第8話 ロマンスカー
小田急線の改札をくぐり、一番ホームに向かう。
そう、今日は奮発して、特急ロマンスカーのチケットを準備したのだ。新宿から片瀬江ノ島駅までは、普通電車でも一時間ちょいくらいだが、やはり今日はなんたって美依とのデートだ。なので、ゆっくり出来る席をチョイスしたという訳だ。
時間通りに電車はホームを滑り出した。
俺と美依の大学生になってからの初デートがいよいよ始まる。
俺はちょっと浮かれているかもしれない。窓側に座る美依の方を外の景色を眺めるふりして見つめる。
あ〜、むっちゃ可愛い…。黒髪だけどよく見ると薄い栗色に見える長い髪がとても艶やかに光ってる。しかも、やっぱり、美依のプロポーションって、男性破壊兵器みたいだよな。正直、目のやり場に困る。
ただ、残念なのは、俺と直接会話する時は決まって俺の顔をみない。そして常にキレているということなんだ。
あそこまで、きつく言わなくてもいいのに…と正直何度もへこたれてきた。でも、その都度、その後からやってくるラインの甘々トークで俺の心はじんわりと温かくなっていくのだけど…。
もしかして、美依は亡くなった俺の母さんからなにか言われているのではないだろうか!?だからこんな態度を取ってるのかもしれない。
だとすれば、それは美依のせいではないよな。
そう、、、俺も甘んじて受け入れなければならないのかもしれない。
ただ、いつも考えるんだ…。
もしも、ラインのような甘々トークを美依が自分の言葉で発してくれたらもう俺はすぐに落ちてしまうんだろうなって事を…。
電車が下北を過ぎた辺りで俺は、電車に乗る前に百貨店の惣菜売り場で買った弁当二つをビニール袋から取り出した。一つは、黒酢酢豚とチャーハンの中華弁当、そしてもう一つは、隅々までカロリー計算されて作られた豆腐ハンバーグと野菜煮物弁当だ。
「あのさ、美依の好きな方、選んでよ。遠慮しなくていいからな」
「あ〜、えっと、あの、う〜ん。豆腐ハンバーグの方かな」
「了解。美依ってスタイルいいじゃん?多分、しっかり管理しているんだろうなと思ってこの弁当買ったんだ」
「太一!!それって、もしそう思ったとしても本人に言うのってどうなの?」
「ぐっ。す、すまん。ちょっとデリカシーに欠けてたかもな」
「そ、そうだよ。私、太一に喜んで貰える為に頑張ってるのに…」
「えっ?なんて?電車の音が大きくて聞こえないぞ!もっと大きな声で言えよ」
「はっ!そもそも太一の耳が悪いんでしょ?そうだ!いつもイヤフォンで爆音で聞いているから難聴になってるんじゃないの?知ってる?難聴って一度なったら治らないんだって。だから、自分の耳は自分でしっかりと管理して守らなきゃだめよ!分かった!?」
話の流れから俺がイヤフォンで爆音で音楽を聴いていることを早口でディスられているようだ。いや、注意を受けているんだよな。
「ねえ!分かった?耳って大事なんだよ!!」
「へいへい」
「もう!そこは、はいでしょ?いつも言ってるじゃない。もう!ほんと馬鹿なの!?」
そういうと美依は「ちょっと手洗ってくる」と言って席を立つ。
俺は、二つの弁当を持ったまま、唖然として固まっていた。
すると、俺のスマホがいつものように「ピローン」と音を立てた。
ま、まさか、美依のやつラインをするためにトイレに行ったのか?
【太一、ごめん。私素直じゃなくて。嫌いにならないで…】
ぐっ…。俺はスマホを見てちょっとニヤけてしまう。
【なるわけないだろう。俺はお前だけだから】
【太一〜〜。私、豆腐ハンバーグの方もらうね。身体のこと気遣ってくれてありがと。大好き】
だ・か・ら!!!
これを直接言って欲しいんだけどな〜。
しかし、美依のこのツンデレっていつから始まったんだっけ?
俺は、昔を思い出していた…。
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第八話を読んでいただきありがとうございました!
次回、「ツンデレには理由があるの!」をお楽しみに!
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