第31話 抱きしめたい

『ほら、太一、八時だよ。私とのデートがそんなに嫌なの?早く起きてってば…。もう!!じゃあ、こうしちゃうぞ!!!』


 そして、美依はゆっくりと自分の着ているシャツのボタンを上から外していく。そして、背中に手を回しホックを外すと、「パサッ」と白いものが床に落ち、美依は生まれたままの姿になった。


『太一、起きてるんでしょ?いいよ。太一だったら…』


『み、美依!!!!俺!!!!』


 がばっと美依を思いっきり抱きしめた…、いや、抱きしめたつもりだった…。

 なのに、俺の両腕は完全に空振りしている。


 そう、俺はなんとも破廉恥な夢を見ていたようだ。その証拠に、腕に抱きしめているのは、細長い俺の枕…、こんなことこっぱずかしくて、とても美依には言えない。


 その時、『ピローン』と音が鳴った。


【太一、私をおかずに使ったのね…。流石にドン引き。】


 えっ、えっ!!!夢の中の出来事なのに、なんで美依は俺が変な夢を見たってわかるんだろう。


「いや、そうじゃないってば!」


 俺は、美依の部屋に向かって、うわずった声で叫ぶ。

 すると、『ガッシャン』と音が鳴り、隣の部屋のドアが閉められた。

「カツカツカツ」とヒールの音がしたと思ったら俺の扉が開き、美依が覗き込んだ。勿論、顔は下を向いたまま…。


「太一、ばかっ!変態!いつもエッチなことばっか考えているからそんな夢見ちゃうのよっ」


「違うって、違うってば!」


「えっ、何が違うの!?言ってみなさいよ!」


 玄関から部屋に入った美依は、下を向いたままずんずん俺に近付いてくる。

その迫力に、俺は溜まらず後ずさりしていく。どうしよう、どうしようと思っていた俺だったが、プチッと何かが弾けた気がした。


「お前、俺のことわかっているようで全くわかってないんだな。俺がどれだけお前の事を好きか、知らないのかよ!」


「えっ!?」


 美依が小さく「えっ?」と言う前に、俺は美依の事を思いっきり抱きしめる。

 そして、美依の髪を優しく撫でていく。すると、最初は、こわばっていた美依の身体から力が抜け、俺に寄り添ってきた。


「美依。下を向いたままでいいから、そのままじっとしてろ」


「お前とか、じっとしてろとか、太一のくせに、ほんと、なにそれ。偉そうに…」


「美依、目をつぶっておけよ」


「…っ」


 美依の両耳は真っ赤になっている。

 俺は、ゆっくりと美依の顔を覗き込むと美依の唇にそっと自分の唇をあてた。


 美依の唇はとても柔らかくなんだかいい香りがした。

 俺は、溜まらず何度も何度も短いキスをしていく。すると、お互いが我を忘れて相手を求め合うような激しいキスとなっていった。


 もう、歯止めは利かない…。そう思った瞬間、


「太一、ごめん。私、もう立っていられない」と美依が小さな声を出した。


 何分、いやどれだけの回数、美依とキスをしていたのだろう?

 美依の言葉ではっと我に返った俺は、美依を優しく抱きしめる。


「俺、お前を抱きしめたかった。そして、キスもしたかったんだ。でも、勇気が無かったし、俺なんかと美依がつり合う訳ないって思ってた。だけど、美依のその病気のことを聞いて…。美依には、ほんと申し訳ないけど俺はすごく自信になったんだ。そう!俺は、美依を好きでいいんだってそう思ったんだ」


「太一…!!!」


 抱きしめ合う二人。


「あ〜、今日のデートは延期して、このまま美依とイチャイチャしたいな…」


 そう思った俺は、美依の顔を覗き込むともう一度キスをする。

 えっ!?あっ、やばっ。今、美依の瞳を見てしまった!美依がまた気を失ってしまう。


 俺は咄嗟に美依の身体を強く引き寄せる。


「ん?どうしたの?太一?」


「へっ?美依、お前、今、俺の顔見てるぞ!なのに、気を失ってないぞ!」


「えっ、なんで!?なんでやろう?」


 ジタバタしながらも大喜びしている美依。


「や、やった〜!太一、太一!太一の顔をよく見せて。太一!!」


 ついさっきまで興奮していたのに、ぐすぐすっと泣きじゃくる美依。

 そして、俺の顔を見つめると両手で頬をなぞっていく。


「良かった。良かったな。美依。これで、俺らは堂々とどこにでも遊びに行けるし、付き合っているってみんなに知られてもいいし」


「もしかして、治ったのかな?太一とキスをすることで何かが起きたのかな?」


「そうかもしれないな。本当に良かった」


「ねぇ、もう一度しよっ。私、太一とキスしたい」


「そ、、そうだな。って、お前、キスとかさ、しよって言ってするもんか?キスってもっと、ほら、情熱というか恋心というか……んぐっ」


 俺がなんだかんだ言っていたら、そんなのお構いなしに美依はキスをしてきた。


 まさにハッピーエンドなのか?

 そうあって欲しいけど、なにか心の奥に刺さるものがあるんだよな。でも、いいか…。今日はとっても良い一日になりそうだ。



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第三十一話を読んでいただきありがとうございました!

第二章はここで終了です。

次回からは、第三章となります。いよいよラストへ向かって話は急展開をしていきます。


皆さま、どうぞお時間のある時に遊んでいってくださいね!

引き続きよろしくお願い致します。





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