるんだ……サイカワサンナンカジャトドカナイッテ」


「いや、でも、僕自転車だし、漕げないし! 危ないし!」


「……私も自転車だけど、頑張れば……」


「事故しちゃう事故しちゃう! 怪我とかしたら大変だし、離れて欲しいな、本当に! ちょっと、マジで離れて欲しい!」


「……まあ、しょうがないか……でも二人で自転車転がすのも……えへへ、それじゃあ佑司君、一緒にお出かけしましょう! 放課後二人で部活終わりに一緒にお出かけ……えへへ、青春だね、佑司君! いっぱい二人で楽しもうね、佑司君!」


「ほっ、危なかった……うん、そうだね。美味しいお店、期待してるよ」


「もちろん!」

 僕の腕からようやく離れてくれた工藤さんがそう言ってビシッと嬉しそうに左手を空高く掲げた。


 ……工藤さんとのお出かけも楽しいけど、でも今日は斉川さんと……ダメダメ、こう言う事考えたら失礼だね、工藤さんに。でも、やっぱり……ダメ、ダメダメ!


「……どうしたの、佑司君? 何かあった……考えちゃった、色々?」


「ううん、何でもない! お腹空いたな、って!」

 ダメダメ、思ってたも……今日は工藤さんと夜ご飯食べるんだから!



「佑司君、佑司君!」


「何、工藤さん?」


「にゃーにゃー、にゃにゃにゃ! にゃにゃにゃ!!!」


「にゃー……からかうのやめて、それもうやめて。ここお店、ダメだよそんなことしてたら変な目で見られちゃうかも」


「アハハ、ごめんね……でも佑司君、可愛いから! えへへ、いじりたくなっちゃいます!」

 ―普段の佑司君もにゃーにゃ―言ってる佑司君も全部可愛い、全部カッコイイ……全部好き。どんな佑司君も大好き……斉川さんといる佑司君以外は。あの子と楽しそうに笑っている佑司君以外は。


 ―佑司君は私が先に好きになったんだから、絶対。だから渡さない、絶対に……卑怯でもズルくても良い、何してもいい……絶対私が佑司君と一緒になるんだから。


「にゃーにゃー?」


「……にゃー!」

 ―それはそうとしてにゃんこプレイは楽しい! 佑司君も可愛いし、それに……佑司君も私の事可愛い、って思ってくれてるのが伝わってくる。


 ―このプレイ、佑司君とお付き合いしてからもしたいな、いっぱい……二人でいる時はにゃーにゃーして、その後にゃんにゃんして……えへへ、妄想が膨らむ、大好きな人との妄想がもくもく膨らむ。やっぱり佑司君と一緒じゃなきゃダメだ、絶対に絶対に……ずっと一緒に居るんだ、佑司君と!



「工藤さん、本当にこのお店美味しいね! ちゃんぽんとかリンガー以外で食べたことなかったけど世界変わった! すごく美味しい!!!」


「それは良かったよ、佑司君! 私も佑司君と一緒にこれて世界変わった、佑司君に会えてよかった!!! ありがと、佑司君、これからも一緒だよ!!!」


「……何、急に? なんかわかんないけど、こっちこそありがと」



 ☆


「斉川さん、今日こそ一緒に帰らない? 今日こそ、一緒のどうかな? ほら、校外学習の話とか、全然斉川さんと出来てないし……一緒にどう? ほら、この前も一緒に遊びたい、って言ってくれたし、どうかな? ダメかな、斉川さん?」


「あううっ、樹神君……ううっ、えっと……」

 次の週、今日は月曜日に古川さんが来たので早めの部活、早めの斉川さんとの二人の放課後。


 今日は課題も何も出なかったし、妹の部活もないしですごく平和、だからこの後一緒に何かしませんか、斉川さん……なんて思ったんだけど、今日も今日とて斉川さんは何かに怯えてるようにふるふる怖がっていて。


「今日もダメ、斉川さん? 僕も斉川さんと一緒に放課後色々したいんだけどダメ、そうかな? 色々さ、その……電話だけじゃなくて顔見ながら話したいというか、やっぱり色々遊びたいし、クラスメイトとしても、同じ部活の仲間としても……友達としても」


「え、えっと、あの……わ、私も、そう。そう言う事、言ってくれて、嬉しい、だ、だけど、だけど……ば、ばいばい、ごめんね、ばいばい……サヨナラ、樹神君」


「ちょ、斉川さん!?」


「ごめんね、ごめん……サヨナラです、樹神君……こわっ……」


「あ、はい、サヨナラ。じゃ、また明日だよ、斉川さん……あ、夜電話するね!」


「……ウレシイ……ばいばい」

 今日も僕の誘いを受けてくれることは無く、斉川さんは去ってしまって。

 ぎこちない走り方で、今日も家に帰ってしまって。


「……何があったんだろう?」

 電話では元気よく、楽しく話してくれるのに。

 でも学校になると全然話してくれないというか、僕の事を避けているというか……部活以外の時には全然話しかけてくれなくなったんだよね、斉川さん。それに明々後日に迫った校外学習関連の話も何もしていない、その話しようとしたら話変えられるし。というか学校関連の話が全部NGになっている気がする。


 だからその……ちょっと心配。

 嫌わているという事はないと思うんだけど、でもこんなに学校とかそれ関連で遠ざけられてしまっているのはやっぱり心配、そしてちょっと悲しい。


「でも電話できるし、まあいいか。今日は帰ろ、ゆっくり帰ろ」

 とにかく今ここでくよくよしているのもしょうがないし、夜には電話できるし悲観することもないと思う! 一回家に帰って仕切り直しじゃい!!!



「ん~? 何してるの光ちゃん? 窓の外ボーっと見ちゃって? ていうか窓際座ってるの珍しいね?」


「え、あ、いえ先輩大したことないです。ただけん制してたんです……自分の立場わきまえろよって、私のだぞ、って……そう言うけん制です」


「……なんか怖いよ、光ちゃん。と、とにかく今は部活中だから一緒に練習だよ!」


「はい、もう行っちゃったので大丈夫です! 練習しましょ、先輩!」

 ―ダメだよ、佑司君浮気は。

 そう言うの絶対ダメ、絶対NGだから……佑司君は私と一緒、私だけ見てくれてればいいんだから……私が一番、佑司君の事、愛してるんだから。



 ★★★

 感想や☆やフォローなどしていただけると嬉しいです!!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る