第29話 ショートメール

 俺は、ラインとショートメールを人によって使い分けている。というか、ラインでやりとりをしているのは美依だけ……だ。だから、必然的に友達やサークル仲間とは、ショートメールでやりとりをしていると言う訳なのだが…。


【太一君。私なら、太一君とずっと一緒にいることが出来るよ】


 一体…、このショートメールを発信したのは誰だろう?

 俺の電話番号を知っているから送ってこれたのだろうけど…。


 まあ、今は考えてもしょうがない。次にこの相手の動きを待つしかないよな。正直、気分がいいものではないが少し吹っ切れた俺は、散らかっていたレポート用紙を集め、無造作にトートバックに投げ込むと、少し早足で地下鉄の駅に向かった。



「あっ、太一君〜〜!久しぶり〜〜。今日は同じ講義多いよね。一緒に行こっ!」


 桜子ちゃんが向こうから手を振りながら走ってくる。

 あ〜、可愛いな〜。ピンクの服が彼女のトレードマークだけど、本当に似合っている。思わずニヤけそうになる顔を押さえ、右手を挙げて手を振る。

 俺には美依がいるが、これくらいは好きとか愛とかに関係ないからいいよな…と自分に納得させる。


「久しぶり〜〜!」


 その時、俺のズボンのポケットから『ピロピロピー』と音がなった。ん?ショートメールの音だ。誰だろう?

 俺は、スマホを取り出すとその場で凍り付いていた。


【早く、あんな面倒臭い子のことは忘れて、私といいことしよっ】


 な、なんなんだこれは!!!

 美依の病気のことは美依の家族と俺しか知らないのに、まるでこいつはその事を知っているみたいじゃないか?


「どうしたの太一君?顔が真っ青だよ。気分でも悪いの?」


 桜子ちゃんは俺を不安げに見つめている。何とか体裁を装いたいが余りにも気持ち悪くて吐きそうだ。血の気が引いて動けないそんな俺を救ってくれたのは一通のラインだった。


『ピローン』


【太一。昨日はありがとう。私、太一に救われたよ。世界で一番大好きだよ!】


 美依、、そうだ。俺は美依を病院に連れて行き、一緒にこの病気みたいなものを治すと決めたんだ。こんなショートメールなんかでへこたれる訳にはいかない。


「桜子ちゃん。ごめんごめん。ちょっとだけ立ちくらみしたんだ。昨日、遅くまでゲームしちゃってさ」


「もう〜〜!。太一君、ほんとビックリしたよ。だって、唇まで紫いろなんだから〜。なんなら、私がその唇を温めてあげようか?」


「はっ!!!!」


「ははっ〜〜!ひかかった〜〜!そんなことしませんよ〜〜だ!!」


 桜子ちゃんは、俺のシャツの袖を持ちながら、講義がある第三教室の方へ歩いて行く。


「桜子ちゃん。酷いんじゃない?俺で遊ばないでよ!」


「だって。だって。太一君、私がすぐ目の前にいるのに違う人の事考えてるんだもん」


「えっ?なんて?」


「いいの!!内緒っ!!さっ、早く行かないと遅刻だよ。また教授に怒られても知らないからね!」


「げっ!!!急ごう!!」


 俺ら二人は、走りだす。

 その時、また、『ピロピロピー』と音がなったことに俺は気が付かなかった。


 そこには…。


【桜子って子も、相当うざいわね】


 授業が終わってスマホを眺めた俺は、また石のように固まってしまった…。



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第二十九話を読んでいただきありがとうございました!

次回、「叶えてあげる!」をお楽しみに!

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