第16話 ランチは手短に・・・

 何とか大きな事件もなく映画を見終えた俺は、桜ちゃんとすぐ近くにある食事評価サイトで三つ星評価を取っているイタ飯屋に入って、今、まさにランチを食べているところだ。


「ねぇ!太一君!凄く面白かったね〜。ドキドキだったよ。だって、あそこで巨大蛇とか出てくるの信じられない〜!武器がないのに素手で戦うっていうのも凄かったよね〜」


「そ、そうだね。あそこは結構ヤバかったよな」


「うんうん」


 そう言うと桜ちゃんは俺の方を見つめる。


「私、こうして、太一君と映画を見た後、感想言い合ったりするの夢だったんだ。今日、それが叶っちゃった!嬉しい!」


『ゲホッ』


 俺は、ついついランチに付いていた食後のコーヒーを吐き出しそうになっていた。なんだか、こんな時に、言うのって…。

 いや、今はとても俺は美依が好きなんだなんて言えない…。どうしたらいいんだろう…。


「ご馳走様でした!」


「桜ちゃん、俺、俺っ…」


「太一君。今は何も言わないで欲しいな。分かってるよ。太一君の気持ちはね。今日は、私の我が儘に付き合わせてごめんね。そして、付き合ってくれて本当にありがとう。じゃぁ、今日はこれで解散と言うことで…」


「えっ!?いや、待って、は、話が…」


 そういう俺を尻目に桜ちゃんは、さっと横の席においていたハンドバックを取ると出口に向かおうとする。


「太一君。ここはご馳走になってもいいかな。ごめんね。そして、私、白石さんには負けないから。今日、さらにその気持ちが強くなった。だから覚悟してね。あっと、白石さんもちゃんと聞いてね。私、負けないよ。じゃぁね」


 振り向いたと思ったら爆弾発言をするだけして、さっと人混みに紛れて消えて行く桜ちゃん。


 俺は、ただ立ち止まって、その姿を眺めていた。



 一人残された俺は、まだ残っていたコーヒーカップを手に取ったまま固まっていた。すると俺の隣の椅子が静かに動いた。

 そう、そこには、顔を真っ赤にした美依がいた。


「太一。あの、えっと。あー、やっぱり駄目!顔見れない!!」


「美依、お前、本当に付いてきてたのか?」


「そうよ!文句ある?だって、太一ってそういうところすごく優柔不断だし、何か間違いが起きたら駄目だし…って」


 美依はそういうとトートバックからスマホを取り出し、俺の横で何かを入力している。


『ピローン』


【私、太一と桜ちゃんが映画を見ている時、映画館に入れなかった。だって、手を握ったりしてたらどうしようって凄く怖くて。それに、一人で外で待っている時、凄く寂しかった】


「あのさ、大丈夫だよ。そんなことしてないし。ペアシートはどうやら満席で予約出来てなかったらしいから普通の席だったし」


【桜ちゃん、私に宣誓してたよね。負けないって。太一、桜ちゃんのところに行かないで…。私、太一が他の子と付き合うなんて考えた事もなかった。だって、太一の横にはいつも私がいたんだもん】


「美依、俺だって、そう思ってるって。でも、ごめんな。心配かけて。俺がちゃんと桜ちゃんに言えれば良かったけど、なんだか今日は言いにくくてさ」


【うん。太一、優しいもんね。でも、これからは私だけに優しくして欲しい】


「そうだな。俺、物心ついた時から美依とずっと一緒だったし、なんだか恋愛っていうか好きとか愛しているとかなかなか考えられなかったんだ」


【私はずっと前から太一のことしか見えてなかったよ】


「そうなのか?でもさ、俺、最近分かったんだ。やっぱり俺は美依が好きなんだってな。だってそうだろう?俺の強い所も弱い所も全部知っていて、それでいて俺のことが好きって言ってくれるのは美依しかいないってな」


「太一…!!!!!!私、太一が好き!!!!うわぁ〜ん」


 二人がけのテーブルで、美依はライン、俺は言葉で会話するから周りの人からみたら「はっ?あの男の人ずっと独り言いってる」という感じだったに違いない。だが、ついに、美依が自分の言葉で俺の事を好きって言ってくれた。そして、俺の胸にもたれて泣きじゃくっている。


 俺は、美依の顔を優しく両手で持つと上に向ける。

 美依の大きな瞳に俺の顔が映っている…。


その時…


『バターン』


大きな音と共に、美依は床に倒れていた。



————————————


第十六話を読んでいただきありがとうございました!

これで第一章が終了です。

太一の瞳をみてしまった美依はどうなるのでしょうか!?



皆さま、ここまでお付き合いいただきありがとうございます!


第二章スタートまで少しお時間を頂く予定です。

引き続き、ツンデレな美依と優柔不断の太一のドタバタラブコメをどうぞよろしくお願い致します。

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