第23話 向かい合う二人
今、私は太一の部屋のテーブルに座り、下を向いている。そんな私を太一はどう思ってるだろう!?
図書館からアパートに戻る際、私達は一言も言葉を交わさなかった。でも、言葉は必要なかった。だって、私達はずっと恋人握りをしてお互いの思いを感じながら歩いていたのだから…。
繋いだ手が少し汗を帯びても私はずっと太一と指を絡ませていた。その繋いだ指先から私の気持ちが太一に伝わったように思えた。
今日はとても気分がいい…。だから、今日。そう、今日こそ太一に本当のことをいうしかない。
それにしても、子供達、あんなに喜んでくれて本当に嬉しかったな。
それは、ふとしたきっかけだった。
図書館で小学校低学年の生徒達へ絵本の読み聞かせ企画しているということをサークルの髙橋先輩から聞いた私は、以前から頭の中にあった作品をゆっくりとスケッチブックに描いていった。
話の展開、主人公、脇役、どんなメッセージを込めるかなど、小学校低学年向けという決まりがある中でどういうラストにするかなども何度も何度も考えては書き、そして消して…、考えて書いては消す…、そんな作業を繰り返し、約二ヶ月かけて完成させたのだ。
自分が生きるより、友達のミニを大事にする行動をした猫のナツ。
実は、このモデルは太一だった。
だって、太一なら、きっと同じ事を考えたと思う。そして、その太一のすぐ側にいたミニのモデルは勿論私だ。絵本では哀しい物語になったが、現実はこんなことにはしたくない。いや、私は絶対にさせない。
ふと我に返ると、私は右手で紅茶が入ったカップを掴んだまま空中でずっと止めていた。
「あのさ、美依!?右手、大丈夫?」
「っ…」
太一ったら、、
私もこれって変だよねって自分で思ってたのに、突っ込みが早いんだから…。ほんとにもう!
「太一、あのね。えっと、話をしていいのかな」
「お、おう。そう、美依の悩んでいることを全部教えてよ。俺が解決できる事があるなら頑張るからさ」
太一の手が私の左手に伸びる。
優しい温もりが心を埋めていく…。
あ〜、私、やっぱり太一が好きだなぁ〜。
瞳はどうあれ、太一という人間を好きなんだ。そうなんだ、なんだ、簡単なことじゃない。なら、絶対に言えるはず!
私は勇気を振り絞る。
「太一!実は、私、太一の瞳を見ると心臓の鼓動が大きくなって、意識を失ってしまうの」
「えっ!?なんて!?」
「だから、太一を見ると私は失神するって言ってるの!」
「はっ!?ま、まさか…」
「まさかもくそもないわよ!人がせっかく勇気を出して告白したのに太一って最低!もう知らない!!」
テーブルの席を立つと、一目散にドアに向かう私。
あ〜、またやっちゃった。
私のこの秘密を初めて聞く太一からしたら、当然の反応なのに、私はとにかくなんでもいいから私のこと全て知って欲しいという我が儘な気持ちが出てしまったのだ。
「待てよ。美依。このままだとずっと同じだぞ!」
後ろから太一の声が聞こえる…。
うるさい!私もそんなことわかってるわよ!だって、仕方ないじゃない!?好きな人の瞳見た途端意識失うって、そんな彼女鬱陶しいだけでしょ?だから、言いたくなかったのよ!!!
そんな思いが自分の頭全体を占め始めた時、私の身体は動けなくなった…。
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第二十三話を読んでいただきありがとうございました!
次回、「夜は二人で」をお楽しみに!
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