第20話 一夜明けたあとで

 がばっーとベットから飛び起きる。


「はっ、ゆ、夢か…。にしてもリアルな…」


 その時、俺の足に何かが絡まってきた。しかもなんだかとっても温かくて柔らかい…。


 恐る恐る横を見ると、そこには、夢でみた様な姿の美依が眠っていた。


「はあっ——————?」


 ちょっと待て、落ち着け俺!まずは、状況を整理しよう。

 俺は、昨晩、美依と美依のお母さんである恭子さんと夕食を食べ、そして、恭子さんは旦那さんが出張から戻ってくるからと言って家に戻っていった。その後、俺が部屋に帰ろうとしたら美依に止められて、それからビールを飲んで…。


 ぐっ、そこから一切の記憶が無い。


 ま、まさか、俺は、美依とその、エッチをしてしまったのだろうか?全く記憶が無いだけに腹立たしい。やったのならば勿論、責任は取るつもりだし、美依のことが何よりも好きだって今もすぐに言える。だけど、初めての日がまさか酔った勢いだなんて、それは余りにも…。


「ふぁ〜。太一起きたの?おはよ」


 あの、美依さん、パジャマのボタンが上から三つほど外れてますけど。それに、も、もしかしてノーブラなの?


 俺は、美依の事を全く凝視出来ず、いつもの美依のように下を向いてしまう。


「あのさ、美依、ちょっと、その姿は俺には、その、すごく刺激的すぎなんだけど」


 勇気を出して指摘した俺の頭にビーズで一杯に膨らんだ枕が『バチン』と当てられる。


「痛っ」と声を上げると同時に「ば、馬鹿!!!太一のドスケベ!」と美依も叫んで胸元を直している。あえて言ったのに、すごく損した気分だ。これなら、もっと見ておけば良かった…。


「昨日は、太一が酔っ払ってテーブルに持たれて眠ってしまったから、私が必死にベットまで運んであげたのよ。だって、風邪引くと思ったし、それに…私もちょっとだけ期待したし…」


「えっ、何?最後の方、聞こえなかったんだけど」


 やっぱり美依は俺の方を見ないまま言葉を発している。


「馬鹿!ほんとに太一って肝心な時に聞かないし、それにヘタレなんだから」


 えっ、ヘタレって、俺なにかやらかしましたか?

 まぁ、確かに、大事な事を話そうとしている美衣を前にあんな少しのビールで酔っ払って寝てしまうなんて…。男としてどうかと思うけど…。


「ごめん、その。で、ありがと。ベットまで運んでくれて。お蔭で寝心地良くて最高だった。で、俺、何かしなかった?」


 その時、『ピローン』とラインの音がした。


【うん。太一が?私に?いびきも特になかったし、寝相も良かったよ】


「そ、そうか。そうか。それならいいんだ。で、美依が話をしたかったことって何なんだ?もし美依が良ければ俺は、今でも聞くけど」


【あのね、もう少しだけ勇気をください。もう少しだけ…】


「そっか、わかった。じゃあ、美依が決心したらまた教えてくれ」


【うん。ありがとう。ねえ、太一、朝ご飯食べていく?】


「へっ!!!!!」


【え〜、そんなに驚くところなの?】


「いや、その、まぁ、なっ」


【パン?、ご飯?、それとも…】


「それともの先はいいから!!!パンにします。パンでよろしく!」


 俺は、顔を真っ赤にして、パン、パンと連呼していた。


「ふふふ、太一、変なの〜〜〜!!!!ははははは」


 ラインではない美依の言葉、そして、美依の笑い声…。


 俺、やっぱり甘々なラインのテキストもいいけど、こうして聞く美依の声が好きなんだよな。早く、美依が俺の顔を見ながら話をしてくれるようになればいいな…と思った。


 恐らく、美依が俺に話をしたいことは、その件に関わることだと思う。

 その時、どんなことを聞いたとしても、俺は、美依が好きでいられる自信がある。だから、安心して、言って欲しい。本当の事を…。



- - - - - - - - - - - -


第二十話を読んでいただきありがとうございました!

次回、「先輩と美依」をお楽しみに!

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