第28話 初めて、行きたい

「樹神君、私とお出かけしよ……学校サボって、二人だけのヒミツのお出かけしよ?」

 太陽煌めく昼下がり、少しほっぺを赤らめた斉川さんがそう言ってコテンと可愛く首を倒す。


 お、お出かけ……お出かけ?

「うん、私も樹神君とお出かけしたい、って思ってたもん。だからさ、その……せっかく学校サボったんだから、お出かけしよう! 私、樹神君とどこか、行きたい……そしたら、元気、でる、かも?」


「元気、か……確かに、僕も斉川さんと遊び行けたらとは思ってたけど、でも……あの、えっと……」

 誘ってくれるのは嬉しいし、元気も出るかもだけど。

 でも一応二人ともサボりの身であってそうやって……いや、サボりだからむしろそれが正解? 現に僕もこうやって……いや、でも……


「大丈夫だよ、学校側というか、中竹先生に許可、とれてるから……だから一緒に行こ? 私あの、行きたい場所、あるから」


「中竹先生……みんなの副担任……じゃあ大丈夫かな? 僕も斉川さんと一緒に遊びたかったし」


「えへへ、私も一緒が良い、樹神君と一緒が……それに樹神君もサボりだし、私もサボり、これが正解……だから、あの一緒行くよ。ほら、樹神君……あうぅぅっ」

 そう言って僕に近づいてきてスッと僕の手を取る……ように伸ばした手をキュッと猛スピードで引っ込める。


 そして恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、ぷしゅーっとほっぺに手をやってプルプルと小さく震えて。

 もう、恥ずかしいなら無理しないでいいよ、斉川さん。


「だ、だってぇ……い、いつもは樹神君にリードしてもらってるから……だ、だから今日は私がリードしなきゃって……だ、だから、その……ぷわっ」


「ふふふっ、大丈夫だよ、そんな事。僕も斉川さんもただのサボりでしょ? だから平気、一緒にお出かけしよ」


「う、うん、で、でも……わ、わかった。無理、しない……だってやっぱり恥ずかしいから。手とか繋ぐの、その……まだ、早いし。そ、それなら行こう、樹神君。私、その行きたい場所、あるから、だから、そこ行こう……一緒に、行こう!」


「うん、一緒だよ。行きましょ、斉川さん」


「えへへ、樹神君と一緒……えへへ。嬉しいな、なんか……学校で会えなかったら、余計に……そ、それじゃあこっち。こっちに、行けばある、から……だから、その、ついてきて!」

 そう言って少しギクシャク、バランス悪くてってと歩く斉川さんの隣を歩く。

 右側の真っ赤に染まった顔には嬉しさとか恥ずかしさとか、色々な表情が浮かんでいて……なんか嬉しいな、こうやって……でも学校の友達みると、また工藤さんを思い出してちょっと不安になる。考えたくなかった事が再燃しそうになって……ダメ、斉川さんの事……ダメだ、やっぱりぬぐえない。完全に拭えるわけはないんだ。



 ―にへへ、樹神君と……はっ、違う、今日の目的違う、忘れてた、一緒にお出かけできるって、わかって……と、取りあえず確認!

 じ、じーっ……うゆゆっ……


「……ん、斉川さん? 僕の顔なんかついてる?」


「え、あ、いや、その……にゃ、にゃんでもない! なんでも、ないのですよ、こ、樹神、君……ぷやっ……」

 そ、その確かに目の奥とかに不安の影とかそう言うちょっと怖くて危険な感情が見えたけど。


 で、でもあの、えっと……やっぱり恥ずかしい! 樹神君の顔しっかり見て、まじまじと観察して、見つめあっちゃって、しかもさっきから手とかちょっと当たっちゃってて……あうぅぅぅ……恥ずかしいでふ。




「みんなぁ、斉川さんも帰っちゃったけどぉ、残ったみんなは頑張ろうねぇ! 社会の授業は眠たいけどぉ、みんな起きてねぇ!」


「はーい!」

 ―頑張れ、綾乃ちゃん! 私応援してる、綾乃ちゃんの事応援してる!


 ―なんか綾乃ちゃんと私ちょっと似たところあるし、関係とか色々……だからすごく応援! 工藤さんよりもずっと、綾乃ちゃんの事応援してるよ!


