第9話 ツンデレには理由があるの!
私、
お互いが思春期に入った中三あたりは、ちょっとギクシャクしたこともあったけど、それでも私は太一といるのが普通だったし、太一と一緒に笑って、泣いて、同じ環境にいられることを積極的に望んだと思う。
まあ、風呂も寝るのも一緒っていうとちょっと大袈裟だが、自分ではそれくらいの距離感で太一と一緒にいる為に努力してきたと思う。
実は、私は幼稚園の頃から太一が好きだった。きっと太一も私の気持ちは気付いていると思うけど、実際のところ未だ告白出来ていない。
太一の何が好きかって…!?
私は、太一の瞳が好きなのだ。そう、透き通った大きな瞳に何故か惹かれてしまうのだ。
そして、何より好きなのは、太一が私を見つめる時の優しい瞳…、その瞳をこの世の中で一番好きと自信を持って言える。
幼稚園の頃、「美依、遊ぼ〜」と私の部屋の扉を開け、ベットに座る私を見つめる太一の瞳に全身が痺れた。小学校時代に「おい、早く行くぞ〜。遅刻だぞ」と玄関に迎えに来た時も、太一の瞳が余りにも好きすぎて身体全体が熱くなった。中学三年の時、高校の入学試験に備えテスト勉強をしていて、ふとお互いが顔を上げ見つめる形になった時なんて、正直意識が何処かに飛んでしまった…。
勿論、この事は、太一には内緒にしている。
私が、あー、もう駄目だと思ったのは高校三年の文化祭の時だった。
その頃、太一は、音楽に凝っていて、クラスの男子生徒四人でバンドを組んでいた。予選会を勝ち抜いた太一のバンドは、文化祭当日、トリで登場すると大歓声の中、五曲を演奏したのだ。
その二曲目…、ボーカルの太一はストレートのマイクスタンドを振り回しながら曲のキメに合わせてポーズを取っていた。
『練習したんだろうな〜、かっこいいな〜』と思って見ていたのだが、なんとその曲の一番最後のブレークのところで、太一は私を指さしてこう言ったのだ。
「お前が一番好きさ。このままずっと…」
私は、失神していた。
幸いな事に、文化祭実行委員長で奮闘していた私が過労で意識を失ったという話となり、先生方々からも、「余り根を詰めたら駄目だぞ。身体に注意しろよ」と気遣われるなど事なきを得たが、だけど、私には分かっていた。
これは、太一の瞳にやられたのだと…。それと同時に、私にはもう太一の瞳に対する免疫が完全になくなったことを悟ったのだ。
それからは、太一の顔をまともに見れてない。
見たい、あの優しい瞳を見たい…。
だけど、見るとまた失神してしまうかもしれない。今度もしもそうなると、私が太一を見て失神したと噂になるかもしれない。そんなことにもなれば、太一にも迷惑をかけてしまうし、もしかしたら気持ち悪いと嫌われるかも知れない。
だから、私は、太一の顔をなるべく見ないようにするように努めるようになった。
会話がすぐに途切れるようにきつく当たるようになったのは、もうしばらく経ってからだったかな…。
何がきっかけって?そう、それは太一のお母さんが亡くなる前に私を病室に呼んでこう言ったのだ。
「美依ちゃん。私は太一の将来を見ることは出来ないけど、何も心配してないのよ。だって、美依ちゃんが、太一をずっと見ていてくれるでしょ?太一は、あーいう子供っぽいところがあって、面倒くさがり屋のところがあるのは知ってるでしょ?そういう時は、私に変わってきちんと叱ってね。ふふふ。そして、太一のお嫁さんになってね」
しっかりしなきゃ…。
私は、太一のお母さんの代わりなんだと思えば思うほど、私は、大好きな太一に対して尖った言葉を吐いてしまうことが多くなっていった。もっと、優しく注意できればいいのだけど、だって、だって、顔を見ることができないのに、そもそもきちんと話をすることなんて出来るわけないよ。
太一にキツく当たった夜は、自己嫌悪に陥り、一人涙を流していることが多い。
だが、ある日、テーブルに置いてあったスマホを見た時、『はっ』と思ったのだ。そうだ、直接顔を見ずに話せるラインだったら私は素直になれるかも知れない!?そう思った私はそれから、自分の心の思うままに書いた文章をラインで送るようになった。
直接発する言葉は酷いのに、ラインのテキストではデレデレなんておかしいに決まってるし、変だと思う。だけど、今はこれが私にできる最善の方法なんだ。
あー、早く、直接会って、言いたい。言いたいよ…。
どうすればいいんだろう?誰か教えて!!!
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第九話を読んでいただきありがとうございました!
次回、「新江ノ島水族館」をお楽しみに!
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