第6話 友達になってくれる?

「あのね、それでね……!」


「うんうん、うん!」


「他にもね、あのシーンがね! それでね、それで……うぷっ……」


「良いよね、あそこ……って斉川さん!? 大丈夫、斉川さん?」

 二人で楽しく大好きなマンガの事や好きなシーンについて話していると、突然ハイテンションで話し続けていた斉川さんの声が止まってえづいたように青い声を出す。


「斉川さん!? 大丈夫、水とかいる? それとも背中さすった方が良い?」


「ううん、大丈夫、私、自分で、お水持ってる……んっ、んっ……ぷはぁぁぁ……えへへ、ごめんね樹神君」

 こくこくと背中の方から出した水でのどを鳴らした斉川さんがそう言って少し申し訳なさそうにはにかむ。

 良かった、なんか変なことになったのかと思って心配したよ!


「ふふっ、ごめんね、こんなに大好きなことについて話すの初めてだから……その、しかもと、友達と……あ」

 ぽりぽりと照れた様な笑顔でほっぺをかいていた斉川さんが、急にしまった、という風な声を出して口をもぐもぐする。

 あれ、どうかした斉川さん?


「え、いや、その……ご、ごめんなさい! か、勝手に、と、友達とか言ったら、あの……め、迷惑だよね……その、私だけが勝手にいっぱい喋ってたし、樹神君は私の話聞いてくれて私は嬉しいし、楽しかったけど、でも樹神君は楽しいかわかんないから……だ、だからその、勝手に友達って言うのは、あの……樹神君がどう思ってるかわかんないから、その、私の勝手で、私だけ盛り上がって……だから、ごめんなさい。ごめんなさい、樹神君」

 そう言って少し寂しそうな瞳をふるふるさせながら、ぴゅいっと顔を背けてしまって……ちょいちょいちょい! そんな事気にしてたの、斉川さん?


「そんな事気にしないで、僕もめっちゃ楽しかったよ、斉川さんと話して! 僕だってこんないっぱい好きなマンガの話したことなかったからすごく楽しかったし、嬉しかった! 斉川さんだけじゃない、僕もすごく楽しかったよ!!!」


「……ほ、ホント? 本当に楽しかった? 樹神君も楽しかった?」


「うん、本当に本当! こんなに楽しいの久しぶり、ってくらい楽しかった! 他の友達が全然読んでないマンガの話とかも出来たし、すっごく嬉しかった! 斉川さんと話せてすごく僕は嬉しかったよ!」

 +チック姉さんとかあそびあそばせとか友達に勧めてもあんまり読んでくれない類のマンガだったし!

 そう言うマンガの話が現実でできる人がいて僕はすごく嬉しかったし、楽しかった!


「え、あ、そ、そんな……そう言ってくれて、その⋯⋯嬉しい。わ、私もすごく嬉しかった、から! こ、樹神君の事最初は怖くて、迷惑かけて〆られないように話さないようにしようと思ってたけど……で、でも話せて嬉しかった! 樹神君とおしゃべり出来て、いっぱい好きな事話せて……わ、私もすごく嬉しかった!」


「うん、うん! だからそんなの気にしなくていいよ、斉川さん! お互い凄く楽しかったし、それにもう友達だよ、僕たち! こんなに好きなこと語り合ったんだからもう友達だよ!」

 逆にこれだけ話して友達じゃないなら何なの、って話!

 だから楽しいとか楽しくないとか、そう言うの気にしなくていいの、友達なんだから!


 そんな僕の声を聞いて不安そうな表情の斉川さんはぴくっと顔をあげる。

「……も、もう友達? そ、その……樹神君と私、もう友達でいいの? 私なんかが友達で、その⋯⋯樹神君大丈夫ですか?」


「なんでそんなダウナーなの、友達だよ! ていうか友達じゃなきゃヤダよ、もっともっと斉川さんと話したいもん! もっと色々、斉川さんと話したい!」


「あうっ⋯⋯色々、私と……お、おはなし、友達⋯⋯き、樹神君! 私もその、色々、話したい……! だから、その……私も、樹神君と、友達、なりたい、です! だ、だから、あの……不束者ですが、これからよろしくお願いします、樹神君!」


「そんな畏まらなくていいよ! こちらこそよろしくね、斉川さん!」


「だってぇ、ちょっと緊張して、初めてだもん……で、でも、初めて、嬉しい……えへへ、樹神君と初めての友達、嬉しい、これから色々⋯⋯えへへ、樹神君、本当によろしくね⋯⋯えへへ」

 そう少しまごつきながら、でもしっかりとした声で。

 蕩けた笑顔のりんごみたいな顔で僕にまっすぐにっこりと微笑んで。


 少しの怖さもない、ただ優しくて可愛い……そんなキレイでふにゃふにゃの嬉しそうな楽しそうな天使の笑顔を僕に向けてくれて。


「……!!!」


「……? こ、樹神君どうかした? そ、その……も、もしかして、やっぱり、私じゃ……」


「……え? あ、違う違う! ごめん、ちょっとね! こ、こちらこそよろしく! よろしくね、斉川さん!」

 ……その笑顔に一目惚れしてしまった。


 いや、そのギャップとか凄いし!

