おまけ 身体測定

「竜馬、身長どうだった……ってまたでかくなってんじゃん、お前」


「おいおい、勝手に見るなよ、佑司。まあ成長期だし多少はね?」

 高校生活最初の身体測定の日、広い体育館の隅っこで竜馬の身長体重を見ると184㎝96キロ……おいおい、どこまででかくなるんだ、こいつは?

 身長もだけど、このまま体重が増えたら無差別級だぜ?


「まあまあ、今の体重でも無差別級に足突っ込んでるからそこは大丈夫よ。それよりお前の身長体重も見せろよ。何々、172㎝67キロか。もうちょっと体重は減らした方が健康かもな!」


「いや、標準くらいじゃね? ていうか、竜馬にはそれ言われたくないんだけど。ほぼ100キロじゃん、お前。これマジで階級はどうなるんだ?」


「俺はアスリートだからいいの、階級も良い感じのあるし! だから大丈夫、大丈夫! お~れはあすりーと、最強無敵の黒帯ま~ん!」

 ぱんぱんと自分の胸を叩きながら、気楽そうに陽気な歌を歌いだす竜馬。

 気楽なやっちゃな、ホント。


「さいですか。まあお前が大丈夫なら大丈夫か」


「そうだよ、そうだよ! という事で次の検査行かね? 聴力検査だろ」


「うん、聴力だな。それじゃあちゃっちゃっと終わらして早く帰ろうぜ、まだ竜馬部活ないだろ? ラーメンでも食おうぜ、他のやつも誘って」


「お、良いねそれ! それじゃあさっさと……」


「おーい、佑司君! 佑司く~ん!」

 お気楽竜馬とこの後の約束をして早く検査を終わらせようとしていると、後ろから僕を呼ぶ声が聞こえる。


「あ、工藤さん。ど、どうかした?」

 振り返ると、ほんわか笑顔の工藤さんがぽよぽよ柔らかそうに体操服を揺らしながら、僕の方に走ってきていて……いかんいかん、こんな想像してばっかだ、早く慣れないと! 体操服だから余計目立つけど、こんな事考えちゃダメ!


「ん~、佑司君こそちょっと変かも? まあそれは置いとくとして……あのね、今日は佑司君に良いお知らせを持ってきました! 佑司君が喜ぶような良いお知らせ!」


「え、お知らせ? 僕に? 何々?」


「えへへ、良いお知らせだよ! 佑司君なら絶対喜んでくれる、多分好きだもん! ね、聞きたい? 聞きたい?」


「うん、聞きたい! 何、何があったの?」

 僕が好きなものと言えば野球とマンガとラノベと競馬なわけで。

 何だろう、藤浪完全復活? 中二病の新刊かアニメ3期? ルリドラゴン連載再開? ヴェローチェオロ次走決定? それともウィッチウォッチの……いや~、どれでも楽しみですね!


「何々、俺にも聞かせてよ! 光ちゃん、俺にもその話を!」


「え~、瀬川君には聞いてほしくないな、この話。佑司君だけに話したいんだけど」


「……そうですか、わかりました。俺はあっちで仲間が呼ぶ声を聞いたのであっち行きます、さようなら。あとは二人の時間を楽しんで……ぷへっ」


「うん、それでよし。それでそれで佑司君! やっと二人だね、佑司君への良いお知らせ、やって聞かせてあげられる!」

 なんか竜馬はふらふらとさっきから手を振っていた妙にガタイの良い人のところへ行っちゃったけど、たーんと軽いステップを踏んだ工藤さんが僕の方にくるっと満面の笑みを向けてきて。


 何々、本当にすごい話? 期待しちゃっていい話? めっちゃ可愛いし、期待していい話?

