第30話 叶えてあげる!
それは、昨日の夜の話だった。
また俺のスマホに送られてきたショートメール。部屋に戻ってからもなんどもスマホの画面をつい見てしまう。
「これ、本当、どこのどいつだ!?」
身内から洩れた?もしくは、この部屋に盗聴器が仕掛けられているとか?なんて、有るはずもないことまで思ってしまうくらい、俺の精神状態は下に落ちていた。
『ピローン』
【太一、明日すごく晴れるんだって。私、ちょっと行きたいところあるんだけど太一、付いて来てくれない?】
美依からのラインだ。
おっ!まじか!明日、これってデートって感じなのかな?じゃあ、答えは決まってるよ!
【どこでもついて行くよ。で、どこに行くの?】
【それは、明日のお楽しみ!ふふふ。じゃぁ、明日朝八時に部屋に行くね】
部屋に行くねってほんと最高!
だって、美依は俺の部屋の合鍵を持ってるし、俺が眠るベットに近付き、「早く起きてよ!もう、起きないならこうしちゃうぞ」なんていって、熱いキスをしてくれたりして…。いやいや、それはまずいでしょう!?絶対駄目だよそんなの!!ん?勝手に想像して、俺は何をわめいているんだろう!?
【あの…、太一、想像の声がこっちまで聞こえてきてるんだけど…】
げっ!!!そうだった。このアパートは壁が凄く薄くて隣の会話なんてほぼ筒抜けだったんだ!恥ずかし〜〜!!もう、ど変態じゃん。俺って!!
「美依!違うんだ!これはほら、男のロマンというか…」
俺は美依の部屋に向かって大きめの声で話す。
【叶えて、あ、げ、る!!】
ドキューン!!!
スマホの液晶に映る美依からのライン。ハートのど真ん中を甘い矢で射貫かれた気がした俺は、ベットの上で悶絶するのだった…。
しばらく、枕に顔を埋めていた俺は、漸く我に返り天井を見ながら明日の事を考える。美依、明日は、何処に行くつもりなんだろう?ほんと、楽しみだな。なんか、ぱっと気分転換できそうだよ。
ん?ちょっと待て?想像の声が聞こえてきたって、、
さっき、美依から来たラインを見返す。
そうだよな。このアパートは壁薄いし。待てよ。美依の事は俺の部屋や美依の部屋で何度か話したことがある。ということは、俺の隣に越してきたあの塩谷あかりって子がそれを聞いていた可能性はないか?だとすれば、あのショートメールを送った人物は、塩谷あかりなのではないだろうか?
そう思うと全てのピースが揃う気がする。あの子、俺を昔から知っているような素振りだったし…。俺も正直言えば、どこからあの子を知っているような気がするんだ…。
う〜ん、どこでだ?どこの子だ?いつ?
あーわかんねー!くそっ。何とか調べる方法はないだろうか?俺はSNSはやってないし、そこからの繋がりなんてのはないし…。だとすれば、やはり大学、ゼミ、そしてサークル関係しかないよな。いや、もっと過去に戻ると、小、中、高という線もあるな。
俺はスチールラックから卒業アルバムを三つ取り出すと、小学校のものから丁寧に見て行く。
う〜ん、小学校にはいないな。次は中学。同じクラスだったら勿論わかると思うけど他のクラスだったら正直接点がない子もいたはずだ。
ページをめくっていったがあっという間に最後のページになってしまった。んー、いないか…。
残りは高校だな。俺と美依が過ごした高校は一年からクラス替えがないという仕組みだったから、同じクラス以外とはそんなに話したことがないしな。
しかし、クラス替えがないなんて面白い学校だったな。後で聞くと、なんでも、クラス替え毎に孤独になる生徒がいて、不登校などの温床になるのでクラス替えはしないみたいなことだったとか…。
一組、いないな、二組、いない。で、三組は俺のクラスで、四、五、六組には、いない。だが、七組のところで俺の手が止まる。
いた!こいつだ!
艶やかな黒髪と大きな瞳。髪の色は違うが塩谷あかりが卒業アルバムでカメラに向かってにっこりと笑顔で写っていた。
- - - - - - - - - - - - - - - -
第三十話を読んでいただきありがとうございました!
次回、「抱きしめたい」をお楽しみに!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます