第24話 夜は二人で

 気が付くと俺は美依を後ろからきつく抱きしめていた。

 美依は、言葉にならない声を小さくあげたような気がする。

 だが、俺は、そのままさらに力を入れていく。美依の体温がそのまま伝わってくる。今日、一日外出していたはずなのに美依の髪からはとてもいい香りがしてくる。


「あのさ、美依」


「う、うん」


「俺の顔見たら気を失うってことなの?だから、俺の顔を見なかったということなの?」


「……………」


 俺は態勢を変え、美依の顔を覗こうとした。

 だが、美依は俺の顔が近付くと反対の方向へと顔を向ける。


「た、太一のいじわる!!!私がどうなっても知らないから!」


「大丈夫。だって、俺、美依が倒れてもしっかり受け止めるし、ちゃんと安全なところで目が覚めるまで一緒にいるし」


「っ……」


 美依はゆっくりと俺の腕を解くと身体を反転させる。

 どうやら覚悟を決めたようだ。


「太一、太一は私の声が好きって本当?」


 俺の顔から視線をずらす為に顔を下に向けている美依は自信なさげに呟く。


「うん。ずっと当たり前だと思っていた。俺の横には美依がいて、いつも美依が俺に話しかけてくれて…。でも、今日、美依が絵本を読み聞かせしてるのを聞いてはっきりと分かった。俺、美依の声が好きなんだなって。あと、美依の強がりな所も好きだし、美依の長い黒髪も細い足も好きだし…。そう、俺、やっぱり美依が一番好きなんだ」


 言えた!言えた!!!やった!!!

 

 これまでずっと自分の心の奥底に詰まっていた思いを漸く言えたんだ。漸く告白をすることが出来たことで頭がいっぱいだった俺に、美依がゆっくりと顔を上げ俺に近付いてきている。


 ん?なに!?


「チュッ」


 美依は、俺の唇に自分の小さく柔らかい唇をあてた。


 えっ………。


「私も太一が好き。寝起きが悪かったり、試験勉強よりゲームしちゃうところとか、あと、ちょっと女の子にだらしないところもひっくるめてとにかく太一が好き。でも、私は太一の顔を見るときっと気を失うよ。それでもいいの?」


「いいって。さっきも言っただっろう?もしそうなっても必ず俺がお前を守るから」


 美依はヒュッと声を飲み込むと、ゆっくりとゆっくりと顔を上げる。そして、美依の大きな瞳が俺の視線と交わった瞬間…。

 美依は、倒れるより先に、もう一度唇に自分の顔を寄せた。そして、俺は、そのキスを受け止めながら、美依を両手で支える。



- - - - - - - - - - - -


『本当なんだな。俺を見ると気絶するって、ほんと、どれだけ美依って俺のこと好きなんだよ』


 なんて、偉そうなことを思いながら、俺の心は温かいもので、これまで経験したことがないくらい満たされていた。


 見つけた。そうだ、こんな気持ちに出会えたのはいつ以来だろう?

 ずっと暗い病室での出来事が俺の頭のどこかに粘りついていたのに、今はどうだ…。こんなにも清々しい。


 俺は、ベットに眠る美依の長い黒髪を何度も撫でる。左手は美依の手を握っている。このまま美依の意識が戻るまでこのままでいよう。


 これからも寝る前に、俺は美依とキスをしたい。

 俺の部屋だったら美依に何かあっても安全に過ごせるはずだし…。


 だが、気絶することが美依の身体や精神的な部分に大きな負担を持つのであればこのやり方は駄目だ…。

 そうだ、今度、この前美依を見てもらった病院の先生に聞きに行こう。もしかすると、少しずつ顔を見合わすことで興奮状態が薄れていくって有りそうだし。それを繰り返していけば、美依の気絶も改善していくかもしれない。


 ま、、いいか。今考えてもどうしようもないしな。きっとなんとかなっていくだろう。だって、お互いの気持ちはわかった訳だし…。


 俺と美依の二人の夜は始まったばかりだ。


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第二十四話を読んでいただきありがとうございました!

次回、「モテ期到来?」をお楽しみに!

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