第21話 先輩と美依

 髙橋先輩は凄く男気があり、そして、リーダーシップがあり、尚且つ醤油顔のイケメンときたらそりゃ、サークル『遊ぼ』に参加している女子達が髙橋先輩を狙っているという噂が絶えないのもわかる。

 所謂、カーストの上位、モテモテの勝ち組なんだと思う。それに反して俺はというと…。まあ、いけてないよな…。


「太一く〜〜ん!おはよ〜。今日もキリッとカッコイイよ!」


 でも!今日も朝からとても嬉しいことを言ってくれる桜ちゃんがいるし。いやいや、そうじゃない、そうじゃない。


『ピローン』


【太一!もう!桜ちゃんと朝からデレデレしないでよ!!】


 そう、俺のやる事をしっかり見てくれてる美依がいる。本当は、俺を見つめて言葉にしてもらいたいけど、美依にはそれが出来ない理由があるらしい。早く知りたいが、まあ、美依が自分で言ってくるまで待つというのが男だろう。ということで、俺は、あの日から、美依にこの件について話をしていない。


 すると、俺ら『遊ぼ』がたまり場にしている大学のカフェの椅子に座っていた髙橋先輩が急に席を立つと、外に向かって走り出した。


「白石〜〜!おはよう」


「髙橋先輩、おはようございます〜」


 えっ?講義に向かっていた美依を見つけてわざわざ挨拶をしに自分でカフェから出て行ったの?はっ?そんなことってある?


「白石、この前のことなんだけど、いつならいいかな?」


「あ〜、私ならいつでも大丈夫ですよ。先輩の都合のいい日でOKです」


「そ、そっか。なら、今度また連絡するわ。あのさ、ラインとか教えて貰ってもいいかな?」


「あ〜、えっと携帯のショートメールでお願いしてもいいですか?ラインは余りやってないので」


 美依!!!お前、俺にあれだけライン送ってくるのに、先輩には教えないんだな。へへっ!どうだ!髙橋先輩!先輩がどんなに美依に迫っても絶対に駄目なんですよ。


 だけど、都合の日って、一体なにするんだろう?

 そう思うと俺はいてもたってもいられなくなり、美依の方へ行こうと席を立つ。するとそれをブロックするみたいに桜ちゃんが、仁王立ちしている。


「太一君!?白石さんが心配?」


「…っ。いや、そういうんじゃないんだけど」


「私と太一君、次の講義、初級教育概論一だよね。良い席取りたいから早く行こうよ」


「そ、そうだね。行こうか」


「うん!」


 少し肩が当たるくらいの近い距離で俺と桜ちゃんは並んで歩き出す。


『ピローン』


【太一!近い!!もうほんとに!午後は私と同じ講義でしょ?終わったらランチ一緒にしようね】


「太一君、ライン?」


「いや、スパムメールだった」


 俺は誤魔化しながら高速でラインの返事を打つ。


【了解。この間泊めて貰ったお礼もあるしご馳走する】


【うん、でも、いいよ。私、太一と一緒にいられるだけで幸せだから】


 く〜〜!!たまらん!!


「えっ!?どうしたの?太一君、顔が、ちょっと変だけど?」


「あー、ごめんごめん。桜ちゃん、行こうか」


 俺は、誤魔化す為に、教室に向かって走り出した。



- - - - - - - - - -


 ランチは、大学近くのうどん屋にした。ここのうどんは、香川の讃岐うどんの名店で修行した店主が二年前にオープンさせ、それ以来リーズナブルな値段と質の高いうどんを食べさせる店として大人気だ。

 たまたま、俺と美依の意見が一致して、一早く昼前に店に入ったものの、すでにカウンターしか空いてない盛況ぶりだ。だが、美依は、「こっちの方がいいかも」と言って、俺らは今、カウンターに並んでうどんを啜っている。

 

「「う〜!上手い!」」


 丸天が乗ったシンプルなうどんなのに、この味わいの深さは一体なんなんだろう。昆布、鰹だし?やっぱりこの出汁が美味しいんだよな〜なんて思って夢中で食べている。


「ほら、太一。汗びっしょりだよ。はい。これ」


 美依は、可愛いハンカチを俺に差し出してくれる。


「あっ、ごめん。いいのかな。美依のハンカチで汗なんて拭いてしまって」


「馬鹿、いいに決まってるでしょ。ほら、早く」


「あ、ありがと」


 決して、俺の方は顔を向けない美依。でも、ラインではなく美依の声が近くで聞けるだけでなんだか俺のテンションは上がっていく。

 美依は、こちらも渋くごぼう天うどんを食べている。美依の方をさりげなく見る。箸でうどんを数本掴むと小さな口に運んで行く。長い黒髪は、耳にかけて、「ふうふう」と息を吹きかけつつ食べている姿に思わず見とれてしまう…。


「もう、太一ったら。そんなに真剣に見られたら食べにくいよ…」


「ぐっ、ごめん」


 しっかりとバレていた。しかし、美依はどうして俺がやっていることや思う事がわかるのだろうか?逆に、俺はどうだろう?美依のこと全てをわかっているのだろうか?例のことはともかく、髙橋先輩との関係はどうなんだろう?俺はたまらず聞いてしまう。


「なあ、美依?」


「ん?なに?」


「お前、髙橋先輩となにか約束してただろう?あれって何?」


 俺の言葉を聞いた美依は、箸をゆっくりと下ろし、「えっ?何もないよ。うん。太一が心配するようなことは何もないから安心して」と言うとまた、うどんをゆっくりと食べだした。



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第二十一話を読んでいただきありがとうございました!

次回、「美依の声」をお楽しみに!

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