第21話 カレーは美味しい、だからしょうがない
「バセセジョゴギギブバカゼ! バセセジョゴギギブバカゼ!」
「……真夏ちゃん、それなんの呪文? それなんて言ってるの?」
「ゲグバショグラ! ゴラゲロギボセ!」
「……マジで何、それ?」
☆
食欲を刺激するカレーの匂いが漂う広い体育館。
ホカホカの湯気が視界を隠すけど、それは幸せの白!
「もぐもぐ……うーん、美味しい! えへへ、佑司君美味しいね、私たちで作ったカレー美味しいね! 絶品だね、最高だね!」
「うん、確かに美味しい! こりゃ絶品じゃ、ご飯の炊き方も上手!」
そんな白の世界で、大盛に盛られたカレーをパクパク食べながら、隣の工藤さんが歓声を上げる。
スイーツ食べた時から思ってたけど、工藤さんって意外と大食い何だね、でも美味しいのは確か! 自分で作ったから美味しさ倍増!
僕が牛脂を食べちゃって、それで斉川さんがどこかへ逃げちゃう(すぐ帰ってきた)なんて軽いトラブルはあったものの、そこは流石みんな大好きカレーというべきか、カレールーを入れてぐつぐつするといつも食べてるような美味しそうなカレーが完成した。
なんか途中から立川さんが不気味な呪文を唱えていたけど、あれはまあ大丈夫でしょう。多分特に意味はないはず。あれは……グロンギ語かな?
僕の言葉を聞いて炊飯組の二人はデレデレと頭をかきながら、
「おいおい、そんなに褒めるんじゃないぜ、佑司! やっぱり俺たちの火加減のおかげよ、なあ真夏ちゃん!」
「まあね、私たちのおかげね、このカレーの味は! この班長、真夏ちゃんの火加減と美味しくなぁれ! の呪文のおかげ!」
「ですです! 真夏ちゃんの言ってること一つもわかんなかったけど!」
「おーおー、勉強させてやるぜ、瀬川にはわかってもらわないといけないからな! また教えてやんよ!」
「よろしくお願いしま~す、真夏ちゃん!」
そう言ってペコっと嬉しそうに頭を下げる。
この二人、また仲良くなってるな、良かった良かった。
そんな二人を見た隣の工藤さんはクスクスと小さく笑って、
「ふふっ、楽しそうだねあの二人。ねえ佑司君、私たちももっと楽しくしよ? 私と佑司君ならもっと楽しくできると思うんだ……ほら、あーん。私のカレー、佑司君に食べさせてあげる」
そう言って、カレーをすくった銀色のスプーンを僕にひょいっと向けてくる。
「いいよいいよ、大丈夫。みんな同じカレーなんだから自分の食べるよ。工藤さんも自分の分は自分で食べなよ」
「違うでしょ、こうやって食べるともっと美味しくなるの。こうやって好きなものは好きな……だからあーん。佑司君、あーん? 私とのカレー、食べさせてあげる……佑司君も私の事、食べたいでしょ? 私をいっぱい食べたいでしょ?」
「ふふっ、何その聞き方。別にいいよ、工藤さんがお食べ。いっぱい食べる人の方が僕は良いと思うよ? そういう子の方が好き」
「え、好き……もー、佑司君ったらぁ! 佑司君大胆過ぎ、もう佑司君ったらぁ、もうもう! 私の事そんな……もうもう! わかった、一人で食べる、佑司君と一緒に作ったカレー私いっぱい食べるから!!! いっぱい食べるね、佑司君! 私、佑司君のカレーいっぱい食べる! 佑司君いっぱい食べる!」
ぱひゅっとほっぺに手をやった工藤さんは嬉しそうな表情でパクパクとカレーを頬張り始める。美味しそうにパクパク幸せそうにスプーンを動かして。
なんか色々言ってたけど、美味しく食べれそうならよかった、それが一番だからね……あ、そうだ。
「どう、斉川さん美味しい?」
少し離れた位置で一人黙々とカレーを食べていた斉川さんに声をかける。
斉川さん、最初こそ包丁の持ち方殺人鬼だったけどその後はちゃんとにゃあにゃあ使えるようになって、トントン野菜も上手に切れていて。
どうですか、斉川さん? さっきから少し元気なさそうですけど、自分の作ったカレーどうですか?
「え、あ、その……えへへ、樹神君。その、カレー、すごく美味しいよ。やっぱりみんなで作って、私も頑張ったカレーの味は一味違うね……えへへ、美味しすぎて食べ過ぎちゃうかも……えへへ」
一瞬ビクッと怖がったような反応を見せた斉川さんだけど、すぐにとろんとしたいつもの笑顔に戻って、ふにゃふにゃした笑顔を見せてくれる。
「ふふっ、それなら良かった。でも食べ過ぎには注意だよ、お腹痛くなったら大変だからね。こんな山奥だし、先生はダリアちゃんしかいないし」
「う、うんわかってる……で、でも美味しいから……えへへ。ぽんぽんぺいんならないように、気をつける。気をつけるけど……えへへ」
そう純粋に笑った斉川さんだけど、目の奥にどこか迷いのようなものが見えて。
わからないけど、少し迷ってるようなそんな色が……まあ気にすることでもないか、斉川さんが楽しそうならそれでよし!
「気をつけなよ、本当に。まあでも、もしお腹痛くて動けなかったらその時は僕と一緒に……」
「あ、佑司君、佑司君! 見てみて、カレーにでっかい牛脂入ってた、溶けずに牛脂が入ってた! 見てみて、佑司君見てみて!」
「……ふふっ、呼ばれちゃった。それじゃあ斉川さん、食べ過ぎには気をつけて、美味しく食べるんだよ!」
「うん、わかってる……わかってるよ、樹神君……えへへ、ありがと」
口の周りに少しカレーをつけながら、そうにへへと笑った斉川さんに小さく手を振って、僕は工藤さんのところに戻る。
「見てみて、佑司君、これ! このぶにょぶにょ感これは牛脂でしょ! これは佑司君がさっき食べた牛脂でしょ!」
「吐き出してないよ、ちゃんと呑み込みました! どれどれ……ふふっ、工藤さん。これはジャガイモ」
―やっぱり仲いいな、あの二人。
―亜理紗が言ってた作戦、でもあれは嘘だし、でももしかしたら本当に……あ、亜理紗ちゃんと目あった。なんか言ってる……作戦、実行?
―あ、野村君のとこ行って、あっ、ダメ、そんな……ううっ、私もあれくらいしないといけないかな? 私も樹神君と一緒に居るためには……あ、あれくらいしないといけない、のかな? 私も勇気出して、それで……私も頑張らないとなのかな?
―ううん、頑張らないとじゃない、頑張るの! 私だってその……樹神君と一緒が良いもん。
☆
「それでは皆さん手を合わせてください! ごちそうさまでした!」
『ごちそうさまでした!!!』
一通りみんながカレーを食べ終えた時、それを見計らったように輪の中心に入った立川さんがバーンと大きく手を叩いて号令するのでみんなでそれに合わせてごちそうさま。
なんかこう言うの懐かしいな、でもこれも醍醐味って感じで楽しい!
「ふえ~、いっぱい食べたね佑司君! えへへ、佑司君と一緒に作ったカレーで、私の中、こんな大きく……えへへ、佑司君、この後どうする? この後さ、みんなで遊ぼ、って話してるんだけど佑司君も遊ぶよね? 佑司君もみんなと一緒に遊ぶよね? 私と一緒に遊んでくれるよね?」
すりすりと優し気に自分のお腹を撫でていた工藤さんが、ふにゃふにゃ甘えるように僕に身体を密着させてくる。
まあこの後は帰りのバスまでフリータイムだから一緒に遊ぶのは全然ありというか既定路線で、唯人とか新とかが誘ってくれていて……あ、でもその前に食べた食器とかの片づけとか先にしとかないと。
「え~、佑司君そんなの後で良いじゃん! 片づけとかは帰る直前にしてさ、それより今は私と一緒に遊ぼうよ、私は佑司君と一緒に遊びたい! 佑司君と一緒が良い……ほら、みんなも誘ってるよ? 他の人も色々誘ってくれてるよ? 私と佑司君で、一緒に遊ばない? 片付けは後でのんびりしよ? のんびりゆっくり、だよ?」
「まあ確かにそうだけどさ、でもカレーの汚れって結構しつこいんだよ? だから先に洗わないといけないって」
「え~、でもでも! 今誘ってくれてるし、今遊びに行かない? 後で二人でじっくりしたいし、私は今すぐ遊びに……って何? どうしたの、斉川さん? 今佑司君は私と話してるんだけど? 私と佑司君が話してるんだけど、今は私と佑司君の時間なんだけど?」
「つんつん……え、いや、その……えっと、ご、ごめんなさい」
洗い物をするかしないかで話し合っていると、わき腹をつんつんふわふわつつかれる感覚、それと同時に僕の後ろに注がれる少し黒い視線。
その視線を受けた斉川さんがひゅいっと身体を僕から逸らして……ちょいちょいちょい、斉川さん?
「ちょっと何々、逃げないでよ斉川さん! 何か用事あるんでしょ?」
「え、いや、その……私その……」
「そんなはっきり言えないならないんじゃないの? ほら、佑司君、私と話そうよ、私と一緒に! 斉川さんなんてほっといて私と一緒に!」
「もう、工藤さん! そんな事言っちゃダメ、仲良くして! ダメだよ、ケンカするようなこと言っちゃ……で、斉川さん僕に用事あるんだよね? 何かあった?」
「え、えっと、その……わ、私食べすぎちゃって、その……調子悪い、かも。私、みんなで作ったカレー美味しすぎて、食べ過ぎて、お腹いっぱいぽんぽんぱんぱんだから、みんなと遊べない……だから、その……洗い物するます。私が洗い物、してくるです……ま、任せて」
さすさすとお腹をさすりながら、怖がった表情の斉川さんが少し青い顔で、でも何か期待するようにそう呟いた。
―厳しくなんてしてないし、私そんなことしてないし!
―ただ自分の立場を弁えさせようと思って、それで……も、もう佑司君! 私だけ! 私だけ見てればいいのに!!!
★★★
明日ちょっとフェスに出演するので投稿できるかわからないです。
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