第27話 サボろう! 遊ぼう!
「えー、今日は樹神が休みだ! 明日からGWで一人いないのは寂しいが、みんな気を緩めず頑張ろう! それじゃあ朝のHR終わり!」
そう言った先生の言葉でHRが終了する。
「……心配」
樹神君、休みだったな……本当に調子が悪いのかもしれないけど、でもやっぱり心配……だってあんなにしんどそうな声だったし、何か逃げ出したいようなものがある声だったし。
だから、その……心配。このまま不登校とかになっちゃたら、私……心配だな、本当に。友達、だもん一番の。空いた前の席が恋しいもん、樹神君の背中が恋しいもん。
「……大丈夫かな、樹神君?」
ボソッと小さな声で呟くけど、その声は誰にも届くことは無くすぐに消えて行った。
本当に大丈夫かな……不登校とかそう言う匂いがしたけど。私はその……嫌だ、樹神君がいなくなっちゃったら嫌だ。
「……ねえねえ、亜理紗」
「うん、わかってる……お昼休み」
~~~
「ねえ、あやのん! ちょっとこっち! ちょっとこっち!!!」
「え、何つむ……え、ちょっと本当にな……な、何々!?」
お昼休み、やっぱり背中もナマの声も恋しいけれどそれでも少し慣れてきて、いつも通りにつむちゃんとかとみちゃんとかとお昼を食べよう! なんて思っていると、そのつむちゃんに腕をぎゅっと掴まれて廊下の方へ強制連行。
「あ、来た来た! こっちこっち!」
そして連れていかれた袋小路の先には他にも友達の相沢のさくらちゃんに亜理紗ちゃんにとみちゃんに……って何!? 本当に何ですか怖いです、怖いです!
「ふふふっ、怖がらなくて大丈夫……ん」
私の不安と恐怖をよそに、ニヤニヤと笑ったつむちゃんがん、っと私の方に手のひらを向ける。その上には銀色に輝く鋭い物体が……え、なにこれ?
「ん、カギ! 私の自転車のカギ!」
「え、その、それはわかるんだけど、でも……なんで?」
「何でもだよ、何でも! ほら、他にも渡すものあるでしょ、みんな」
『うん!』
困惑する頭の中、そのつむちゃんの声とともに全員がまたまた後ろに組んでいた手を私の方に向けて。
「え、えっと……」
「はい、パン! 私のバイト先のパン!」
「パン。明太フランスパン」
「あ、綾乃ちゃん! 私のおすすめのBL本! BLは素敵だから読んでみて! ぜひ読んでみて!」
「び、BL本」
「綾乃ちゃん、私からはこれ! なんじゃもんじゃ! 面白いよ、ルールも簡単だし、スペースも取らない! 本当はオセロが良かったけど、大きいからこれ! 楽しいよ、ぜひやってみて!」
「な、なんじゃもんじゃ……なんじゃもんじゃ?」
え、何々本当に何?
な、なんでみんな好きなもの持ってるの、なんでそんな物私に。そ、その今日私別に誕生日じゃないよ、誕生日9月だよ……って誕生日だったら自転車の鍵が意味わかんない。いや、全部よくわかんないんだけど、特に自転車の鍵はわかんないよ……他のは布教とか一応の納得はできるけど、でも……な、なんで鍵!?
さっきから困惑続きで、一応友達間ではツッコミ役である私がツッコミも出来なくなっていると、事の発端のつむちゃんが笑顔で話し始める。
「あやのんはボケだよ、天然ボケ……まあそれは置いといて! 気になってるんでしょ、佑君の事?」
「え、佑く……こ、樹神君!? べ、別に私そんなんじゃないし、それに、えっと、別に私、あの……」
「ふふふっ、隠さないでいいよ、バレバレだよあやのん! なんか寂しそうに前の席見てるし、椅子つんつんしたり、想いに耽ったり……それに今もめっちゃ慌ててたし! バレバレだよ、私たちが気づいてないと思ったの?」
「あうぅぅ……」
た、確かに耽ってたし、椅子も……ああ、なんか恥ずかしい!
バレるの自体はアレだけど、でも……ああ、やっぱり恥ずかしい!
「うふふっ、可愛いねぇあやのん……まあ私も佑君が来てないの隣の席としてちょっと寂しいし? それに推しの葵君が少し元気なさげなのも気になるし? ね、とみちゃん?」
「う、うん……やっぱりいた方が良いと思う! その……色々目の保養的な意味でも、葵君とか日向君とか……ね、さくらちゃん?」
「私はどっちでもいいけど……まあいた方が良いんじゃないかな、クラスメイトだし。綾ちゃんが元気ないのは私嫌だし? 茜先生も不安がってたし?」
「私も別にどっちでもいいけど! 野村がちょっと心配して少し元気なさげだったけど、別に私には関係ないし!」
「あれ~? 誰も亜理紗には聞いてないし日向君の話もしてないけど~?」
「……ううっ! ガルル!!!」
「ハハッ、噛みつかない噛みつかない……という事であやのん、みんなも心配してるんだよ、佑君の事。それにあやのんのあの感じ……なんか佑君に対して1日のおやすみ以上の心配してるみたいだし。それ以上の、何か……もっともっとやばいこと、心配してるように思うし。だから行っておいで、後の事は私たちに任せて! 恋はいつでもハリケーン……あ、自転車は駅に置いておいてくれ!」
自爆してガルルと噛みついてくる亜理紗ちゃんをなあなあでいなしながら、私に向かってバチっと可愛いウインク。
「頑張れ、綾ちゃん! 私のそれは遊ぶ時に使って! 樹神君と一緒に遊ぼう!」
「が、頑張って!」
「ガルル、ウルル……あ、綾乃ちゃんは頑張って! 前言ったように私たちは綾乃ちゃんの事応援してるから……それはそうとしてめい! がるる!」
……全員応援してくれてるんだね、私の事。
みんなそれぞれ……ちょっとよくわかんないものもあるけど、でも応援の品をくれて、それで今も応援……確かに私、ずっと心配だったし。
樹神君の声、なんかふわふわしてて、不安で押しつぶされそうな声で……私が引きこもっちゃったときと同じような声で。
だから学校に来ないんじゃないかってすごく不安で、それが的中しちゃって……うん、決めた! やっぱり行かなきゃ、樹神君のとこ、行かなきゃ!
私でどうなる問題かわかんないけど、でも……気づいてるのは私だけかもしれないから。樹神君が悩んでて、それで不登校の心配……そう言うのわかってるの私だけかもだから。毎日電話してた私だけ……だ、だから私が何とかしたい。何とか樹神君を私が学校に……う、うん私だ! 私が行くんだ!
「あ、ありがとみんな! そ、それじゃあ、その……が、学校サボる! 私学校サボって樹神君のとこ、行ってくる……あ、心配しないで! 私、その……学校サボるのはプロ級だから! だからその……行ってきます!」
『行ってらっしゃい、頑張って!』
私の言葉にさっきまで噛みつき合ってた二人も笑顔になって、私の事を送り出すように大きくそう言ってくれて。
良かったみんなと友達になれて……初めての友達がみんなで良かった。
だから、私は……本当の初めての友達、助けに行くんだ!
力不足かもだし、考えすぎかもだけど……でも心配だし、私にしかできないかもだし! だから頑張る、私頑張る……樹神君の事、絶対に不登校にさせない! 昔の私みたいに、そんなことさせない!!!
