第27話 お説教

「えっと、美依、いや、美衣さん。これには深い訳があって…」


「いいから、来なさい。もう、ご飯出来てるから!」


「は、はいっ」


 俺は、美依に引っ張られるような形で美依の部屋に入れられた。部屋に入る際、塩谷あかりという彼女の方をチラッとみると、俺に「じゃあね〜〜」と手を振っているし…。なんなんだあれ?


 しかし、全く、訳が分からない…。彼女は一体誰なんだろう?そもそも、俺の右側の部屋って一年くらい空き部屋だったよな。最近、そこにあの子が引っ越して来たって言うことなんだろうけど…。

 なんだか彼女は俺の事を知っているような気がする。なんというかあの子、最初から俺に対して壁がないように感じるのは俺のうぬぼれではないと思う。

 もしかして、俺、あの子と何処かで会ったことあるのか!?


「はい。太一。手と顔を洗って。そのだらしない頬の緩みを引き締めてきなさい!」


「くっ…」


「まったく、ちょっと可愛くて胸が大きい子がいたら太一は吸い付けられるように近付いていっちゃうんだから」


「そ、そんな訳ないだろう。俺、そこまで童貞丸出しじゃないってば」


「へぇ〜。太一って、まだなんだ。へ〜〜」


 エプロンで顔を隠して俺を揶揄っている美依。だが、ほっぺが真っ赤になっているのを俺は見逃さない。


「そ、そうだよ。だって、俺、これまで誰とも付き合ったことなかったからな。まっ、これからは美依と付き合うんだから、いつかは、ほら、美依と、ま、そ、そういうことだ」


「ばかっ!!太一の変態!!」


 美依は、自分がフライパンを持っていることを忘れて俺にその凶器を振りかざす。後ずさりながら何度か避けたものの、結局、『カーン』と金属音がした途端、俺の目には大きな星がいくつも生まれて消え、生まれては消えていった。


「ぐっ〜〜〜!お、お前、美依!!流石にフライパンは…。痛っ!!」


「へっ」


 急に我に返る美依。


「ど、どうしよう。どうしよう!!太一、頭大丈夫?見せてどこ?どこに当たった?」


「ここだよ、ここ!!!」


 美依は、俺をソファーに座らすと自分も屈んで俺の頭を見る。髪を触られていると痛さなんて感じなくなる。美依、なんだか凄くいい香りがするな〜って、俺、変態か!?


「ごめん。たんこぶ出来てるね。ごめん。ほんと。ごめん…」


 何度もごめんという美依。そして、最後のごめんは、声にならないくらい、小さくなった。


「いいって。泣くなよ。俺が昔から石頭なの知ってるだろう?たいしたことないし、大丈夫だって」


「うん。ごめんね。ありがとう。太一…」


 なんて可愛いんだろう。

 無意識に俺は、美依の顔を覗き込む。

 すると、美依の大きな瞳が俺の目の中に入ってきた。


「た、太一…」


 俺の目を見た途端、身体の力が一気に抜け、重力に引きずられるように倒れ込む美依。

 俺は、美依の身体をすんでのところでキャッチする。

 そして、腕の下に手を回すと所謂お姫様抱っこをし、ベットの上にゆっくりと美依を降ろした。


 あ〜、やっぱり、すぐには治らないよな〜。

 

 というか、美依が意識を無くす回数は少ない方がいいに決まってる。そう、あいつの身体に負担があるのは間違いないし。

 

 だとすれば、原因や対策が決まるまで、俺は美依と会わない方がいいのかもしれない。

 でも、俺は、美依と一緒にいたいし、美依の声を聞きたい。ラインなんていやだ。でも、俺の我が儘であいつの負担を増やしたくないし…。


 その時、俺のスマホがブーンブーンと音を立てた。

 テーブル上に置いてあった俺のスマホを手に取るとショートメールが来ていた。ん?誰だろう?


【太一君。私なら、太一君とずっと一緒にいることが出来るよ】


 えっ?だ、誰だ!?俺の携帯の番号を知っているやつ?そして、これって、美依のことも知っているってことか?一体誰だ!?


 美依は、軽い寝息を立て穏やかな顔で眠っている。

 その横で、俺は得たいの知れない恐怖で顔をひきつらせていた。



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第二十七話を読んでいただきありがとうございました!

次回、「慣らし運転」をお楽しみに!


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