「うん、期待しちゃっていい話! ねえねえ、佑司君。その、誰にも聞かれたくないからさ……ちょっと耳、貸して。佑司君のお耳、ちょっと貸して欲しいな」


「え、耳? そ、それは恥ずかしいし、それにそんなことしなくても別にざわざわしてるから誰にも聞かれないと思うよ?」


「ううん、ダメダメ! 誰かに聞かれちゃやだし、これは佑司君と私の話だから! だからほら、お耳貸して。大丈夫、悪いようにはしないから」


「わ、わかったよ。は、はい」


「うん、よろしい。えへへ、佑司君結構福耳だね……ふーっ」


「ひゃう!?」

 恥ずかしかったけど、でも大事なお知らせってのも聞きたかったし耳を傾けると、ふー、っと熱い息が耳元を刺激して……ちょっと、工藤さん!? ななな何を!?


「ふふっ、ちょっとイタズラ。ひゃうって、女の子みたいな声出して……やっぱり佑司君は可愛いね~」


「も、もう! いたずらやめて、可愛いとかもやめてよ、からかわないでめっちゃ恥ずかしかった! そ、そう言うの良いから工藤さんそのお知らせあるなら早くお願い! 色々恥ずかしいから!」


「恥ずかしがらなくても良いんだよ、佑司君? 私たちは仲良しだし、それに……えへへ、取りあえず言うね、佑司君へのお知らせ。ほら、もっとお耳寄せて、私の方に」


「う、うん。もう、イタズラとかしないでよね?」


「しないしない、もうしない! それじゃあ……えっとね、私のスリーサイズ、ジジーロンと一緒だった。ウエストをAの種族値だとすると、本当に全部一緒!」


「……ん?」

 耳元に甘い声で囁かれたその声は僕の想像とはかけ離れたもので……スリーサイズ? ジジーロン?

 え、何の話何の話? ちょっと話が呑み込めないぞ!?


「あ、佑司君ポケモンわからない?」


「え、いや、ポケモンはわかるよ! 僕ヌメルゴンとか大好きだし!」


「あ、ヌメルゴン私も好き! あと私はジラーチとマリルリも好き」


「あ、それ僕も……じゃなくてじゃなくて。ちょっと、そのスリーサイズって、その……な、何の話?」


「えへへ、やっぱり佑司君とは気が合うね、やっぱり私と佑司君は……ふふふっ、スリーサイズはスリーサイズだよ。私のスリーサイズ」

 耳を甘噛みするような距離感まで身体を引っ付けた工藤さんが、そうくすぐったいような、甘える蕩けた様な声で囁いて……え、スリーサイズってあのスリーサイズ? な、何でそれを僕に!?


「え~、だって佑司君好きでしょ、そう言うの? チラチラ見てたし、嬉しそうだったし……好きでしょ、私のそういう所?」


「え、あ……うん、はい、はい?」

 ……バレてるよ、見てるのバレてるよ!? 

 確かに見てたし、それにめっちゃ目立ってそれであれだけど、でもそのそんな具体的な数値とかそう言うのはでも、あの……


「あ、種族値とかわかんない、佑司君? えっとねH78B85W60だよ……ふふっ、ドラゴン最遅の特殊アタッカーだよ」


「い、言わなくていいよ、具体的な数値まで!」

 ジジーロンのC種族値とか知らないし!

 ていうかそんなの教えないでよ、人に教えちゃダメでしょ!


「えへへ、でも佑司君好きでしょ、私の……あ、佑司君顔真っ赤だ! 照れてるの? 照れてるでしょ? やっぱり好きなんだ、嬉しいな……ほれほれ~、ほれほれ~!」


「ちょ、工藤さん!? やめて、そんな引っ付かないでよ……ちょっと、本当に、こんなところでダメだよ、ちょっと視線とか、色々……」

 そんな引っ付かないでよ、つんつんしないでよ、こんな公衆の面前で!

 ちょっと本当に恥ずかしいから⋯⋯柔らかいのがいっぱい当たってくらくら良い匂いで⋯⋯もうヤバいから!