「……あ、つむちゃん自転車のカギは返すね。ありがと」
「……なんで? 車でしょ、今日も?」
「ううん、今日自転車できたの、私。ごめんね……なんかカッコよく決まらなくて」
「あ、中竹先生! そ、そのえっと……」
「……その目、なんか事情があるんだね! 私に任せなさい、みんなの副担任の中竹穂乃果に! 私に任せるみょん! だから先に行くんだ!」
「……あ、ありがとうございます!」
☆
「……あ、私樹神君の家知らない。そうだ、家知らない!」
サボって教室抜け出して、途中であった中竹先生に許可を貰って自転車の上、一番重大な事実に今やっと気づく。
どうしよう、樹神君の家知らないなら意味が……
「……ううん、違う。樹神君だもん、私と似てるもん……違う、家じゃない」
そうだ、樹神君だもん。
私と好きなもの似てて、それで……だから何となくわかる。
何となく、私と一緒だったらだけど、でも……なんか確信に近いものが頭にはある。
樹神君はここにいるって、ここで今は……うん、それだ。それが正解だ、多分。
そう確信をもって、少しとまっていた脚をまた動かす。
一度家に帰って、着替えて……それから樹神君のところ行こう。
制服だと補導とかそう言う事されるかもだし、だから……うん、着替えてから行こう。
大丈夫、樹神君のいるところは大体わかってるし、ここにいるだろうってのは分かってるし……や、やっぱり服は可愛い服着て行った方が良いよね?
そ、その樹神君に私服見てもらうの初めてだし、やっぱり可愛いののほうが……あ、でも気合入りすぎてるとちょっとおかしい……ってそう言う話じゃない、私の話はどうでもいい!
私の事はどうでもいいの、今は樹神君の話、私がどうこうじゃない! 樹神君を助けるというか、何というか……取りあえず私は良いの、いつものダボダボのパーカーでいい! あ、あれが一番無難だから!
と、取りあえず待っててね、樹神君! 私が、その、えっと……会いに行くから。
☆
《視点戻ります》
「やっぱり樹神君、私と一緒だ。どこまでも一緒、だから……やっぱりここにいた。おはよ、樹神君……こんにちはかな?」
スマホを片手に僕の方をまっすぐ見る私服姿の斉川さんがそう言ってニコッと微笑む。
だぼだぼのパーカーにジーンズの斉川さんの笑顔の下には安ど感や嬉しそうな色で隠されてるけど、でもそこには少し泣きそうな悲しい色も見えて……ってなんで斉川さんいるの!? 学校だよね、授業中だよね!?
「そ、それはこっちのセリフだよ、樹神君! 樹神君も、その……学校サボってるじゃん! 学校サボって、こんなとこ来てるじゃん、私と一緒じゃん!」
「うぐっ、そうだけど……で、でもなんで僕のとこに!? 電話の内容もよくわかんなかったし、あの、その……なんでここがわかったの!? なんで僕に会いに来てくれたの!?」
さっきの電話も昨日の電話でも何も場所なんて言ってないし、というかサボるとかそう言う色すら見せたないし!
僕の言葉に斉川さんはもじもじしながら、
「だって、それは……私も一緒だったもん。私も一緒だったから、樹神君みたいにちょっと悩んで、それで……だから、わかった。樹神君が悩んでるんじゃないかって、しんどいじゃないかって……だから、その会いに来た。樹神君が心配で会いに来た」
指を絡ませながら、少し赤い顔でそう呟く。
「……そ、そうかよ! で、でもその……僕といて何するの! 別に僕は、あの……調子よくなって、それで遊んでただけだし! だから、その……僕といても何もないよ? 何もないし、その……だから学校、戻った方が良いよ」
「……嘘ばっかり。樹神君しんどそうだよ、声も顔も……何か悲しい音が張り付いてる。しんどい音が張り付いてる……やっぱり、心配。樹神君が、心配」
「……斉川さん……で、でもそれでも僕と……」
「だからさ、お出かけしよ? ほ、ほら、樹神君、その……ま、前私とお出かけしたいって言ってくれてたでしょ? それに少しは気分紛れて、悲しい気持ちもなくなる、かもだし。だ、だから、その……私も樹神君とおでかけしたい。学校サボって、二人で……私とヒミツのお出かけ、しよ?」
★★★
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