 いつも怖い目つきだから気づかなかったけど、実はとろんとたれ目で顔もふんわり小動物系で愛嬌合って、ゆらゆら恥ずかしそうな顔も透き通った声も良くて、ああ斉川さんってこんな可愛いんだって、趣味とか好きなもとかも似てて嬉しいなって、だからそんな斉川さんにあんな天使の笑顔されたら、その、えっと……自分が結構惚れっぽいのはわかってたけど、でも……あれはずるいよ、斉川さん! 


 そんな表情されたら、それも僕の事であんなこと言いながら……そんなのずるいよ、好きになっちゃうよ、斉川さん……!


「うん、よろしくね樹神君……えへへ、友達、樹神君が……うふふっ、すごく嬉しい! これからも樹神君と……あ、そうだ樹神君! そ、その……私たち、友達だから、その……一つお願い、聞いてくれる?」

 そんな僕の揺れる気持ちもつゆ知らず、相変わらず蕩けた天使の笑みの斉川さんはゆらりと上目遣いでそう言ってくる……ああ、もうその顔もいい、何でも言う事聞いちゃう!


「お、お願い? な、何かな、マンドラゴラでもくれるのかな、友達の証!」


「ふふっ、魔女じゃないから違うよ、私飛べないし。そうじゃなくて、あの……あ、その前に聞かなきゃ……あ、あの樹神君は工藤さんとその……お付き合いしてるん、だよね?」


「え? ぼ、僕が工藤さんと? 付き合ってる……ううん、付き合ってない付き合ってない! 全然そんなんじゃないよ、仲いいだけの友達だよ、工藤さんとは! うん、友達! 友達!」


「……え、ほ、ホント? いつもあんなふうにいちゃいちゃ、してるのに? いちゃいちゃしてるけど、友達?」


「うん、ホント! 工藤さんとはただの友達、だから! うん、うん!」


「そっか……えへへ、それなら……嬉しいな。樹神君と工藤さんが付き合ってないなら……その、私すごく、嬉しい……えへへ」

 ぺたんと熱くてもちもちそうなほっぺに手を当てた斉川さんはふわっと嬉しそうな息遣いでそう言って……え、それって、その……どういう意味!?


「え、あ……ご、ごめん! 嬉しい、ってのは私だけの話で、その私にとって嬉しい、ってことで、そのお願いが聞いてもらいやすくなるって言うか……だからごめんなさい! で、でね、樹神君……私ね、いつもここでお昼ご飯食べてるんだ! いつもここで、その……一人でお昼、食べてるんだ」


「あ、そうなんだ! そ、そう言えばお昼の時いつもいないもんね!」


「うん、そうなんだ……だから、樹神君にお願い、です! そ、その……私と一緒にお昼ご飯食べてくれますか! 私、あの、と、友達とお昼一緒に食べるとか憧れてて、一人で食べるのも好きだけど、やっぱり友達と食べたくて……だ、だからもし良ければ……樹神君さえよければ一緒にお昼、食べて欲しい、です!」

 たどたどしい話し方でそう言って、ぺしっと可愛く頭を下げる。

 その行動に何だか少し力が抜けて……あはは、何言われるかと思ったけどそんな事か。


「そんな大層にお願いしなくても大丈夫だよ、もちろん大歓迎……あ、でも僕と一緒だと竜馬も一緒になるけど大丈夫?」


「え、瀬川君……ちょっと怖いかも、だけど、でも、多分大丈夫! だ、だって樹神君の友達だから……た、多分大丈夫だと思う」


「ふふっ、竜馬は確かにでかくて強面だけで凄く良い奴だよ! 怖がらなくて大丈夫な良いやつ!」


「う、うん頑張る。それなら明日からよろしくね、樹神君……お弁当の時間もよろしくね!」


「うん、よろしくね斉川さん!」


「うん、よろしく……えへへ、友達とお弁当……えへへ……あ、そうだ樹神君! この後ってまだ大丈夫?」

 にへへとほっぺを緩ました斉川さんがその顔を直そうともせずに僕の方にそう聞いてくる。この時間が終わるまではもちろん大丈夫!


「よ、良かった! その……私まだまだ樹神君とお話、したい、から! あ、あの、樹神君とはもっともっと好きなもの共有できると思うから……だからもっと樹神君とお話、したい! アニメとかマンガとかだけじゃなくて、他の事も、いっぱい、いっぱいお話して、好きなものいっぱい……良いですか?」


「うん、もちろん! 僕もいっぱい、斉川さんと話したいことあるし!」


「あ、ありがと樹神君! そ、それなら今度はその……映画とポケモンの話、しよ!」


「OK、了解! それなら混ぜてポケモンの映画の話しようか! 僕は3世代の映画が大好きなんだけど斉川さんはどう?」


「うん、私も3世代好き! ちょっと邪道かもだけどデオキシスの映画が大好き!」


「邪道じゃないよ、王道だよ! 面白かったよね、あれ! トオイ君も可愛かったし!」

 

「あれ男の子だよ、樹神君。でも確かに可愛かった! それにそれに……!」


「うんうん!」

 またまたテンション高くキラキラお目目で語り始める斉川さんと時間が許す限り色々な話を続けた。



「えへへ、楽しいね樹神君……友達と話すの、すごく楽しい!」


「うん、そうだね! 僕もすごく楽しい!」

 すごく楽しい時間だし、それに……好きなもの話すときの斉川さんもすごく可愛くて……やっぱり僕、好きになっちゃってるかも。



 ★★★

 次の2話は少し短め予定。

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