第22話 美依の声
今日は土曜日。
俺は、昨夜も無駄に遅くまで起きてYouTubeを見ていたこともあり、時計の針が午前十時を指そうとしているのに布団の中でだらだらと過ごしていた。
すると、隣の部屋のドアが静かに開き、「カチャ」と鍵が閉まる音がした。
ん?美依か?もう何処かに出かけるのか?えっ?もしかして、髙橋先輩とデートなのでは?美依と髙橋先輩が仲良く顔を見合わせて歩いている姿を想像した俺は、布団をはねのけるとマッハの速さで着替えをして、部屋を飛び出した。
美依、何処に行くんだろう?
悪いとは思いながらもゆっくりと美依の後ろを歩いて行く。しばらく歩いて行くと大きな公園が見えてきた。
えっ?ここは、中央公園じゃないか?もしかして、ここでピクニックでもするとか?
だが、美依は、待ち合わせの場所として有名な大きな噴水も超え、さらに奥の方に向かって歩いて行く。どうやら、公園に隣接する図書館に向かっているようだ。
いたっ!髙橋先輩だ!
「おはよう〜。悪いな〜。今日はありがとう!」
「おはようございます。いえ。私もいい経験になりますし…」
「そうか、そう言ってもらえると嬉しいな。じゃあ、行こうか」
「はい!」
時折、顔を見合わせては、美依は笑顔で髙橋先輩と歩いて行く。
『くそっ!!ムカつく!とにかくムカつく!』
でも、まだ、俺は美依に正式に告白もしてないし、飛び出して文句を言うわけにはいかない。だから、今は黙って見ているしかないんだ…。あ、こんなことなら早く言っとけば良かった…。
図書館の館内を進んでいく。するとフリースペースに、子供達と親御さん達が大勢いるのが見えた。子供達はカーペットに座り、今か今かと何かを待っているようだ。
ん?美依?
えっ、美依がその子供達の輪に入って行くではないか!?
「みんな〜!おはようございます〜!」
「「「「「おはよう、ございます〜〜っ!!」」」」
「いいお返事出来ましたね〜。それでは、今日は、お姉さんが、この本を読みます!『猫のナツとネズミのミニの物語』っていう本なんだけど、これは、お姉さんが書いたお話しだよ!じゃあみんな聞いてね」
「「「「「「は〜〜〜〜〜い」」」」」
美依は、物語を感情豊かに読み始めた。慈愛に満ちた優しい声はいつもの感じだが、物語の流れに沿って時には怒りを、そして時には涙を流すほど哀しく…、そんな思いが詰まった言葉で綴られていく。
聞いている子供達は、ハラハラドキドキしながら美依の織りなす物語を共に旅して、そして、ラストの場面では、全員が息をするのも忘れるほど画用紙に書かれた絵に注目していた。
飢えて死にそうな猫のナツに自らを差し出したネズミのミニ。衰弱している猫のナツが、最後の力を振り絞りながら、ミニに話しかける。
『ありがとう。でも、いいんだ。僕は友達の君を食べてでも生きていたいなんて思わないよ。君は優しいね。一生忘れないよ』
このシーンで子供達はみんな「わ〜〜ん」と泣き出した。遠くから見ていた俺でさえ号泣だ。
美依の語りは、聞き手をその世界に一瞬で引きこむ力を持った素晴らしいものだった。俺は、涙を流しながら強く思った。
俺、やっぱり、美依の声を聞きたい。俺の目を見ながら美依の声で優しくして欲しい。そして、俺が間違った時は、叱って欲しい…。
美依、俺、美依が悩んでいることを解決してあげたいんだ。
だから、早く教えて欲しい。
俺は、今、明確に気づいてしまった。
俺、美依の声の虜になってたんだ。
いったいいつからだろう!?もしかしたら高校からだったかもしれない、いや、幼稚園の時かもしれない。
美依に見つめられながらその声を聞きたい…。
俺は、そんな日が一日も早く来るようにと祈っていた。
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「白石〜!ご苦労様。本当に、素晴らしかった。俺も泣いてしまったよ」
「髙橋先輩って、涙もろいですもんね。ふふっ」
「お前、また、俺を馬鹿にしてるし〜!あっ、そうだ。さっき、太一に似た奴が後ろの方でずっと見てたけど、白石、太一を呼んだ?」
「はっ!!!!そんな、そんな恥ずかしいことしないです!だって、これは私と髙橋先輩だけの秘密ですよ。私が実はこんな絵本を書いて読み聞かせしていることは!」
「分かってるって。落ち着け。白石。もう、白石はほんと太一のことになるとムキになるな。やっぱり、太一のことが好きなのか?」
「えっ、そ、それは…。えっと、何というか…」
「それだけ顔を赤くしてもじもじしてたらもうわかるよ。あ〜、俺、やっぱりだめだったな」
「えっ?駄目って何がですか?」
「まあ、もういいって。良くわかったから。まっ、来月もまた頼むよ。ここに務めてる司書の姉さんもこの企画が好評だって凄く喜んでる。という俺も、毎月、白石の絵本を見るのが楽しみだし」
「あ、ありがとうございます。あの、優美子さんにも宜しくお伝えください。私、太一、探してきます」
「じゃあな」
「お疲れ様です!」
もう、本当に太一ったら、勝手に私を付けてここに来るなんて…。
太一が来るんだったらもっと可愛い服着てきたのに…。
【太一!どこにいるの?今日、図書館来てたの知ってるよ】
『ピローン』
【ま、まじっ?見つかってたの俺って?】
私は、速効でテキストを打ち込む。
【で、どうだった?私の書いた絵本は?】
『ピローン』
【泣いた。正直、泣いたよ。俺、お涙頂戴もんの映画でも泣かないのに…】
【えっ】
『ピローン』
【俺、やっぱり、美依の声が好きなんだ。だから、俺、やっぱり美依にはラインじゃなくて、きちんと声にして伝えて欲しい】
えっ?私の声が好き?えっ、本当なの?
【太一、本当?私の声を好きだって言ってくれるの?】
『ピローン』
【俺、美依が悩んでいることを俺が解決してあげたい。だから、勇気を出して言ってくれ】
もう、駄目だな。太一に変な女って思われてドン引きされてもしょうがない。もう、真実を言うしかない。
私は、覚悟を決めた…。
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第二十二話を読んでいただきありがとうございました!
次回、「向かい合う二人」をお楽しみに!
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