「ちょ、柊木? 柊木?」


「……うえっ!? え、あ……鮫島? ど、どうしたの?」


「その名前禁止だって、学校では。いやね、ちょっとお昼明けで眠たいから寝てたら起こして欲しいな、って……あと今日の晩御飯はハンバーグが食べたい。他にも……今日も誰もいないからさ・」


「……それも学校じゃ禁止だよ、言っちゃダメ、それも……わかったけど……両方とも、わかったけど!」




 ☆


「こ、ここ……わ、私ここ、行きたい……!」

 しばらく少しまごつきながら、ちょっと会話もグチャグチャしながら歩いていると、急に足を止めた斉川さんがもじもじ震えながら、ぐっと近くのネオンが光る煌びやかな建物を指さす。


 えっと、あれは……

「カラオケ? カラオケ行きたかったの、斉川さん?」


「うん、行きたかったの……だ、だってまだ行ったことないし、それに高校生と言えばカラオケ、みたいなイメージあるから……だ、だから行ってみた、かった!」


「そうなんだ。あれ、つむちゃんとか富田さんとかとは行ってないの?」


「ま、まだ行ってない……行こうって話はしてたんだけど、でも行けたなくて……だ、だから樹神君が初めて、だよ。えへへ、樹神君と行くのが初めてだよ、私のカラオケ!」

 にへへと色づいた顔で笑いながら、そう言ってくるっと回転する……な、何か言い方がアレだけど、良いねカラオケ。確かに色々ストレス発散になりそう。


「そう言う事……という事で受け付けしよ? 一緒に受け付け、行くよ」


「そうしよ。善は急げ、早く行っていっぱい歌おう」


「えへへ、善ではないよ、むしろ悪……でも、その考え、賛成。私も、樹神君と一緒に、いっぱい歌いたい……えへへ」

 そう言って幸せそうにスキップで走り出す……ふふっ、楽しそうなら何よりだ。

 僕も楽しもう……楽しんで忘れよう。忘れていいかはわかんないけど……でもそれが一番いい気もする。



 ☆


「いらっしゃいませー。おひとりですか?」


「え、あ……あうぅ……さささっ」

 受付の方にスキップ気分で走って行った斉川さんだけど、受付のお姉さんの声でピタッと足を止める。

 そしてバラバラ身体を動かしたて、そのまま遅れてきた僕の後ろにささっと隠れて……ん、どうしたの斉川さん?


「え、えっと、その……わ、私受付の仕方とか、全然わかんなくて、その……こ、怖い。色々、怖いから、その……やってほしいです、樹神君」

 僕の服の裾をぎゅっと握った斉川さんがか細い鳴き声でそう呟く。


「……そう言う事ね。わかった、僕がやるよ」


「うゆっ、かたじけない……ごめんね、今日は私が、リードするって言ったのに……ご、ごめんなさい」


「だからそれ大丈夫だって。良いの、僕は斉川さんが来てくれて、誘ってくれただけで嬉しいから……という事でお願いします。二人です」


「……リア充め……はい、わかりました。それではここタッチしてください。あ、学生証とかありますか、割引ありますけど」


「え、あ、あります。い、今から……」


「ストップ。出しちゃダメ……すみません、持ってないです」


「はい、そうですか。それでは5番のお部屋です、ごゆっくりどうぞ」


「あ、ありがとうございます。それじゃあ行こ、斉川さん」


「う、うん……なんで?」

 何だか少し不機嫌そうな店員さんからコップを貰って、歌うために5番の部屋に……いや、その前に飲み物入れて行こう。




「ね、ねえ樹神君、その……なんで学生証ダメなの? 出した方がすごく、お得になる……あわっ、スプライトが……あゆゆっ……ぷへっ」


「ふふっ、忙しいね、斉川さんは。アレだよ、学校に連絡されたらいやでしょ? まだ学校の時間なのに外で遊んでるって言われたらめんどくさいからさ」


「ふゆっ、何とか助かった……た、確かに。中竹先生の許可だけだと、全部カバーしきれないかもだし……えへへ、助けてくれてありがと、樹神君……あ、あれぇ?」

 ―お、おかしいな、私が樹神君の事助けるはずだったのに、なんか私ばっかり樹神君に……あ、あれぇ? おかしいぞ?


 ―やっぱり樹神君の目の奥まだ悩んでるし、まだ心配で不安な音が聞こえるし、学校、来てくれないかもだし……や、ヤダ! やっぱり私が助けるんだ! 私が、頑張って、その……頑張るんだ! 


 ―みんなに約束したもん、つむちゃんに富ちゃんにさくらちゃんに亜理紗ちゃん、あと真衣ちゃんとかも……頑張るんだ……樹神君が学校に来れるように。



 ★★★

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