「そんな事言って本当は嬉しいくせに! ほれほれ~! えへへ、佑司君……つーんつんつーん……ふふっ、佑司君意外と筋肉あるんだね。ぽよよーんかと思ったけど……えへへ」


「く、工藤さん本当にストップ! その、僕のお腹突くのもダメ、そんなのもダメ! 離れてよ、ダメだよホント! 本当に恥ずかしいし、それに色々まずいって!」


「あ、ごめんね佑司君……私ばっかじゃずるいよね? ほら、それなら私のお腹もつんつんしていいよ? ほら、つんつん」

 ぽよよんと柔らかい身体を密着させながら、からかうように僕のお腹をつんつんしていた工藤さんが少しだけ離れて真っ白な雪見だいふくみたいなお腹をさらそうと体操服に手をかけて……ちょーいちょいちょいちょい!


「ストップ、何やってるの工藤さん!? ダメだよ、工藤さん!」


「私佑司君ならいいよ? 佑司君になら見られても触られても良いよ?」


「ちがう、そうじゃなくて……も、もうあんまりからかわないで、さっきから! そう言う事じゃないし、それにここ体育館! みんな見られちゃうよ!」


「からかってないよ、別に……それに二人だったら、良いって事?」


「そ、そう言う事じゃなくて、その……」


「チッ!」


『!?』

 またまた身体を近づけてきて、からかいスマイルで色々言ってくる工藤さんをこんなところじゃダメ、といなそうとしていると乾いた体育館に良く響く舌打ち。


 音の方を見ると僕の後ろの席の斉川さんが暗い目で僕たちの方を見ていて……ほらほら、斉川さん怒ってるよ、こう言う事になるからダメなの!


「む~、もうちょっとで……でもそうだね、あの子怒っちゃってるみたいだしこの辺にしておこうね、残念だけど……そうだ、佑司君次のとこ一緒に行こ? 次聴力でしょ?」


「良かった、良い感じに……うん、そう。それじゃあ一緒に……あ、そうだ工藤さん。工藤さんって斉川さんと話したことある? というか斉川さんが誰かと話してるの見たことある?」


「ううん、話したことないし、見たこともないけど……何々? 佑司君あの子の事が気になるの? 佑司君はああ言うこの事気になるの?」


「うん、後ろの席だし? 色々気になるって言うか、その……僕も話したことないし、プリント回しても無視されるし」

 何度か話そうとしたんだけど毎回イヤホンつけてて無視されるし、プリント回したり、ペア活動もあったけど大体寝てるか無視されるかだし。


 だからその、クラスメイトとして前の席の人間としてすごく気になるって言うか!


「も~、佑司君には私がいるから大丈夫だよ! ほら、さっさと行くよ佑司君!」


「どういうことそれ……って工藤さん、腕組まないで、また舌打ちされるよ!」


「大丈夫、大丈夫……私と佑司君の仲は誰にも引き裂けないんだから」


「え?」


「何でもない! ほら、行くよ佑司君!」


「……はーい」

 積極的にぽよよんと可愛く笑う工藤さんに腕を引かれながら、僕は聴力検査の出来る部屋に向かうことになった……工藤さん可愛いから凄い視線来るの、恥ずかしいの!


「佑司君、佑司君?」


「な、何工藤さん?」


「えへへ、なんだか……ふふっ、やっぱり何でもない」




 ―すごいな、あの二人。入学したばっかりなのにあんなにラブラブで。


 ―私もあんなふうになれるかな、頑張れば、でも……やっぱり無理だ。だって人と話すの怖いし、それに可愛くないし……


 ―やっぱり私に青春なんて無理だよ、雅樹。私じゃ無理だよ……帰ってマンガ読みたい、+チック姉さんでいっぱい笑いたいよ……



 ☆


「こう言うのって先生がやるんじゃないの? 生徒同士で勝手にやって言いの?」


「先生が良いって言ったから良いの! ほら、耳もつけたし、アイマスクもしたし! だからもういいよ……優しくしてね、佑司君」


「……その恰好でそんな事言わないで、変な事してるみたい! ほら、始めるよ……ほい」


「んっ、あっ……は、ひゃい!」


「……変な声も出さないで!」

 なんで聴力検査でアイマスクがいるんだよ、意味わかんないよ!

 それに工藤さん……もうからかうのやめてください!



 ―えへへ、佑司君……もうちょっとかな?



 ★★★

 無差別ルール、マジで楽しい。

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